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5-68.警察庁前

 セフとクレアの目撃情報を求めて中央区を探し始めてから小一時間が経った。正直、有用な情報は入手出来ていない。

 普通に考えればクレアを連れて移動する手段は用意しているか。そーすると、こうやって目撃情報を探している時間自体が無駄な気がする。

 ……不穏な話もチラホラ聞いたし、一旦南区に戻るかな。


「龍人!どう!?」


 丁度向かいの飲食店から出てきた遼が俺を見つけて駆け寄ってくる。


「遼…クリームいっぱいのフルーツサンドは美味しかったか?」

「えっ…!?な、なんのこと?」


 動揺する遼に逃れられない現実を突きつける。


「口の端っこにクリーム付いてるっての。」

「そんな馬鹿……ごめんなさい。」


 口の端を指先で拭って確認した遼は、確かにクリームが付いているのを確認してすぐに謝った。


「いいって。腹減ってたら力出ないしな。」

「う……なんてゆーか地味に罪悪感。」

「んで、手掛かり見つかったか?」

「いや、全く。」

「だよなぁ。一度南区に戻ってラルフ先生に相談した方が良い気がしない?」

「同感。」


 となると、火乃花とルーチェが何処にいるかって話だな。2人を見つけて一旦帰ろう。


「そしたら、さっき解散した場所まで戻ろう。多分2人も同じ様な状況だろうから、早めに戻ってきそうだし。」

「分かった。」


 俺と遼はビルの跡地を目指して歩き始めた。

 5分程無言の時間が続く。

 気まずい…とかは無い。これからどうするか。それを考えながら歩いていたから、正直沈黙が続いている事にも気付かなかった。

 そんな中、遼が徐に口を開いた。


「なんかさ…森林街の時と似てない?」

「どういう事だ?」


 森林街でテロは流石に無かったぞ。セフがいきなり襲撃してきて…。


「イベントで浮かれているタイミングで襲撃…みたいな感じが似てるなって。森林街も豊穣祭で盛り上がってる時だったし、今回はクリスマス付近でしょ?」

「そう言われればそうだな…。」

「セフが森林街を狙った理由って、龍人の覚醒って言ってたんだよね?」

「里因子所有者の覚醒って言ってたから、そうなんだろうな。」


 俺のせいで…森林街の皆が殺されたなんて、今思い出しても怒りが込み上げてくる。


「そうだとするならさ、今回の爆発事件とかも目的があると思わない?」

「目的……。クレアの誘拐か。」

「うん。サタナスがクレアの魔力を使ってロジェスを化け物にしたんだよね。もしかしたら、アレよりも強力な化け物を作ろうとしてるとか。その為にクレアの魔力が必要で、皆の注意を個人でなくてテロっていう事象に向けて誘拐しやすくした……とかかな。」

「だとしたら、見事に成功してるな。…………なぁ、それならサタナスがその化け物を作ろうとしてる場所がどこかにある訳だよな?」

「え…うん、そうなると思うけど。……あ、そっか。研究設備を整えられる場所は限られてるかも。」

「その場所を見つけられれば。」

「クレアを助けられるかも?」

「あぁ。」


 思いがけず見えたクレア救出の糸口に、テンションが上がってしまう。

 こうなれば、ルーチェや火乃花のお父さんに協力してもらって該当場所をピックアップして調べていけば…!


「皆と合流したら、候補場所の洗い出しをしよう。」

「うん!なんとか…なるかもね!」

「だな!」


 火乃花達と分かれた爆発で破壊されたビル跡まであと少し。クレアを助けられかも知れないっていう希望が、自然と足を早める。


「あれ……?ねぇ、龍人。」


 不意に足を止めた遼が不穏な表情で言う。


「どうしたんだよ。2人が待ってるかもだから早く…」

「なんか凄い沢山の人達が行進してるんだけど。」


 行進?度々起きる爆発事件に耐えられなくなった中央区の人達がデモでも始めたのか?

 すると、行進が行われている方向から1人の男性が慌てた様子で走ってきた。


「き、君達!こんな所でのんびりしてちゃダメだ!早く自分の区へ戻りなさい!」


 俺たちを見るなり、そんな事を言った男性は恐ろしいものを見るかのような目で行進する人々へ視線を送る。


「あの…聞いても良いですか?」

「な、なんだね?」

「何が起きてるんですか?イマイチ状況が。」

「何がって……!?あんな事件が起きたんだ。死者も出たあの事件で、きっと各区が戦争を始めるんだよ。その中で1番最初に動き出したのが、あそこを更新している北区の連中って事だ。あぁ…もうすぐここも戦場に……グェッ!?」

「…龍人!何してるの!?」


 男性の胸ぐらを掴んで持ち上げた俺の腕を遼が掴む。


「あんな事件って……何があった?」

「龍人放しなって!」

「……いいから答えろ。」


 遼を無視して男性を睨み付ける、


「ひぃ…!東区、北区、南区で魔力暴走者が暴れたんだよ!その被害で死傷者多数だ…!この魔法暴走者が各区が画策したテロって話になってて…ダーク魔法学院が動き出したんだ。ここは……戦場になる。」

「って事は、あの行進してる奴らがダーク魔法学院の奴らってことか?」

「あぁ…正確にはダーク魔法学院が先導している北区の魔法使い達だ。」

「……最悪の展開だな。」


 掴んでいる手を放すと、男性は尻餅をついて慌てて立ち上がる。


「と、とにかくだな!君達がイラつくのもなんとなく分かる!でも、この場からは離れるべきだ!わ、私はいかせてもらうよ!」


 屁っ放り腰で逃げるように走り去る男性を見送ると、隣の遼が俺を睨んでいる事に気付いた。


「なんだよ。」

「…なんでそんなにイラついてるの?」

「はぁ……天地が暗躍している可能性が高いこのタイミングで、魔法街が戦争に突入したらどうなるよ。」

「混乱するで……あ。」

「そう。混乱する。そんで天地は活動しやすくなる。んで、各所で起きる事件が戦争によるものか、天地によるものか判別できなくなる。」

「そしたら天地の尻尾が捕まえられなくなって…クレアを助けられる可能性が低くなっちゃう。」

「そうだ。つまり、この戦争…天地の思惑通りかもしれない。自分達の活動をカモフラージュ、魔法街を疲弊させる…目的は分からない。ただ、後手に回っているのは間違いないな。」


 問題はどう動くか。ダーク魔法学院の行進を止めるのか、一旦南区に戻るか、それとも天地の潜伏先を探すか。


「なんか…凄い嫌な予感がするよ。龍人、急いで火乃花とルーチェと合流しよう。」

「…それもそうだな。急を要する事態だけど、ここで焦って突撃しても駄目か。よし、急ごう!」

「オッケー。」


 俺と遼は駆け出した。

 アレだけの規模でダーク魔法学院が動いてるんだ。火乃花達も必ず気付いている筈。何か問題が起きていない限り合流地点に来る筈だからな。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ダーク魔法学院。

 『強き者が正義』という教育方針を掲げるこの魔法学院は、一般的な属性魔法しか扱えない者は基本的に入学する事が出来ない。勿論、属性魔法に限らず特殊な能力を持っていればその限りではないが。

 入学できる者が限られている。という点で既に特別な魔法学院である事が分かるが、特殊な点は他にもある。

 それは、中央区を更新する北区住民の中央で歩くダーク魔法学院生を見る人々の声から察する事が出来た。


「おい、アレってダーク魔法学院の連中だよな?」

「そうじゃないかしら。あの学ラン姿は見間違いようがないわよ。」

「つーか何しに来たんだ?行政地区に向かってんのか?」

「もしかしたらテロに対する声明を出すのかも知れないわ。」

「いや…それならダーク魔法学院の奴らだけで良いだろ。他の住民が一緒に行進している理由にならないぞ。」

「え…じゃあデモ行進かしら。」

「なんつーか嫌な予感がするな…。」


 そう。学ランなのだ。ポイントは男も女も学ラン。

 運動会の応援団に入っている女子生徒が男子生徒から学ランを着て応援をする姿。そのロマンを日常で体現しているのが、ダーク魔法学院なのである。

 残念なのは、その姿に見慣れているからか「萌え」要素を感じる人がいない事だろうか。

 現に学ラン姿で歩くダーク魔法学院生を見ても、畏怖の目を向ける者しかいないのだ。

 そして、北区の行進する集団の先頭を歩くのは、ダーク魔法学院長のダーク=バーフェンス。魔法街最高戦力に数えられる魔聖の1人だ。長い前髪を右側に上げて垂らし、細い眉に赤い瞳…所謂トップランカーのホストに見える風貌。

 だが、女性達がバーフェンスを見て黄色い声を上げることはない。何故って?それは、単に怖いから。人は見た目だけではモテないのだ。見た目でモテるのは精々高校生くらいまで。


「間も無くか。」


 目的の建物を視認したバーフェンスは、右手をサッと上げた。

 すると、後方を歩く人々の顔に緊張感が走り、次に全員が手に持つ武器を「構えた」。

 武器を持ってカッコいいポーズを取ったのではない。魔法をいつでも発動出来る態勢を整えたのだ。これが意味するところは単純。戦闘も辞さないという意志の表れである。

 そのままの状態で更新は続き、目的である警察庁から200メートル程離れた場所で一団は足を止める。

 正確には足を止めざるを得なかった。

 そこには、警察庁の一団が隊列を組んで待ち構えていたのだ。


「霧崎火日人。俺の行く手を阻むか。」


 バーフェンスは警察の一団先頭に立ち、落ち着いた表情で煙草を吸う火日人へ声を掛けた。


「俺ぁ警察の人間だからな。北区の暴動を鎮圧するのが役目だ。その為の警察、その為の執行部って訳よ。」

「ふん。組織の犬が。」

「おう。なんとでも言え。」


 涼しい顔で言葉を交わす両者だが、馬の緊張感は否応なく高まっていく。

 そして、目に見えぬ緊張感を言葉て表面化させたのは、バーフェンスだった。


「本題に移ろうか。警察庁を明け渡せ。ダーク魔法学院は各区への戦争拠点として警察庁を使う。」

「それを、俺が受け入れると思うのか?」

「思う訳が無い。ここに来た時点でお前と戦うつもりだ。警察庁長官が死に、その代行を務めるお前がいる以上…障壁となるのは必然。」

「がぁっはっはっはっ!分かってんじゃねぇか!……そんなら、これ以上の言葉は無粋ってもんだろ。」

「そうだな。勝者の道が正義となる。」


 バーフェンスと火日人は目線を交わしたまま静かに構えを取り、ほぼ同時に全身から魔力を噴き出した。

 バーフェンスは属性【闇】に準ずる黒き魔力を。

 火日人は属性【焔】に準ずる紅き魔力を。


 そして。


 第2次魔法街戦争の幕開けとなる、ダーク魔法学院と警察庁の大規模戦闘の火蓋が切って落とされた。

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