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5-81.戦いの果てに…

 大剣が唸る。ルーベンの身丈を超える大きさのそれは、全てを切り裂かんとする鋭き風を伴っていた。

 一振り毎に引き起こされるのは暴風、いや嵐。それも鎌鼬や竜巻を伴う…まさしく対象を滅する為の災害だ。

 一般的には複数人の魔法使いが協力をして発生させるレベルの現象。これを一個人で軽々と行いつつも、ルーベンの表情に余裕は無かった。


「はははっ!良い攻撃だ!」


 余裕がない原因は最早言わずもがな。攻撃対象になっているヘヴン。空中で踊るような挙動で攻撃を避け、その回避動作に合わせて両手の劔から魔力刃をルーベンへ飛ばしてくるのだ。

 回避行動をベースにした攻撃。言うのは簡単。しかし、難しい。相手の攻撃を把握して最適解の回避行動を取りつつ、攻撃の意思を行動に反映させずに攻撃を放つ必要があるのだ。一般的に言えば攻撃を放つタイミングで、どうしても行動が回避から攻撃へ変化してしまう。

 だが、ヘヴンは行動が回避からブレない。そうであるが故にルーベンの攻撃は掠りすらしていなかった。


「ちっ…!」


 まるで赤子のように扱われているように感じたルーベンは忌々しそうに舌打ちをしつつ、後方へ下がりセラフと後退する。


「行くぞ!」


 聖属性の魔力が無数の武器を形作り、嵐となってヘヴンへ襲い掛かる。

 セラフ、ルーベン、ロア、ヘヴィーの4人は入れ替わり立ち替わりで波状攻撃を仕掛けて魔法陣完成の妨害に徹していた。

 ヘヴンが強過ぎて倒す糸口が見えないが故の選択。

 しかし、4人が同時に仕掛けても、立て続けに仕掛けても…ヘヴンに攻撃は掠りもしない。


「うむ…こちらか攻撃をするのと同時に、攻撃の軌道上から逸れる動きをしているのである。察知能力が異常と言わざるを得ないのである…!」

「だが、魔法陣の完成速度は確実に遅くなっている。後は学院生達が魔法陣の破壊に成功すれば。」

「そうじゃの。学院生頼みというのが不安じゃが、信じるしか無いのである…!」


 ダンスを踊るような動きで回避に成功したヘヴンの反撃で、セラフの攻撃が僅かに鈍ったのを確認すると、ロアとヘヴィーは同時に前へ躍り出て攻撃を開始する。

 無数の重力球が縦横無尽にヘヴンへ迫り、それらの隙間を縫うようにして接近したロアが炎迸る灼熱の鎌で逃げ場を封じていく。

 魔法使い達の極地とも言える死闘が中央区上空を彩っていく。


 そして、その死闘が繰り広げられる地点の更に上空…ヘヴンによって描かれた魔法陣の近くにベル、火乃花、マーガレット、遼の4人がいた。

 オルムは地上の魔造体撃退で動いていて、タムは「やる事があるっす!」と言って南区陣営の方へ戻っている。そんな事情があり、奇しくも魔法使いの基本である4人1組になっていた。


「どうだ?出来そうか?」


 ベルの問い掛けに他3人の顔が曇る。


「出来そうかどうか…全く分からないわ。この魔法陣、魔力強度がかなり高いわよね。これを壊すって相当よ。」

「火乃花の言うとおりですわ。例え壊す事が出来ても一部のみですわ。それでは根本の解決にならない可能性が高いですわね。」

「うん。ヘヴンと魔聖の戦いが少しでも劣勢になれば、すぐに魔法陣を修復されちゃいそうな気がするよ。」


 弱気な3人の反応にベルは肩を竦める。

 これまで修羅場という修羅場を大して経験していない魔法学院生なのだ。魔法街戦争という非日常極まる状況に加え、巨大魔法陣を壊すという…魔法街の命運を握るような場面に強制的に巻き込まれているのだ。弱気になるのは致し方がない。とも言える。

 だが、そうも言ってはいられない状況。ロア、ヘヴィー、ルーベン、セラフがいつヘヴンに倒されるか分からない以上、手をこまねいている余裕も無かった。

 故に、ベルは自信に溢れた笑みを浮かべた。

 平等派のリーダーとしてこれまで活動してきた、リーダーとしての勘が言っていたのだ。今この場で必要なのは導く者だと。そして、それが出来るのは自分しかいないとも。


「汝等は安心するが良い。私のスキルなら破壊が可能だ。汝等は私がスキルを使用している間、ヘヴンの邪魔が入らないようにして欲しい。」

「…分かったわ。」

「任せましたわ。」

「ヘヴンの邪魔…合ったら防げるかな…。ちょっと心配だけど、頑張るよ。」


 若干心許ない返事もあったが、ベルは力強く頷くと槍を構えた。


「スキルの余波で飛ばされないようにするんだな。行くぞ!!衝槍【乙女ノ片想】!」

「はいっ?」


 心の声が漏れたのは誰だったのか。

 戦乙女風の装備を着用しているベルが言ったスキル名は、その場にいる他3人の思考を容易くフリーズさせた。

 えっ。なにっ?かたおもいしてるの!?だれに!?えっっ!???

 的な思考が脳内回路を埋め尽くす。

 だが、周囲のそんなパニックを知ってから知らずしてからは分からないが、ただただ真剣な表情で槍を突き出すベル。

 その槍先からは超圧縮された震動がレーザーのように発射されていた。乙女の片想いという言葉とは似ても似付かない凶悪な攻撃。

 いや、乙女の片想いを侮ってはいけない。…のかも知れない。それが故のネーミング?

 ともかく、超圧縮震動レーザーは空を縦横無尽に駆け巡り、巨大な魔法陣を次々と破壊していった。

 砕け散った魔法陣の欠片がパラパラと空から降り注ぐ。

 それはまるで光の雨のようでもあり、ある意味で幻想的な光景だった。


「うむ。やったのである。」

「彼女は…ベルね。流石だわ。」

「目立つ活躍すんじゃねぇか!」

「ベル=ピース。案外逸材か。」


 ヘヴンと戦う4名が其々の反応を見せる中、ヘヴンはポカンと口を開けて壊された魔法陣の残骸を見上げていた。

 ベルへの妨害攻撃がくると身構えていた火乃花、遼、マーガレットは何も無かった事に胸を撫で下ろす。


 これで、魔法街を脅かすであろう巨大魔法陣は機能を失い、残るはヘヴンやセフ、魔造体といった敵対勢力を排除するのみ。

 そうは言っても恐るべき力を持つ相手なので、油断は出来ないが…不安要素が1つ解決されたのは非常に大きな前進だった。


「ハハ…。」


 ヘヴンの薄く開いた口から乾いた笑い声が漏れる。

 まさか魔法陣が破られるとは思っていなかったのだろう。

 想定外の事態に無意識に漏れる笑い声。

 この反応を見たロア達4人に「イケる」という希望的観測が芽生える。ヘヴンの精神が揺らいだ、今この瞬間に畳み掛けるべきなのだ。故に、4人は武器を構え、問答無用で攻撃を仕掛けた。

 爆炎の斬撃が、極光の嵐が、重力の砲撃が、疾風の鋭刃がヘヴンに直撃する。


 筈だった。


 いつの間にか、上部が崩壊した警察庁の屋上に移動していたヘヴンは右手で顔を隠しながら肩を震わせていた。


「ククククク…。」


  小さなはずの笑い声が中央区にいる者達の耳へ忍び込む。


「ククク……愉快。その場の事象のみで状況を判断し、対策をするとは愚の骨頂だね☆もう良いよ。お遊びはお仕舞いだ。………滅べ魔法街。」


 ゆっくり持ち上げられたヘヴンの右手が指を鳴らす。


 そこから引き起こされた事態は阿鼻叫喚のひと言。


 まず、空が割れた。ガラスが割れるようにパリィンと砕け散る。割れた先には再びの空。それもびっしりと細部まで描かれた複雑且つ緻密な魔法陣が、空を埋め尽くす規模で燦々と輝いていた。

 その輝きが増していくのに呼応するかのように、行政区を中心とした四方から上空へ伸びていた細い光の柱が太さを増す。それはつまり、東西南北区で魔力暴走者が発していた魔力の柱。

 4つの魔力の柱はそのエネルギーを上空に球体となって溜めていき、魔力を放出しきった魔力暴走者は…体の端から崩れるよう塵になった。


「フィナーレだよ☆」


 ヘヴンから各区上空に浮かぶ魔力球へ魔力の糸が伸びる。それらが触れた時、魔力球が花開いた。燦々と輝く、神の庭を彩る神聖な花のように。

 蕾の中から現れたのは、魔法陣だった。花弁のように広がった魔法陣は各区の空を彩り、中央区上空の魔法陣と、隣接する区の魔法陣と手を取り合う。

 僅か数秒の間に魔法街という星の上空を覆う魔法陣が完成した。

 神の祝福とも言うべき神々しくも煌びやかな魔法陣の展開に目を奪われ、考を停止させていた人々は…数秒後に事の重大さを認識する。

 そう。これは異常事態。

 魔法陣が「護るもの」なら良いが、「壊すもの」であれば…一体どんな魔法が発動されるのか。魔法陣の規模、緻密さどれを取っても碌な未来が想像出来ない。


「ははっ☆消えてなくなれ。」


 愉悦に笑うヘヴンが死刑宣告を言い放つ。

 魔法陣が発動する。

 そうして顕現せしは…灼熱の太陽。

 超超超巨大な灼熱の塊は、静かに、ゆっくりと、しかし確実に魔法街へ降下する。押し寄せる熱波。

 絶望、諦念、焦燥…負の感情が魔法街の人々の精神を蝕んでいく。


 セフと戦っていたバーフェンスも動きを止め、しかし鋭い眼差しで灼熱の太陽を見上げていた。


「これが目的か…。」


 窮地に立たされている筈だが、バーフェンスは至って落ち着いていた。

 離れた場所にいるヘヴィーを見て「ふぅ」と息を抜く。


「まぁなるようになるか。」


 諦めか。それとも別の…。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 …俺は、俺はなんでここにいるんだ?

 体が、痛い。体が動かない。

 目を開けてみると、俺は瓦礫に埋まっていた。意味が分からない。

 てゆーか、空に太陽が浮かんでいるような。

 …あれって太陽?だよな。あれ?でも太陽ってこんな近くにあったらもっと暑いんじゃぁないか?少しずつ近付いてくるし。

 逃げなきゃじゃん…!でも、体は瓦礫で動かせない。どうしたら良いんだこれ!?


「…ん?なんだこれ…空がブレてる?」


 どう表現したら良いんだろう。

 2つの映像が少しだけズレて重なっている。みたいになってんだよね。

 普通になんか色々ヤバイ状況だ。

 どうにかしてこの瓦礫から逃げ出さないと…!


 でも、どうやって?俺の力でこんな瓦礫を動かせる訳が無いし。魔法でも使えれば簡単に抜け出せるんだろうけど。


 ……あ、もう無理かも。


 少しの間俺は頑張って抜け出そうと思ったけど、やっぱりそんな簡単にいく訳が無くて。

 気付けば太陽がもうすぐそこまで迫っていた。


 そして…途轍もない爆発音と共に視界が真っ白に染まり、体が引きちぎられるような衝撃を叩きつけられて俺は意識を失った。


 …。


 ……。


 ………。


 プニプニ。ツンツン。


 ギュー!ペチペチ。


 なんだ…さっきのは夢だったのか?つーか、俺の顔を突いたり、つねったり、叩いたりして遊んでいるのは誰だし!


 目を開けると、俺のすぐ隣に女の子がしゃがんでいた。

 …ん?女の子だけど、耳、耳がある!

 耳があるのは普通だって?……そりゃそうだ。俺が言いたいのはそうじゃなくてその耳が…猫耳なんだって!これは創作物でよく見る猫耳!猫娘!猫の亜人って事か!?

 全身の激痛で泣きそうだけど、心の中だけテンション爆上げの俺を見て猫娘がニヘラッと笑った。


「起きたのにゃ!死んでいるかと思ったのにゃ。」


 ピクピクと動く耳が可愛い。てか…尻尾もあるんだけど!てか、語尾が「にゃ」なんだけど!


「つーか、君は誰にゃ?」


ゆらゆら揺れる尻尾を眺めていた俺は、この質問で気付いてしまう。

 ちょっとだけ心を落ち着けたくなった俺は、周りを見回してみる。

 おぉ。絶景。見渡す限り紅葉。青空と紅葉のコントラストが最高だね。紅葉狩りし放題。

 ……さて、現実と向き合おう。

 俺は猫娘の瞳を見返して、困った系の笑みを浮かべた。


「俺…誰なんだろ?」

「うにゃっ!?」

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