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5-45.謎解き

 西区画の警備兵包囲網を突破した後、俺とクレア、天二、バルクの4人は北区画と東区画の秘密文書も無事に発見することが出来た。

 どの試験も大変だったけど…正直、西区画の機械生物が1番危なかったと思う。

 北区画ではレーザーが動き回る部屋の奥に安置されている秘密文書を取るだけだったし、東区画に関してはサーカスの空中ブランコの要領で次から次へと飛び移っていく身体能力テストみたいだったし。

 機械生物は普通に命の危険を感じたもんね。

 そして、4つの秘密文書を集めた俺達は、工場の中心部分へ繋がるであろう扉の前で頭を悩ませていた。


「んーー、この暗号難しいですねぇ。」


 腕を組んでほんわかと悩んでいるのは、東区画で合流したちなみだ。


「俺にはサッパリ分からねーぞ?」


 バルクは考えるつもりが無さそうだな。頭使うのが苦手って自覚しているのは、ある意味で潔い。

 4つの秘密文書に書かれている文字は「魔力」「凝縮」「循環」「均等」の4つだ。簡単に考えれば凝縮した魔力を均等に循環させる。…なんだけど、何に循環させるの?って話になるんだよね。

 扉の前にあるのは角柱の上に白い球体が乗った謎のオブジェが1つ。


「まぁ、やってみるか。」

「……解決?」


 期待の視線を向ける天二に肩を竦める。


「いや、単純に考えたらこの球体に凝縮した魔力を注いで循環させるだろ?取り敢えずやってみようかなと。」

「……失敗のリスク。」

「そうだよ龍人君。私もロア長官ならキツいレベルのペナルティを用意してると思うな。」

「ま、なんとかなるって。」


 みんなの心配を他所に球体に手を添える。

 魔力を通すと淡く光った。

 よし、これで魔力を循環させ……


 ブー!ブー!ブー!


「…何の音……ぷぎゃ!?」


 ブザーみたいな音が鳴ったかと思うと、突然全身をバチっとした感覚が走り抜け…俺はひっくり返った。

 体から煙が出てる気がするぜ。


「龍人君大丈夫!?」


 慌てて近寄ってきたクレアが治癒魔法を掛けてくれる。

 …危なかった。ちょっと死にかけた気がするよ。


「……スタン。」

「あ、そうなんですねぇ。多分今のは電気を一瞬だけ流されたんだと思いますよー。」


 …成る程。ミスったら痺れさせますよ的なやつか。

 こうなると、暗号の意味を真剣に考えないと痺れまくりじゃん。


「だぁぁ!!」


 いきなり自分の頭をガシガシしながらバルクが叫ぶ。


「まどろっこしいぜ!このドア、吹き飛ばしゃあ解決だろ??うらぁ!」


 横の壁素材を使って巨大腕に変えたバルクがドアに殴り掛かった。

 巨腕はドアの中心部分を捉えて打ち抜く。……と思いきや、吸い込まれた。

 んで、ドアの斜め下から出現した巨腕がバルクにクリーンヒット。スーパーボールのように壁、床、天井を跳ね回ったバルクは潰れたカエルみたいな体勢でピヨピヨと沈黙した。


「……転移魔法?」

「じゃないかな……バルク君、痛そうだったね。」


 相手の攻撃を転移魔法で反射させたのかな?随分手の込んだトラップが仕掛けてあるな。ドアの仕掛けを解く正攻法以外の攻略は認めないって事なんだろうけど。

 バルクの心配を全然していない天二とクレアの後ろで、ちなみがポンっと手を叩く。


「あ、私分かったかもですぅ。」


 おっとりと嬉しそうに笑ったちなみはトトトトっと球体へ駆け寄った。


「ちなみさん!?失敗したら龍人君みたいに感電しちゃうと思うよっ?」

「あ、大丈夫ですぅ。龍人君とバルク君が魔法を使った時に球体の色が変化してたんです。きっと4つの属性魔法を循環ですー。」


 4つの属性魔法って、1人じゃ3属性までしか……って、そうか。ちなみは属性【全】なんだった。


「いきますよ〜。」


 ポワッとちなみの手元が淡く光る。

 それに呼応するかのように球体の色が変わっていく。


「わぁ…キレイ。」


 赤、青、黄、緑の4色が球体の中で混じり合っていく様子はなんだか幻想的です、クレアは両手を胸の前で組み合わせて目を輝かせていた。


「…ん〜、難しいですね。でも、この要領で…!」


 4色の発光が強くなり、球体が虹色に輝き出した。そして、その輝きが一際強くなり…!

 フッと光が消える。


「あれ?出来たと思ったんですけどぉ。」


 あひる口に人差し指を添えて首を傾げるちなみ。


「ちなみさん…今の凄いね!私もあんな風に魔力の操作が出来たらなぁ。」

「クレアさんにも出来ると思いますよ。複合魔法の容量ですー。」

「え…私、複合魔法はまだ使えないなぁ。」

「あ、ごめんなさい…!えっと、今度教えますね!」

「ホント!?ちなみさんは魔法の操作が上手いから楽しみだな。」

「ふふっ。褒めても何も出ないですよぉ?」


 女子トークだ。女子トークが展開されている。

 とは言え…そろそろ気を引き締めないとだな。

 まだ微妙に痺れが残る体を無理やり起こすと、2人に声をかける。


「ちなみ、ありがとな。んで…そろそろ扉が開くみたいだ。」

「あ、本当ですね。じゃあいきましょうー!」

「うん!これで総合試験クリアかな。」

「……ロア長官は甘くない。」

「お、おい、俺を置いてくなって……ぐわっ!?グェップギッ!?」


 自分の魔法による打撃を受けて行動不能状態のバルクは、天二が光魔法の小規模爆発を活用した吹き飛ばし運搬で運ぶようだ。

 可哀想だけど、まぁ…バルクっぽいかな?


「さてと…何が待ってるのか。だな。」


 ゆっくりと開く扉を抜けて部屋の中に入ると、そこそこ広い演劇の部屋だった。床にはFの文字がデカデカと書かれていて、部屋の中央には上部がやや斜めになった台座みたいなものがあった。なんつーか、結婚式の時に誓約書が置いてある台みたいだ。


「これは…嫌な予感がするな。」

「………不快。」


 本当に嫌そうな顔の天二と並んで台座まで到着すると……何も起きなかった。


「何も起きないな。」

「……ますます怪しい。」

「あ、ロア長官ですねぇ。」

「だな。……えっ?」


 余りにも自然だったから相槌を打っちまったけど、ロア長官だって!?

 ちなみが指さす方向を見ると、この総合試験が始まるった時みたいに壁面に映し出されたロア長官がニヤニヤ顔をドアップで映していた。


「さて、ここまで到達した事は褒めよう。やや変則的な内容ではあったが、これでスニーキングクエスト関連に必要な実力を持っている事は証明されている。残る課題は……頭脳だ。」


 え。この状況で頭脳?来週は筆記試験だった筈じゃぁ。


「頭脳。それは今置かれている状況を冷静に分析し、最適解を見つける思考能力だ。例えどんなに絶望的な状況だとしても、過去から未来に至る情報を掴む事で君達は真の工作員となり得る。いや、寧ろ極上のストーキング能力を証明する…という表現の方が正しいか。」


 おいおい。ストーカー育成工場かよここは。

 ロア長官は薄らと極悪な笑みを見せる。


「そう言うわけだ。」


 どう言うわけだよ!


「最後の試練、存分に楽しむと良い。武運を祈る。」


 ……うわぁ、何度目か分からない嫌な予感。つーか、確信?

 ロア長官の映像が途切れると、壁側の床1箇所に魔法陣が現れる。発動光と共に現れたのは…うわぁ、中型の機械生物だよ。

 大型よりは耐久力は低そうだけど、パッと見た感じだと装備はほぼ一緒なんですが。


「うーんと、あの機械生物を倒せば良いんですかねぇ?」

「大方そーなんじゃ………えっ?」


 魔法陣が別の場所に出現し、機械生物が召喚された。


「2体同時か!望む所だぜ!」


 いつの間にか復活したバルクが腕をブンブン回してやる気を見せる。


 ブゥン。ブゥン。


「……鬼畜。」


 ガックシ頭を下げて面倒臭そうな天二の肩をポンっと叩く。やる気を出せ……ではなく、諦めよう……って感じかね。


「……私達なら大丈夫!」


 俺達から見て0時、3時、6時、9時に現れた機械生物に向かい合う。

 …不思議なことに動かない。まだスイッチが入ってません。的なね。でもいつ動き出すか分からないから油断は禁物だ。

 10秒ほど対峙していると、変化が現れた。


「あらぁ?何か文字が出てきましたよー。」

「文字?」


 ちなみが見ていたのは部屋の中央に置かれた台座。

 そこに文字が浮かび上がっていた。


我の名を答えよ

我、物理と対極を貫く志を宿し

我、従う者に求められる存在となり

我、習う者でありながらも、習わざる者であり

我、孤独と絶望を打ち砕く者


 謎掛けか…。我の名って奴を答えればこの試験が終了って事なのかね。


「うーん……なんでしょう?」

「…難しいなコレ。」

「龍人君!大変!」


 切羽詰まったクレアの叫びに反応して見た俺は…無意識に頬を引き攣らせた。

 冗談じゃねぇ。カオスなんだけど。

 機械生物を召喚した4つの魔法陣同士の間にもう4つの魔法陣が出現し、合計8体の機械生物が俺達を取り囲んでいた。


「……やっぱり鬼畜。」

「まぁまぁ…分かりきっていたと言えば分かりきっていた話じゃん?」

「そうですねぇ。この試験よりも厳しい状況とか、もっとありそうですもんね。」

「うっし!謎解きは任せたぜ。俺は、暴れる担当だ!!」


 さて…誰か1人が謎解き担当だろうな。頭が回って支援攻撃に長けているのは…。


「天二、謎解き担当で頼む。」

「……え!?」


 青天の霹靂!みたいに目をかっぴらいた天二にサムズアップをすると、俺達は一斉に動き出した。

 …何の打合せもしてなかったけど、この一瞬に妙な一体感を感じたのは俺だけじゃなかった筈!


 中型機械生物は、ざっくり言って大型の劣化版だった。とは言っても兵器はほぼ一緒。小型飛行物体が無いくらいかね。

 それでも銃は乱射するし、ミサイルも飛ぶし、口からレーザーは発射するしで厄介。その上そんな奴が8体もいるんだよね。フレンドリーファイアも至る所で起きてるけど、予想しない所から流れ弾もくるっていう最悪仕様だ。


「クレア後ろだ!」

「うん!」


 クレアが後ろから襲いかかる機械生物に回し蹴りを叩き込み、俺が龍刀と夢幻の2刀で斬り伏せる。


「龍人君〜手伝ってください〜!」


 見るとちなみが3体の機械生物に囲まれて涙目になっていた。バルクと一緒に戦って無かったっけ?……うわぁ、2体の機械生物と殴り合いしてんだけど。機械生物も何故にバルクと殴り合ってんだし。普通に兵器を使えば良いのに。


「ったく…!」


 直列励起で2つの魔法陣を展開する。

 1つは鉄杭を生成し、もう1つは雷撃を鉄杭に付与する。複合魔法だ。

 バシュゥン!と発射された鉄杭は機械生物の外殻に突き刺さり、内側に雷を放出する。


「グビルビ!?」


 ビクンビクンと体を痙攣させ、煙を上げた機械生物はボン!!と音を立てて内側から弾け飛ぶ。

 ……あれ?弾け飛ぶような攻撃をしたつもりはないんだけど。


「龍人君ありがとうございますぅ!私もやりますよー!」


 ちなみの両腕に付けられたブレスレットが光を放つ。

 グンっと鉄の塊が出現し、ギュルンっと無数の鉄針に分かれる。


「よしっ!これで、いけーです!」


 バチィン!と電気が鉄針群を覆って出現し…鉄針と共にガトリングガンの如く発射された。


 ズドドドドドドドドドドドドド!!


 無数の鉄針が突き刺さった部分から電気を内側に流された機械生物は、ボロ雑巾のようになりながら壁に叩きつけられて沈黙する。


「……ちょっとやりすぎちゃったかもです!」


 テヘッ。と片目を瞑りながらペロを出す必殺ポーズ「てへぺろ」を披露するちなみ。これは本人が無意識で何人もの男を惚れさせる素質を持っている気がすんぞ。

 けど…これで、残る機械生物は2体。これなら後2人は謎解きに回れるかな。


「よし。俺とちなみも謎解きに参加しよう。」

「はーい!頑張って考えますよ〜。」


 ブゥンブゥンブゥンブゥンブゥンブゥン


「ん…?今の音は……………マジかよ。」


 6つの魔法陣が再び出現していた。


「だぁぁ!!また出てくんのか!?」


 サマーソルトキックで機械生物を宙に打ち上げたバルクは、岩腕による強打を叩き込みつつ天二に向かって叫んだ。


「天二!どうだ!?」

「………難しい。」


 こりゃあ閃きが無いと難しいタイプの問題か?


「龍人君、私と天二君で交代してみませんか?皆の知恵を合わせた方が良いと思うんです。」

「そうだな…。天二!ちなみと交代しよう!」

「……やった。」


 あら?小さくガッツポーズしてんだけど。

 もしかして頭使うの好きじゃないのかね?

 プチスキップでちなみと交代した天二は先端がやけに鋭い槍を生成する。


「……隙間。」


 そして、新しい魔法陣から出現した機械生物へ肉迫すると、装甲の隙間に槍を捩じ込んだ。


 ボォン!!


 機械生物は抵抗虚しく一瞬で弾け飛ぶ。


「……楽勝。」


 お、天二の奴ニヤッて笑ったぞ。しかも中々獰猛な笑い方。悪役みたい。

 …そんなに謎解きで鬱憤が溜まってたのか?なんか悪いことしちまったな。


「あ、分かりましたー!」

「はいっ!?」


 片足を後ろに折り曲げ、ウインクをしながら右手人差し指を立てて「解明!」みたいなポーズを取るちなみを見て、天二がショックを隠しきれない顔でフリーズする。


「この問題、嫌らしい言い回しをしてますけど、結局…魔導師団の事ですね!」


 ちなみはニコニコと台座に魔導師団の文字を書く。

 すると……。


 ゴゴゴゴゴ………。と地響きを立てながら床がせり上がって、天井が開き……バィーーンっ!と俺達は上空に吹き飛ばされたのだった。


 この後、着地した俺たちに駆け寄ってきた係員が「合格」と書かれた紙を渡してくれた。筆で書かれたその紙は、何故か捨てることを微妙に躊躇わせる程に豪快で達筆な文字だった。


 ともかく、これでスニーキング試験は終わりだ!!

 土日は少しゆっくり休んで、週明けの筆記試験に備えよう。


 ……いや、筆記試験なんだから勉強しなきゃじゃね??


 休まる時間が無い!!

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