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5-50.ロア長官との戦い

 11月の第4週。

 魔導師団選抜試験4週目が行われる魔導推進庁のトレーニングエリアは、ピリピリ…ビリビリ?とした緊張感に包まれていた。

 ここまでピリついた事は魔導推進庁の歴史上無かったんじゃないかなー。と思うレベルだ。

 トレーニングエリア中央に立つのはロア長官。

 ついさっきまでは和やかな笑顔で立っていて、俺たちの間にも同様の雰囲気が漂っていた。

 そして…今も和やかな笑顔で立つロア長官の足元には、放射状の亀裂が入っている。攻撃魔法を床に叩きつけたとか、魔具を床に叩きつけたとか…そんなんだったら良かったんだけど。そんなレベルじゃない。

 ただ「はぁっ!」気合を入れただけ。それだけで床に亀裂が入った。

 そして、ひと言。


「さて、君達の実力を試させてもらおうか。油断すれば…死ぬぞ?」


 それは、どんな脅し文句よりも怖い言葉だった。

 強い。確実に強い。

 そして、ロア長官との戦いからは逃れられないという事実。

 俺を含めて全員が「どうやって戦えば良いのか」を考えているに違いない。

 だってさ、気合いだけで亀裂が入るんだよ?魔法使ったらどうなっちゃうんだよ。

 使う属性魔法も分からないし、武器も分からないし…初見殺し感半端無い。

 最初に戦うチームは可哀想だ。全くの初見だからね。出来れば後ろの方の順番で戦いたい。


 嘗て無い緊張感の中で、戸惑った様子の審判係(なんと今回はキャンギャル風衣裳&ボンキュッボン!スタイル)が、恐る恐る場の仕切りを開始した。


「え…ええっと、事前にお伝えしている通り、本日から1週間掛けてロア長官との戦闘を行なって頂きます。試験参加者は4人1組のパーティに分かれていただき、順番に戦っていただきます。尚、チームメンバーは戦う直前に発表。試験以外の時間は他者とのコンタクトを禁止します。魔法学院の授業は座学のみ遠隔受講です。」


 ……徹底しすぎじゃね?

 俺達の反応を見たロア長官は馬鹿にした顔で「フッ」と笑う。


「分かってなさそうだから趣旨を説明する。いきなり放り出された場所で、共通の敵に対してどう戦うのか。を見させてもらう。そして、その敵が強敵だった場合にどう行動するのかもな。更に、その敵に対する予備知識はゼロ。戦いながらどう相手を分析するのかも重要だろう。魔導師団として活動する以上、他星での活動も想定される。つまり、他星の奴らと共に戦う場面も可能性は高い。説明は以上。全員隔離部屋へ移動してもらう。」


 隔離部屋って…嫌な表現だな。でも、ロア長官が言っていた趣旨は理解出来る。

 なんつーか、魔導師団選抜試験は常に柔軟性を見られている感じだな。

 事前にロア長官の戦いを見れなくなったのも、誰とチームを組むのか分からないのもハードな設定だよねぇ。

 それに魔法学院の座学は遠隔で受けるとか…リモートかい!と思わず突っ込みたくなってしまった。


「はい。それでは皆様ご移動をお願いします。」


 キャンギャル風審判係の誘導で移動を開始する。

 

 こうして移動した先の部屋は…ビジネスホテルの一室って感じだった。

 ワンルームタイプで風呂トイレ完備。ベッドは中々にフワフワしている。

 窓際のハンガーには「戦闘試験迄はこの服を着用する事。そうしないと試験時に臭い服で戦う事になります。」と書いた紙が貼られたジャージみたいなものが置かれていた。

 成る程ね。つまり、金曜日迄この場に居ろって事か。風呂場横の籠には丁寧に下着まで置いてあるし。

 なになに…使用済みの服は玄関横の棚最上段に置く。毎朝転送魔法で古い服は回収し、新しい服を下段に転送する。…とな。

 ある意味魔法を使ったハイテク仕様だな!

 芸能人のお忍び旅行みたいで楽しいかも。




 …なんて思ってたんだけど、月曜日、火曜日、水曜日はロア長官との戦闘試験に呼ばれる事はなく、午前中の座学を遠隔で受けて午後は自由時間という名の暇タイムだった。

 そして木曜日の午後。遂に…。


「暇だー!無理だ!」


 退屈の限界を迎えてしまった。

 いやいや、流石に無理だろ。まじでやる事無いんだもんよ。魔法の練習をする部屋があるとか、ゲームがあるなら時間は潰せるけどさ。なーんも無いんだもん。暇オブザ暇よ。

 地球でColony Worldで遊んでいたみたいにワールドチェンジャーでもあれば、1ヶ月くらいだったら余裕で過ごせるのに。あの時は暇さえ見つければログインして、スキル習得とかに励んでたよなー。

 ……ん?そう言えば、Colony Worldで遊んでいた時って……。


「俺なら出来るかも…。」


 Colony Worldでやっていた、システムを活用した小技を思い出した。普通に考えたら難しいけど…ちょっと練習してみようかな。

 ダラーんと寝転がっていたベッドから飛び起きる。

 やる事がない時にやる事を見つけると、やる気が沸き上がってくるね!


「よしっ。大事なのは連続展開と…速度か。」


 腕をグルグル回して肩をほぐしつつイメージを膨らませる。両手を上げ、手の先に魔法陣を展開し…練習を開始した。


 1時間後。


 見事に小技を習得した俺は、ホクホク顔でベッドに寝転がる。そして…気づいてしまった。


「また暇になった…。」


 ちゃんちゃんっ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 金曜日。

 …試験に呼ばれる事なく最終日になってしまった。実はドッキリパターンで、呼ばれないって事はない…よな?ロア長官ならやりそうだけど。

 中々呼ばれないっていう焦ったい環境の名でどれだけ冷静に過ごせるのか。なんていう性格の悪い観察をされていたら、「アイツ落ち着きないな。」って思われる事間違いなしなんだが。

 午前中は変わらず遠隔で座学を受け、お昼を食べた後に眠くなったのでお昼寝をした。

 起きたのは17時。

 ……え?呼ばれてないよね。え?呼ばれてたけど寝てたけら失格とか?

 やべーな。

 外部との連絡方法がそもそも無いし、詰んだか俺。


 …もう不貞寝だー!!


 失望感の中、ベッドにダイブして目を閉じる。もうなるようになれ!だね。


 ……。

 …………………。


「あのー、龍人君?」


 …ん?なんで俺の部屋に女の子がいるんだ?まさか夜這い!?俺遂にモテ期?

寝ぼけた頭で変な事を考えながら目を開けると、困ったように眉根を寄せるちなみがいた。

 夜這い…にしては表情が違うような。


「龍人君、あと5分で試験が始まるみたいだから…そろそろ準備した方が…良いかなって。」


 あと5分?………!?

 慌てて起き上がり、周りを見回すと倉庫みたいな所だった。ちなみの後ろには頭の後ろで腕を組んだ眠そうな天二と、両手を腰に当てて呆れ顔のプラムが立っている。

 これは、もしかしてもしかするか。


「あぁっと、もしかしてこれから試験?」

「うん。そうだよ。龍人君、寝たまま転送されてきたからビックリしましたぁ〜。」

「まじか。転送されても起きない俺、恥ずかしすぎるな。」

「…ベストオブザ鈍感。」

「悪かったな。」


 天二の容赦ないツッコミが飛んでくる。


「龍人君。弛んでいるんだと思うわ。早く準備をして欲しいのよ。」


 うぅ…プラムの冷たい視線が辛いんですが。

 いや、でも言っていることは正しい。なんつったって、今の俺はジャージ姿だからな。いつもの服装に着替えて…着替え…どこで?

 羞恥プレイ?


「あと1分で試合が始まります。高嶺龍人さん、着替えを早く済ませた方が良いですよ〜。」


 今のアナウンスはキャンギャル風審判係(長いからギャル審判と呼ぼう)かな?姿が見えないから、遠隔で俺たちの様子を確認してるっぽいな。

 って事は、ここで着替えたら生着替え披露って事か?いやん。お嫁にいけなくなっちゃうん。


「…龍人、早く。」

「はいはいよっと。」


 コンテナに近寄った俺は、魔法でドドォン!と穴を開けて中に入る。

 そして、薄暗い中…それはもう迅速に着替えを済ませた。

 よし。準備万端だ。

 3人の所に戻ると、プラムが溜息を吐きながら口を開いた。


「はぁ…。試験が始まる前の打ち合わせがゼロね。」

「…まぁ大丈夫。」

「私はちょっと心配だよぉ。」


 三者三様の反応だね。

 にしても、そこまでバランスが良いとは言えないメンバーが集まったな。


 プラムは属性【光】を使う中距離が得意な魔法使い。魔具は確か…ムーンフラワーロッドだったかな?紫の花を設た杖だ。

 天二も属性【光】なんだよね。武器は短剣の2刀流だったはず。武器の名前はそういや知らない。中距離で魔法を使いつつ、近距離もこなせるから比較的マルチには動ける。

 ちなみは属性【全】というどんな属性魔法でも使える特殊な属性の持ち主。ブレスレットが魔具だったかな?

 んで、俺が属性【龍】って感じか。ちなみと同じで殆どの属性が使える。

 似たような属性持ちが2人ずつ集まったパーティーか。戦術の幅が広がりそうで、案外そうでもないのがネックだ。

 まず…支援役がいない。ついでに言うと回復薬もいない。全員が攻撃系だよね。いや、でもちなみは属性【全】だから回復系魔法も使えるのかな?

 このメンバーで強敵と戦うに当たって最適な陣形くらいは考えたいもんだけど…。


「それでは試合開始です〜。みなさん、頑張ってください!」


 どうやらギャル審判は待ってくれる気ゼロらしい。

 つーか、運動会みたいなアナウンスするなし!


「よし。陣形は俺が先頭、中衛にプラムと天二、後衛にちなみで行こう。」

「…オッケー。」

「陣形よりもロア長官のいる場所をどうやって索敵していくかが…」


 ここまで話した時だった。

 倉庫の天井スレスレに炎が広がったかと思うと炎弾を次々と生成。次の瞬間には俺たちのいる一帯に炎弾が降り注いだ。


「マジか!?皆防御だ!」


 魔法壁を展開して耐えつつ、魔法陣を連続展開して索敵をしていく。

 …おいおい。なんなんだよ。


「…龍人。これヤバい。」


 俺と同じく索敵をしていた天二が顔を曇らせた。


「どういう事!?」

「どうしたんですかぁ?」


 ちなみのほんわかはピンチでも変わらないんだな。


「索敵したらさ、俺達を囲むようにすご〜い沢山の反応があるんだよ。」

「…デコイかしら。」

「………僕とプラムで一気に。」

「はぁ…相手が強敵だと気も休まらないわね。」

「俺とちなみで防御する!」

「はぁい!」


 俺とちなみが協力して魔法障壁を全方位多重展開する横で、天二とプラムが両手を上にあげる。

 そして、倉庫内を埋め尽くさんばかりの光の矢が放出された。

 天井付近まで打ち上がった光矢群は炎弾と相殺しながらも、グリンと向きを変えて周囲一帯に降り注いでいく。

 よし。これでデコイの反応を調べればロア長官がいる場所の当たりは付けられるはず。


「索敵をしながらの攻撃。悪くはないが、一箇所に留まるのは悪手だな。」


 その声が聞こえたのは俺達4人の真ん中から。


「なっ…!?」


 そこには冷徹な目で俺達を射抜くロア長官が立っていた。


「私を失望させるな。魔法学院生達よ。」


 その声が聞こえた瞬間、ロア長官の体がピカン!と光り、抉るような衝撃波が体に叩きつけられた。

 視界が回る。

 …くそっ。吹き飛ばされてんのか…!

 どうにか空中で体勢を立て直してコンテナの上に着地する。

 空かさず龍刀を構えるが…ロア長官の姿は見当たらない。


 ヤバい。メッチャ強いんですけど。声を掛けられるまで気配に全く気付かなかったとか、最早無理ゲー。ゲームスタートと同時にラスボスと戦い始めちゃいましたってゆーレベル。


 ドォォォン!!!

 俺がいる場所の反対側から爆発と爆炎が噴き上がる。


「休んでいる暇は無い…ってか!」


 こんな強い奴相手に力の出し惜しみをしていたらヤバい。

 つーか、4人の内誰か1人でも倒されたら、その時点で勝利は難しくなる気がする。

 ………ならば。


「全力しかないか。」


 俺がこれまで培ってきた力全てをぶつけるしかない。


「龍人化【破龍】!」


 龍魔力を纏った俺は、爆心地に向けて全力疾走を開始した。

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