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5-62.クリスマス準備

 本日は晴天。12月の澄んだ空気。静かに流れる風。柔らかな温もりを送る太陽。もうすぐクリスマスを迎えるという、静かな日々の1日。


「ここか!?」

「えっとね…もう少し左!……うん、そこ!北に向けて10個連続でお願い!」

「おーい、こっちは………バルク!それ起動スイッチだっ……」


 チュドーン!!


 街立魔法学院の広大なグラウンドである修練場。その一角は静かな日々とはかけ離れた光景が繰り広げられていた。


「おい!テメェら!真面目にやれってーの!魔法陣の設置は龍人がやってんだから、各魔法陣を繋ぐ回路くらい出来んだろ?こーやって魔力を指に集めてだな…」


 魔力で指先を光らせたラルフ先生の指先が空中を華麗に動く。

 ……ん?ラルフ先生がいる場所って。


「ラルフ先生!そこ、爆発を……」

「ぬぁ……!?」


 チュドドドドドドドドーン!!


 爆発やら色んなものが入り乱れ、周囲一帯の魔法陣を誘発しつつ巨大な爆発を引き起こした。

 因みに、上の学年の人達は「また1年生が奇怪な事をやっている」とクリスマスパーティ当日を想像してプルプルしていたらしい。俺達ってそんなにぶっ飛んでるかね?


 立ち込めていた爆発の煙が晴れると…


「うわぁ…大変だね。また最初からやり直しじゃない?」


 ちなみがのんびりした調子で現実を突きつけてきた。


「ラルフ先生。真面目に手伝うか、2度と近寄らないかにしてくれません?」

「……龍人。俺、担任なんだけどな?」

「例え担任でも許されない行為ってのがあるんです。」

「ま、まぁ…悪かった。けどよ、お前の魔法陣は龍人化【破龍】を使えば設置上限は無いようなもんだろ?カリカリすんなって!」

「魔力は有限だわ!」


 思わず突っ込みと同時にラルフ先生に回し蹴りを放ってしまう。


「うわっ…と、教師に手を出すとは勇敢だな!」


 上体を反らせて回し蹴りを避けたラルフ先生の両手が滅紫色に輝く。

 おい、こんな所で次元魔法を使うつもりか!?


「反省しやが………はぅん…!?」


 ラルフ先生の体がビクンと跳ねたかと思うと、内股になりながらズルズルと崩れ落ちていった。白目を剥いてるし…こりゃー暫く使い物にならないか。


「ミーの蹴りが炸裂したから、暫くは動けないアル。今のうちに亀甲縛りで身動きを封じるアル!」


 ラルフ先生の大事な所を垂直に蹴り上げたチャンは、手に持った縄をクルクルと回すと、素早い手捌きで巧みに操っていく。

 数秒後。…途轍もなく恥ずかしい格好で亀甲縛りをされたラルフ先生が転がっていた。

 この様子を写真に撮って、後でネタにしてゆすれるんじゃなかろうか。…やらないけどね。


「よしっ。一難去ったところでもう一度頑張ろうね!」


 事の成り行きを見守っていたクレアが、再び音頭をとり始めたのをきっかけにクラスの皆は動き出したのだった。

 …ん?何をしているのかって?そりゃあクリスマスパーティ迄のお楽しみだな。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 12月22日。

 翌々日にクリスマスイブを控えた俺達は、1年生の出し物が終わった後に教室で行うお疲れ様会の食べ物を買い出しに来ていた。

 メンバーはオルム、チャン、火乃花、ちなみと俺の5人だ。

 中央区にある雑貨店(ロジェスが働いていた店)に買いに行く予定だ。あの店は品揃えが豊富だからね。


「ほ、火乃花は好きな食べ物はあるでござるか?」

「そうね…特段これっていうのは無いけど、和食が好きかしら。」

「そうでござるか。拙者と…に、似ているでござる。」

「オルム君も和食が好きなの。」

「うむ。特にざる蕎麦には目がないでござる。」


 前を歩くオルムと火乃花は、さっきから取り止めのない会話を繰り広げている。微妙にオルムの態度がぎこちないのが気になるけど…もしかして火乃花のことが怖いのかな?

 まぁ火乃花は容姿は整ってるけど、怒ると怖いもんな。分からなくはないかも。


「なんかねぇ、青春だねぇ。」


 前の2人を眺めていたちなみがほっこり顔でそんな事を呟いている。


「どこが青春なんだ?」

「え、龍人君分からないの?」

「ん?」

「龍人は鈍感アル。…オルムは火乃花に惚れているアル。」

「え、マジ?」


 ちなみの方を見ると「うんうん。」と頻りに頷いている。

 …うわー。


「龍人は大変アル。火乃花が気になっているのは龍人アル。見事な三角関係アル。」

「…やっぱそうなのかな?」

「当たり前アル。女の勘がビンビンアル。」


 ちなみの方を見ると「うんうん。」と頻りに頷いている。

 そういや、クリスマスパーティを一緒に回ろうって言われたっけ。やっぱりそういう事なんだろうなぁ。

 どうするべきか…。


「三角関係は勘弁なんだけどね。」

「仕方がないアル。男と女の摂理アル。」


 ちなみの方を見ると「うんうん。」と頻りに頷いている。

 …ん?待てよ。クレアも俺に好意をよせてくれてるよね。

 そうなると三角関係以上に状況は複雑じゃないか?


 ………。止めよう。今ここで悶々と考えていても、結論は出ないし。


「その話はお終いにしよう。ほら、雑貨店に着いたぞ。」

「わーぉ。人で一杯アル。」

「うわぁ…凄いね。クリスマス前だから、買い出しに来てる人が多いのかな。」

「だな。さ、必要なものをさっさと揃えるか。」


 皆で店の中に入ると…マジで激混みしていた。

 いやいやいや!これ、どうやって店の奥にいくんだし。


「これ、手分けし……ぬぁ!?」


 突然、横からガチムチ男集団の群れが現れ、ガチムチの波に飲まれて皆と離れ離れになってしまう。

 チャンは「ぬぬぅ!耐え難いアル!」と言いながらガチムチの波に埋もれて見えなくなり、ちなみは「あーれー」と平安貴族の奥方?みたいな反応で見えなくなった。

 ガチムチ群の動きは力強く、店の奥まで流された俺は曲がり角で爪弾きされるかのように吹き飛ばされた。


「きゃっ!?」

「あ、すいません!」


 吹き飛ばされた先に居た女の子に背中から飛び込むという、恥ずかしい事になってしまった。

 それにしても、背中に当たる感触が…。


「あれ?龍人君?」

「ん?火乃花か。」


 肩越しに後ろを見ると、火乃花の……顔が近い!


「ごめんごめん。ガチムチには抗えなかった。」

「私もよ。気付いたらこんな所まで押されて来ちゃった。」


 背中に当たるハッピー感触に名残惜しさを感じつつ離れると、俺は周囲を見回す。うん、コスプレコーナーっぽいな。サンタの服とかバニーちゃんの服やらが所狭しと陳列されている。火乃花が着たら似合うんだろうな…なんて思ってないからな?


「そういやオルムは?」

「ガチムチの人達が突き進んできた時に、私を助けて飲み込まれちゃったから…今も一緒にガチムチと行進してるかも。」

「男らしいなオルム。」

「龍人君は女の子を助けて自分が犠牲に!みたいなのはしないの?」

「んー、シチュエーションによるかな。火乃花と一緒だったら…うん、火乃花の背中に隠れる。」

「……もぅ!」


 ぷぅぅぅっとほっぺを膨らませて、コツン。と叩かれた。

 普段はあまり見せない女の子らしい一面。……さっきのチャンとのやり取りがあるから、微妙に意識しちゃうんですが!


「冗談冗談。うしっ、買い物をさっさと終わらせたいし、皆と合流しないとな。」

「そうねっ。じゃあ必要なものをカゴに入れながら、店内を回りましょ。」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 龍人達がガチムチ津波に飲まれた後、「あーれー」と押し流された杉谷ちなみは…1人で来るには恥ずかしいコーナー、とは言ってもカップルでくるのも恥ずかしいし。なんて思ってしまうアダルトコーナーに押し込まれていた。


(あわわ…ここはちよっと恥ずかしいよぉ。あ、あのコスチューム…エッチィかも。)


 恥ずかしいと思いつつも、エッチィコスプレやら下着か並ぶコーナーから目を離せないちなみ。


(秘書みたいな格好をして、取引先の社長室で関係を迫られるとか…シチュエーションとしては憧れるなぁ。)


 普段は表に出さないアレやこれやの妄想が加速していく。


(…ううん。今の季節ならやっぱりサンタさんかも。前はボタン式にして、パチパチン!って脱がせやすくしてたら…恥ずかしい、でも見えちゃう脱がされちゃう……みたいな事も出来るよね。)


 ちなみの妄想は止まらない。


(それで、いやいやしてる所に後ろからガバってされて…そこからはもうなし崩し的に乱れて…。)


 妄想で乱れたのは思考だけではなかった。

 普段のおっとりとした表情はトロンとしたものに変わっていき、急激に色気を放ち始める。

 周囲に居たカップルや男達は思った事だろう。「エロオタク巨乳女子が妄想している」と。

 その後もちなみの妄想は暴走を続け、龍人と火乃花に発見されるまでアダルトコーナーの一角にいたという。




 さて、引き離されたもう1人の買い出しメンバー…チャンはお菓子コーナーでケーキを頬張っていた。


「美味しいアル〜幸せアル〜。」


 ホクホクと幸せそうな顔でケーキを食べる姿は、太ももが付け根あたりまで見える深いスリットが入ったチャイナドレス姿という事も相まって…それはそれで目立っていた。

 とは言っても、ちなみのように悪目立ちではなく「可愛らしく食べている」程度に視線を向けられる程度だったが


「次は…フルーツタルトにするアル。」


 一度食べ出したらもう止まらない。食べたいケーキリストを頭の中で整理しながら、フルーツタルトを店員に注文して受け取ると…再び幸せ一杯な表情でパクパク食べ始めるのだった。

 こんな食べ方をしているのに、太らないのだから体質とは恐ろしいものである。まぁ、胸は控えめサイズなのだが。


 フルーツタルト片手にケーキ以外の甘い食べ物も確認しようと歩き出したチャンは、ピタッと足を止めた。


「何しているアル?」


 首を傾げた先にいたのはオルムだ。

 ガチムチ集団の波に飲み込まれて揉みくちゃにされたからか、燻んだ水色の羽織はクチャクチャの皺だらけになっていた。


「うむ…火乃花とはぐれてしまったでござる。」


 途轍もなく分かりやすく落ち込んでいるオルムを見てチャンはニヤニヤを抑えられない。


「むふふ…。オルム、恋はそう簡単には成就しないアル。火乃花を射止めるには、龍人が最大のライバルアル。」

「むぅ…やはり火乃花は龍人に気があるでござるか?」

「今は紙一重の状況アル。逆に今でなければ龍人のものになる可能性ありなのでアル」

「其れは何故に!?」


 グイッと話題に食い付いたオルムに向けて、チャンは人差し指を立ててニコッと微笑んだ。


「明後日はクリスマス!恋人達の1日、カップル成立件数が1年でナンバーワンの日アルっ!」


 ドッドォォン!という効果音が背後に見えるドヤ顔で言ってのけるチャン。


「そ、そうでござった!千載一遇の好機…逃すわけにはいかないでござる!」

「そうアル!告白するアル!」

「こ、告白でござるか!?」

「龍人に取られても良いアルか!?」

「む…し、しかしいきなり告白というのは…!」

「のんのん。分かっていないアル。突然の告白、それは予想していない時ほど心にブッ刺さるアル!結果、否応なしに告白された人は相手を気にしてしまうアル!そうする事で、火乃花の中に龍人とオルムという2人の選択肢が生まれるアル。これが大前提。これが出来なければ、勝負の土俵に立つことすらままならない状況だと認識すべきアル。恥じらいを、恐れを捨てるアル。覚悟を、勇気を、情熱を燃やすアルゥゥゥ!!」


 再びのドッドォォン!!である。

 ふつうに第三者が聞けばツッコミどころ満載な暴論なのだが…。


「……承知したでござる。」


 オルムの心には確りと響きまくっていた。

 ある意味、特攻隊のような覚悟の決め方だが、残念ながら…この場にオルムを止める者は居なかった。


「拙者、男らしく決めるでござるよ!!」

「ミーも応援するアル!」


 拳を突き上げて決意を示す2人は、クリスマス前で熱気溢れる雑貨店内に於いて…そこまで目立っていなかったりもする。


(今年のクリスマスは愛憎溢れる恋模様が展開するアル!)


 オルムの横で「面白イベントを発生させた!」とばかりにチャンがほくそ笑んでいたが、決意を胸に燃えるオルムは全く気付いていなかった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 雑貨店で買い物を終えた俺達は近くの喫茶店で小休止を取っていた。

 かなり大量に買い込んだけど、買い出し前と手荷物の量は変わっていない。

 お察しの通り、買った物は全て俺の収納魔法陣に突っ込んだ。収納系の魔法陣なら魔法陣内は時間経過が無く、どんなに鮮度が短かろうと関係ない。…ってのが理想なんだけど、俺が使える収納魔法陣は時間経過有りなのか残念な所。

 収納魔法陣内の時間経過を止める魔法陣を組み込めれば出来るんだろうけど、時間に関わる魔法ってレアらしくて調べても見つからなかった。


「龍人。」


 俺の隣に座っていたオルムが、いきなり小声で話しかけてきた。

 対面に座る女性3人がガールズトークを繰り広げているの眺めながら、静かにコーヒーの味を楽しもうと思ってたのになー。

 それに、オルムが火乃花に惚れているって話を聞いた手前、ちょっと気まずいんだが。

 でも、そんな雰囲気を出すわけにもいかないし。ビークール俺。


「なに?」

「龍人は恋…しているでこざるか?」

「……!?」


 危ねぇ。思わずコーヒーを噴き出すところだった。

 堅物代表みたいなオルムから恋バナとか…明日この星、滅ぶんじゃね?


「ん〜。しているような。していないような。」

「そうでござるか…。」


 オルムは深く頷くと腕を組んで考え込んでしまった。

 てゆーか…チャンがガールズトークしながらさり気なく俺たちを観察してんだけど!

 現に今、俺に向かって小さくサムズアップしてきたし。

 …アイツ、オルムに何か吹き込んだな。


「龍人。」

「な、なんだよ。」

「ちょっと来るでござる。」


 そう言うと、オルムはスクッと立ち上がって店の外に出て行ってしまった。

 …後を、追いかけない訳にはいかないよねぇ。

 女性3人組は「はて?」という顔をしている。

 そりゃそうだよね。返事も聞かずに店の外に出るとか、普通ならあり得ない行動だもんな。


「龍人君、オルム君どうしたの?」

「いや、なんだろ。まぁちょっと行ってくるよ。」


 すごーい嫌な予感しかしないけど…行かないわけにはいかないよな。

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