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5−53.ロア長官との戦い3

 冷や汗が滴り落ちる。

 俺の周りには燃え盛るコンテナや、氷漬けになったコンテナが散乱している。

 更に、至る所が爆発に晒されて破壊されていた。まるで戦場の跡地であるかのような光景だ。

 これらを引き起こしたのは、俺達の視線の先で悠然と立つロア長官。左目の眼帯と相まって、悪役感が半端ないのは気のせいではないはず。


「さぁて、良く耐えている。次の攻撃はどうだろうか。」


 ロア長官は…とても楽しそうだ。

 俺?…楽しい訳がない。毎回放たれる攻撃が俺達の必殺攻撃以上の威力があるんだもんよ。普通に何回か死にそうになった気がする。

 炎剣と氷剣。其々の威力も高いのに、氷と炎を使って水蒸気爆発を連鎖させるロア長官は…鬼だ。普通に考えて難易度が高いはずの元素反応なのに、息をするように水蒸気爆発を起こしまくるんだよね。

 いや、もうね、広範囲の爆発に、近距離遠距離を問わない魔法やら斬撃と…強すぎる。

 セフと対峙した時の事を思い出す強さだ。勝てるビジョンが全く見えない感覚。てゆーか、勝てるどころか負けないビジョンも見えない。逃げられる気がしない。今は攻撃をなんとか耐えているけど、それも…恐らくはロア長官が遊んでいるから。

 でも、ポジティブに考えるのなら「本気」ではない今が唯一のチャンスかもしれない。

 多分、ロア長官は俺達の「実力を試している」んだろう。それなら、そこに生じる油断を狙えば…狙えるのか?


「龍人君、そろそろ…魔力が厳しいかも。」

「だよね。俺もこのままだと魔力切れになるよ。」


 クレアはこれまで防御と治癒魔法の行使に専念してくれていた。だからこそ、ロア長官の異常な攻撃に耐えられたっていうのもある。

 けど、このままなら負けるのは必至。だって、全く攻撃が通じてないんだもんな。


「クレア、前にちょっと練習したアレ…いけるか?」

「う、うん。でも通じない気がするよ。」

「大丈夫。俺が攻めるから、後ろから飛び出してやってみて。その後は俺が仕掛けるから。…多分これが最後のチャンスだと思う。魔力的にもね。」

「……分かったよ。頑張るね。」

「おうよ。」


 プラムと天二の姿が見えないから、全員で連携は取れないけど…やれる事はやるしかない。特に、練習した俺のアレならロア長官に通じる可能性はある。


「…いくぞ。」

「うん!」


 同時に動き出した俺とクレアを見たロア長官が笑う。


「ははっ!この状況で向かってくるとは、無謀だな。」


 ロア長官が持つ2つの剣から発せられる熱気と冷気が爆発的に増大する。


「これで吹き飛べ!」


 そう言って放たれたのは、炎剣と氷剣を前方に向けて爆発させた範囲攻撃。

 …マジかよ。剣術系で迎え撃ってくると思ったのに、魔法系の迎撃か。

 魔法剣が物理も魔法も自由自在なのは、本当に厄介だ。次の攻撃がどちらで来るのかが全く読めない。


「…だ、大丈夫!」


 全然大丈夫じゃなさそうなレベルで顔が引き攣っているクレアは、構えを取ると短く叫んだ。


「飛脚【斬】!!」


 クレアは舞闘術の様にクルっと回転すると、ブゥンっと空気を切り裂く音を響かせながら回転蹴りを放った。

 その脚から放たれるのは…魔力の斬撃。


「…デカっ!?」


 クレアのスキルを見た俺は思わず叫んでしまう。俺が想像していた以上に魔力の斬撃が大きい。でも、これならロア長官が放った魔法に対抗出来る可能性が高い。

 それなら…!

 ダン!と強く地面を蹴ってクレアが放った斬撃を追従する。


「らぁぁぁ!」


 そして、クレアの斬撃と十字を結ぶように龍劔術【黒刀】の斬撃を放った。

 2つの斬撃は炎と氷の暴力と衝突し、鬩ぎ合う。

 いや…ロア長官が放った魔法の方が強い!


「けど…まだだ!!」


 龍刀を後ろに引き、体の軸を中心に脚から腰へと捻りが生み出す遠心力を刀身に乗せ、龍劔術【黒刀】で使用していた龍魔力を龍刀の先端へ集中させる。


「……!!きた!!」


 思わず顔に笑みが浮かぶ。このタイミングでスキルを習得出来るとは思わなかった。

 やっぱり強敵との戦いってのは、成長になるんだね。


「龍劔術【牙突閃】!!」


 龍劔の突き出しに合わせて龍魔力の刃による刺突が彗星の如く飛翔する。

 それは俺とクレアが放った十字の斬撃中心に突き刺さり、ロア長官が放った魔法の中心を突き破っていく。


「道が出来た…!」


 俺達の目的はロア長官の攻撃を防ぐ事。なんかじゃない。ロア長官に勝つ。それが目的だ。

 そして、今その道が出来た。


「うおぉぉぉぉ!!」


 俺は気合いを叫びながら、龍劔術【牙突閃】が開けた爆炎と爆氷の穴へ突っ込んだ。

 全身を覆う龍魔力の密度を強化し、魔法を防ぎつつ一気に抜ける。

 爆炎と爆氷の先。そこには驚いた様子のロア長官が立っていた。


「やるな…!想定以上だ!」


 ロア長官の両手には再び炎剣と氷剣が出現し、俺に向けて連続した斬撃を放ってくる。


「負ける…もんか!!」


 俺の黒い2つの斬撃とロア長官の赤と薄青の斬撃が、連続で花火を咲かせていく。

 Colony Worldの時みたいに連撃の剣技をスキルで使えたら良いんだけど、無いものはしょうがない。気合いで双刀と双剣の応酬を繰り広げていく。

 右からの斬り上げ、左からの薙ぎ払いを放ったタイミングで…拮抗が崩れた。

 ロア長官は俺の双刀が交わる瞬間に、その接点へ炎剣を滑り込ませて爆発させたんだ。

 至近距離での爆発に剣を弾かれ、大きく仰反った俺へ爆炎が叩きつけられる。


「ははは!良い!しかし、これで終わりにしよう!」


 ロア長官の右手に極大の炎塊が出現する。


「はっ。負けないさ。」

「…なに?」


 爆炎を受けても吹き飛ばず、しかも平然と言葉を話した俺にロア長官の眉が顰められる。

 そりゃそうさ。ロア長官が魔法剣をいつでも爆発できるように、俺も魔法陣をいつでも展開出来るんだからな。

 爆炎が叩きつけられる直前に魔法障壁を展開して防いだんだ。

 そして、今…俺は1人じゃない。


「…龍人ナイス。」


 ロア長官の後ろに忽然と姿を現したのは天二だ。両手には煌々と光る一対の短剣が握られている。


「…これで、決める。」


 天二が駆ける。

 俺も、俺も負けない。ここで引かない。ロア長官っていう強敵を乗り越えて強くなってやる。

 今、この場で出来る最効率の攻撃。


「うらぁぁぁ!!」


 キィィィン。

 と、また新たなスキル名が天啓の様に頭に浮かぶ。

 俺は、躊躇いなくそのスキル名を唱えた。過去にColony Worldで使っていた、馴染みある技を。


「龍劔術【破爪斬】!」


 龍刀と夢幻其々の刀身左右に2本ずつ、合計で8本の龍魔力による魔力刃が出現する。

 まさしく龍の爪。

 俺はそれを携え、ロア長官へと肉薄した。


「くらえぇぇ!!」


 俺が放った黒の斬撃と、天二が繰り出した光の斬撃がロア長官を中心に交差する。

 対照色の2つの斬撃は混じり合い、内包する破壊力を余す事なく発揮。

 一瞬、音が消え…眩い光が空間を埋め尽くす。


「……やるな。これ程の力を持っているとは。」


 俺と天二の攻撃が収まった後には、ボロボロの服を纏った…ほぼ無傷のロア長官が立っていた。


「今の攻撃を防いだのか…。」

「……化け物。」


 片膝をついた天二は辛そうに肩で息をしている。あれはきっと魔力切れだ。

 つっても、そういう俺も魔力が殆ど残っていない。

 頼みの綱はクレアとプラム。いや、クレアも魔力が厳しいんだっけ。となると、プラムが最後にどう仕掛けてくれるかがポイントになるぞ。


「よし。これで試験は終了だ。」


 …え?

 満足そうに微笑んだロア長官は、肩をトントンと叩く。


「そろそろ魔力も限界だろう。ギリギリまで追い詰められた際の行動も見れた。こんなものだな。」


 ギリギリまで追い詰めたって事は、まだまだ余力があったのか。……実力差を感じる。

 でも、普通に魔法街で生活をしていたら出来なかった体験が出来たのは間違いない。新しいスキルを2つも習得出来たし。


 あっさりと終わりを告げられた選抜試験に、やや拍子抜けを感じていた時だった。

 事件が起きる。


「今なのよ!!!」


 物陰から勢いよく飛び出してきたのは、プラム。

 手に持つムーンフラワーロッドが恐ろしく眩いばかりに輝いている。


「あ、プラムもうおわ…」

「全力でいくわ!!光花燐【落花】!!!」


 俺が制止する間も無く、爛々と瞳を輝かせるプラムはまさかのスキルを発動してしまう。

 ムーンフラワーロッドから光が倉庫の天井を突き破って天へ昇る。

 そして、巨大な光の花が隕石の如く落下してきた。


「これは…なんと大胆な魔法。」


 試験終了後に攻撃をしてくるという、完全にタイミングを間違ったプラムの攻撃にも、ロア長官は至って冷静だった。


「まぁ、試験が終わった訳だから…対処する理由はないか。」


 そして、冷酷だった。なんと、その場から一瞬で退避したんだ。

 後に残されたのは、プラムの仲間である俺たちだけ。


 この後、どんな惨劇が引き起こされたのかは…想像に難くないだろうな。

 魔力切れ寸前の俺達が医務室送りになったのも当然の事。

 全てが終わり、自分が引き起こした事態を把握したプラムが、顎が外れたか?って位の驚愕な表情を浮かべていたのも…ある意味では面白かったのかも知れない。


 まぁ、そんな訳で…1ヶ月間に及ぶ魔導師団選抜試験はめでたく全行程を終了したのだった。

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