5-82.魔法街、その後
魔法街戦争が始まって、そこに天地が現れて…ヘヴンが極大魔法を使ってから1週間。
私達街立魔法学院生は中央区と南区の復興作業に当たっている。建物という建物がほぼ半壊か全壊しているから、瓦礫を1箇所に集めるだけでも結構な労力が必要。怪我人も多数出ていて、病院は凄い大変みたいね。
「火乃花〜そっちはどう?」
瓦礫の山の反対側から叫んだのは遼君ね。今、私は遼君とマーガレットの3人で中央区にいるわ。
各区が半壊以上の被害を受けているから、中央区復興メンバーは各区の混合メンバーになっているって訳。
ついでに顔見知りの方が連携も取りやすいってことでマーガレットと一緒になったのよね。
「もう少し掛かるわ。思ったよりも瓦礫が地面に食い込んでいるのよ。」
復興作業って言っても、実態は瓦礫との格闘。魔法で一気に吹き飛ばせれば良いんだけど…瓦礫の中に人がいるかも知れないから、魔力で強化した肉体で瓦礫を動かさなきゃいけないのよね。女の子が大きな瓦礫を動かす風景って、普通に違和感あるわよね。怪力女!みたいな噂が立たなければ良いんだけど…。
噂によると魔聖のセラフ学院長は聖魔法を無数の手みたいに変えて、怒涛の勢いで瓦礫を片付けているらしいわ。
私の属性【焔】もそういうのが出来たら良いんだけど…そこ迄の形状変化はまだ出来ない。
「よいしょっと。」
ズボッ!と、地面に刺さっていた大きな瓦礫を動かしていると、遼君がいる瓦礫の山と反対側からマーガレットが飛び降りてきた。
「火乃花!どうですか!?何か痕跡はありましたか!?」
普段のちょっと高飛車な雰囲気が全くないマーガレットは、肩で息をしながらハンカチで首元の汗を拭いている。…色っぽいわね。
「痕跡は何もないわ。身に付けていた物か落ちたりしていれば、大体の場所がわかるとは思うんだけど…。」
「やはりそうですわよね…。龍人…。」
マーガレットは龍人君の事を「私の婚約者ですわ!」って豪語する位だから、私達の誰よりも心配しているじゃないかしら。だって、好きな人が生死不明だなんて辛いわよ。
でも…なんだろう。龍人君を心配しているマーガレットを見ていると、胸の奥がモヤモヤするのよね。
「火乃花…。」
「ん?」
「龍人の恋敵として言っておきますわ。」
「……なによ。」
「龍人を見付けるまでは手を取り合いましょう。勝負はそれまでお預けですわ。」
「べ、別に勝負なんてしてないわよ。」
「……。」
マーガレットったら何を言い出すのかしら。龍人君に対して好意を持っているのは間違いないけど、私の中でも仲間として好きなのか、異性として好きなのかは…まだちゃんと結論が出ていないのよ。
それなのに恋敵として…だなんて言われても困るわ。
ジト目で私の顔を眺めていたマーガレットは、急に顔を近づけて来た。
ちょ…!?チューしちゃいそうに顔が近いわ!?
「火乃花…貴女の可愛い唇と、私のプリプリな唇…どちらが先に龍人の唇に触れるか楽しみですわね。」
「くちびっ…!?」
ちょ…いきなり何を言い出すのよ!
キスだなんて恥ずかしいわよ。
でも…マーガレットが龍人とキスしているのを想像すると、嫉妬しちゃうわ。
って、嫉妬じゃないわよ!あぁ〜もう!マーガレットが変な事ばかり言うから汗かいて来ちゃった!
「やぁ、麗しき女性2人が瓦礫の山でお話しだなんて、似合わないね。それに、キスの話をしていたのかな?俺の魅力に負けてキスをしたいだなんて君達は罪だなぁ。」
貴族っぽい服に肩のエポーレットをヒラヒラ揺らしながら現れたのは…げっ、フルじゃない。私、この人苦手なのよね。ナルシスト感半端ないんだもの。
「マーガレットは俺の婚約者だから良いけど、まさか火乃花も俺の魅力に堕ちていたとは…さぁ、俺の胸に飛び込んでくるが良いさ。全力で受け止めるよ。」
え…何を言ってるのかしらこの人。
「さぁっ!遠慮はいらない……グボォッ!?」
私とマーガレットの鉄拳が鳩尾に減り込んだフルは、瓦礫を弾き飛ばしながら吹き飛んでいった。
うん。瓦礫を片付けるのに少し貢献してくれたから良いかしら。
「話を戻しますが、龍人が瓦礫の中から見つからなかった場合…別の可能性を探る必要もありますわ。」
フルを吹き飛ばした事を無視して、キスの話もすっ飛ばして本題に入る辺り…マーガレットも中々ね。それくらいの割切りが出来るのって長所な気がするわ。
「別の可能性…死んだって事?」
嫌な可能性だけれど、目を逸らすわけにはいかないわよね。けど、私の予想に反してマーガレットは首を横に振った。
「違いますわ。龍人は簡単に死にませんわ。魔法街を守ったあの魔法の影響で、別の場所に飛ばされた可能性があります。」
あの魔法…ヘヴンが発動した太陽を落とした魔法に対して、ラルフ先生が中心となって発動した「空間をズラした結界」の事ね。詳しい原理は良く分からないんだけど、結界内の次層をズラす事で被害を別次層に流すらしいわ。本当なら魔法街は無傷の予定だったらしいんだけど、ヘヴンの使った魔法威力が高すぎて次層を突き破って被害が広がった。…とか言ってたかしら。
この結界発動にはタムが貢献したらしいのよね。中央区、東西南北区に結界発動の基点になる魔力ポイントを設置したらしいわ。「〜〜っす!」って軽い口調だけど、案外やる時はやるみたいね。天地のスパイって疑っていたのは悪かったわ。
「別の場所ね…中央区以外の他区って事かしら?」
「う〜ん、それなら良いのですが…他星だなんて可能性もあり得ますわ。空間ズラしや次層破壊のエネルギーは途轍もないらしいですから。」
「他星だとしたら、見付けるのは相当苦労しそうね。」
「まぁ…龍人はしぶといですし、魔法街に戻ろうとする筈なのですわ!生きていれば。」
…ズバッと言うわね!
まぁそれでもマーガレットの言う通り、龍人君はきっと魔法街に戻ってくる気がする。
その時までに魔法街を元の姿に戻して、私ももっと強くならなきゃいけないと思う。
「マーガレット、龍人君の情報が出てきたら…どうするの?」
「愚問ですわ。他の全てを捨て置いて向かいます。婚約者として当然ですわ。」
…ほんっと
「ブレないわね。」
「…?どうしたんですの?」
そっか。マーガレットはそれが当たり前なんだ。眉を顰めて「理解できませんわ」的な顔がムカつくけど可愛い。
でも…それなら、答えは決まってるわ。
私はマーガレットの瞳を見つめながら右手を差し出した。
「マーガレット。」
「どうしたのですか?」
「…私とパーティを組みましょ。龍人君を見付けるために。」
「……。」
突然の提案に表情を変える事なく、マーガレットは私が差し出した手を眺めていた。…何を考えているのかしら。
けど、そんな懸念も束の間。私の手をマーガレットの柔らかい手が包み込む。
「その提案、承諾致しますわ。」
不敵な笑みを投げかけられた。これって「恋路でも負けませんわ!」的な感じなんでしょうね。
「あれ、2人で握手してどうしたの?」
瓦礫撤去作業でボロボロの遼君が近寄ってきた。
さて、どうやってパーティの話を説明しようかしら。
4人だったパーティは、私と遼君の2人しかいない。そんな中、いきなりマーガレットとパーティをくみたいって言ったら反発を…
「遼!私と火乃花は龍人を見つけるためのパーティを結成しますわ!貴方も参加しなさい!」
「えっ?ちょっといきなり過ぎて…」
「パーティ名は【龍人のハーレムを再び】ですわ!」
「んなわけ…あるかぁぁい!!」
はっ。しまった。余りにも酷いネーミングだったから、条件反射みたいに右ストレートを…。
私の打撃で後頭部を地面にめり込ませたマーガレットは、不死鳥の如く蘇えったわ…!
「火乃花ぁぁぁ〜それは恋敵としての宣戦布告と認識して良いのですわね!?」
どっバァぁん!と、起き上がったマーガレットの回し蹴りが旋風の如く放たれる。私も回避をとりつつサマーソルトキックを…
「ゔぇっ!?な、なんで俺が………。」
何故か私とマーガレットの射線上に入り込んでしまった遼君に、私達の蹴りが突き刺さったわ。
うん。ごめん。遼君。
でも、こうして私達は龍人君を見つけ出すためのパーティを結成することになったわ。パーティ名は……保留よ保留っ!ハーレム系は断固お断りね!
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
第二次魔法街戦争は、天地のヘヴンが介入をした事で…魔法街半壊という結果をもたらした。そして、皮肉な事にその半壊という悲惨な結果が戦争を終結へと導いた。
そもそも、北区のバーフェンスが戦争を引き起こした目的が魔法街に潜む不穏分子の洗い出しだったのだから、ある意味では目的を達しているわけで…終わるのは当然の帰結とも言えた。
だが、その爪痕は深い。
北区、東区、南口、中央区は全てが半壊状態。
ヘヴンを含めた天地メンバーは姿を消していて、消息は不明。魔法街に潜んでいるのか、別の星へ移動したのかも不明という状況。
何よりも戦争という状態を経た魔法街住民達の、心理的対立は解決がされていない。
平等派と至上派の対立は今後どうなるのか。
各区間の対立は。
人々のやり切れない思いはどうすれば良いのか。
全てが不燃焼のまま、強制的に戦争が終わった事が…魔法街を危うい状態にしている。
けれども、立ち止まってはいなかった。
各区の人々は共に復興作業に従事し、助け合っている。
3人の魔聖は戦争の終結を宣言。表向きに対立する理由は無くなった。
魔導推進庁長官のロアは改めて魔導師団の設立を発表。魔法学院や派閥の垣根を越えた、魔法街公認の魔法使いを正式に魔導師と呼称する事となる。
戦争の爪痕は大きく深い。
だが、魔法街に住む人々は確実に前を向いていた。
そして、魔法街で起きたこれら事件の影響は魔法街だけに留まらなかった。
まず、天地という存在が星々に知れ渡った。目的は不明。強大な力を持った者達で構成されたテロ集団として。
各星々は其々の判断で独自の対策を取っていく事となる。
そこに天地の思惑が絡んでいるのかは…まだ分からない。
次なる舞台は「白金と紅葉の都」。魔法街のある街圏とは異なる都圏に所属する星。