5-43.トラブルメーカー?
煙に包まれて視界が遮られた外側から放たれた…6発の魔力網。普通に魔法壁の再展開が間に合わない。
出来る事といったら五感をフルに働かせ、なんとか直撃を避けようと足掻くのみ。
「こなくそ!!」
バルクの叫び声が聞こえ、足元が…揺れた。なんだ?魔力網着弾の衝撃か?
「龍人!煙を吹き飛ばせ!追撃がくる!」
これは…バルク釜何かをしてくれたのか!
俺は即座に魔法陣から風を巻き起こして煙を部屋の外へ運んでいく。
煙が晴れると、床から伸びた複数の石柱が俺たちを覆っていた。…なるほど。魔力網は1発の範囲が広いから、隙間があっても引っ掛かれば進めないのか。こりゃ盲点だ。
「くそっ!このイカれ警備員!くたばりやがれ!」
バルクが地面を拳で打つと、打点を起点として床から岩棘が連続で発生してイカれ警備員へ迫る。
「ヒャッハァっ!」
裂けるような笑みを浮かべながら、イカれ警備員は軽々とそれを避けてみせた。
空中で一回転しつつ、警備員の銃が光る。
…銃を手に持つ必要が無いから、行動に制限が生まれないのが厄介だ。
「死に晒せぇ!!」
本当に警備員か?と疑いたくなる台詞と共に放たれたのは、3発の魔弾とそれらを追随する魔力網。
「……龍人!」
天二の声に反応して魔法壁を多重展開する。あの魔弾は恐らく貫通力特化型だ。俺が攻撃を防ぎ、魔法壁の隙間を縫って天二が反撃を仕掛ける。
ズドォオォォン!!
「くそっ…!マジかよ!?」
予想が見事に外れた…!
魔法壁に着弾した瞬間に爆発したんてすが!?
魔弾の種類を見極めるの難しいな!?遼もこうやって相手を翻弄する使い方をすれば良いのに。
ともかく、魔法壁は魔弾の爆発で尽くが破壊されてしまう。これってつまり魔力網がくるんじゃね?
「任せて!飛拳【爆】!」
俺の後ろからクレアのスキルが飛翔して魔力網に着弾、爆発して吹き飛ばす。
「……ナイス。」
そして、一連の攻防を静かに見守っていた天二が動き出した。
白い指先から光針群が放たれ、容赦無く警備員の全身に突き刺さった。
「グブゥエ!?」
潰れたカエルみたいな断末魔?を漏らして壁に縫い付けられた警備員。その前にトコトコと近寄った天二。
「……調子乗りすぎ。」
「…はっはー!こんな程度で終わるブヘッ…!?」
負け確定の状況でもイキがる警備員の頭に光魔法で生成されたハンマーが叩きつけられた。…痛そー。
イカれ警備員が沈黙した事で地面に落ちた銃の1つを拾った天二は、カチャカチャといじり始める。
「……普通の銃。魔導推進庁……恐るべし。」
成る程ね。宙に浮かせる魔導具が埋め込まれてるとかじゃなくて、普通に使用者が浮かべてたって事か。
魔法学院卒業者も沢山いるだろうし、当たり前と言えば当たり前なのかも知れないけど、実際にちゃんと戦うと強さが分かるな。…でも、あんな気狂いな警備員が職員で良いのか?って思うけどね。もしかしたら警備員役は職員じゃ無くて、雇ってるのかもしれないけど…どっちにしろヤバいだろ。
「ふぅ。巻き込んじまって悪かったな。」
爽やかに謝るバルクは、続いて爆弾発言をしやがった。
「隣の区画に突っ込んだら今の銃を浮かべてる奴らがウヨウヨ居やがって…マジで死ぬかと思ったぜ。」
「バルク…それ、マジか?」
「あぁ。俺たちがいる南区角は警備員って視点ではイージーモードだぜ。」
…ん?て事は。
「この工場っていくつかの区画で分かれてんのか?あと、さっきのイカれ警備兵がいた隣の区画って南区画と何が違った?」
「お?……んーっと、区画は東西南北で分かれてるっぽいぞ。俺が突っ込んだ西区画は…広かったぜ。」
なるほどね。そうすると、秘密文書は東西南北に1つずつって考えるのがベターか。
西区の広かったっつーのがイマイチ抽象的でよく分からないけど、まぁ…後で見てみるか。バルクに細かい説明を求めても微妙な気がするし。
「サンキューバルク。何となく分かったよ。当面の目標は…南区角の秘密文書か。」
「そうだねっ。東西南北で1つずつはありそうだから、頑張らないと!」
「おっ、それならありそうな場所知ってる…」
「……持ってる。」
「え?」
「へっ?」
「ぬぁ!?」
天二の予想外なひと言に場が一瞬固まる。
「………これ。」
どことなく眠そうな天二がポケットから取り出したのは1枚の紙切れ。
仰々しく「秘密文書」と書かれた下には「魔力」の文字が書かれていた。暗号なのかね?流石に数字一文字だと全く想像が付かない。
「天二すげーな。南区画の秘密文書か?」
「……うん。」
「出来る男だな!!」
ニカっと笑いながら天二の背中をバンバン叩くバルク。すごい迷惑そうな顔をされている事に全く気付いていない。…流石だな。
「提案なんだけどさ、4人でこの試験を攻略しないか?案外良い組み合わせだと思うんだけど。」
「そうだね。バルク君が前衛で龍人君が万能ポジション、天二君が後衛で…私が回復役兼遊撃かな?」
「まぁそんなトコかね。」
「俺は構わないぜ。」
「……同じく。」
「私も。」
あら。案外すんなりと採用された。スニーキング試験って特性上、集団行動は好ましい評価に繋がらない可能性もあるんだけどな。
俺としては個人に拘ってクリア出来なかったら本末転倒だと思うから、クリア優先で動くつもりだ。
きっとこの3人も同じ考えなんだろうな。
「おっし!俺、スニーキングとか苦手だから助かったぜ!このメンバーなら俺がミスっても、バレる前に処理できそうだもんな!」
……きっと皆が同じ考えだ。
「……1人より4人の方が楽。………最悪、バルクが生贄。」
「私は……。」
生贄を既に決めている天二。
何故か俺をチラチラ見てくるクレア。
……うん。進もう。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
4人1組で行動する事にした俺達は、バルクが突っ込んで逃げ帰ったという西区画に来ていた。というのも、バルクの説明が「とにかく広くてよ、警備兵もうじゃうじゃいやがるしよ、あれは無理だろ。」という抽象的過ぎる内容だったからだ。
それに、あのイカれ警備兵レベルの強者がうじゃうじゃいたら…正直攻略出来る気がしないから、まずは様子見をするという意味合いもある。補足で言うなら、無理ゲーみたいな難易度の場合ても別区画で攻略の鍵が見つかるっていうパターンもあり得るからね。
スニーキングってさ、潜入技術が大事なのは勿論だけど、情報収集能力も大事だと思うんだ。あらゆる情報を多角的に分析して最適解を見つける…的なね。
まぁそんな訳で西区画の入口付近で様子を確認している訳なんだけど…。
「…こりゃあヤバいだろ。」
「だろ!?」
「……無理ゲー乙。」
西区画は広かった。適切な表現が上手く思い付かないけど、言うなればコンテナ置き場だ。
そして、そのコンテナ置き場を6人1組の警備兵が闊歩している。
ちょっと遠くの方では激しい銃撃音が響いてるから…きっと誰かが餌食になってるんだろな。警備兵全員が4つの銃を周囲に浮かべてるし。
そう考えると、さっきの6つの銃を操っていた警備兵は実力が高い部類に入るのかもしれない。
「どーする?突っ込んだらゲームオーバーになる気しかしないんだけど。」
「そりゃあ全力でブチ飛ばして…」
「バルク君、スニーキング試験だよ?」
眉根を寄せながら怒り口調のクレアに言われたバルクはショボンと肩を落とした。分かりやすく落ち込むなし。
「………別区画が先。」
「うん。俺も天二と同意見だ。」
「私もその方が良いと思うな。」
「……そうかよ。じゃあ、そうすっ……ブベッ!?」
ギュン!と、バルクが西区画の中央に向けて飛んでいく。
というより、吹き飛ばされた?
「……よぉ。俺が…まだ生きてることを忘れんなぁ!!雑魚どもガァ!!」
凝縮された魔力で拳を光らせる…イカれ警備兵が俺達の後ろに立っていた。
「マジかよ!」
「マジだぜぇぇ!?」
イカれ警備兵の背後から6つ……え、8つ?の銃が飛び出す。さっきより増えてんだけど!
「テメェら!!賊はここだぁ!!であえ!であえ!ぶちころせぇぇぇえええ!!!!」
狂気じみた叫び声と同時に、イカれ警備兵の声で俺たちの存在に気付いた西区画の警備兵達からも攻撃が飛来する。
最悪な展開だな!
「天二、クレア。こいつの相手は俺がやる。周りの警備兵を相手しながらバルクの救出にいけるか?」
「……しょうがない。」
「が、頑張るよ!」
「おしっ、いくぞ!」
身を低くして走り、イカれ警備兵に躍り掛かる。
コイツとの戦いを長引かせるのは得策じゃない。下手したら西区角の警備兵全員が集まりかねないからな。
両手に展開した魔法陣から右手に龍劔、左手に夢幻を取り出す。
「龍人化【破龍】!龍劔術【黒刀】!」
2つの刀に黒き龍魔力を纏わせ、イカれ警備兵の放った銃弾を弾く。
魔力網は範囲を広げた黒刀の斬撃を飛ばす事で相殺。
続け様に4つの銃から魔弾が放たれる。
体を斜めに傾けて被弾面積を減らしつつ、魔弾の軌道を逸らす。さっきみたいに爆発したら敵わないからな。
そして、イカれ警備兵の目の前まで迫った俺は双刀を左右斜め上からの斬り下ろしを見舞う。
「そんなもので負けるかこらぁぁ!!……なっ!?」
と、見せかけて…軸足の回転を掛けることで斬撃の軌道を強制的に変化させ、左から右への水平斬りを叩きつけた。
「グボぇ!?」
体をくの字に俺曲げさせたイカれ警備兵は苦悶の声…というか、どこかの世紀末的な敵キャラみたいな声を出しながら錐揉み回転でコンテナに激突した。
べコン!とコンテナの側面が凹み、ズリズリとイカれ警備兵は床に落ちる。
「グハァ………、だが………これで終わりではない。この空間が非常識な……。」
何やら不穏なセリフを残してガクンと頭を垂れたイカれ警備兵はゆっくりと床に倒れていった。
…相手を倒したのに、さらに嫌な予感しかしないんだけど。
「グギャァァオオオオオ!!!」
そして、その予感は見事に的中してしまう。
機械的な咆哮が轟いた方を見ると、どこかのゲームで見たような2足歩行のメカがハッスル!ポーズで全身を震わせていた。
両手には巨大な重火器が装着され、背中には……ミサイル?レーザー砲?を放ちそうな巨大な銃口。
これ、世界観が変わってないか?てか、魔法街ってこんな機械技術あったの!?
「あっちの方角って……バルクが飛ばされた方向だよな。トコトントラブルしか寄せないじゃんあいつ…!」
ちょっとイラッとしてしまう。
けど、流石に見捨てるわけにもいかないしな。
あの機械生物?と戦うのか…。めっちゃ気が重いんだが。
とにかく、警戒しつつ接近だな。
機械生物に向けて走り始めると、天二のものっぽい光魔法が下方から連続で機械生物に向けて放たれていた。…全く効いている様子が無いんだけどね!あの装甲、魔力を弾いてないか?
「グォォォオオ!」
地響きの様な唸り声と共に、背中から無数のミサイルが天井に向けて放たれる。そのまま天井にぶつかったら楽なのに…。
ドガドガドガァァォン!!
え?マジで天井にぶつかって爆発したんですが。
実はミサイルの性能低いのか?
「ギャャォオオオオ!!」
続いて謎の小型飛行物体が大量に空中へ射出される。なんだ?キラキラ光っているように見えるけど。
「グルァアッ!」
パカっと開いた口から…レーザーが複数本同時に上空へ放たれる。
「……あれ、ヤバいだろ!!」
思わず走る速度を上げる。
だってさ、レーザーが空中に浮かんだキラキラ光る小型飛行物体に当たって反射して…天井があった付近をレーザーの光で埋めてんだよ。アレが俺たちに向けて放たれたら…。
「くそっ!間に合え!」
全力で走り、前方に並列励起で魔法壁を発動するための魔法陣を展開する。
ヤバい、無数のレーザーが地面に向けて……!?
刹那、視界は閃光で埋め尽くされ、聴覚は爆音に翻弄され、平衡感覚は横から叩きつけられた衝撃で乱された。
何がどうなったのか分からない。
気付けば、両手両足を投げ出した格好で地面に横たわっていた。
「なんなんだよ今の攻撃……。」
軋む四肢を無理やり動かして上体を起こすと。
「グルルルル…。」
機械生物が静かに俺の事を「観察」していた。