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5-54.選抜試験終了後

 魔導師団選抜試験が全て終わり、医務室での治療を終えた俺達を出迎えたのは警察官の一団だった。

 リーダーみたいな警察官は俺達の「何事?」という視線を受けると、咳払いをして口を開く。


「えー皆様が隔離されている1週間…というか本日の事件でで魔法街の情勢が大きく変わっていまして…。其々の地区まで我々が護衛を致します。」


 大学の教室みたいに広い部屋へ集められた魔導師団候補の俺達は、その説明に首を傾げてしまう。

 だってさ、情勢が変わったって言うけど、何の情勢だよ?ってな訳ですよ。

 俺達の表情から疑問を感じ取ったのか、その警察官は困ったように鼻の頭を掻いた。


「何から説明しましょうか…。」

「貴方からは説明を憚られる内容もあるでしょう。私が話します。」


 そう言って割り込むように部屋へ入ってたのは…あ、コンセルさんだ。いつも通りスマートな装いだけど…心無しか表情が疲れているように見える。

 最初に話していた警察官へ頷き、俺達の前に立ったコンセルさんは静かに、それでいて芯のある声で話し始めた。


「これから話す事は未公表事案です。とは言っても、明日には公表される話ですが。…さて、端的にお伝えすると、警察庁長官が暗殺されました。」


 部屋の中が一瞬でどよめく。選抜試験参加の俺達は当然の事、魔導推進庁の職員、ロア長官も顎に手を当てて思案顔になっていた。

 何よりも驚愕!な顔をしているのは、最初に説明しようとしていた警察官だね。「嘘でしょ!?言っちゃうの!?」という言葉が聞こえてきそうな程に目と口を限界までかっ開いている。いや、限界突破してるな。顎…外れてるだろ。

 それにしても、コンセルさんの話した内容は穏やかじゃなさ過ぎる。警察庁長官暗殺とか、国家の一大事でしょ。

 警察庁長官って言うくらいなんだから、それなりの実力はあるはずだ。警備も厳重な筈。そんな人物が暗殺されるとか異常事態。暗殺した奴は相当な手練れだろ。…もしかして、その暗殺者が逃亡中で俺達に確保を要請すんのか?…すっげー嫌なんだが。


「暗殺者は魔力暴走者で、鎮圧後に魔力欠乏で死亡。主犯が該当人物かどうかは不明です。」


 どうやら暗殺者確保。って話ではないらしい。ちょっと安心。

 でも魔力暴走者か…。火乃花とデート?をした時に電撃を撃ちまくっていた男みたいな感じかな。

 あの男も絶叫しながら魔力暴走って感じだったもんな。でも、あんな風になった人が警察庁長官を暗殺っていうのは…ちょっと想像出来ない。


「問題はここからです。同様の魔力暴走事件が魔法街全体で10件以上発生しています。全て本日。同じくらいの時間帯に。」

「コンセル。何が言いたいのかな?」


 至極冷静な声で問うのはロア長官。口元に手を当てて何かを考え込んでいるのか表情はよく分からないけど…ちょっと怒ってないか?


「ロア長官。前置きが長くなってしまい、申し訳ありません。今話した事件によって魔法使いの危険性について世論が激化しています。結局魔力が強い者が、弱者を虐げるのかという平等派の主張と、強き者が万人を守るべきという至上派の対立が急速に悪化しています。魔道師団候補生である皆さんは、至上派の手先として狙われる可能性が高い状況です。」

「どうして私達が至上派の手先なのよ。」

「魔導師団という存在が至上派と平等派のどちら側として認識されやすいのか…は想像に難くないのでは?と思います。…火乃花さんなら他の事情も含めてお分かりになるかと。」


 言外に「霧崎長官の娘だろう?」と言われた火乃花は憮然とした表情になる。


「魔導師団の候補生をからかうのはご遠慮願いたい。」

「……これは失礼しました。」

「それで、外の状況はどうなっているのかな。護衛が付く必要が無い程度には、候補生達の実力はあると思うが。」

「予断を許さない状況です。各区のスタンスに合わせて対立が激しくなっています。このままでは一両日中には武力衝突へ発展する可能性も否めません。」


 各区のスタンス?

 俺が首を傾げていると、隣のクレアが耳打ちしてくれる。


「えっとね、南区は平等派寄りで、北区は至上派寄り、東区は中立っていうスタンスがあるんだよ。前に授業で聞かなかったっけ?」

「あったような…無かったような。」

「もう…。でも私が言ったので多分合ってると思うよ。」

「サンキュ。」


 コンセルさんはロア長官が特に口を挟まないのを確認すると、前髪を掻き上げつつ説明を再開する。


「そういう訳ですから、私共が護衛に就く事は了承頂きたく思っています。」


 俺たちに向かって軽く頭を下げると、コンセルさんは表情を厳しいものに改める。


「あとこの話は言うべきか微妙ではあるのですが…魔力暴走の原因がブースト石にあると警察は睨んでいます。周囲への聞き込みからブースト石使用が全員の共通項として上がっています。不思議なのが、全員が使用条件を守っていたはず。という事ですね。要因は定かではありませんが、ブースト石が原因で間違いないとなると…色々と面倒な事になります。皆様の中で、もしブースト石を使っている方がいらっしゃいましたら、使用は控えていただいた方が良いかと思います。」

「ふむ。魔法街お抱えの魔導師団が魔力暴走の原因となるブースト石を使っていたとなると、悪評へ繋がる可能性は高そうか。」


 ロア長官は納得したのか小さく頷くと、候補生の俺達へ視線を向けた。


「まぁそういう話みたいだ。一旦は各区へ帰り、状況を見守ってもらいたい。今回の選考結果については追って連絡をいれよう。それでは。」


 そう言うとスタスタと歩いて部屋から出て行ってしまった。

 …なんだろう。魔力暴走者の話を聞いても、全然動揺とかしている雰囲気が無かった。魔導推進庁長官にもなると、ちょっとの事じゃぁ動じないのかね。


「では皆さん、各地区まで我々がお送りします。」


 こうして俺達は警察官に護衛をしてもらいながら各地区毎に分かれて帰ることになったのだった。

 因みに、中央区は…静かだった。

 いつもなら大勢の人が買い物とかで通りを歩いているのに、今日はまばら。途中建物が大きく崩壊している現場もあった。きっと魔力暴走者による破壊…なのかな。

 通り過ぎる人達全員が俺たちに向けて「危険分子発見」みたいな目線を送ってくる。警戒、畏怖、そこに込められている感情は様々だったように思う。


 南区についた俺達は警察官に礼を言うと、街立魔法学院へ向かった。



 そして、学院で待っていたヘヴィー学院長が俺達に伝えたのは「中央区への移動禁止」「他学院との交流禁止」という…いかにも閉鎖的な指示だった。



 そこから数日。

 俺達は「見かけ上は」普通の生活を送っていた。

 朝起きて朝食を食べて、教室に移動をして従業を受けて、昼食を食べて、午後の実技授業でラルフ先生に厳しく指導されて…といういつも通りの生活だ。

 ただ、世の中はそうでもない。

 まず、魔導師団選抜試験が終わった翌日に警察庁長官死亡の報道がされた。「魔力暴走者鎮圧時に巻き込まれて死亡」ってなっていたから、暗殺は伏せたんだろうね。暗殺だとインパクトが死亡の何倍にも膨れ上がるし。

 そして、1番混乱を招いたのが「魔力暴走の原因はブースト石」っていう噂が一気に広まった事だ。

 こうなると手が付けられない。どこに行っても「ブースト石」についての話題が聞こえて来る。

 話題のメインは「誰がブースト石を流通させているのか」という内容だ。魔力暴走者はあくまでも被害者。ブースト石販売者や開発者に責任がある。という論調が非常に強い。

 なんつーか…罪の擦り付けあいみたいになってんだよなー。


 至上派が強き魔法使いが主導しないと有事に魔法街を守る事が出来ない…と見せしめるためにやっている。とか。

 平等派が力を追い求めすぎる至上派の理念は災害を引き起こすだけ…と知らしめるためにやっている。とか。

 正直言って、言いがかりも甚だしい!…とは思うんだけど、魔力暴走者によって多数の死傷者が出ている現状では、感情先行の論調が受け入れられている状態みたいだ。


 ラルフ先生に「魔力暴走の原因調査」「ブースト石の真相」について調査すべきでは!?と、持ちかけたんだけど…見事に断られた。

 ブースト石にせよ、魔力暴走にせよ、誰かが裏で意図的に引き起こしているとしたら…それを魔法街全体規模で出来る奴ら相手に魔法学院生がどうこう出来る問題ではないんだとか。

 中央区への移動も制限されているみたいだし…。世の中が混乱の様相を呈しているのに、俺達は変わらない日常を過ごしているってのは、ちょっと違和感があるんだよなー。

 まぁ俺1人が動いた所で、何が出来るって訳じゃないのは分かるけど。


 そんなこんなで1週間位の期間をこれまで通り過ごした後…。

 事態は急展開を迎える。


 その始まりは、火乃花からの呼び出しだった。

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