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5-49.魔導師団選抜試験4週目前日

 いよいよ明日はロア長官との戦闘をする日だ。

 4人1組のチームで戦うみたいだから、強敵とチームで戦う良い練習にはなると思う。

 問題があるとしたら、誰とチームを組むのか…って事だよな。普通に考えれば各魔法学院のメンバーをランダムに組むんだろうけど。一体どうなる事やら。

 一般的な魔法学院の学院生にとっては、エリートコース?に選ばれるか否かの…ある意味で運命を決める最終日前日。

 そんな日に、俺はデートをしていた。


 …ん?けしからん!だって?

 まぁ普通ならそう考えるよな。俺だって同じ意見だ。でも、「お願い。明日1日付き合って。」なんて両手を合わせながら言われたら断れないだろ?


「えーっと……あ、こっちね!」


 俺の前を歩くのは赤いロングヘアをそよ風に靡かせながら、パンフレットの地図と格闘しながら歩く美女。通り過ぎる人々の視線をその美貌と抜群のスタイルで惹きつける…そう、火乃花だ。


「おかしいわね…この通りの裏通りにある筈なんだけど…。」


 パンフレットを横に傾けながら、顰めっ面で見る火乃花の顔は…ホント整ってるよなー。

 さて、そろそろ道に迷うのも飽きたし、手伝うか。


「火乃花、ちっと見せてみ。」

「え…うん。」


 今いる場所は、さっき雑貨屋の角を曲がったから…ここか。ふむふむ。


「こっちだな。」

「え、龍人君行ったことあるの?」

「ん?無いよ。」

「じゃあ地図を見て把握したのね…ちょっと負けた気分。」

「火乃花は地図が苦手なんだ。ちょっと意外かも。」

「い、いいじゃないっ。誰にだって苦手なものくらいあるわよ。」

「そりゃそうだ。あの火乃花に苦手分野が!?って感じだけど、逆に親近感わくよ。」

「なっ…!?……別にもっと親近感持っても良いんだから。」


 ……何今のデレは!?ちょっとというか、かなりというか……ドキッとしたんだが。


「あ……あの店じゃないか?」

「そ、そうね。…楽しみかもっ。」


 頬を緩めた火乃花は小走りで先に行ってしまう。いやぁ、さっきの笑顔破壊力はえげつなかった。

 目的の店の前で立ち止まった火乃花の隣に行くと…目をキラキラさせていた。


「そんなに好きなの?」

「えぇ。私、大好きなの。」


 その店の看板には豪快な筆文字で「パンケーキ」と書かれていた。


「いくわよ!」


 グイッと手を引かれて店の前に出来た行列に並ぶ。

 うわぁ…カップルしか並んでないんだけど。

 俺の目線に気付いたのか、火乃花が顔を赤くしながら言う


「…この店、カップル限定なのよ。すごい美味しいらしいんだけど、中々チャンスが無くて。」

「なるほどね。任せとけっ。」


 俺がサムズアップすると、火乃花はにっこり笑う。


「ありがと。」


 そこから俺と火乃花は順調にカップルをした。店に入ってからパンケーキが届くまでは手を繋いでいなければならないとか、飲み物は飲み口が2つに分かれたストローを使わなきゃいけないとか…普通にカップルじゃないと恥ずかし過ぎるルールが沢山あったけどな!

 火乃花がこんなに喜んでいる姿を見るのは初めてだったし、流石に断れなかった。

 ま、俺も楽しんだのは事実なんだけど。

 パンケーキはメッチャ美味しかった。何がどうなったらあんなにフルーツでジューシーで幸せな味になるのか。理解の範疇を超えたパンケーキだったよ。


 一通りパンケーキを食べ終わった後、中央区をブラブラと歩いていた俺達は…お約束通りというか、トラブルに巻き込まれる。


「う、うわぁぁぁぁ!?」


 俺たちの前を歩いていた18歳くらいの男が突然叫び出したかと思うと、電撃を無差別に放ち始めたんだ。


「危ねぇっ!」


 火乃花を庇うようにして魔法壁で防御する。


「あの人…どうしたのかしら?」

「いやぁ分からん。いきなり叫んで魔法を乱射だもんな。薬でもキメてるとしか思えないぞ。」


 男は頭を抱え、涎を垂らしながら叫び、魔法を放ち続ける。

 魔法の威力もやけに強いし。


「ぐぁぁぁああ!!」


絶叫する音を中心に電撃の柱が空へと立ち昇る。


「…マジでなんなんだよ!?」


 数秒すると電撃の柱を放ち終わった男は虚空に手を伸ばした。


「た……けて……。」


 そして、天に何かを求めるような格好のまま…静かに倒れていった。


「異常ね。」

「だな。新手のテロかな?」

「それにしては魔法の威力が低い気もするわ。」

「んー…なんだったんだ?」


 この後、警察が到着して周囲の人達に聞き込みを始めたので、野次馬の振りをしてこっそり逃げました。

 折角のデートが…変な終わり方になっちまったじゃないか!


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「えい!やぁっ!!」


 街立魔法学院の修練場に可愛らしい掛け声が響く。

 抜群のスタイルに、抜群の愛らしい顔、そして揺れる胸。男なら二度見はするであろう恵まれた容姿をしたクレアは、そんな事を気にせずに己の格闘術を磨いていた。


「ん〜もう少しで出来そうなんだけど…。」


 修練場に置かれた人型の的はクレアの攻撃によって残骸の山を作っていた。


「突きはすぐにイメージ出来たんだけど、やっぱり蹴りになるとちょっと違うみたい。」


 少し考え込み、体の軸を捻るようにして回し蹴りを放つ。

 ヒュン!

 鋭い蹴りが空気を引き裂く。顔にクリーンヒットしたら顔が吹き飛んでいきそうな威力を秘めているように見えるが、クレアは不満気な表情を消さない。

 それもその筈。

 クレアは今や龍人を中心とした「天地という組織に対抗するメンバーの1人」なのだから。

 求めるのは…突き抜けた力。中途半端な力では役に立たない。


(龍人君も遼君も凄い早さで強くなってるよね。私も追いつかなきゃ。)


 クレアは天地のメンバーと戦った事は無い。しかし、龍人からの話を聞く限り…相当なレベルで強いという事は分かっていた。セフという男に関しては、たった2人で森林街を壊滅させたというのだ。

 それは…恐怖でしかない。

 そんなものに立ち向かえるとは、到底思えなかった。

 それでも、いや…だからこそ、クレアは天地に立ち向かう意義を見出していた。

 人は1人では駄目なのだ。人は集まる事で足し算が掛け算になる。そして、支え合う事が出来る。どんなに絶望していても、側に誰かがいれば救われるのだ。


(私は…キャサリン先生みたいに救う人になりたい。)


 白金と紅葉の都に住んでいた時に父と母を亡くし、遺言に従って魔法街に渡星したクレアは、キャサリンと出会った。

 キャサリンはクレアの両親とどんな関係だったのかを話そうとはしなかったが、傷心のクレアに寄り添ってくれた。

 当初は生きる事を諦めていた。

 世界の全てが色褪せていた。

 それでも、キャサリンはクレアに寄り添い続けてくれたのだ。

 特別な事は何もしていない。毎日顔を合わせ、笑顔で挨拶をし、ご飯を一緒に食べる。ただ、それだけ。特別では無い日常の一コマ。

 まるで家族のように…一緒にいてくれた。

 近くに自分を想ってくれる人がいる。そんな些細な事がクレアの心を温め、色褪せた世界を少しずつ鮮やかに変えていった。


(私は孤児院の皆が笑って暮らせる世の中にしたい。)


 日々の生活が彩りを取り戻し始めてから間もなく、それは魔法街に移住してから3〜4ヶ月程経った頃だった。クレアは魔法街戦争に巻き込まれた。

 悲惨な現実は10代後半の少女を恐怖のどん底に陥れる。

 多くの人が死んだ。その中に顔馴染みが含まれていたのは言うまでも無い。

 知っている人が居なくなる。それは…クレアにとって耐え難いものだった。こんな想いをするなら誰とも出会わなけば良い。世界の果てで小さく蹲って、誰を知ることもなく、誰に知られることもなく生きていきたい。

 クレアは、そう願ってしまった。

 いや、或いは彼女が「生きる」為には必要な選択肢だったのかもしれない。


 人との交流を避けるようになってから1年くらい経った頃だろうか。「出掛けるわよ。」と言ったキャサリンに外へ連れ出された。

 戦争が終わってから1度もクレアの意に反する事を言わなかったキャサリンの言葉に、クレアは「嫌だな…。」と思いながらも従う事にしたのだ。


 そうして連れられて行ったのは、魔法街中央区の端にひっそりと佇む孤児院だ。そこに住むのは両親を亡くした孤児達。殆どの子供達が魔法街戦争で親を亡くした身寄りの無い…言ってしまえば不幸な生い立ちである。

 それなのに、子供達は…笑っていた。楽しく遊び、美味しそうにご飯を食べ、時に友達と喧嘩をし…。今その時を一生懸命生きていたのだ。

 その姿はとても眩しく、子供達に明るい笑顔を向けられたクレアは気付く。

 今の自分は子供達と一緒に遊べる顔をしていなかった事に。自分の人生に訪れた不幸に身を任せ、過去に囚われ、今を諦め、未来を捨てていた事に。


 だから。


 クレアは週に一度のペースで孤児院に通うようになった。

 特別な事は何もしていない。

 ただ孤児院を訪れ、子供達と遊び、子供達の話を聞き、子供達に話をする。それだけ。

 かつてキャサリンが自分にしてくれたように、日常の一コマとして子供達と触れ合い続けた。


(私は、子供達の笑顔を守りたい。その為に…強くならなきゃっ!)


 中腰の構えから、体の軸を捻る事で全身をしならせて鋭い蹴りを放つ。足先に帯びた魔力が薄らと光り、蹴りの余波で空気が震える。


「……もう少しな気がするよっ。よーし、頑張ろっと。」


 静かに、確実に強くなる為、クレアは鍛錬を続ける。

 もう一発。

 そう想った時である。北の空に1本の光が立ち昇った。


「なんだろう…中央区の方かな?」


 その光はすぐに消えたが、クレアは不吉な予感を感じて眉を顰めざるを得なかった。

 何か嫌な事が起きる。そんな感覚に。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 コツコツコツ。

 規則正しい足音が暗い廊下に響く。

 スーツを着た男は廊下の先にある扉へ手を掛けた。

 ギィィィィ…。軋む音を立てながら開いたドアの先には、数多くの人が何かの作業を行っていた。

 男は部屋の中を見回し、目的の人物を見つけると近寄りつつ声を掛ける。


「施設長。ブースト石の生産は順調ですか?」


 施設長と呼ばれた男は、スーツ姿の男を認めると居住まいを正し、引き締めた表情で応答する。


「コンセルさん、お疲れ様です。お陰様で順調です。生産量の観点では量産化を確立するのには、今暫く時間は掛かりそうです。しかし、市場にプレミア感を演出しつつ、継続的に一定量を供給するのに問題はありません。」

「それは良かったです。今回は大量受注の話がありまして、今度設立される魔導師団に一定数のブースト石を保有させたいという話があるんです。」

「それは…!勿論です!今よりも生産スピードを上げられるように調整してみます!」

「よろしくお願いします。」


 施設長の後ろで数人の研究者達がガッツポーズをする。

 魔法の才が無いからこそ、魔法使いをターゲットにした魔導具の開発に人生を懸けて来たのだ。

 そうやって生み出した魔道具が、魔導師団という魔法街公認の魔法使い集団に使ってもらえるのは最高のアピールになる。

 興奮した様子の施設長はコンセルに近寄ると、その両手を取った。


「本当にコンセルさんのお陰です。コンセルさんがもって来てくれたあのエネルギーがあったからこそ…!そろそろ私達にもアレの収集方法もがっ………!?」


 コンセルは冷静な顔で施設長の口を塞ぐ。


「施設長、アレについては極秘事項です。無闇矢鱈に口に出さない方が身のためですよ。」

「こ、これは失礼致しました…。」


 冷静…しかし、瞳の奥に宿る冷徹な光に施設長は震えを隠す事が出来ない。

 コンセルは静かに施設長を観察し…ニッコリと微笑んだ。


「それでは、よろしくお願いします。納期に遅れる事は呉々も無いようにお願いしますよ。」

「は、はい…!」


 微笑みを向けられても怯えが消えない施設長の肩をポンっと叩くと、コンセルは背を向けてドアに向けて歩き出す。

 後ろでは気を引き締めたであろう施設長と研究者達が、生産効率を上げるための議論を白熱させ始めていた。


(ククク…これでようやく仕込みが終わった。祭りが始まる…ヒャハッ。)


 冷静な仮面の下に隠した本性が舌を覗かせる。

 崩れそうな表情を必死に抑えながら、それでも抑えきれない狂気的な笑みを口元に浮かべながら…コンセルは部屋を後にする。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 中央区の謎事件からこっそり逃げ出した俺達は、南区の通り沿いにあるアイスクリーム屋で3段アイスを買い、公園に座りながらペロペロ舐めていた。

 隣に座る火乃花が美味しそうにアイスを舐める姿は…なんだろう、ちょっとエロい。


「このアイス…中々イケるわね。」

「だな。人がよく並んでるから前から興味はあったけど、ここまで美味しいとは思わなかったよ。」


 今食べているアイスは、お洒落系の健康志向系という…いかにも銀座とかで流行りそうなフレーバーのアイスだったりする。


「あ、そうだ。」


 チュルンっとアイスを舐めた火乃花は何かを思い出したのか、俺の方を見る。


「なんだ?」

「魔導師団選抜試験が終わったらどうするつもりなのかしら?」

「あーそれね。俺も悩んでるんだけどさ、ギルドへ正式にパーティでも登録しようかなって思うんだよね。」

「パーティ…良い考えね。個人よりもパーティの方が他星のクエストも受注しやすいし。」

「あ、そうなの?」

「えぇ。受注条件にパーティのみ。とかあるわよ。」

「そりゃぁ知らなかった。」

「ふふっ。」


 何が面白いのか、火乃花は笑うと再びアイスを舐め始める。

 …ん?結局パーティの話はどうなった?


「……火乃花もパーティに入ってくれるよな?」

「勿論よ。拒否されても入っちゃうんだから。」

「ははっ。よろしくな。」

「うん。」


 こうして、俺と火乃花のプチ?デートは幕を下ろした。


 明日から…遂に魔導師団選抜試験最終週だ!

 ロア長官との戦闘、楽しみだぜ。

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