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固有職業『龍人』を得た俺の異世界生活  作者: Scherz
6章:白金と紅葉の都
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6-2.危険な依頼

 ミューチュエルでお世話になってから1ヶ月。俺は忙しない日々を過ごしていた。

 その理由は単純。依頼の数が多い!おばあちゃんのお買い物を手伝ったり、幼稚園のお手伝いをしたり、工事現場のアシスタントだったりと…依頼内容は多岐に渡る。

 各依頼の予想所要時間にもよるけど、基本的に1日3件は依頼を割り当てられるから大変だ。

 ミューチュエルで衣類を行うのは、ミリア、ブリティ、俺の3人でクルルは事務方。

 俺が来る前はどうやって依頼を捌いていたのかを聞いたら、「何言ってるのよ。龍人が来たのに合わせて依頼の手中件数を増やしているのよ。」…との素晴らしい返事が返ってきた。

 まさしく自分の食い扶持は自分で稼げって事ね。ま、完全に食い扶持以上に依頼はこなしているんだけど。


 んで、この1ヶ月間…たた依頼をこなしていただけでは勿論無い。


 まず、俺の魔力について。

 ミリアが俺と両手を繋いで魔力を循環させる事で、俺の中にある魔力を感じ取れるらしく…それをやってみたところ、


「す、凄いよ龍人!私と同等かそれ以上の魔力があるよっ。」


 …との事で「魔法を使える奴が新メンバーね!?」と、クルルのテンションが一瞬上がったんだけど、結果として魔力があっても魔法が使えないという残念パターンな訳で。

 時間があったらミリアが魔法の使い方を教えてくれる。と約束はしてるんだけど、依頼に忙殺されてその時間は今のところ取れていない。

 魔法が使えない事への腹いせなのか…俺の依頼は力仕事が多い気がする!と、クルルに言った事もあるんだけど…「男なんだから当たり前でしょう?それに、ギリギリに追い込まれるレベルで仕事をしていれば、どこかで魔法発動のきっかけになるかも知れないじゃない。」と、ド正論で返されたのは数日前だけど懐かしい記憶だ。

 因みに、ミリアとブリティがどんな魔法を使えるのかは教えてもらっていない。魔法使いが少ないこの星では、使える魔法の情報はかなり貴重らしいんだよね。

 魔法の属性が分かれば対抗属性も用意できるわけだし…普通に考えれば当たり前な気もするかな。

 一緒に働く仲間とは言え、俺の事を安易に信じたが為に2人の魔法情報が洩れる可能性もあるしな。


 そんなこんなで、ミューチュエルでの仕事をこなしていたとある日。

 俺とミリアは難しい顔をしたクルルにミューチュエル1階に呼び出されていた。


「どうしたのクルルっ?珍しく今日の依頼を教えてもらってないけど。」

「それについての話なのよ。……久々にあの依頼が来たんだけど、ブリティは久々の休日で煮干しを買いに行くって言ってたから無理。それで、龍人が代役を出来るかって話なんだけど。」

「あの依頼かぁ…。」


 2人の視線が俺に突き刺さる。


「…魔法が使えれば大丈夫だと思うなっ?」

「問題はそこよ。彼が教えているから中途半端だと大怪我をするわ。」

「うーん…でも……うんっ。じゃぁ私が行きながら教える!」

「それで何とかなるなら、それが1番ね。彼との繋がりは出来るだけ保っておいた方が良いから。」

「任せてっ。龍人、頑張ろうね!」


 俺の両手を掴んだミリアは目をキラキラさせながらも、鼻息を荒くしていた。

 可愛いミリアに両手を掴まれるのは嬉しい限りなんだけど、嫌な予感しかしなくて素直に喜べない!しかも2人の会話の流れから俺の意見は完全無視っぽいし。


「あのさ、その依頼ってどんな…」

「じゃあ行ってらっしゃい。指定の時間まで少し時間があるから、ゆっくり向かいながら練習すれば良いと思うわ。」

「うんっ!よーしっ!頑張ろうねっ。」

「え…あ……はい。」


 問答無用の勢いに引っ張られて、ミリアと一緒に依頼へ向かうことになったのだった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「そうだなぁ…まずね、自分の中にある魔力を意識するの。」

「……どうやって?」

「ん〜、鳩尾の上辺りに魔力が眠っているモワモワがあって、そこから身体中に魔力を巡らせていくイメージだよっ。なんていうか…ボワって熱くてあったかいんだ。」

「鳩尾のあたりか…。」


 身体の内側へ意識を集中させる。奥底に眠っている力さんやー出ておいでー。


「あ…。」

「もしかした分かった!?」

「多分。ちょっと待って。」


 すごく嬉しそうなミリアを横目に更に集中する。今感じているのが魔力か自信は無いけど、確実に何かがある。

 ミリアが言っていたみたいに熱くてあったかいというよりは、雄大とか荘厳な感じだけど…まぁ感じ方は人それぞれだろうし。

 ともかく、今感じているものを身体中に広げるイメージで…。


「…凄い!出来てるよ!やっぱり龍人は記憶を無くす前にも魔法を使っていたんだと思うなっ。」

「確かに思ったよりもすんなり出来たかも。それに…凄いな。自分の体じゃ無いみたいだ。」

「でしょっ?魔力を全身に行き渡らせると、すっこい体が動くんだよっ。」

「……ん?」

「どうしたのっ?」


 喜んでくれているミリアを見ながら、俺はひとつの事実に気づいてしまった。


「つまりさ、この魔力を使って体を動かせないと危ない依頼って事だよな?」

「うんっ。なんて言ったって、相手は格闘家だもん。」

「えっ?」


 いやいや。格闘の心得も無いのに格闘家と…戦うって事か?流石にそれは無理ゲーだろ。


「あ、着いたよっ。」

「わーぉ。」


 ミリアが指差したのは、いかにも道場といった門構えの平家だった。


「こんにちはー!ミューチュエルのミリアですっ。道場破りに来ました!」


 ……ん?え、道場の格闘家と模擬戦をする。とかじゃないの?

 道場の門が開き、そこには1人の老人が立っていた。


「よく来た。…ふむ。今回はブリティてはなく新人とか。成る程。従来の戦術は通用しないと見るべきか。では、5分後に門を自動で開ける。互いに万全の準備を心掛けようではないか。」


 再び門が閉まっていき、閉まりきる直前に見てしまった。老人が猛獣のような笑みを浮かべたのを。


「…ミリア、流石にこれから何をするのかを教えてもらって良いかな?」

「あれっ?言ってなかったっけ?」

「言ってないわ!」


 両手を頬っぺたに当てて「ガビーン!」ポーズをとるミリア。間抜けな雰囲気が出ていて可愛いけど、俺はそんなんに騙されないからな!


「はぁ…。とにかく、これから何をするのかをちゃんと教えてくれ。」

「うん。ごめんね?」


 両手を胸の前で組んで上目遣い、そして若干の涙目!!ズルい!


「えっと、ここは武術の道場で、私達は道場破りって設定なんだ。それでね、道場の何処かにいる師範を見つけたら私達の勝ち。その前に倒れたら私達の負けだよっ。」

「なるほど。じゃあササっと負けても問題ないんだな?」

「うーん…それは微妙かも。負けると依頼の報酬が半額になるから、クルルには怒られると思うよ。」

「げっ。それは勘弁して欲しいな。」

「うん。怒ったクルルって怖いもんねっ。」

「出来るだけ頑張るしかないか。そうすると、道場破りのプランってあるのか?」

「王道なのは2人で突き進む。だけと…今回は龍人が揺動で、私が本命探しの方が良いかなぁ。」

「うん。だろうと思った。じゃあ俺が大見え切って相手を引きつければ良いか。」

「…死なないように気をつけてねっ?」


 え、死ぬとか大袈裟だろう。…多分。ミリアの本気で心配そうな顔を見ていたら不安になってきた。


 ゴーン


 鐘の音が鳴ったかと思うと、門が静かに開く。


「じゃあ、頑張ろうねっ。」

「おうよ。」


 俺とミリアは門を抜けて正面入口に歩を進める。


「あっ…!言い忘れてたけど、この道場っていろんな仕掛けがあるから…きゃっ!?」

「うわっ!?」


 正面入口のドアに手を掛けたタイミングで…床が跳ね上がった。ミリアは庭へ飛ばされ、俺は道場の建物内へ放り込まれてしまう。

 そして、床に頭を打ち付けて転がり回る俺の後ろで…ドアは容赦なく閉まる。


「いってぇ……。」


 頭をさすりながら立ち上がると、そこには1人の青年がいた。坊主頭に道着姿。どこかの国の拳法家みたいな出立だ。


「お前がミューチュエルの新入りか。」

「…どうも。」

「相手がブリティでも、ミリアでも無いのはやや不服だが…その実力、確かめさせてもらう!」


 マジか。俺、武術とか経験無いんだけど!?

 って、そんな場合じゃない。ミリアに教えてもらった魔力を…


「ぐぁっ…!?」


 踏み込みで間合いを詰めた坊主頭の突きが鳩尾にめり込んだ。い、息が…。

 想定外のタイミング、想像以上の威力。鳩尾への衝撃で肺の息が吐き出され、酸素を求めて口をパクパクさせながら両膝を床についてしまう。

 これは…マズイ。こんな1発でノックアウトとか、帰ったら…クルルにめっちゃくちゃ怒られる。いや、それは本当に勘弁。


「くそっ…。」


 必死に息を整えて立ち上がった俺を見て、坊主頭は目を細めた。


「タダのど新人…という訳では無さそうだな。だが、実力が伴っていない。しかし…それにしては…。」


 何かをブツブツ言ってるけど、気にする余裕がない。

 戦わないと…勝たないと…クルルに怒られる!

 魔力を全身に行き渡らせるのは、時間を掛けていられない。一瞬でそれを行なって、身体スペックだけでも揃えないと。武術相手にどう立ち回れば良いのかは分からないけど、やるしかない。さっきの一撃、全く見えなかったけど…、身体スペックを上げても相手の攻撃が見えなかったら意味が無いんじゃないかとも思うけど、とにかくやるしかない!

 ミューチュエルでの安寧の日々を手に入れるために!


「目付きが変わった…?成程。先程までのは小手調べということか。癪だが納得。でなければ………いざ、勝負!」


 よし。息が整ってきた。これならいける!

 坊主頭が再び構えたのを確認した瞬間、俺はさっきから必死に知覚していた魔力を一気に全身へ広げた。


「せいっ!」


 鋭い踏み込みと容赦の無い正拳突きが放たれた。

 …やばい!………あれ?


「これなら!」


 右足を軸に体を回転させて突きを避けた俺は、上半身の捻りを利用して回転速度を上げ…坊主頭の顔面に後ろ回し蹴りを叩き込んだ。


「ぐぬぅ!?」


 ややヨロめいて膝をついた坊主頭は、腕で顔面への直撃を防いでいた。あの一瞬で攻撃と防御を切り替えてくるとは…。

 にしても、この感覚……。


「…見えるな。」

「お前、なんだその変わりようは?」

「俺もビックリしてんだよ。」


 何が凄いって、魔力を全身へ広げた瞬間に坊主頭の動きが見えるようになったんだ。身体能力強化だけじゃなくて、知覚能力も強化されるって事なのかも。

 そして、もう一つ驚いたのが…後ろ回し蹴りだ。俺、格闘経験無いと思ってたんだけど、坊主頭の動きが見えた瞬間に体が無意識に動いたのを考えると…実は戦闘経験みたいなのがあった可能性が高いよね。


「手を抜いて負けては面子が立たんな。我が奥義、連襲脚拳て地に沈めてやる。」


 …坊主頭の雰囲気が変わった。俺も勝つつもりでいかないとヤバそうだ。


「さぁ、お前達の道場破りはまだまだ序盤!最初の関門である私を超えてみせよ!」


 俺と坊主頭は同時に床を蹴る。彼我の距離は一瞬で縮まり、俺達の拳が交差した。

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