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5-51.ロア長官との戦い2

 倉庫内に置かれた…ひしゃげたコンテナの間を駆け抜けていく。そのほとんどがロア長官が放った炎弾によるものだ。

 広範囲攻撃でこの威力とか…反則だろ。

 右手に握る龍刀には6つの魔法陣を常駐させてある。近付いたら容赦なく攻撃されそうだからね。ここまでの強敵だとコンマ数秒が生死の分かれ目になりそうだから、可能な限りの備えは必要だ。

 ……っと、50メートルほど先で炎柱が上がり、上空で無数の炎矢に変形して……俺に向かってきた!?

 もう接近を勘づかれたのか!


「…突っ込むか。」


 一瞬迷ったけど、俺は攻める選択をした。

 理由は単純。逃げても攻めても攻撃の密度に変わりが無い気がしたからだ。

 龍刀に魔力を纏わせて炎矢を弾きつつ、魔法壁を連続展開しながら炎柱が上がった地点を目指す。


「……いた!」


 瓦礫の隙間から見えたのは間違いなくロア長官の後ろ姿だった。

 牽制で魔法を撃ち込みつつ接近すれば…!

 魔法陣を直列励起で展開…


「遅いな。」


 いきなりだった。ロア長官が俺の真正面に現れる。まるで最初からそこに居たかのように。何の前触れもなく。


「さて、お前はどこまで耐えられるか。」


 楽しそうに、そんな言葉を紡いだロア長官の右手に炎が収束して剣を形作る。


「はぁぁっ!」


 気合一閃。空気の壁を割るように、光の如き速度で炎の斬撃が龍刀に叩きつけられる。

 …危ねぇ!一歩間違ってたら胴体2分割だったぞ!?

 ロア長官の剣技は凄まじく…俺は辛うじて受けながら、少しずつ押されていった。

 軸足を中心に踊るような動きで放たれる斬撃にバランスを崩した所へ、炎剣の切先が下から滑るように伸びてくる。


「ぐっ…!」


 ギリギリのタイミングで龍刀を炎剣の軌道に滑り込ませて防ぐが、その威力に撥ね上げられてしまった。

 …ヤバイ。胴体がら空き。


「まだまだ。こんな程度の実力じゃないだろう?」


 ロア長官は胴体がら空きポーズの俺に対し、炎剣での追撃を選択しない。

 代わりに剣を持つのと反対側の手を俺に向け…ドンっ!と魔力の塊をぶつけてきた。

 鳩尾にめり込んだ魔力の塊に肺の空気を吐き出させられる。ギリギリと身体が軋み、口が酸素を求めてパクパクと開く。

 けれども、それでも…ロア長官は止まらなかった。

 気づいた時には後ろ回し蹴りの踵が脇腹に突き刺さり、吹き飛ばされていた。

 幾つかの廃材を弾き飛ばし、大型コンテナに叩きつけられる。


「………強過ぎだろ。」


 衝突の瞬間に龍魔力を使って衝撃を和らげたけど…それでも全身が痛い。


「さて、この程度の実力であれば魔導師団に相応しくない。終わらせてもらおうか。」


 ロア長官は炎剣を消すと、両手に特大の炎を灯す。

 あーこれはヤバイ。

 炎の渦が…放たれた。

 ダメだ。さっきの衝撃で魔法陣の展開が遅れ…


「………真打ち登場。」


 厨二病みたいな台詞を言いながら炎の渦の前に立ったのは…天二だった。

 両手から光の奔流を放って炎の渦を堰き止める。


「天二…サンキュー。」

「……動きが異常。2人で攻める。」


 天二の両手に短剣が現れる。

 そういえば天二って武器は近距離だったっけ。あまり使わないから普通に忘れてた。短剣二刀流か。

 よし。俺もやりますか。ちなみとプラムが倒されていないか心配だけど、そこを気に掛ける余裕は持てなさそうだしな。

 魔法陣から夢幻を取り出した俺は、攻めに転じるスキル名を唱える。


「龍劔術【黒刀】!」


 龍魔力…赤い稲妻を纏った黒い魔力が2つの刀を覆う。

 よし、これで……!?


「危ねぇ!」


 天二の上に向けて黒い魔力の刃を飛ばし、更に接近。龍刀を水平に薙ぐ。

 ギィィィン!

 甲高い音を立てて受け止められた龍刀の先には、楽しそうに笑うロア長官がいた。

 やっぱり動き方が異常だ。

 自分の放っている魔法が消え切る前に、その魔法の放出先に現れるとか…転移魔法でも使ってるのか?でも、転移魔法を発動している様子は無い。

 この動きの謎を解明しないと勝てない気がすんな。


「……負けない!」


 コマみたい回転をしながら、天二が短剣による襲撃を放った。横からの完全な不意打ち。

 ギィィィン!

 そして、再び響いたのは剣と剣がぶつかり合う音だった。


「中々良い連携だ。バランスが悪い組み合わせだと思っていたが、案外そうでもないのか?」


 左手に持つ氷剣で天二の短剣を難無く止めたロア長官は、楽しそうに笑う。


「ファーストステップは合格だ。次、いってみようか。」


 炎剣と氷剣が光り、爆ぜる。


「うわっ!?」

「……巧み。」


 吹き飛ばされた天二と俺はロア長官を中心に、それぞれ反対側へ着地した。


「さて、セカンドステップは属性剣の妙技に耐えられるかを確認する。」


 ロア長官の両手に炎が渦巻き、剣の形を成した。そして、剣を持つ両手を交差から開き、ほぼ全方位に向けて炎の斬撃が放たれる。避け…られない!?


「龍劔術【黒刀-水纏】!」


 刀に纏う龍魔力が水属性効果を持ったものに変化する。

 これで…!

 2刀を揃えて斬り下ろす。


「ぐ………!らぁぁああ!!」


 押し切られそうだったけど、気合いで魔力密度を強化して炎の斬撃を弾く事に成功した。

 そして…。


「止まって…られるか!!」


 ロア長官は向けて走る。いくつかの斬撃が飛んでくるけど、正面からぶつかるのではなく斬撃の軌道をズラしながら突き進む。相手は強敵。余裕感を与えずに、少しずつ追い込んでいかなきゃ駄目だ。


「素晴らしい!ならこれはどうかな!?」


 炎剣が分裂し…小型の炎剣群となって放たれる。


「んなもんで…止まるかぁ!」


 魔法陣直列励起で炎矢を連射して小型炎剣を相殺しつつ、炎剣群にぶつかる直前で左脚で急停止を掛ける。更に泊まろうとする慣性の力を軸足の回転に乗せ、高速スピンへ…その遠心力を龍刀へ伝えて龍魔力を斬撃として放った。

 ただ斬撃として放っただけではない。斬撃の軌道を軸に放射状に魔力を放出。

 小型炎剣群は俺の斬撃で数を減らしたけど、流石に全部は撃墜出来ないか。

 なら…龍刀を後ろに引き、龍魔力を集中させた状態で刺突を放つ。合わせて前へ飛び出した。

 龍刀の切先を中心に三角錐の形で龍魔力が展開される。

 小型炎剣群はこの龍魔力によって軌道をズラされ、俺はその中心を突き進んでいく。

 そして、剣の嵐を抜けた先にロア長官はいた。楽しそうに笑いながら。


「素晴らしい!この攻撃を抜けてくるとは!次、いくぞ!」


 パァン!とロア長官の両手が輝き、氷剣が握られる。

 …なんだよその魔法剣の切り替え速度。

 氷剣が俺に向けて踊り狂う。上下左右からの斬撃と、それに追従して飛翔する小さい氷刃が襲いかかってきた。

 あれ?ちょっとヤバいかも。


「そう簡単にやらせないのよ!」


 飛び出してきたのは、白と薄紫のドレスを着た可憐なお嬢様?のプラムだ。

 先端に紫色の花を設えた杖…ムーンフラワーロッドを振り、光の奔流を氷刃群と俺の間に滑り込ませる。

 …!?鼻先掠ったぞ!?


「ほぅ。先程の攻撃でダウンしなかったか。」


 援軍のプラムが現れてもロア長官は動揺した様子は全くなく、冷静に氷弾を連射してくる。


「そんな子供騙しの攻撃じゃぁ私は負けないのよ。」


 ムーンフラワーロッドが光り輝き、光球が無数に出現して氷弾を撃墜していく。


「プラム、助かった…!」

「いいのよ。それよりも、どうやって倒すかを考える必要があるわ。」


 真剣な顔で打開策を探るプラムの顔は…何故かとても楽しそうだった。

 あぁ…そういえばプラムってバトルジャンキー系だったっけ。森林街でもプラムに付き合わされて沢山の警護団メンバーが疲弊してたっけ。つまり、今のプラムは動けなくなるまで戦い続けるモードのスイッチが入っている訳か。

 …うん。ちょっとやだなぁ。


「龍人君!合わせて!」

「へっ!?」


 プラムは何をするのかも言わずに「合わせろ」とひと言だけ言うと、ムーンフラワーロッドを上に掲げる。

 え、何すんのよ。…もしかして、アレをやんのか?

 プラムはニィィっといういかにも「戦いが好きだぜ!やめられないぜ!」みたいな笑みを浮かべると、高らかにスキル名を宣言した。


「いくのよ!光花憐【花吹雪】!」


 龍刀と夢幻の先に魔法陣を直列励起展開しながら、プラムのスキルを若干引き気味に観察する。この魔法、下手すると巻き込まれるんだよね。

 フラワーロッドの先端から光の花びらがズゾゾゾゾゾゾォォォォォォっと噴き上がり、プラムの上に広がっていく。


「消滅して!」


 おい、その台詞悪役っぽいからな?

 けど、その言葉通りに無数の光花弁がまさしく花吹雪のようにロア長官へ襲い掛かる。


「…フレンドリーファイヤー。」


 奇襲を掛けようとしていた天二が、ロア長官の後ろで慌てて回避行動に移っていた。うん。その判断は大正解だ。


「これはこれは…。」


 そして、ロア長官もプラムの光花憐【花吹雪】が秘める威力の高さに気付いたのか、攻撃から防御行動に移っていた。

 ロア長官を中心に全方位方の魔法障壁が展開されている。


「…ここだ。」


 光花弁の吹雪がロア長官を魔法障壁ごと飲み込んでいく。

 普通に考えたら一発KOの攻撃だけど、きっと…ロア長官は耐え切る。確証はないけど、そうだと信じさせるレベルの力は持っている筈。

 でだ。防御行動に移った今この瞬間がチャンスになる。


 左手に持つ夢幻を前に突き出す。切先には魔法陣が直列励起状態でスタンバイ中。

 そして、後ろに引いた龍刀を渾身の力で突き出した。

 龍刀の先端に展開された直列励起状態の魔法陣と、夢幻の先端にあるそれが重なる。


「くらえぇぇ!!」


 2つの直列励起魔法陣が重なった瞬間、それらを同時に発動する。

 魔法陣が顕現するのは属性【雷】。直列励起を重ねた事で威力が乗算された雷が龍刀の刀身を覆う。

 更に、それらの雷を龍刀が纏い、雷は刀の形を成した。

 この雷の刃を光花弁に覆われ続けているロア長官を狙い、突き出した。

 名付けて…雷刀絶破!いや、中二病全開か?

 雷の刃は光花弁の中に吸い込まれていき、その中にある魔法障壁へと突き刺さり…。


 パリィィィン


 と、甲高い音を立てて突き破る。

 そして、その中にいるロア長官へ…突き刺さる。


 筈だった。


「なっ…!?いない…!?」


 魔法障壁の中には誰も居なかった。いやいや、あのタイミングでどうやっていなくなれるんだよ。ラルフ先生みたいに次元魔法とか、空間魔法とかの転移魔法系が使えるなら分かるけど…。


「どこにいきやがった!?」

「龍人君危ない!!」


 聞こえたのはクレアの声。

 パァン!という音が後ろで響く。即座に後ろを見ると、クレアの拳を片手で受け止めたロア長官が楽しそうな表情で立っていた。


「粘るじゃないか。それも、俺に防御行動を取らせて…それを突き破るとは。」


 いやいや、その防御をしていた場所にいなかっただろ。


「さて、面白くなってきた。それでは、最終試験といこうか。2つの魔法属性が引き起こす属性反応の嵐に耐え切れるかな?」


 クレアをブン!と俺に向かって投げつけたロア長官の雰囲気が、これまでの楽しげなものから…冷たいそれに変わる。


「きゃっ!?」

「大丈夫かクレア?」

「う、うん。ありがと。でも…ロア長官のアレ………。」

「…あぁ。やばいな」


 俺達の視線の先には、炎剣と氷剣を持ち、其々の属性剣の周りに同属性の粒子を放出するロア長官の姿があった。


 …ラスボスみたいになってますけどね?

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