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5-46.プレゼント選び

 翌日に魔導師団選抜試験の3週目…筆記試験を控えた俺は南区の喫茶店で猛勉強に励んでいた。

 元々魔導師団に入るつもりは無いから頑張らなくても良いんだけど、筆記試験の結果が悪くて4週目の試験に行けなかったら悔しいもんね。

 なんと言ったって4週目はロア長官との戦闘つて話だからな。魔導推進庁長官の地位にいるくらいだから、相当な実力者だとは思うんだ。

 そんな人と戦うチャンスを逃すのは、流石に勿体なさすぎる。

 だからこそ、一定の成績を残しておく必要があるんだ。まぁ、筆記試験が悪くて4週目の試験に参加出来なくなるかも分からないんだけど。


「魔法理論……全くもって意味が分からん。」


 俺が今取り組んでいるのは、街立魔法学院の授業でも取り扱ってない魔法理論だ。小難しい言葉が羅列されていて、各単語の意味を調べるところから始まるから全く習得が進まない。

 理解出来たのは属性魔法発動に媒介が必要であり、媒介無しで発動するのは困難である事。現代においては魔具を媒介とするのが一般的で、それ以外の手法は確立されていない。但し、稀に媒介を不必要とする人材が現れる事もある。この場合に考えられる要因は魔力経路と発動に違いがあると考えられていて……ここから先は訳がわからんかった。

 まぁ、俺も魔具は使ってないしな。あ、でもまほうじんも媒介になるらしいから、基本の法則からは外れてないのかな。

 問題はこの魔法理論について…どういう問題が出るのか。だよな。

 穴埋め問題だったらドボンしそうだし、かと言って選択式でも似たような単語が並んでいたら成果できる自信はない。


「……憂鬱だ。」


 問題形式が分からないって本当に勉強しにくい。


「あ、龍人見つけた!」


 もう勉強を諦めようかと思っていた矢先に現れたのは遼だった。


「おう。俺は魔法理論お手上げだよ。」

「あーあれは難しいよね。俺はてきすとを流し読みにして、他の科目で点数を稼ごうかなって思ってるよ。」

「…他の科目で点数を稼ぐ自信があるのが羨ましいよ。」

「まぁ…頑張って!それで勉強しているところ悪いんだけど………プレゼントを買うのに付き合ってくれない?」

「え?」

「え……?」


 俺と遼の間の時間が止まる。

 何このフラグ回収みたいな流れ。っていうか、そんねフラグ無かったよな!?

 何がどうなって恋愛イベント発生してんだよ!?

 ………はっ。取り乱してしまった。

 ビークールビークール。落ち着け俺。

 俺に彼女がいないからって、遼に彼女が出来た事に対して否定的になってはいけない。うん。そうだ。もしかしたら友達の誕生日プレゼントかもしれないし。

 よし。先ずは冷静を装って尋問だ。根掘り葉掘り聞き出す!


「えぇっと、誰へのプレゼント?」

「あ、そうだよね。実は……チャンになんだ。」


 うぉーい!?そんなに恥じらって頬を染めるなし!青春!!


「良いじゃん!女性へのプレゼントってセンスが問われるからなぁ。目星はついてるん?」

「まだなんだよね。何をあげたら良いか分からなくて…。」

「ん〜、一先ず店に見に行ってみるか。」

「マジ!?ありがとう!」

「友達だしな。明日の試験もなんとかなるだろ。…にしても、遼とチャンがそんな関係だったなんてな。」

「からかわないでよ!これでもお互い合意の上なんだから。」

「はいはい。じゃ、行きますかー。」


 遼に先を越された感じでちょっと悔しいけど…今は素直に祝福の言葉を送ろう。それが親友ってもんだ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 中央区の商店へ買い物に来た俺と遼は盛大に迷っていた。

 まず、チャンの趣味が全く分からない。遼も付き合いが浅いから全然分からないって言うし。

 ネックレス、指輪とかのアクセサリーが無難かなって思ったんだけど、「それはちょっと恥ずかしすぎるよ!」…と全力拒否されてしまった。

 お揃いのアクセサリーとか定番で良いと思ったんだけどな。

 食べ物もありか!?という事でお菓子コーナーにいる俺たちである。


「あ、そう言えばなんだけど…ブースト石って覚えてる?」


 2つのチョコを持って見比べなら、全然違う話題を振ってきた。

 いやいや、別の話をしないで真面目に考えろっての!!…とは思うけど、初めてのプレゼントだ。本当に何を選べば良いか分からなくて、少し現実逃避したいのかも。

 ここはイラッとを抑えて話に応じるのが大人ってもんだ。


「コンセルさんが言ってたやつだよな。火日人さんはめっちゃ嫌ってた気がするけど。」

「なんかさ、この前の試験でダーク魔法学院の人が使ってたんだよね。2個使うと魔力暴走の危険はあるって言ってたけど、最終手段で使うのはありかもって思っちゃったよ。」

「…そんなに効果凄いのか?」

「うん。大型の奴が出てきた時に使ってたんだけど、1発で胴体に風穴を開けてたよ。戦力増強の視点では抜群かも。」

「あの大型に風穴開けるとか……とんでもないな。」


 俺達もあの大型機械生物は倒したけど、硬い外装は貫けなかったもんな。

 普通だったら「使ってみたい!」って飛びつくんだろうけど、火日人さんが相当毛嫌いしていたのが気になる。


「多分この店でも売ってると思うけど、一応見てみる?」

「まぁ…見るだけ見てみるか。」

「魔導具コーナーかな。」


 遼は持っていたお菓子を置くと、魔導具コーナーへ歩き始めた。

 …いや、だから今日の目的はチャンへのプレゼントでは?

 もう少し我慢…してみようかな?


 さて、ブースト石は魔導具コーナー奥の高価品を取扱うカウンターに置かれていた。


「思ってたよりちっちゃいな。……って高っ!」


 灰色で飴玉サイズのブースト石は1つ50,000円の値札が付けられていた。いや、高すぎだろ。


「お客さん、ブースト石に興味あるのかい?」


 声を掛けてきたのはカウンターの奥に座っていた恰幅の良いおばさん店員だ。


「興味はあるけど、買うつもりはありません。」

「ちょっ…龍人失礼だって。」

「はははっ。いいさいいさ。私もブースト石は積極的に勧めたくないしね。」


 お?ちょっと探りを入れてみるか。


「あれ?使うと魔法の威力が凄い強化されるって聞いてるんですけど。」

「あらまぁ…まだそこまで流通してないのに良く知ってるねぇ。お前さんの言う通り、ブースト石は使うとかなり強くなれるよ。でもねぇ……使用回数制限を守れば副作用がないっておかしいと思わないかい?」

「え、全く無いんですか?」

「そうなのさ。それなのに、1日1回30分限定で爆発的な力を得られるって、素晴らしいけど私は怖いね。」

「でも、正規ルート販売許可は出ているんですよね?」

「勿論さ。そうじゃなきゃうちの店で売り出す訳が無いからね。」

「ですよね。」

「あの…売れてるんですか?」


 お、遼が良い質問をした。


「これがねぇ、売れてるのさ。今は販売が開始して少ししか経ってないから生産が追い付いていない状況さね。ほんと…今後量産体制が整って値段が下がったら大人気商品になるかも知れないねぇ。」

「そっか…今在庫あるみたいだし買っておく?」

「いや、買わないだろ。」

「ははっ。冗談だよ。」


 遼の奴…微妙に本気っぽく見えたんだけど、気のせいだよな?


「じゃ、本来の目的に戻るぞ。女の子への贈り物に手を抜くなよー。」

「おっ、ちょっと面白そうじゃないかい。もしかしてイケメンのお兄さん、彼女へのプレゼントを探しているのかい?」

「えっ…!?いや、そうじゃなくて…。」

「はははっ!照れる事ないさ!よーし、丁度暇だし私も手伝ってあげるよっ!」


 何故かいきなりやる気を出したおばさん店員が仲間に加わった!


 チャラチャラッチャッチャー!


 そこからおばさん店員の素晴らしいアドバイスのお陰で、貰ったら嬉しい人気上位のちょっと高級なハンドクリームを購入した遼だった。


 そして…運命?のプレゼントタイムへ突入する。


 プレゼントを渡すのは今日だったらしく、遼とチャンは街立魔法学院近くのカジュアルなレストランで一緒にご飯を食べることになっていたらしい。

 という訳で、2人が座る予定の席(丁寧に予約済みだった)から死角になる席に陣取った俺は、静かに2人の様子を観察する。

 …予定だったんだけどなぁ。


「ニシシ。デートイベントを隠れて見守るとか…ドキドキしちゃうんだよっ。」

「ミラージュ君、あまりはしゃぐとバレちゃうわよ?」

「プラムさんも顔が赤いですよぉ?」


 何故かロリキャラ3人が俺を囲むようにテーブルに座っていた。

 ミラージュ、プラム、ちなみの3人は、それはそれは楽しそうにキャピキャピと遼達の方をチラ見しまくっている。

 チャンは俺たちに背を向けて座っているから気付いていないみたいだけど、遼の頬がドキドキピクピクしている。うん、遼が可哀想だ。何も出来ないけど。

 遼とチャンが会話をしながら食事を楽しんでいる様子を盗み見しながらも、俺達も食事をする。

 因みに、俺達のテーブルに置かれているのは巨大な肉の塊だ。

 ミラージュが「皆でおっきいお肉を食べるのが良いと思うんだよっ。ララランっ。」と、俺達が止める間も無く頼んでくれたんだよね。

 俺は肉を切り分けながら、さっきまで感じていた疑問を投げかけてみた。


「にしても…あの2人の事、どうやって知ったんだ?俺だって今日遼から直接聞いて知ったのに。」

「それはですねぇ…プラムさんが教えてくれんです〜。スニーキング試験で3人は一緒だったらしいですよ。」

「あっ、しっ…!それは秘密だったわよ!?」

「あれ?そうでしたっけ。これは失態ですぅ。」


 全然反省していないちなみの横で、肉を咥えていたプラムがワタワタと焦る。…なんか、レフナンティで警護団団長をやっていた時のちょっと凛とした雰囲気は全く無くなったな。

 年相応っていうかなんていうか。まぁ…良い事なのかな?


「ふふふっ。2人がその話をしているのを盗み聞きした私が、2人を引き連れて覗き見しにきたって訳なんだよっ。」


 …プラムさんや。胸を張って言うけど、盗み聞きして覗き見しにくるって…地球でいったらやや犯罪チックな匂いしかしないやつですよ?


「そういう事ね。それにしても…遼とチャンが付き合うとか未だに信じられないな。」

「えっ!?あの2人もう付き合い始めたの!?」


 プラムがギョッとした顔で聞き返してきた。

 あれ?なんか話が食い違っているような。


「あらぁ?私がプラムさんから聞いたのは、スニーキング試験でどっちが中型機械生物を多く倒すかっていう勝負をして

、負けた遼君がチャンさんに夜ご飯をご馳走するのとプレゼントをあげる事になった…ですよ?」

「遼君…やるわね。まさかこの短期間であのきっかけから恋愛に持ち込むなんて。実はかなりのプレイボーイなのかも知れないわ。」

「凄いんだよっ。遼ちゃんはナンパ師かもしれないんだねっ。」


 …いや、俺の知っている遼はそんな短期間で女性を口説き落とすタイプじゃない。

 もしかして、俺…プレゼントを探すのに悩んだ遼に騙された?


「……ちょーっと話を聞いてこようかな。」


 ガタンっと立ち上がった俺を、隣に座るミラージュが腕にしがみ付くようにして再び座らせた。


「プラム。離してもらえるか?アイツの幸せの為に、俺は筆記試験の時間を捧げたってのに…彼女じゃなかったとか、ちょっと許せない。」

「だ、ダメなんだよっ。さっきまでは彼女じゃなくても、これから彼女になる可能性もあるんだよっ。ほらっプレゼントを渡すよん!」


 ミラージュに言われて見ると、遼が少し恥ずかしそうにしながらチャンへプレゼントを渡していた。

 小箱を開けたチャンは両手を頬に当てて喜んでいる。

 ……もしかして、これで本当に恋が芽生えるパターンなのか?


「遼っ美味しかったアル!またご飯を掛けて勝負するアル。そして、ミーがご飯代を浮かせる礎になるアル!じゃあまた明日学院でアルね。ミーの笑顔が素敵って言ってくれて嬉しかったアルよ。1年生のチームロリータには無い魅力がミーにあるのを見抜いたのは褒めてあげるアル。今度美味しい中華まんのお店くらいは教えるアル。ではでは、チャオー。」


 そう言ってチャンは元気に去っていった。

 後に残された遼の顔が本日最大級に引き攣ってたのは言うまでも無い。

 そして、俺を含めたテーブルの4人が怒りに顔を染めていたのも言うまでも無い事実。

 特に女性陣は色々な意味でお怒りのようだ。


「よし。いくか。」

「だねっ!お仕置きが必要なんだよっ!」

「そうですねぇ。簀巻きにして街中を引っ張り回したほうが良いですねぇ。」

「女性の怒りを買ったらどうなるか教える必要があるわね。」


 静かに立ち上がった俺たちは、逃げようとする遼を街立魔法学院へ拉致したのだった。

 そこで繰り広げられたリンチショーについては割愛しよう。

 ひとつだけ言えるとしたら…女性って怖い!!


 それだけだ。

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