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5-56.工場見学

 ブースト石工場の自由見学はとてもスムーズに進んだ。

 何処かを「見学禁止!!」と言われる事も無かったし、各生産ラインの人達に質問しても丁寧に答えてくれた。

 正直…ブースト石に怪しいポイントが全く見当たらない。とは言っても、24時間に1回しか使えないっていう制限を考えれば…人体に悪影響を与える可能性のある何かを使用しているのは間違いないとは思うんだけど。

 ……ん?

 調整室か。何を調整するんだろう。一応見てみるか。


「失礼しまーす。」

「あら、どうしたの坊や。」


 部屋の中にいたのは胸元がエッチィ白衣のお姉さんだ。


「調整室って何をやってるのかなって気になりまして。」


 視線は顔に固定。胸を見ない。…見るもんか!


「んん…?……あぁ、所長が言っていた見学の魔法学院生さんね。ふふっ、この部屋に目をつけるなんて中々の洞察力よ。」

「どゆ事ですか?」


 白衣のおねーさんは上半身を前に屈めて胸元強調ポーズを取ると、人差し指を立ててウインクした。


「それはねぇ、この部屋でブースト石を作るためのエネルギーの調整をしているの。」

「おぉ。じゃあブースト石で魔力強化が出来る理由も知ってるんですか?他の人に聞いたんですけど、詳しい事は限られた人しか知らないとしか教えてもらえなくて。」

「そうねぇ、確かに知っているわ。でもね、そこは企業秘密。教えるわけにはいかないわ。……っていうか、こん……あ、何でもないわ。そうね、少し見るだけなら良いわよ。でも、見るだけ。触るのも近付くのもしないって約束できる?」

「勿論です。」

「ふふっ。良い子ね。どうしても我慢出来なくなった時は、私の胸で満足してもらうしかないわ。」

「はいっ?」

「もぅ、冗談よ。」


 動揺した俺の反応に満足したのか、白衣のお姉さんはクスクス笑いながら俺を壁際の椅子に座らせる。


「見てて。」


 白衣のお姉さんが部屋の中央に置かれた筒型の容器に向けて両手を翳すと、フワァっと光る魔力が容器の内側を満たしていく。そこに色々な色の魔力が混じっていき、最後に黒っぽい魔力が少しだけ上から現れると、直ぐに虹色へ変化して溶けていった。

 最後の黒っぽい魔力…見たことあるような。って闇属性の魔力か。


「はい。これで終わり。」

「え、良く分からなかったんですけど。」

「簡単に言うと、無属性魔力に各属性の魔力を混ぜていって、どんな属性持ちの人でも効果を得られる様に調整しているの。見てるだけだと分からないかも知れないけど、この調整……凄く難しいのよ。」


 そうなのか。でも、ブースト石たる所以の理由はやっぱり分からないか。


「ありがとうございます。お姉さんって魔力操作がかなりお上手なんですね。」

「あらっ…お姉さんキュンってしちゃったかも。……今晩ウチに来る?」

「えっ…。」

「残念ながらお断りします。」


 お断り台詞が聞こえたと思ったら、脇腹にガスッと鈍い衝撃が。


「ぐぅ…火乃花か。」

「火乃花か…じゃないのよ。工場見学しながらナンパしないでくれるかしら?」

「いや、ナンパじゃないからな?」

「あら、彼女さんが居たのね。んー残念。ウチに来る時は…バレないようにね?」

「あ、はい。」

「はいじゃないでしょ!」


 火乃花に襟首を掴まれて引き摺られる俺へにこやかに手を振るお姉さん…天然エロキャラ認定だな。

 廊下まで俺を引っ張った火乃花は、腰に手を当てて俺を睨み付ける。


「それで、収穫は?」

「怖っ。」

「ふざけないで。」

「怖っ………ガフっ……。」


 み、鳩尾に膝蹴りは……。


「それで、収穫は?」

「……今の部屋でブースト石生産に使う魔力の調整も見させてもらったけど、不審な点は無かったよ。」

「やっぱり。」

「やっぱりって?」

「普通の魔力補充石生産過程と大きく差がないのよ。魔力ブーストが出来る理由が無いの。」

「それは俺も思った。例えば、生産過程に何も無いとしたら…その前後が怪しいんじゃないか?」

「私もそう思います。」


 うわっ!?コンセルさん、いつの間に後ろに立ってたし。


「工場見学しながらの痴話喧嘩はなるべくご遠慮下さいね。」

「なっ…痴話喧嘩な訳ないでしょ!」

「…その話は置いておいて。」


 今のコンセルさんの微妙な間…信じてないな。


「ブースト石生産後の加工、もしくは原料に特殊な何かを使用している可能性も出てきました。……周りの目もありますし、一旦引き上げましょう。」


 …周りの目?

 うわっ。遠巻きに俺たちのことを見ながらヒソヒソ話してるんですが。もしかして、痴話喧嘩をする若者と、それを諌める保護者みたいに見られてる?

 状況を把握した俺と火乃花は赤面してしまう。普通に恥ずかしいのよっ。


「よ、よし、引き上げよう。」

「そうね…龍人君と痴話喧嘩してたって思われるのは癪だし。」


 はいっ?癪ってなんだし!?

 と思ったタイミングでコンセルさんがポンポンと背中を叩いてきた。

 なんてゆーか「気持ちは分かるけど我慢だよ」みたいな優しい目をしてるっ!?


「さぁ、次の行動を決めなければなりませんので、皆と合流しましょう。」


 くぅ…こんな大人の対応をされたら、大人しく従うしかない。




 そんなこんなで工場から脱出した俺達は、近くにあるカレー屋てご飯を食べていた。コンセルさんの奢りらしいので、牛肉&鶏唐カレーの大盛りにしてみた。

 火乃花はチーズカレー、クレアはキーマカレー、遼はキムチカレー、レイラは納豆カレー、コンセルさんはバターチキンカレーだ。

 納豆カレーって美味しいのかね?前々から興味はあるんだけど、いまいち勇気を出せなくて試した事ないんだよなー。


「さて、皆さんの調査結果をまとめると…製造過程に不審なポイントが無い。という結論になってしまいます。」

「そうしますと、製造後の加工か、原料に魔力暴走の原因がある可能性が高い。という事になりますの。」

「えぇ…しかし、そうなると調査対象が多岐に渡ってしまうため、私達だけで調べきるのには膨大な時間を要してしまいます。」


 …そうなると、打つ手がないってことか?


「俺、思うんだけど…ブースト石を作った後に加工するだけで、ブースト効果を付与出来るって有り得ない気がするんです。」


 顎に手を当てる名探偵っぼいポーズの遼に視線が集まる。


「遼君、何か思い当たるの?」


 クレアの言葉に遼は頷いた。


「うん。だってさ、ブースト石って24時間以内に2回目の使用をすると魔力暴走の可能性があるでしょ?3回目だと魔法が使えなくなるかもって聞いたけど…。」

「そうですね。公式に発表されている内容です。」


 ……え、そんな話あったっけ。すっかり忘れてた。


「魔法が使えなくなるって事は、魔力回路が壊れるって事なんじゃないかなって思うんです。だから……えっと……なんて言えば良いんだろう……?」


 上手い言葉が見つからないのか、遼は首を捻ってしまった。

 すると…ポンポンポン。っとコンセルさんから拍手が送られる。


「遼さん素晴らしいです。今の話を聞いて分かりました。つまり、魔力回路に作用するブースト石の素材を特定できれば、そこから手がかりをつかめるかもしれませんね。となると……、一旦解散しましょう。私は警察庁に戻って、専門部署に問い合わせをします。皆さんは、明日の朝イチに警察庁にある秘書室へ来てもらえますか?」


 コンセルさんの的確な指示に俺たち全員は首を縦に振る。

 それを確認したコンセルさんは、足早に去っていってしまった。


「私たちはどうする?」


 コンセルさんの背中をやや厳しい視線で見送った火乃花は、振り返ると俺たちにそんな問い掛けをした。

 それって、つまりコンセルさんを信用して、コンセルさん主導での調査を継続するか。って事だよね。


「あの…私ね、工場の見学をしていてちょっと不思議だったの。」

「どんな所が不思議だったのかしら。」

「えっと、企業秘密とか言ってた割には、見たいって言った所は全部見せてくれたなって。何ていうか…隠す必要あるのかな?って思うくらいにオープンだったと思うんだ。」

「それ、俺も思った。どこをどう見てもブースト石の秘密は分からないっていう自信を感じたかも。」


 クレアに共感した遼は隣で頷きながら自分の意見を話す。

 更にルーチェも同じ感覚だったらしい。


「私も同感ですの。なんていうか…隠していないからこそ、見つけられない。という感覚がありますの。」


 なるほどね。隠されたら良く調べるっていう心理を利用した、隠さない先方による隠匿か。高等テクすぎるだろ。

 でも、そう考えると俺達が見学した各所のどこかに秘密があるって事なのかも。


 そうすると…。


「なぁ、俺から提案があるんだけど、良いかな?」

「あら、龍人君が積極的に提案するとか珍しいじゃない。」

「え、そうか?」

「いつも場の状況を静観しつつ、必要なポイントだけ話してるじゃない。」


 …え、そうなのか。全然自覚なかった。

 てか、そうだとしたら今回も同じタイミングでの発言だと思うんだけどな。まぁ…いいか。


「まぁ、そんな時もあるって事で。んで、俺の提案なんだけど…。」


 この後、俺の提案に対する皆の意見がドバドバ出て、それをまとめたりするのに時間を要したのは言うまでもない。


 けど…作戦は立った。これで俺たちの目的に少しは近づける筈だ。


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