5-71.行動開始!
明けましておめでとうございます。
久々の更新です。
仕事の都合で執筆時間が足りず…。
次週以降は毎週金曜に更新出来るように頑張ります!
コンセルさんと戦ってから1週間後。
俺達は中央区商業地域にあるとあるバーに集合していた。
まぁ、バーにいるからと言って、可愛い彼女とお酒を嗜み、指を絡ませる…なんてシチュエーションとは程遠いんだけれども。
寧ろ沈黙。
バーカウンターの中では初老のバーテンダーが丁寧にグラスを拭いていて、店内は薄くジャスが流れる。
俺たちの他に客はいない。まぁ戦時中だからね。昨日もここの近くで北区勢力と東区勢力の衝突があったみたいだし。
普通の思考では中央区に居を構えていたら移転する。
そんな中でバーに来ている俺達はどんな神経してんだし!…なんて思うかも知れないけど、勿論遊びで来ている訳じゃない。
「…遅いわね。」
現に俺達の前に置かれたグラスに入っているのはリンゴジュース。…戦時中だからか1杯1,000円もしたんだけどね!高いよねこれ!?
高級?リンゴジュースを飲みながら、全然楽しくなさそうな顔で火乃花が呟く。
ルーチェはいつも通りマイペースで、遼はガチガチに緊張していたりする。
「向こうが指定してきたんだから、そこ迄は待たせないだろ。」
俺達が今ここにいるのは、コンセルさんからこのバーに集合するように連絡を貰ったからだ。
この1週間は本当に大変だった。中央区在住一般市民のフリをして日常生活を送らされたからね。普段の服装は戦闘能力を高める効果もあるから、一般人の服装で戦闘になったら不利だ。かと言って、いつもの格好だと魔導師団候補生で顔が割れているから危険だし。
逃亡者ってこういう気持ちで日々の生活を送っているのかな?なんて思うと、犯罪に手を染めてはいけないって改めて思うよね。
「準備が整ったからって言ってたけど………明日には、攻め込むのかな?」
ガチガチ遼君が不安そうな声を出す。
「いえ、攻め込むのは今からです。」
いつの間にかバーの隅に座っていたのはコンセルさんだった。いやいや、いつの間に現れたんだし。忍者か?
「うむ。拙者も今が好機と考えるでござる。」
「そうだ。私も今を逃せば戦争は激化の一途を辿ると思う。」
コンセルさんが座る場所と反対側の隅にいたのは、オルムと……ベルだ。
いや、だからいつの間に現れたんだよ。忍者なのか?
「……まてまて。今、さり気なくスルーしかけたけど、何で平等派リーダーのベルが居るんだよ。」
「何故とは…勿論汝等を手伝う為だよ。平等派としても北区の暴挙は捨て置けないからな。」
相変わらず黒と白のバトルドレスを着こなしたベルは…普通にエロい格好だった。胸元とか大きく開きすぎでしょ。戦闘中に胸元に視線が行っちゃって集中できないと思うんだが。…はっ、まさか、それが目的なのか?だとしたら、女の武器を最大限に有効活用した素晴らしい装備だ。
「オルムさんとベルさんには、今回の警察庁奪還作戦に協力をして頂きます。平等派リーダーのベルさんが協力してくれるのは非常に大きいです。平等派陣営には、私達が潜入をする直前に中央区の各地で北区の面々と小競り合いを起こしてもらう手筈になっています。警察庁に詰めているダーク魔法学院の主要メンバーの目が少しでも外に向けば良し。可能であれば数人でも良いので警察庁から各地の小競り合い鎮圧に出てくれれば、それだけ警察庁内部の警備は手薄になります。本来ならもう1人…タムさんにも協力頂く予定だったのですが、誰かと連絡を取り合う様子がありましたので。内通者の可能性を考慮してメンバーから外しました。」
タムが誰かと連絡を…?前に怪しい動きをしてたし、本当に天地の内通者なのか?信じたくないけど、警戒はしておく必要がありそうだな。
「なるほどね。一応聞きたいんだけど、ヘヴィー学院長はどうしてるんだ?つーか、南区の動きを知りたいんだけど。」
今回の作戦を成功させるには、平等派の小競り合いも必要だけど、別方向で南区が「本気を出した」って思わせる行動を取る事で、より相手の戦力を分散させられる可能性が高くなるはず。
あのヘヴィー学院長がそれを考慮しないはずがないと思うんだよね。
コンセルさんは俺の質問を聞くと感心したように頷いた。
「良い考察力ですね。龍人さんの仰る通り南区も本日の正午に動きを見せる予定。との事です。具体的には、中央区と南区を繋ぐ転送魔法陣を無効化するとか。」
…ん?それって意味があんのか?
「コンセルさん。転送魔法陣を無効化してどうにかなるのかしら。北区が南区を攻めにくくなるとは思うけど、事態の解決には全く寄与しないわよ。」
火乃香の言う通りだ。下手をすれば南区に目を向けなくて良いと判断をして、警察庁付近の布陣が厚くなる可能性もあるぞ。
「いえ…逆だと思いますの。もしかしたらですが、南区は戦力を残したまま魔法陣を無効化する予定ではないでしょうか。」
「ルーチェ、流石にそれは自殺行為じゃないか?自分達で背水の陣を作るって事か?」
「はい。それこそが南区の作戦だと思いますの。」
遼が首を傾げる。
「でもさ、南区って防戦に徹しているんだよね?どうして背水の陣にしちゃうのかな。下手したら防衛線が破られて、総崩れにならない?」
「汝等はまだまだ甘いな。」
俺達の考察を静かに聞いていてたベルが嘲笑とも取れる笑いを漏らした。
…今、絶対俺たちの事を「ヒヨッコ」って思って馬鹿にしたぞ!口元に優越感の笑みが薄ら浮かんでいたのを俺は見逃さなかったからな!
ベルは音もなく立ち上がると俺達の近くに歩み寄ってくる。胸が、胸が揺れる…!
「南区が転送魔法陣を無効化すれば、北区はすぐにそれを察知するだろう。そうしたら北区は何を考える?まず、南区が絶対に北区に侵入されたくない何かを南区に置いていると考える。つまり、侵入防止策としての魔法陣無効化。そして、不退転の覚悟で戦いに臨んでくるとも考える。つまり、背水の陣を作ることによって覚悟を強制的に引き上げる為の魔法陣無効化。ここまで考察が進んだら、お前達が北区のメンバーだとしたら何を考える?」
「…俺なら南区を潰すために戦力を集中させます。南区が守るものをそのままにしておく事で、北区の中央区占拠というアドバンテージが覆される可能性の否定できません。それに、東区がいつ動くのか分からない以上、南区を先に潰す事で戦力の分断も防げます。」
「そう。それこそが狙いだ。そこに合わせて平等派が中央区内で小競り合いを引き起こす。これらが連鎖する事で、北区の連中は南区と平等派の結託を疑わないだろう。」
なるほど。そうすれば、北区は今迄みたいに軽く攻撃を放つだけって訳にはいかなくなるのか。
「更に、可能性の話だがタイミングを合わせて東区が動いてくれれば…北区は更に焦る事になる。自分達で中央区の中心地点に陣取っている事で、南区と東区から同時に攻められるのだからな。こうなれば警察庁内部は応戦の為に人員を排出せざるを得ない。」
東区の所は希望的観測感は否めないけど、そうなれば現在の北区優勢みたいな状況は覆せるかもしれない。
北区が混乱している隙に火日人さんを救出出来れば、第一の目的は達成って事になるか。
「とまぁそういう訳です。今は午前11時。あと1時間後には各地で動きがあります。そのタイミングに合わせて私達も動きますよ。」
「動くって、どうやって潜入するんですか?」
コンセルさんは俺を見ると自慢げに胸を逸らしてバーカウンターの後ろにある扉をコンコン。と叩いた。
「ここが、秘密の入り口です。」
わーぉ。裏社会組織がやりそうな場所に秘密の入り口を作るのね。
「一先ずは、秘密の入り口から警察庁内部のルートを確認しましょう。誰が脱落しても、火日人さんを救出するルートが分からなくならないように、全員が頭に叩き込んでください。」
そう言ってダン!とコンセルさんがバーカウンターに広げたのは、とても大きな図面だった。
…うわっ。これ全部覚えるの…?
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
警察庁。
ダーク魔法学院を擁する北区が占拠したその建物は、軍事司令本部としての役目を見事までに果たしていた。
最上階に位置する会議室からは中央区全域を確認する事か出来る。故に各所で起きる戦闘のほぼ全てを把握し、人員を適切に配置する役目を担っていた。
司令本部としての役割を全うする者達を、会議室中央に置かれた椅子へ優雅に腰掛けながら眺めるのはバーフェンス=ダークだ。
戦時中でも相変わらずナンバーワンホストのように見える外見だからか、軍事司令本部の中では非常に浮いていた。
勿論、浮いているのは外見だけではない。
なによりも違和感を感じるのは「全ての戦闘行為に興味がない」という事。周りの者達が戦況把握と作戦立案を続ける中、バーフェンスは静かに読書をしていた。因みに本のタイトル「あぁこの素晴らしき人生」。
真面目に働け魔聖!
そんな声が聞こえてきそうなものだが、バーフェンスのそな様子を気にする者は1人もいない。
まるでそれが当たり前であるかのように、自然と受け入れているのだ。
「状況は動かないか…。」
徐に本を閉じたバーフェンスは、会議室に映し出された中央区のマップへ視線を送り、手元の本へ直ぐに戻す。と思いきや、何かを思い付いたのか自身の後ろへ肩越しに視線を送った。
「お前はどう思う?戦争が始まってから下らない小競り合いしか起きていない。俺の望む展開が起きる気配は皆無だ。」
「むぐ……もご…!」
「あぁそうだった話す事も動く事も出来ないんだったか。」
「もごもご!」
「それにしても…これが手段なら目的はどこにある?その果てに手に入れるものは?」
「むがむぐもごご!」
「お前…もごもこ五月蝿いぞ。」
「むごご!!」
「あぁそうだ、話せないのだったな。」
完全に馬鹿にして、おちょくった様子で鼻を鳴らしたバーフェンスは、手元の本に視線を戻した。
「素晴らしき人生は、素晴らしき出会いの数々が紡ぐもの…か。ある意味で真理だな。」
その時。
軍事司令部に警報が鳴り響いた。
「建物内に侵入者!映像、出します!」
魔法装置によって壁面に映像が映し出される。警察庁内各所の様子を映し出す高性能魔導具である。一般には流通していない魔導具を庁内各所に使用しているというだけで、警察庁が如何に魔法街の中で影響力があるのかが分かるというもの。
そして、その映像に映し出されたのは…龍人達だった。
「ほぅ…南区の奴らは利口にも北区の頭を狙いに来たか。……ん?こいつはコンセルか。ははっ!警察庁執行部長官秘書が南区に手を貸すとは。こいつは面白い。各区の調整を担うはずの警察庁職員が、特定の区に肩入れするか。魔法街のバランスが崩れる…良い兆候だ。」
バーフェンスは嗤う。
「バーフェンス学院長、迎撃部隊を派遣してよろしいですか?」
司令官の問いを受けたバーフェンスは首肯し…指をパチンと鳴らす。
「いや待て。このまま迎撃しては事態が動かない。ふぅむ…………妙案を思いついた。お前ら、これから支持する通りに人員配置を変えろ。」
立ち上がったバーフェンスは司令官の横に移動すると、警察庁の図面の各所を指差しながら人員配置の指示を出していく。
「バーフェンス学院長…これは、本当に良いのでしょうか?」
「無論。これ位でなければ。なぁ?」
振り向いたバーフェンスは椅子に拘束されて「ムゴムゴ」と動く男へ視線を送る。
「さぁて、楽しくなっていた。」
司令官はバーフェンス長官の暗い笑みを見て、思わず全身を粟立たせるのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
魔法街東区。
第2次魔法街戦争が勃発した中で中立の立場を保ち続けるこの区は、戦闘を主導するシャイン魔法学院を中心に強固なる防衛体制を築き上げていた。
「セラフ学院長。南区に動きがあるようですわ。」
所謂、戦乙女のような服装をしたセラフに声を掛けたのは、所謂、ザお嬢様風の金髪縦ロールを揺らす美女…マーガレットだ。
「分かったわ。そうなると、私達はどうやって動くのが得策か…という話になるわね。」
「私は攻めるべきだと思いますわ。北区の横暴は許し難き行為ですわ。」
マーガレットはシャイン魔法学院1年生なのだが、学院長であり、魔聖でもあるセラフへ堂々と意見が出来るのは彼女の胆力を示していた。
それが故に、セラフも今回の戦争に於ける主要メンバーにマーガレットを選出しているのだ。自身の意見を臆さず言えるというのは、それだけで大きな価値を持っているのだ。
「そうね。そうすれば、南区の動きに合わせて北区を翻弄できるわ。」
「じゃぁ…!」
「でもね、それじゃぁ悪手よ。東区が中立を保ったという事実は、戦時中に於いても、戦後に於いても重要なファクターとなるの。レオはどう思うかしら?」
マーガレットの隣に立っていたレオは、不敵な笑みを浮かべると笑った。
「ガァーハッハッハ!俺なら一撃必殺を横から警視庁に叩き込んで、全員ぶっ潰す!!!」
ヒクッ
セラフの口元がヒクついた!
「そ、それもありかも知れないわね。でも、それだと今言った中立が一瞬で崩れるわ。えぇっと………フルはどうかしら?」
マーガレットの隣で「俺の意見を聞いて欲しいのですよ!!」とばかりにキザに微笑むフルを見たセラフは、半ば諦めた表情で意見を聞いた。
無視したくても無視できない存在というのは、どこにでも存在するのだ。
「そうだね。俺なら、俺の魅力で警視庁の人々を魅了して戦意を削ぎますよ。そして、英雄となった俺とマーガレットは皆に祝福されるのです。」
「………。」
まさかのトンチンカン発言に、その場にいた全員の表情から感情が抜け落ちた!
最早天性の才能と言えるだろう。本人がそれを自覚していないのが大問題。
「じゃぁ、私の方針を伝えるわ。東区は…攻めずに攻めるわ。」
フルをフルシカトしたセラフは、その場にいた面々の意見を聞きつつ、自身の作戦を伝えた。
意味がわからない作戦に、その場にいた全員の頭の上にハテナマークが浮かぶ!
「え…えっと、ちゃんと説明するわね。」
思った以上に何も伝わっていない事に焦ったセラフは、コホンと咳払いをすると作戦概要を説明し始める。
その作戦は、東区面々が思わず感嘆するものだった。
故に…。
「流石セラフ学院長です!俺はこの作戦が非常に良いと思います!俺は、この作戦の立役者となり皆のヒーローとなりますよ!」
フルのテンションが上がって無駄なキザ発言を行い、その発言を聞いて笑いを堪えるレオがフルフルと震え、やや怒りを堪えたセラフがフルフルしたのも仕方がないと言えよう。
こうして、南区、東区、北区に加えて平等派が其々の思惑で動き始めたのだった。
次話より龍人視点で話を進めていく予定です!
魔法街編はラストに向けて一気に突き進みます!
執筆の励みになりますので、
ブックマーク、評価等々よろしくお願い致します。