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5-38.模擬戦4日目

 観客席から発せられた悲鳴に…誰も反応しなかった。

 反応出来なかったのではない。反応する必要が無かったんだ。だってさ、その原因が余りにも明確だったから。

 観客席にいる全員の視線が、上に吹き飛んだ床の破片に掴まってぶら下がるフルへ集中していた。


「ふぅ…俺がさっきの攻撃を耐え切った事に驚き過ぎじゃないか?…それにしてもスースーするな……………。なぁっ!?」


 自身の凄さに注目されていると「勘違い」したフルは、自分の下半身を見て…目を見開いた。


「な、何故俺の服が……!?」


 最早ギャグだろ。フルがふる〇〇。

 天二の攻撃が凄かったのは分かるけど、何故ズボンだけ無くなってるんだよ…。


「………変態。」


 攻撃を仕掛けた本人である天二は、フルの醜態を見て顔を顰めていた。


「そんな……俺の美しい裸体が晒された程度で、変態だと!?失礼にも程がある!」


 …絶句とはまさにこの事。ふる〇〇で「美しい裸体」と言ってのけるとか……素晴らしく強靭な精神の持ち主だわ。


「……キモいから終わらせる。」


  掴まっていた床の破片から手を離して目の前に着地したふる〇〇のフルに対して、天二は本当に嫌そうな顔をした。

 まぁそうだよね。少しは隠そうとして欲しいもんだ。


「人をキモい変態だのと言いたい放題言ってくれるな!後悔するが良い!」


 フルの持つ剣に再び雷光が迸る。

 …審判、一回着替える時間をあげりゃぁ良いのに。実践で着替える時間があるのか?って言ったら無いんだけどさ。流石にモザイク必須の現環境はヤバいって。


「この技で決着を付けてやろう!雷鳴剣【轟】!!」


 フルがスキル名詠唱を行った瞬間に、その名の通り轟く雷光が剣に収束していく。

 …凄い魔力圧だ。あれ、直撃したらやばくないか?


「………やるね。」

「俺にスキルを使わせた事、誇りに思うが良い!そして、その威力を身をもって味わえ!」


 ドンっ!と空気が弾ける音が聞こえた瞬間、天二の真正面に移動していたフルが隙のない構えから袈裟斬りを放つ。


「……!?」


 その斬撃は…規格外の一撃だった。

 斬撃が通った空間を轟く雷光が埋め尽くしたんだ。スキル名は伊達じゃ無いってか。

 斬撃の回避には成功したけど、雷光に飲み込まれた天二を続け様に放たれた斬撃と雷光の2重ダメージが襲う。


「フィニッシュだ!」


 そして、ダメ押しとばかりに4連の斬撃が叩き込まれ、全て直撃を食らった天二は床に崩れ落ちた。

 剣を肩に担いだ決めポーズを取るフルの姿は…残念の一言だった。カッコいい筈なのに、寧ろ猥褻罪に問われる格好。コイツ、貴族風イケメンだけど…中身は相当残念キャラじゃないか?


「…これにて試合終了だぁ!フルはさっさと着替えろ!よぉっし、次は…。」


 こうして破廉恥しか記憶に残らないフルと天二の戦いは幕を閉じた。


「プラム。天二の強さに違和感があるのちょっと分かるかも。」

「やっぱりそうなのよ。強いのに持続力が短いし、あれだけの威力の魔法を使えるのにスキルを使わないの。所々矛盾しているのよ。」


 顎に手を当てて「むむむむ」と考え込むプラム。

 そんな彼女を他学院の男学院生達がチラチラと見ているのは気のせい…では無いだろうね。なんつーかプラムの外見ってベストオブロリータみたいなトコがあるし。


「もしかしたら、何か理由があって魔力を制限してるのかもよ?」

「そんな理由…あるのかしら。」

「例えば一定量の魔力以上使わないようにしてるとか。」

「理解は出来るけど、それで負けてたら意味がないと思うのよ。」

「そりゃそうか。」

「まぁ深く追求する必要もない。という感じでもあるかしら。」


 イマイチ釈然としない表情のプラムだけど、そこは個人の事情があると自分を納得させたのか、腕を組みながら次の模擬戦観察を始めるのだった。


 さてと、俺はどうしよっかな。ずっと模擬戦を見てるのは…勉強になるのは間違いないんだけど、正直少し暇なんだよなぁ。

 それなら、ちなみが使っていた複合魔法のもう一歩先を探って特訓する方が、時間を有意義に使える気もする。


「…じゃ、俺は抜けるね。」

「えっ!?見ていかないの?」

「うん。特訓してくる。」

「ホント自由なのよ…。」


 なんか呆れ顔をされたんですけど。普通は模擬戦見るでしょ?って事なのかね。ラスター長官も出入り自由って言ってたんだから、問題はないはずだけど。


 ともかく、そんな感じで模擬戦3日目は終了した。今日は6試合やったらしいから、初日から合計で20試合。

 もう2回模擬戦をやってる人もいるらしいから、明日あたりに模擬戦やることになるのかなー。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 そして翌日。

 模擬戦を行う闘技場の観客席で他の人が戦っている様子を見ていた俺達は、首にナイフを突き付けられていた。


 何故そんな状況になっているのかと言うと、実は状況が良くわかんないんだよね。

 普通に模擬戦を見てたら、いきなり闘技場の入り口から白いフード姿の人物が大勢乱入してきて…俺達の首にナイフを突き付けてきたんだ。

 やけに統制が取れた動きで観客席に座る全員の動きを封じた訳だから、なんつーか…訓練された集団って感は否めないんだけど。さて…どう動くかな。

 因みに模擬戦を行なっていたシャイン魔法学院とダーク魔法学院の人達は闘技場の床に組み伏せられている。


「この場は我々が制圧した。魔導師団というふざけた組織を結成させる訳にはいかない。ある程度の実力者が集められているのだろうが、所詮は魔法学院の1年生。実力はたかが知れている。我々の言うことを聞いて、奴隷として働くか…この場で命を落とすのかを選ばせてやろう。」


 うわぁ…無理難題を押し付けてきたよ。

 どこの誰かも分からないのに奴隷になるとか…流石に無理だろ。つーか、こいつらどうやってこの人数で魔導推進庁に入ってきたんだよ。もしかして…魔導推進庁自体が占拠されてんのか?


「我々の奴隷になる者は静かに、そのままで。死を望むものは…手を挙げるが良い。」


 …性格悪いな。奴隷になる人が手を挙げるんじゃないのか。自分の意思で死を選ばせるとか、やり方がエグい。

 目線だけ動かして周りを確認するけど、手を挙げる人は誰も居なかった。そりゃぁそうだよね。自分で死を選ぶとか…普通に考えたら頭がおかしい行為だ。それなら奴隷となって反撃の機会を窺う方がよっぽど良い。

 普通ならね。

 シュパッと、視界の端で手を挙げる人がいた。

 おぉ。やるね。


「ははっ!これは燃えるシチュエーションだねっ。じゃ、いっくよ〜!」


 場の雰囲気にそぐわない快活な声を出したのはルフトだった。ある意味で期待を裏切らない行動だよ。ルフトはこう言う時に「どうやって切り抜けるか」を考える奴だからね。原動力はきっと「その方が強い奴と戦えるから」とかなんだろうけど。

 んじゃ、俺も便乗するか。

 ルフトが上に挙げた手の動きに合わせて竜巻を発生させ、ナイフを突きつける白フードを飛ばしたタイミングで、俺も足元に展開した魔法陣から雷撃を発動する。


「あばばばばっ!?」


 俺にナイフを突きつけていた白フードは体を痙攣させた後に煙を上げながら倒れていった。


「さて、どこのどいつだか知らないけど、俺達魔法学院の生徒をなめんなよ?」


 魔法陣から取り出した夢幻の切っ先をリーダーっぽい白フードに向ける。


「そうだ。俺達は崇高なる魔法使い。君達のような得体の知れない人物に負ける訳にはいかないのだよ。」


 俺と同じく白フードを感電させてフルが優雅に立ち上がりながら言った。

 今日はフル◯◯じゃない普通のフルだ。


「全くだ…フン!」


 首元にナイフを突き付けられているのに、それを全く意に介さない腕の一振りで白フードを吹き飛ばしたレオは、首をポキポキ鳴らしながら獰猛な笑みを浮かべる。


「戦うなら正々堂々と来いってんだ。小賢しい手を使う奴は弱いってのが相場なんだよ。なぁ?」


 いや、「なぁ?」って同意を求められても困るんだけど。つーか、俺じゃなくて友達のフルに聞いてくれ。反応に困るっての。


「じゃぁ、私達に手を出した事…後悔して貰おうかしら?」


 ブワッと噴き出した焔で白フードを黒フードに変えた火乃花がギラギラした目で告げる。

 …って、なんで白フードに抑えられてるロア長官を睨んでんだ?「長官の癖に弱すぎ」とか思ってんのかな。


「お前ら……我らを舐めるな!」


 俺達の不遜な態度にイラッとしたのか、白フードリーダーらしき男がイラついた声で叫ぶ。

 そして、この声を合図に全員が動き出した。

 そこかしこで白フード対学院生の戦いが始まり、闘技場内を魔法が乱れ飛ぶ。


 さて、俺は他の皆とは少し違う動きをしようかな。ただ戦うだけだと、相手が集団の意思で動いていた時に不利な状況に陥る可能性があるからな。

 夢幻に風を纏わせた魔法剣で近寄ってくる白フードを牽制しながら、なるべく全体を俯瞰出来る位置取りを心掛ける。

 集団で攻めてきた割に、今の乱戦状態になってから白フード達の動きは個々なんだよね。闘技場に入ってきた時の統率された動きと違いすぎる気も…。


「うらぁ!」


 横にある柱の陰から白フードの1人がナイフを投擲してくる。


「おっと…!」


 カカカカン!

 俺が避けたナイフは小気味良い音を立てながら壁に突き刺さった。


「ちっ!外れたか!まだまだぁ!」


 再びの投擲。今度は炎を纏ってるバージョンか。夢幻で攻撃を弾きつつ、風刃を飛ばす。

 白フードも中々の手練れなのか、風刃では全く動じることなくナイフを投擲してくる。

 にしても…属性魔法付与だったり、魔法付与無しだったりと変則的な攻撃を仕掛けてくるな。攻撃力を高めるなら全てのナイフに属性魔法を付与すりゃいいのに。


「…ちょっと確認してみるか。」


 魔法陣直列励起で威力を高めた雷撃で白フードを吹き飛ばした俺は、闘技場の壁を蹴って天井近くまで飛び上がった。

 眼下では白フードとの戦いが継続して繰り広げられている。

 動き回って戦う白フードに、立ち位置を殆ど変えずに戦う白フード。そして、壁や床に突き刺さったナイフ。

 俺の予想が正しければ…けど、効果が分からないな。


「先ずは対抗策か。」

「そこのお前!何をするつもりだ!」


 リーダー格っぽい白フードが俺の高さまで飛び上がってきて氷礫を散弾銃の様に放ってきた。


「危ねっ!?」


 ぎりぎりのタイミングで魔法壁を展開して防ぎつつ、雷撃を叩き込む。


「この程度の攻撃で俺を倒せる訳ないだろうが!」


 白フードは雷撃を魔法壁で防ぎつつ、周囲に浮かべた氷礫を足場に空中を縦横無尽に飛び回り、変則的な動きで斬りつけてきた。

 キィィィン!

 白フードの短剣と俺の夢幻の刃が交差する。


「中々の反応速度。しかし、それでは俺達に勝てない!」


 俺と白フードを覆うように氷柱群が出現。

 …えぇ、なにこの自爆攻撃的な雰囲気。


「くたばれ!」


 容赦無く氷柱が俺と白フードに突き刺さる。…て、そんなの許容出来るか!!

 白フードを蹴っ飛ばし、物理壁で氷柱群に無理やり隙間を作って抜け出す。その直後、ガガガ!という音を立てて氷柱が集結し、球体のようになった。マジ危ねえ。


「…くくく。想定通りの行動。これで俺達の勝利!!」


 氷柱に貫かれた筈の白フードが氷柱で作られた球体の中から出てくる。

 そして、右手に持っている謎の青い球を掲げる。


「…そういう事か!」


 やろうとしている事は分かったけど…間に合うか微妙だ。

 青い球から光が迸り、闘技場内を線となって駆け巡る。それは時に壁や床に突き刺さった短剣に弾かれ、戦う白フードを突き抜け…意味のある図形を描いていく。

 多分だけど、これは短剣と人を起点にした魔法陣だ。魔法陣の一部しか構成内容が分からないけど、おそらくは…。


「極寒世界にて凍え死ぬが良い!氷結地獄!!」


 魔法陣が…発動する。

 しかも、この魔法陣…平面じゃなくて立体だ。立体魔法陣の空間内に影響を及ぼす魔法陣か!

 ドーム状に構築された魔法陣の中に…吹雪が出現した。

 寒いっ…!このままじゃ、寒すぎて動きも緩慢になるし、寧ろ凍死しちまうだろ!

 こうなったら。


「龍人化【破龍】。」


 これで魔法陣展開の上限を無くして…。

 右手を立体魔法陣の一部に突っ込んだ。その部分が明滅を始める。


「…これでいけるか?」


 バチィン!という弾ける音が響き渡り、俺が手を突っ込んだ場所から魔法陣がゆっくりと解けていく。


「貴様…何をした!?」

「何って、魔法陣に干渉して魔法陣構成の継ぎ目を壊したんだよ。」

「なっ、そんな事が…!?」


 俺がこんな事を出来るとは思ってなかったんだろうね。想定外の事態に白フード達の動きが一気に鈍る。

 そして、そのタイミングを逃すはずが無い人物がいた。


「龍人君ナイス!真焔【流星】!」


 火乃花だ。上空に跳び上がって発動したスキルによって拳大の焔が無数に出現し、闘技場内にいる白フードに向けて飛翔する。

 連鎖する爆音。焦げていく白フード。

 そこからは一方的な殲滅戦だった。

 ものの数分で鎮圧された白フードが1箇所にゴミのように集められ、結界内に閉じ込められる。

 よし。そしたらコイツらの正体を暴かないとな。…と、思ったら。


「これで終わりですわ。…で、何か申し開きする事があると思いますわ。ねぇ?ロア長官?」


 と、マーガレットが鋭い視線を闘技場観客席の中央に座るロア長官へ向けたのだった。

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