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5-40.スニーキング試験

 コツコツコツ…。廊下に響く足音が近付いてくる。廊下の角に隠れた俺には、もう逃げ場がない。ここで見つかれば…あの場所に捕まってしまう。

 俺がいる角は廊下の突き当たり。つまり、アイツがこのまま進んできたら必ず見つかってしまう。

 …息を潜める。ギリギリまで見つかってはいけない。アイツが角を曲がろうと足を踏み出した瞬間を狙って仕留める以外に方法は無いんだ。

 タイミングを…見極めろ。


 ヒュン!


「ぐあぁ…!?」


 空気を切り裂く音が聞こえ、息を潜めていた俺の目の前に白目を向いた「警備員」の顔が現れた。


「……隠れんぼ?」

「いや、まぁそういう試験だよね?」


 倒れた警備員を跨いできたのは天二だ。相変わらずやる気の無さそうなトロンとした目で、癖っ毛だか寝癖だかよく分からない頭をポリポリしている。


「……見つからないように倒せば良いのに。この試験、隠れんぼじゃダメだよ。」

「いや、分かってるんだけどね。」


 やる気が無さそうな奴に正論言われるって…地味に悔しいな!


「…なんでやらないの?」

「魔法陣の発動光が目立つんだよ。」

「……ドンマイだね。」


 さりげなく目線を逸らしながら肩を竦める動作…「どうにもならないね」感がとっても良く表されている。

 くそー。このままだとスニーキング試験の突破難しいぞ。


「……協力する?」

「いいのか?」

「……僕も魔力量がネックだから助かる。」

「なるほどね。んじゃ、よろしくな天二。」

「…うん。」


 俺達が今臨んでいるスニーキング試験は、普通のスニーキングとは少しだけ趣向が異なる仕様になっている。

 有名なスニーキングゲームとかだと、どっかの警備が厳重な施設に潜入して破壊工作をする。とかだよね。

 最初は相手がゲーム主人公の潜入に気付いてないから、潜入も簡単なんだけど…後半から潜入に気付いた敵の捜索が厳しくなる。みたいなのが定番。

 それと比べて今回のスニーキング試験は「潜入されている」前提で警備員が捜索しているという状況だ。

 いつ潜入されるか分からない。ってのならまだ分かるんだけど、今の状況は流石にハードだ。

 簡単に言えば隠れんぼをしながら目標物を奪取するっていう。あ……◯ックマンみたいな感じだな。そう考えると捕まらないように逃げ切れば……って違う違う。


「…魔法無し縛り?」

「いや、基本的に使うよ。ただ発動光で居場所がバレそうな時は使えないよね。」

「……室内だと無力。」


 …失礼な!

 と、声を大にして言いたいんだけど、生憎事実なんだよなぁ。それこそ服の中とかで魔法陣を発動させれば、発動光は抑えられるけど…それだと威力とか精度の低い魔法しか発動出来ない。

 そうなっちゃうと、結局無詠唱魔法での身体能力強化ぎメイン戦法になるよね。

 …龍人化【破龍】も使えるかな?龍魔力の輝きが目立ちそうな気もするけど、魔法陣を使うよりは良いか。


「見つからない様に魔法を使うのがこんなに難しいとは思わなかったよ。」


 そんな俺の感想を聞いた天二は片手を顎に当てて何やら考え込んでしまった。

 薄暗い廊下を2人で静かに進んでいく。

 俺達がいるのはスニーキング試験の目標物である秘密文書が保管されているであろうビルだ。

 各階の通路が迷路みたいに入り組んでる上に、5分おきくらいに警備員が現れるから全く気が休まらない。

 普通に倒していくだけなら簡単なんだけど…問題は警備員が持っているペイントガンだ。弾丸のペイントが少しでも体に付着した時点で、強制的に牢屋へ転送されるシステムなんだよね。


「……突き当たり右から1人来る。」

「オッケー。」


 索敵が早い。俺も魔法陣が使えれば……って、魔法陣が使えない環境だと俺って無力だな。スキルが使えるのがまだ救いだけど。


「……龍人君、囮。」

「げっ。マジ?」

「……来るよ。」


 俺に選択肢ないじゃん!?

 このまま警備員が角を曲がって俺達を見つけてペイントガンを連射されたら、下手をすれば2人とも牢屋行きだ。防げたとしても仲間を呼ばれたらたまらんしね。

 それなら相手の虚を突いて冷静な行動をさせないのは確かに必要なんだよかぁ。特に曲がり角付近では警戒レベルを上げるだろうし。

 そんな訳で、俺は曲がり角の向こう側へ飛び出した。


「なっ!?」


 警備員が驚きの声を漏らしてペイントガンを発射する。


 タンッ!


 軽い発砲音と共にペイント弾が発射され、俺が展開した物理壁に着弾。弾の中からペイントが周囲に弾け飛んだ。

 危ね…!物理壁の展開がコンマ数秒遅かったら被弾してたかも。


「…龍人君、ナイス。」


 物理壁の存在を確認した警備員が腰から何かを取り出そうとするが、俺の後ろから飛び出した天二が放った光針(先っぽが丸くなってるバージョン)が鳩尾に突き刺さる。


「ぐぅぇえっ……。」


 悪役みたいな倒れ方だな。


「……結界魔法も魔法陣の光、目立つね。」


 警備員を倒したという喜びの感情が皆無な天二が無駄に分析してくる。地味に傷付くなー。


「やっぱ龍人化を使った方が目立たないかもな。燃費悪いけど…次試してみるよ。」

「……うん。チャレンジは大切。」


 ……無口な奴かと思ってたけど、案外一緒にいると的確な台詞が多いな。無口というよりは口数が少ないってのが正しいかも。


「んじゃ、次は俺がメインで倒しにいくから。フォロー頼むな。」

「……任せて。」


 うん。地味に心強い。火乃花達とはまた違った安定感を感じる。

 そこから俺と天二はビルの10階にある筈の秘密文書を目指して慎重に進んでいった。

 そして、何故か警備員と出会う事なく…10階のとある部屋近くの廊下に到着していた。

 廊下の陰から部屋の方を覗き込むと、ドアの前に4人の警備員がサブマシンガンを構えて立っている。銃に関する知識が全然無いから、本当にサブマシンガンなのかも怪しいけど、きっとそうだと思う。これでショットガンとかだったら…ヤバいな。相手の攻撃手段を読み違えると、手痛いダメージを受けることになるもんね。

 さてと、俺と天二…どういう作戦であの門番4人を突破するかだな。それに、ドアを開けた先がどうなってるのかが分からないのも問題だ。

 出来れば門番4人を静かに倒して、ドアを少しだけ開けて部屋の中を確認したい。ここ迄来ると、スニーキングよりも暗殺技術の方が求められている気がするんだが。

 4人同時に倒す位の速度が求められるから、天二の光針を主体に…。


 ツンツン


「……なんだよ?」

「………早く倒してきて。」

「え?」

「……次は龍人化使うって。」


 あ。そう言う事か。確かに次は俺が龍人化を使うって言った。天二にサポートまで頼んでいたっけ。

 でも、この大事な場面でそれを優先……するのね。

 天二は両手に拳を作って「ファイト!」みたいなジェシチャーを取っていた。こうなったら腹を括るしか無いか。


「オッケー。任せとけ。龍人化を使って上手くやってみるよ。…龍人化【破龍】。」


 龍魔力の黒い輝きを纏う。んでもって、龍魔力の輝きを極力抑えた状態を保つ。

 よし。やるか!

 夢幻に龍魔力を纏わせ、廊下の陰から全速力で飛び出す。


「なっ!敵へ…ぐあっ……!?」


 警備員の1人が俺に気付いてサブマシンガンを構えるが、その指が銃弾を発射する前に夢幻の刀身が首筋に突き刺さる。


「ぐぇっ!?」

「プギャっ」

「アヒィぃィン!?」


 若干おかしい声が聞こえたけど…無視しておこう。

 ともかく、警備員が何かしらのアクションを取る前に沈黙させる事には成功した。


「……お見事。峰打ちの名手。」

「お、おう。ありがとう。」


 今のは褒められたのか?…そうだと思っておこう。変に聞いて自分で自分にダメージを与える必要はないからな!

 それにしても、今の龍魔力を抑えた戦い方は良い経験になったかも。もう少し操作が上手くできるようになれば、龍魔力の部位集中なんて芸当も出来そうだね。


「……中の警備皆無。」


 ドアの隙間から部屋の中を確認していた天二が首を傾げた。

 警備皆無って…違和感なのは間違いない。潜入されている前提の状況で、狙われている物が保管されている部屋の外にしか警備がいないとなると疑うのは罠の存在か。

 天二に促されて部屋の中を見ると、部屋の中心に長方形の台座の上があって、その上に何かの紙が束で置かれている。


「俺は罠だと思う。取ろうとしたらペイント弾が発射されるとかじゃないかな。」

「……諦める?」


 腕を組んで首を傾げる天二に対して、俺は首を横に振った。


「罠がある前提で行こう。物理壁の展開が出来るようにして襲撃に備える。んで、秘密文書を取ったら即退散だ。」

「……分かった。」


 あのロア長官がそんな簡単な罠を用意するとは思えないけど…。尻込みしてても何も始まらないからな。

 俺と天二は目線を交わしてタイミングを合わせ、部屋の中に突入した。

 人影はない。もしかしたら、部屋に入るまでをクリアすればオッケーなのか?

 何の障害もなく秘密文書と思われる紙が置かれた台座まで到着する。


「…完全に遊んでるな。」


 台座に置かれた紙束の横に1枚のメモ紙。

 そこには「この紙を5枚集めると、真の情報が浮かび上がるよーん」と書いてあった。よーんってなんだよよーんって。


「……案外簡単。」

「だな。さっさと秘密文書を貰って別の場所に向かうか。」


 肩をすくめながら秘密文書を手に取る。


 ゴゴゴゴゴ…………。


 なにこの振動。


 ドォオォォン!!


「マジかよ。」


 四方の壁の手前から別の壁がせり上がって俺達は部屋に閉じ込められてしまう。

 そして、ガコンガコンと新しく現れた壁の一部に穴が空き、赤色の液体がドバドバと出始める。


「……血?」


 それは流石にないだろ。血ならもう少し赤黒い……ってそう言う事じゃない。

 ……ん?鮮やかな赤だから、もしかして。


「なぁ天二。」

「…ん?」

「この液体さ、ペイント弾の中に入ってるペイントじゃない?」

「………それはマズイ。」


 本当にそうだとしたら、結構詰んでる。

 どうする!?どうする!?


「壁壊す?」

「……そこからペイントの可能性も。」

「じゃあ物理壁で耐えるか?」

「……酸素が足りなくなる。」

「だぁぁぁあ!やべーって!」


 天二と2人でドタバタと対処法を言い合う間も、壁から放流されたペイントが俺たちに迫ってくる。

 マズイ。あと1分もしないで俺たちの所に到達するぞ。

 落ち着け。落ち着け。横の壁は壊せない。ペイントを防いでもジリ貧になる。そうだとしたら方法は……。


「「………あ。」」


 俺と天二の声がハモる。

 目線を合わせ、近くの床に視線を動かして、再び目線を合わせる。


「……それしかない。」

「天二の魔法で出来る?」

「………出来なくは……ない。」


 まぁそうだよな。天二の光魔法は点を主体にしたものが多いから。そうなると、俺が魔法をどう使うのかが鍵だ。


「ぶっつけ本番になるし、確証は無いけど……これしか無いか。」

「……やろう。」

「オッケー!龍人化【破龍】!」


 俺と天二の周囲に円を描くように魔法陣を配置していく。更に俺たちを守るように魔法障壁を展開。そして、即座に周囲に配置した魔法陣を発動。

 ゴォォォオオオという音を立てながら熱線が…床に突き刺さる。……やっぱり壊れないか。部屋の雰囲気が他の部屋とか廊下と違うから、使っている素材が違うかもとは思ったけど。


「龍人……間に合わない。」

「間に合わせる…!」


 熱線を発動する魔法陣の効果時間が終わるのに被せて別の魔法陣を展開。さっきの出力じゃ間に合わなそうだから、並列励起と直列励起を併用する。

 次に放ったのは冷線。熱した床を一気に冷やす。そして…再び熱する!

 …ペイントが到達するまで後10秒も無い。もっかいやって…!!


「…後は僕。」


 右手を上げた天二が出現させたのは無数の光針。俺が熱して冷やしてを必死に行った床の上に出現し、光針の上には槍まで出している。


「えーっと、天二さんや?」

「……時間がない。」


 嫌な予感に頬を引き攣らせせる俺を無視して天二の魔法が床へ突き刺さり…これでもかと言うほどの大爆発が起きたのだった。

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