2-8.記憶解放
…。
……。
………。
…………。
……………あれ?俺、どうしたんだ?
確か、さっきまで聖龍と戦ってたよな。
何故か目の前が真っ暗だ。もしかして、聖龍に負けたのか?
………いや、何かがおかしい。喉の奥で何かがつっかえているような感覚だ。
何か大切な事を忘れてる。
ズキン
そうだ。俺はレフナンティで銀髪と戦ってたんだ。正確には銀髪の部下っぽい女だったかな。
…思い出してきた。そうだ。レフナンティの皆が虐殺にあったんだ。
だから、俺は復讐を誓って…頭に話しかけてきた何者かと話して…黒い靄を出したんだ。その後は…駄目だ。覚えてない。
今、何処にいるのか分からないけど、早くレフナンティに戻らないと。
ズキン
まだ頭痛が…。
……ん?何かがまだおかしい。
俺、そもそも…何でレフナンティに住んでたんだ?
だって、俺は聖龍との戦いの途中で変遷とかいうのに巻き込まれた筈だ。世界が崩れていく光景をハッキリと覚えている。
でも…その先にどうなったのかが分からないな。
なんか…変遷といい、レフナンティといい…2つの記憶が混在してるように感じるぞ。
どっちの記憶が正しいんだ?
ズキン。
まて。俺はレフナンティで長年暮らしていた筈。
長年…?生まれてからずっと?いつから?
いやいや…。俺の生まれは東京だろ。
てか、俺の親は?レフナンティに俺の親っていたっけ?……いた記憶がない。だとすると、やっぱり親は東京にいるはずだ。
てゆーか、俺、24歳だよな?
ずっと東京に住んでたけど、レフナンティにもずっと住んでた?
おかしい。何かが…おかしい。
俺は、夢を見てたのか?夢だとしたら…どっちが夢なんだろうか。
俺は東京にいて、レフナンティで過ごす夢を見ていたのか。
それとも、レフナンティに住んでいて、東京でColony Worldってゆーゲームをする夢を見ていたのか。
正直、どちらだったとしても違和感がありまくる。
いや、どちらも夢なのか?夢を見ている夢を見ていたのかな。で、起きた今の俺が本当とか。変に入り組んだ夢を見てたから、ちょっとした混乱状態とか。
俺…気でも狂ったか?
答えの出ない答えを求めて頭をぐるぐる回転させていると、真っ暗な視界の奥に小さな光点が現れた。
なんだろう。少し懐かしいような感覚が。
ぼんやりと見つめていると、その光は少しずつ大きくなり…刀の形を成していった。
……カッコいい刀だ。刀身が3匹の龍が絡みついたかのような造形をしたその刀は、優しい光に包まれながらふわふわと浮いている。
「………。」
「……………。」
「…………………………………………………………。」
…え?普通こういうシチュエーションだったらさ、刀が話しかけてくるとか、そーゆー系の展開だよね。…ラノベとかの読み過ぎですか?
待てども待てども…なーんにも起きないんですけど。
ははぁん。なるほど。刀を握った瞬間に強くなる系か?
どうせ、この暗い場所でゆっくりしててもしょうがないし、刀を持ってみるか。
意を決した俺はゆっくりと手を伸ばし、刀を握る。
すると、刀は光を強め…俺の脳内に話しかける。
…なんて事はなく。
謎の人物の声が俺に話しかけきた。
…なんて事も無かった。
えーと、焦らしプレイですかいな?俺、そんなにM気質じゃないから、焦らされるのってあんま好きじゃないんだよね。どちらかっていうと焦らしたい。
…取り敢えず、何か変化がないものかと周りを見回してみると…何も変化が無かった。
ちょい待ち。どうしろってんだ。
…ん?この刀よく見ると刀身に象られた3匹の龍の内、1匹だけ色が違うな。なんてゆーか、黒っぽい感じ?
もしかしたら、これが何かしらのヒントなのか?
ズキン
……あ、思い出したぞ。
レフナンティで頭の中に声が聞こえたな。確か…「俺の力を発揮すれば記憶が甦る」みたいなニュアンスだった気がする。
となると…力を発揮する事が先ずの目的になるかな?後は力ってのが何なのかだけど。シチュエーション的に考えればこの刀がキーになっていておかしくない筈。
だとすると、刀身の黒い龍の部分に何かしらのアクションを起こして、秘められてる力を解放!!!的な感じかね?
ともかく、魔力を集中させてみるか。
よし。やってみよう。
…………。
イイねぇ。この徹底して何も起きない感じ。的外れな行動取ってたら、逃さないぞ的なやつね。
むぅぅ。少し考えてみよう。
俺が今覚えてる事で、何かヒントがないものか。ちょっと整理してみるか。
力を発揮する……誰かの声………それを聞いた時………レフナンティ………銀髪………虐殺…………怒り。
……分かったかも。
どうすればそうなるのかは分からないけど、多分それだ。黒い靄が出た時の状況を再現出来れば…。
怒り…?いやぁ、この状況で激昂は厳しいな。となると…明確なイメージ力かな。
俺は目を瞑る。
体から靄…黒い靄が出るイメージをする。…惜しい。何かが違うな。そうか。やっぱり感情…か?
怒り…憤り…憎しみ…そういった感情を乗せるののかな?確かに黒い靄が出た時はめっちゃ怒ってた気がする。
惜しいな。もう一歩って所なんだけど。もしかしたら感情ってのは合ってるけど、本質的な感情が違うのか?だとすると…破壊衝動的な…?いやぁタダのデストロイヤーじゃないですか。
まさかね…。
……おっ。マジか!?破壊衝動的なイメージで魔力を込めたら成功とか…俺はデストロイヤーになるのでしょうか。
俺の持つ刀が再び光を放つ。柔らかな光…ではなく、黒い光だ。
そこから発せられるのは、力。破壊…その想いが根源にある…まさしく破壊衝動と呼ぶべき力だ。
「凄いな…。」
これまでColony Worldで遊んできた経験と比較しても、比べ物にならないレベルの力が全身に漲っている。
そして、変化はこれだけじゃぁ無かった。
俺の頭の中に…大量の情報が流れ込んできたんだ。
どんな情報かって?それは…記憶。
しかも、2つの人生分の記憶が俺の頭に流れ込んでくる。いや…違う。記憶の奥に掛かっていた鍵が開き、封じられていた記憶が奥底から溢れ出てきた。という方が正しい気がする。
あー駄目だ。この情報量…ヤバイ。
地球に住んでいた俺の記憶。レフナンティで過ごした間の俺の記憶。
2つの記憶が混ざり、俺の記憶領域を埋め尽くしていく。
うん。ちょっと…駄目かも。
俺は、再び意識を失った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
なるほどね。
状況は分かった。
地球での記憶と、レフナンティでの記憶。それら全てを認識し、理解した事でほぼ正しいであろう仮説が成り立ったよ。
ざっと要約すれは、地球に住んでいた俺はゲームのColony Worldで遊んでいて、変遷ってのに巻き込まれたんだ。
その変遷に巻き込まれた先に辿り着いたのがレフナンティ。俺はその場所に何年も住んでいるという「記憶」を植え付けられた。
恐らくはそういう事。
多分…これはゲームでは無いんだと思う。Colony Worldってゲームから、変遷っていう謎現象を経て…現実世界?のレフナンティにいるんだと思う。
何故ゲームでないって言い切れるって?それは…Colony Worldでは痛覚が遮断されてたんだよ。でも、レフナンティで過ごしていて痛覚は普通にあった。熱を出して動けない事もあった。ゲームの世界で戦闘のデバフ以外で体調不良になる事はないだろ。つまり、仮にゲームだったとしても…現実だと考えるべきだと思うんだ。
なんでこんな事になっちまったのかは全くの謎だけどな。
後は…レフナンティがどういう世界なのかだけど、地球なのかは…正直分からない。でも、魔法を使ってる訳だし…異世界っぽいよなぁ。
ラノベとかだと異世界って心躍るワードだけど、実際に当事者になるとワクワク感皆無だよ。まぁその辺りの詳しい事は追々分かるだろ。
少し話が逸れたけど…変遷に巻き込まれる前に聖龍が言った2体の龍の内1体が、俺の頭に話しかけてきた奴の正体だと思う。この龍の力がきっと黒い靄で、それを発現したから俺の記憶が解放されたんだろう。
銀髪が言っていた里因子所有者…この単語は聖龍も言っていた。紛い物の記憶から解放できるのは里因子所有者のみってな。
つまり、考えられる最悪なケースとしては、俺以外に地球やら変遷の記憶がある奴が誰もいないパターンだな。
ただ、コロニーワールドでは里の名前が付く高難易度ダンジョンが幾つかあったから、俺と同じ状況の奴がいるという希望は捨て切れない。
具体的に何がどうなってて、俺が何をしなきゃいけないのかはまだ分からない。それでも確かな事が1つだけある。
それは、銀髪の野郎が許せないって事。
嘘の記憶だったとしても、俺がレフナンティで過ごした時間に嘘はないはず。その大切な人達を虐殺した銀髪は…俺が倒す。後の事は…それからだ。
俺は…閉じていた眼を開ける。ゆっくりと。強い意志を心の奥に秘めながら。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
目を開き、視界に飛び込んできたのは…崩壊したレフナンティと、櫓を降りて悠然と佇む銀髪。
さっきまでの身を焦がすような怒りは…収まっているな。黒い靄は変わらず俺の周りに浮かんでいる。
てか…遼はどうしたんだ?銀髪の斬撃を食らって吹き飛ばされた後、姿を見ていない。もしかして…死んじまったなんて事もあるのか?だとしたら…クソっ。俺がもう少し早く記憶を取り戻せてれば…!
…駄目だ。雑念を振り払え。目の前にいる銀髪はそんな簡単に倒せる相手じゃない。
「ふん。怒りに我を忘れて飛びかかってくるかと思えば、頭を抱えてよろめき、目を開いた時には落ち着きを取り戻してるとは。」
「それがどうしたんだよ。」
「いや、なに、どういった心境の急な変化があれば、そのような行動になるのかなと疑問に思ったのだよ。」
「そんなの…話す義理はない。」
「そうか。ならば、残る目的を果たすのみ。高嶺龍人、俺と戦うが良い。」
銀髪は氷のような笑みを浮かべ、俺に戦いを求めてきた。
「…何が目的だ?」
「何がとは?」
しらばっくれやがって。
「レフナンティを壊滅させ、虐殺をして…その上で俺と戦う事で何を求めてる?里因子所有者ってのは何なんだよ。」
「ふん。それこそ答える義理はない。お前は俺に見定められ、その後の運命を定められれば良いのだ。」
「断る。と言ったら?」
「この星を破壊でもしようか。もし、辛うじて生きている者がいたとしたら、全員の死亡が確実になるな。」
…そう来るか。つまり、俺に選択肢は無い…と。
……待てよ。銀髪は俺を試し、その後の運命を決める。みたいな事を言ってたよな。って事は、かなり希望的になるけど俺を殺すつもりはないって事か?だとすると!それもこれも里因子所有者ってのに関係してそうだな。
考え方を…変えてみるか。
この黒い靄。そしてさっき手に取った刀(これは魔法陣から取り出せる確信がある)を使って、銀髪にどこまで戦えるのか。俺の全力がどの程度かを知る機会になるかもだ。あくまで銀髪が俺を殺す気が無ければ…だけど。
どっちにしろ戦うしか無いわけだし…。
「だったら、その余裕綽綽な態度を後悔させてやるよ。」
「随分強気だな。だが、そのくらいで無ければ…態々こんな星まで来た甲斐が無いというもの。」
こんな星…か。
魔法陣を展開し、3匹の龍が絡みついた造形をした刀を取り出す。
おぉ。黒い靄が刀に馴染むな。感覚的な話だけど、抵抗感が全く無い。
「その武器は…龍刀か。」
この武器、龍刀って言うのか。固有職業『龍人』に相応しい武器?じゃん。
…ってアレ?Colony Worldでは職業『龍人』だったけど、それって俺がいるこの世界(多分変遷後の世界)でも通用すんのかな。
そもそも職業とかって話自体を聞いたことが無いような…。
「高嶺龍人。お前が俺の目的であるのか…確かめてやろう。」
…銀髪が長い刀を構える。威圧感も半端無い。
俺がさっき使った複数属性の魔法を無傷で防ぐ位だ。相当な実力者だろうな。
それに、武器選定の時にわりかし本気で戦ってたけど、剣技では全然敵わなかった。
それなら…俺の得意分野で責めるしかないか。
俺が刀を構えたのを見ると、銀髪が戦闘開始の言葉を紡いだ。
「さぁ、ショータイムの始まりだ。」