5-60.中央区武力衝突
今回、俺達が暴動の鎮圧に向かったのは中央区商業地域にある広場だ。
この広場は皆が思い思いの時間を過ごす場所として親しまれていて、前に来た時は大道芸とか楽器を演奏する人も居た記憶がある。
ただ、至上派と平等派の論争が活発化してからは演説が頻繁に実施されたり…と、広場の毛色も変わっている状況だ。
今回は両派閥の集会が広場の両端で同時に開催されたらしく、当然の結果として両派閥の衝突に発展したらしい。
問題はその衝突方法。口論ならまだしも、いきなり両陣営から攻撃魔法が放たれたらしく、一気に武力衝突に発展したんだとか。
「……これ、どうやって収めるんだよ。」
現場に到着した俺達は唖然とするしかなかった。
今のこの状況をなんて表現したら良いんだ?戦国系のリアルタイムストラテジーゲームで、2つの軍団が横陣で睨み合いつつ遠隔魔法でドンパチやってる。的な感じだ。
俺達の入り込む余地が無い。
「困ったわね…両陣営を壊滅させるっていうなら可能性はあるけど、どちらかの陣営に肩入れし過ぎると、後から別の問題に発展する可能性もあるわ。」
火乃花の言う通りだ。
俺達が属する街立魔法学院は平等派に近いスタンスを保っている。けど、完全に平等派一辺倒って訳でも無い。
ここで平等派が有利になるように動けば、至上派と完全に敵対してしまう。
至上派が有利になるように動いたら…それはもう様々な問題勃発が簡単に想像出来る。
「そうですわね…可能性があるとしたら、今の状況は工作員によるもの。という可能性が高いですの。」
「工作員って?」
クレアがルーチェの言葉に首を傾げると、遼がピンっと人差し指を立てた。
「今回はいきなり攻撃魔法が両陣営から放たれたって話でしょ?その攻撃魔法が、対立の激化を望む第3の勢力に属する工作員によるもの。って事だよ。」
「それって…天地?」
「可能性はありますの。工作員を特定出来れば…至上派対平等派の構図をひっくり返す起爆剤にもなり得ますの。」
まぁ問題はどうやって見つけるか。だな。
「一先ず平等派陣営のリーダーに会ってみよう。至上派は…下手すると俺達が攻撃されかねないし。」
「そうね。まぁいざとなったら、私が蹴散らすわよ。」
何で火乃花は武力行使寄りなんだ?
と言う事で、俺達は平等派陣営リーダーを訪れる事にしたのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「汝等が街立魔法学院の学生か。」
「あ、はい。」
平等派陣営のリーダーを訪れた俺たちは、広場に展開する平等派後方へ案内された。
そこに居たのは、勿論リーダーなんだけど…。
「……何を惚けている。私が女である事に驚いているのか?だとしたら、男女差別の意識は早々に捨て去る事を勧めよう。」
そこに居たのは女性リーダー。いや、女性って事に驚いては…いない訳じゃないけど、俺が驚いたのはその格好だ。
胸元が大きく開いた白と黒のバトルドレスを着て、膝まで届く1本に纏めた可愛らしい三つ編みを垂らす姿は……無性にエロさを感じさせる。
雰囲気的には戦乙女みたいだな。
「……5人居て誰も言葉を発さぬか。」
「あ、ごめんなさい。凄い綺麗だったから…。」
1番最初に反応出来たのはクレアだった。
しかも、容姿を褒めるという優等生ぶり。
「…ふん。褒めても何も出ぬぞ。」
「いえいえ、とても綺麗ですの。スタイルも良くて羨ましいですの。」
「何を言う。汝の可憐なスタイルこそ男が求めるものだろう。」
「それは人それぞれの好みですから、何とも言えませんの。」
…なんだ?何故かガールズトーク風な雰囲気を感じるのだが。
「でも、一般的にとても綺麗だと思うわ。あなたのファンクラブとかありそうだし?」
そう言って火乃花がチラッと視線を送ったのは、周りに控える男達だ。全員が「俺こそが!」的な雰囲気で立っている。…ような気がする。
「ふむ…汝は警視庁の霧崎長官の娘だったかな?」
「あら、私の事を知ってるのね。」
「あぁ。敢えて言うなら、汝のヘソ出しスタイルの方が男の目を引くと思うが?」
「えっ………。……そうかしら?」
火乃花…何故俺に聞く!
よし。それなら俺だって。
「火乃花は美人だからな。普通に目を引くと思うよ。」
「ちょっ…!?……いきなりなんなのよ。」
照れ照れ火乃花の完成っと。
「むぅぅ〜。」
あら?何故かクレアが頬っぺたふくらませてるんだが。
……って、そりゃそうか。一応俺に対して好意を寄せてくれてる訳だし。でも、クレアはヘソ出しスタイルでは無いんだよなぁ。
「龍人君、私もおへそを出した方が魅力的ですの?」
「はいっ?何でヘソ出しスタイルで話が盛り上がるんだよ。
「昨晩なんか私のおへそをペロペロしてたのに、私のおへそ嫌いになったんですの?」
ルーチェの爆弾発言(虚言!!)によって、場が凍りつく。
何故ルーチェはここ最近、俺をネタにした爆弾を放り投げんだし!実は嫌われてんのかな?
「…汝はリアルハーレムを作っているのか。」
「おい待て。えぇっと…。」
「ベル=ピースだ。」
「ベルは何をどう感じてそーゆー発言になるんだよ。」
「む?この場にいる皆が同じ意見だと思うが?…それよりも、自己紹介を先にするべきだと思うがな。」
そりゃそうだ。
「これは失礼しました。俺は高嶺龍人。」
「霧崎火乃花。」
「ルーチェ=ブラウニーですの。」
「クレア=ライカスです。」
「藤崎遼です。」
俺たちの顔を見回したベルはため息をつく。
「遼…汝はこのリアルハーレムを日々横から眺めているのだな。……同情しよう。」
「まぁ…うん、もう慣れたかな。」
「いやいや。話の前提がおかしくないか?」
「さて、本題に入ろう。ここに来た目的は?」
ベル=ピース…強敵だ。なんてレベルのスルースキル。
自分で振った話の返答をスルーとか…下手したら暴君の資質もあるねこりや。
「目的は単純ですの。今行われている両派の戦闘行為を止めたいのですわ。」
「うむ。その意見には私も同感だ。」
「…それでは、今から至上派へ休戦の申し入れを…」
「出来ぬ。」
「…!?何故ですの?」
「私はリーダーであって、支配者ではない。ここにいる者達全員を納得させる材料がない。仮に、強制的に戦いを止めたとしよう…その先に何が起きると思う?」
それは皆が納得してない状態で、リーダーの独断で….って事だよな。
「……多分。リーダーに従わない人が出てくると思う。下手すれば平等派の中に過激派みたいな別派閥が出来るかも。」
「お前は…遼だったか。良い考察力だ。私の目的は平等派理念の元で魔法街に住む人々が差別されない社会を作ること。それを実現するのに、自身の意見を押し付けるリーダーは不要と考えている。」
…正論だ。でも、そうなると今の戦闘行為を止められない事になるのか?いや、違うか。
「それなら、最初に攻撃を始めた奴を特定出来れば可能性はあるよな?」
「…そうね。だが、私も試したが特定には至っていない。まぁ戦闘行為が続いている現状で、そこ迄時間を費やせないという実情もあるが。見てみろ、あの攻撃を。」
ベルが言う方向を見ると、横一列に並んだ火の玉がアーチを描きながらこちらへ飛翔してきていた。
なんだあの物量…数十発が同時に放たれてんのか?
喧嘩で魔法を使ってるなんてレベルじゃない。明らかに「軍隊」のように統率された動きだ。
ドドドド!!と、火の玉が平等派陣営の魔法壁に直撃し、余波が大気を震わす。
うん、こりゃあ片手間に今回の戦闘を煽った人物を探していたら、隙を突かれて押し切られる可能性は高いか。
「分かるだろう。これは、至上派と平等派の喧嘩という域を超えてしまっている。互いに引けぬ状況まで事態は進んでいるのだ。止められるのなら……」
ここでベルはズイッと顔を近づけてくる。
「止めてみるが良い。その時には、私の体を好きに弄んで良いぞ?」
ニッと笑いつつ、口の端をチロっと舐めるベル。
アナタはサキュバス様ですか?…なんて思ったのは秘密だ。冷静な対処を心がけるからね!
「ま…別にベルの体は弄ばなくて良いけどさ、今の戦闘行為は止められるように動かせてもらうよ。そしたら…。」
俺は皆を見回してニヤッと笑う。
「ド派手にやってみようか。」
後ろでベルが「私の色仕掛けが躱されただと…!?」と、驚愕を顕にプルプルしてたけど、知ーらねっと。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
広場の上空に浮かんだ俺は、眼下で魔法の撃ち合いを続ける平等派と至上派を観察していた。どちらにも攻撃と防御を指示している人がいるんだな。
…まぁ、広場で集会を行う以上は戦闘に発展する可能性は考慮していたって所なのかな。戦闘に発展して相手の派閥に惨敗しましたってなったら…流石に良く無いもんな。
因みに、最初は至上派の陣営に乗り込んでリーダー間の直接交渉を持ちかけようとしたんだけど…全員に断固反対をされた。良い案だと思ったんだけどなぁ。
んでもって、俺の奇策その2をこれから実施する訳だ。
正直上手く行くかは分からないけど、各陣営の中で戦闘を扇動した人を探すよりは効果はあるはず。
少し待っていると、平等派の後方、至上派の後方、両派閥の対峙地域上下からピカピカっと合図が届く。
「うっし。ちょっと本気出しちゃうからね。」
静かに目を閉じる。
イメージするのは…Colony Worldで遊んでいた時に、一度だけ遊びで使って皆に「危ない!!」と、めっちゃくちゃ怒られた魔法。
ははっ。なんかあの頃が懐かしいな。……やってやる。
「龍人化【破龍】!」
黒い魔力の輝きが俺の周りに浮遊し赤い稲妻を纏う。
これで魔法陣展開上限がほぼ無し。
「魔法陣並列励起、直列励起。」
複数の魔法陣を並列展開しつつ各魔法陣に直列で魔法陣を繋げていく。
並列励起は基本的に魔法の範囲を広げる効果がある。
直列励起は威力や速度の上昇だ。
「魔法陣発動、纏雷!!!」
大量に展開した魔法陣が一気に光り輝き、眩く周囲一帯を照らす雷を顕現させる。
荒れ狂う雷は地面に向かって降り注がず、俺に集中。
雷を纏った俺は雷の形を龍のように変形させつつ、両陣営の中心に向かって垂直に落下した。
ドォォォォォォン!!!ズッバァァァァン!!
そんな感じの轟音が周囲一帯を席巻し、両陣営の攻撃魔法が止まる。
バチバチっという音を立たせながら立ち上がった俺は、龍の形に変えた雷を俺の守護神のようにグルグルと動かしながら、少しだけ宙に浮く。
…ちょっとコレは魔力消費が想定以上に大きいぞ!?
「両陣営に告ぐ。今すぐ戦闘を中止するんだ。俺は街立魔法学院の高嶺龍人。無益な戦いは何も生まない。尚、俺はどちらの陣営の味方をするつもりもない。」
つい先程まで魔法が飛び交っていた広場が沈黙に支配される。
「また陣営に潜む扇動者に告ぐ。今ここで出頭するなら良し。そうでなければ…お前達を取り囲んでいる俺の仲間が見つけ次第、無力化する。逃げ場は無いと思え。」
俺が指をパチンと鳴らすと、両陣営を包むように巨大な魔法壁が展開される。
因みに、この魔法壁は俺が各箇所に設置した魔法陣を基点に火乃花とルーチェが展開してくれている。流石にこの魔法壁まで俺が担当したらミイラになっちゃうからな。
「さぁ、各陣営のリーダーは決断をして貰おうか。引くか、戦うか。」
雷の龍をグルゥゥンと動かして両陣営を威嚇する事も忘れない。
この雰囲気なら…強制的に戦いを終わらせられるんじゃないか?いけそうだ。
「バチバチと五月蝿い奴だ。大層な魔法を使って威嚇のみ?無駄。魔法は相手を圧倒する為に使え。」
「…誰だ!?」
上から聞こえた声に見上げると、冷酷な眼をした…え?バーフェンス学院長……がそこに浮かんでいた。
あれ?魔法壁を張ってたのに、突破された感覚もなかったんだが。
「誰だ…か。魔聖の俺を知らないとは言わせない。俺はお前を知っているがな。高嶺龍人。ヘヴィーの犬が。こんな所で吠えているとはな。無駄すぎて笑いすら出てこない。」
…なんだよコイツ。
「良いか。魔法の使い方が温い。見ていろ。」
バーフェンス学院長が右手を振ると、両陣営の上に無数の黒球が出現した。
「お前ら、今はまだ戦いを始めるべき時期ではない。早々に引き上げろ。さもなくば…あのビルの様に消し去ってやる。」
黒球の一つがビルに向かって飛翔し…チュィィンドォォン!!!と、一瞬でビルを消し去った。
…何、今の魔法威力。規格外過ぎるんだが。
「て、撤収だ!!魔聖相手に粘る必要はない!迅速に撤収だ!!」
誰かの叫び声で止まっていた時間が一気に動き出す。
両陣営が蜘蛛の子を散らすように逃げていき、5分と立たぬ内に広場にいるのは…俺達とバーフェンス学院長だけになってしまった。
「…どうして戦闘の鎮圧を手伝ってくれたんですか?』
「はっ!お気楽思考も甚だしい。」
俺の質問を「下らない」とばかりに吐き捨てたバーフェンス学院長は、俺に向かって人差し指を伸ばした。
チュイン!!
頬を何かが掠める。
何だ今の…
ドォォォォン!!
背後で…爆発が起きた。
見えなかった。攻撃魔法を視認できないとか…そんな事があり得んのか?
「両派の諍いを収めようと動くのは良いとしよう。だが、無駄に荒らすな。戦争そのものに目を向けるな。戦争の先に目を向けろ。その果てに何を望む?」
「な……。」
なんだよその問いかけ。
「分からんのなら引っ込んでろ。役者として不十分。」
そう言い捨てると、バーフェンス学院長は踵を返して悠然と歩き去ってしまった。
「龍人…大丈夫?」
駆け付けた遼は青褪めた顔でバーフェンスの後ろ姿を眺める。
「魔聖って…とんでもないね。ヘヴィー学院長も同じくらいすごいのかな。」
「凄いと思いますの。魔聖は魔法街最高戦力の1人ですから。」
むむぅ…と眉根を寄せるルーチェ。
「もっと…強くならないとなんだね。私達。」
クレアの言葉に一同は頷くしかなかった。
「一先ず…帰りましょ。これ以上ここにいるメリットはないわよ。」
「そうだな。バーフェンス学院長が最後は収めたとは言え、俺達も相当派手に魔法を使ったからな。報道関係者に取り囲まれたら…かなり面倒くさいぞ。」
…と言う事で、一先ず広場での武力衝突を目出度く?収めた俺達はそそくさと南区へ帰投したのだった。
ちょっと真面目に今より強くなる方法を考えた方が良いかも。
平等派の今後の活動方針とかについても、ベルに色々と聞きたかったんだけどなぁ。
ま、またすぐに会えるかな?こんなご時世だし。
無駄に派手な魔法を使って魔力が大分減ったから、回復させるのも大事だと思うんだ。
その為には…。
「飯だ!空腹の限界だ!!」
そう。お腹が空いたんだ。
お腹と背中がぺったんこってのは、きっと今の感覚のことを言うんだろうな。