表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/196

5-61.クリスマス?

 中央区でバーフェンス学院長が両派の武力衝突を強引に蹴散らしてから、規模の大きい衝突はなりを潜めていた。

 え、そんなに?…って位に平和だ。勿論少人数規模での喧嘩っぽいのはあるけど、その程度なら俺達が駆り出される必要はない。

 従って…俺達は普通に学院生活を送っていた。

 午前中の数学が終わり、全然分からなくて撃沈。机に突っ伏していると、腕を誰かがツンツンしてきた。


「ん?……!?」


 隣を見た俺が「瞬時に警戒体制に入った」のを見たルーチェはクスクス笑う。


「今日は何もしませんの。それよりも、クリスマスパーティの話がありますの。学年毎に出し物をするみたいてすので、龍人君の妙案を楽しみにしていますの。」

「クリスマスパーティか。楽しそうだから良いけど…出し物ってどーゆーのをやれはま良いんだろうな?お化け屋敷とか?」

「お化け屋敷は季節外れな気がしますの。」

「やっぱそうだよな。ん〜…何かあっかな。」


 意外に思いつかないもんだな。劇…は嫌だな。練習も準備も時間掛かるし。屋台?…学食が美味しいからなぁ。クリスマスなんだから、ウットリ系が良い気はするかも。


「まぁ考えておいて欲しいんですの。」

「オッケー。…にしても。」

「どうしたんですの?」

「なんかさ、下手したら戦争になるかもしれない状況で、クリスマスパーティなんて良いのかなって思っちゃうよな。」


 目を軽く見開いてパチクリさせたルーチェは、クスッと笑った。…変な事言ったか?


「龍人君は真面目ですの。」

「そうでもないんだけどな。」

「自分の事だけでなく、魔法街に住む皆の事まで考えていますの。」

「言い過ぎだよ。でもさ、そう思わない?」

「……。同意見ですの。でも、こんなご時世だからこそ必要なのだとも思いますわ。」


 そんな風に話すルーチェは、とても真剣な眼差しをしていた。


「この先に何が起きるか分からない。だからこそ、今を全力で生きる。そう考えれば…クリスマスパーティは必要ですの。先にどんな未来が待っていても、このお楽しみ企画が生きる糧となる場合もあると思いますの。」


 生きる糧ってちょっと大袈裟な。

 最近のルーチェって、何か前と比べて雰囲気が変わった気がする。

 何がっていうと難しいけど、前の方がお嬢様感が強かったかな?


「ルーチェの言う通りかもな。折角なら皆が思い切り楽しめる出し物が良いな。」

「そうですの。そして、クリスマスは意中の人と幸せな時間を過ごしますの。」

「へぇ、ルーチェにも好きな人がいるんだな。」

「…?何を言ってますの?私の…」

「あ!早く昼メシ食わないと午後の授業間に合わないじゃん!先行ってるぜ!」


 スタッと立ち上がった俺は学食に向けて高速移動を開始した。

 後ろでルーチェがクスクス笑っている気がするするけど、気にしないんだからな!


 学食に向かって小走りをしていると、タムと廊下の角でぶつかった。


「ぬわっす!?」

「いて…!?」


 クルクルっと回転したタムはビタン!と壁にぶつかるとズルズルと崩れ落ちる。


「悪い。大丈夫か?」

「う…大丈夫っす。」

「お?タム、手に持ってるのって手紙か?」

「…んあ?……!?な、何でもないっす!じゃ、俺は用事があるっすから!」


 ビュゥゥゥン!と、走り去ってしまった。

 何だ今の?ラブレターとかかね。

 つーか、前に挙動不審なタムを見かけた事もあったっけ。

 実は変な奴らと連んでいて、悪い事に手を出してるとか…ある訳ないか。


「さて、学食学食っと。」


 今日の昼ごはんは辛味噌ラーメンにする!!

 と、無駄に気合を入れて俺は学食に向かったのだった。


 学食に着いて念願の辛味噌ラーメンを食べていると、ニコニコ顔のルフトが近づいて来た。学ラン風スタイルヘッドホン男のルフトはバトルジャンキーだからなぁ。今から戦おうとか言われるのだけは勘弁だぞ。…嫌な予感だ。


「よっ!龍人!」

「おうよ。どうしたん?」

「あのさ…。」


 何故か凄い真剣な顔をしたルフトは、ズイッと顔を寄せてくる。

 この後、ルフトが言った内容は俺の度肝を抜く。


「クリスマスの相手を誰にするのか教えて欲しいんだもんね!」

「……………熱でもあるのか!?」

「無いに決まってるじゃん?」

「ルフトが人並みの恋に目覚めるとは思わなかったよ…。」

「恋なんかしてないよ?」


 どうも話が噛み合わない。………原因はコイツか!


「ルフトに何を吹き込んだんだ。ミラージュ?」


 ルフトの後ろからピョコッと顔を出したミラージュは「ニシシっ!」と笑う。…絶対何か企んでるな。


「クリスマスと言えば恋人達の1日なんだよっ。時には意中の相手を求めて激しく戦うことも…!愛憎に塗れる聖なる夜は楽しいこと間違い!ララランっ。」


 …ルフトは戦うってワードに反応したんだろうな。


「龍人!俺と誰を巡って戦う!?」

「待て。趣旨がズレてる。戦うのが目的じゃないからな?」

「なんでだしっ!?女を巡って戦うって事は、全力で相手を潰しに行くって事だもんね!オルムもそう思うだろ!?」


 俺達がいる横のテーブルで静かに蕎麦を食べていたオルムは、ピタリと箸を止めると燻んだ水色の羽織を正す。


「拙者、色恋沙汰に興味はござらぬ。求めるのは強さのみ。クリスマスの聖夜に化物が出るのなら、喜んで戦うでござる。」

「ノンノンノン!違うよオルムちゃん!恋は人を強くするんだよっ!相手を想って…守る為に戦う時、私達は限界を超えられるのっ。」

「恋が限界を…そうであったか。ならば、拙者も…。」

「何やってるのかしら?楽しそうね。」



 オルムがミラージュの「恋は無敵」トークに籠絡されたタイミングで、ホットドッグ片手に近付いてきたのは火乃花だ。


「あー火乃花ちゃん!今ね、恋のパワーは偉大だよって話をしてたんだよっ。」


 ノリノリのミラージュを見て火乃花は一瞬だけ「ヒク」と笑顔を引き攣らせる。

 …気付いたな。近寄ると盛大に巻き込まれるシチュエーションって事に。


「それでそれで、オルムは誰の事が好きなの!?」

「ぬわっ!?ぶぇ!?せ、拙者は恋などしてないでござる!」

「またまた〜さっき、拙者も恋をしたいでござる。みたいな事言おうとしてたでしょっ?私は見逃さないんだからねっ。ルルルンっ。」

「空耳でござる!」

「あ、オルム君って好きな人いるんだね。」


 何故か火乃花の追撃。今ここで会話に入ってきたって事は、このカオスな状況に自ら足を踏み入れたってな訳で。…なんだかんだ火乃花も女の子だよな。


「ぬ、お、おらぬでござるっ!」


 普段は冷静なオルムの顔がドンドン赤くなっていく。

 …ちょっと意外だな。オルムみたいに「強さを求めてます!」的な人でも恋はするんだね。


「よーしっ!オルム。俺っちとその好きな人を巡る決闘をしよう!!」


 腕をブンブン回しながら「ニシシシ」と笑うルフト。


「そ、それはダメでござる!相手の想いを大切にする事が優先でござるよ。」

「じゃあその相手オッケーを出せばいいんだねっ?じゃあ…誰か教えてっ!交渉してくるよっ!」


 いや、普通は教えないから。

 ルフトに迫られたオルムは周りにいる人達へチラッと視線を送り…ダン!と立ち上がった。


「む、無理でござる!!」


 そして、そのまま光の如き速度で走り去ったのだった。


「逃さないっよー!」

「あ、私もオルムちゃんの好きな人気になるよっ!!」


 ルフトとミラージュは嬉々とした表情でオルムを追いかけていった。

 後に残された俺と火乃花は「ポカーン」とするしかなかった。


「そういえば、クリスマスパーティの話聞いたかしら?」

「あぁ聞いたよ。学年ごとに出し物をするってのが、楽しそうだけど…何をするか悩むよなぁ。」

「そうね。皆が楽しめるものが出来ると良いとは思うんだけど……。」

「…………。」

「.………。」


 …何この沈黙。俺に良い案を出せってことか?


「あのさ、龍人君。」

「なんだ?」

「クリスマスパーティの日、一緒に回らない?」


 …ホワッツ!?え、ちょっと待って。火乃花に誘われるとは思わなかったんだけど。

 いや、でも、……いやいやいや。クリスマスパーティを一緒に回るなんてまるで…でも、そう言うことか?


「えーっと。」


 気軽に答えて良いもんなのか?


「………嫌、かな?」

「そ、そんな事無いよ。」

「じゃあ…!」


 火乃花が目をキラキラっとさせる。


「あ、龍人君!」


 狙ったかのようなタイミングで駆け寄ってきたのはクレアだ。


「あ、火乃花さんもいたんだ。あのね、クリスマスパーティなんだけど、私たち5人で一緒に回らない?」

「え……!?」

「5人で?」

「うん。皆で楽しい思い出作りたいなって。火乃花さん、どうかな?」

「そ、そうね。良いと思うわ。」

「ホント!?ありがとっ。」


 ….ニコニコと会話する火乃花とクレアだけど、背中から鬼みたいなものがユラユラっと現れているように見えるのは…俺の気のせいだろうか。

 つーか、クレアの勢いがいつもより大分激しくないか?こんな強引な感じだったっけ?


「それと、明日決めるクリスマスパーティの出し物について、ちょっと案があるんだ。龍人君と火乃花さん一緒に来て欲しいな。」

「あ、あぁ。」

「別に良いわよ…きゃっ!?」


 嬉しそうに顔を輝かせたクレアは、俺と火乃花の腕を取ると走り出した。

 手を握るとかならまだしも、俺と火乃花の腕を其々小脇に抱えると言う素晴らしき所業。腕に当たる感覚がハッピーハッピーだったのは言うまでも無い。


 あ、辛味噌ラーメンの最後に白米を混ぜて食べる予定だったのに!!

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ