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5-35.魔導師団選抜試験 模擬戦 おかっぱ野郎

 文隆と向かい合った俺は、凶悪な笑みを浮かべながら夢幻を構える。


「文隆。良かったな。早々に俺と戦えて。」

「ははっ!良く言うよ。ボロボロの雑巾みたいに転がる未来が分からないのかい?」

「ま、やってみりゃ…分かるだろ。」


 簡単に挑発し合った後、俺達は口を閉ざした。

 強気な態度で応対したけど、そうは言っても文隆は強敵…だと思う。前に中央区で魔力が暴走したヤンキー達を簡単に制圧していたし、何よりもあの遼があそこまでボロボロに負けるんだ。油断出来ない相手である事に間違いは無い。


「さて、それでは試合を開始しますね〜どうぞ!」


 …今日の審判、微妙に間の抜けた声出すな。


「っと!速攻かい!」


 審判に気を取られていたら、一気に距離を詰めてきた文隆が手に持った棍を…俺の喉元目掛けて突き出してきた。

 ギリギリで避けて反撃を………駄目だ!

 嫌な予感が背中を走り抜ける。咄嗟に展開した魔法陣から風を発生させた余波でグンっと体を横にズラして棍を避ける。

 …予想通り。俺の居た空間が歪み、爆ぜた。あのままギリギリで避けてたら、巻き込まれて相応のダメージを受けてたぞ。


「っつ!中々の威力じゃんかよ。」

「はん!今の程度でビビるなら、お前はその程度の小物って事だよ!」


 文隆はクルクルと棍を振り回しながら、俺へ連続で突きを繰り出してくる。

 多分ひとつひとつの突きにさっきの空間が爆ぜる魔法が込められてる筈。なら…。


「…防ぐか!」


 棍の軌道上に物理壁を展開して動きを阻害しつつ、文隆の後ろに移動して魔法陣を直列展開する。物理壁は一瞬だけ持ち堪えて壊れてしまったけど、後ろに移動出来たからそれで十分だ。

 ただ、棍の先に溜められていたであろう衝撃波が、物理壁との衝撃で起こした突風が体の側面にぶつかってくる。

 くそ…体勢が崩れた。魔法後の追撃は難しいな。


「これで吹き飛べ!」


 発動するのは…文隆が使っているであろう衝撃波だ。

 直列励起した魔法陣が光り輝き、衝撃波を文隆の背中に向けて放った。


「…ふん。こんなので俺がやられる訳ないっての。」


 俺に背中を向けたまま、文隆は背中側へ棍を移動させ…衝撃波に対して衝撃波をぶつけてきやがった。

 2つの衝撃波が互いを喰らい合い、余波が周囲を席巻する。


「やるじゃんか。」


 衝撃波の余波を利用して距離を取った俺が褒めると、文隆は楽しそうに笑う。


「お前もな。俺の激震棍の連撃をここまで簡単に捌く奴は珍しい。」

「街立魔法学院には沢山いると思うぞ?」

「な……!?と、とにかくお前は強いと認めてやる!様子見はこれで終わりだ。ここからが…本番だっ!」


 微妙に動揺しかけた文隆は、体を斜めに構えて激震棍を構える。

 …雰囲気が変わったな。台詞通り本気を出すって事か。


「はぁっ!」


 気合いの声と共に…文隆の姿が消えた?……違う!衝撃波を利用してノーモーションでトップスピード移動をしたんだ。


 ガギィィィン!!


 激しい金属音を響かせ、夢幻と激震棍が激突した。危ねぇ。防御出来たの…ほぼ勘だよ。奇跡だな。


「…ぐぅぅ!?」


 けど、それだけじゃ済まなかった。激震棍から発生した衝撃波が俺を吹き飛ばす。


「まだまだ!!」


 吹き飛んだ俺の着地地点に移動した文隆は、勝利を確信した笑みを浮かべて小さなタメの後、激震棍を突き出した。これまでよりも大きな魔力を纏っている。…アレの直撃を受けたら遼の二の舞だ。

 ま、受けたら…だけど。


「龍人化【破龍】。」


 スキルの詠唱と共に、内に秘められた龍魔力が顕現し、黒い輝きが体の周りに出現する。

 更に黒く変色した夢幻を構え、もうひとつのスキルを唱えた。


「龍劔術【黒刀】。」


 赤い稲妻を纏った黒い魔力が夢幻の刀身を覆う。


「そんな見掛け倒しの攻撃…!」


 文隆は俺を馬鹿にしたような笑みを浮かべる。けど…。


「な……!?」


 俺の夢幻が激震棍をはじきとばしたことで、文隆の表情が変わった。余裕のそれから、驚愕に。


「余裕ぶっこいてると、ボロ負けするぞ?」


 激震棍を弾かれて体勢を崩した文隆の懐に入り、敢えて蹴りを腹部へ叩き込んだ。勿論、ただの蹴りじゃない。龍人化【破龍】によって顕現した龍魔力を脚に集中させた、凶悪な蹴りだ。


「ぐぁ!?」


 吹き飛んだ文隆は闘技場の床を転がる。…痛そうだな。


「……くそ。お前、強いじゃないか。」


 蹴られた腹を押さえながらフラフラと立ち上がった文隆は、乱れたおかっぱ風ヘアスタイルを整えながら睨み付けてくる。


「もう勝負は決まっただろ。降参しろよ。」

「はぁっ!?何を言ってるんだ。これからだ。これからが面白いんだろう!?」


 …気付いてないな。俺が敢えて蹴りにした理由を。


「文隆。」


 呆れ声で名前を呼ばれた文隆は眉をピクピク痙攣させながら返事をする。


「なんだよ!?」

「さっきの蹴りが俺の剣だったら、今頃どうなってるんだろうな?」

「……てめぇ!」


 つまり、さっきの攻撃で勝敗が決していたって事だ。それに気付かないって…案外アホか?

 俺に馬鹿にされたと思ったんだろうね。文隆は怒りの表情を露わにしつつ、激震棍をクルクルと回転させ始めた。


「これでぐちゃぐちゃにしてやる!!」


 …うわ、嫌な予感。


「これでくたばれ!!震技【咲乱】!!」


 激震棍の先端が光る。


「……マジか!?」


 ら衝撃波みたいなのが無作為に放たれ始めた。なんだよこの力任せなスキル。


「俺の属性【衝撃】が最強だってのを身をもって味わいやがれ!」


 成る程。衝撃ね。自分で属性を言ってくれるとは中々…。

 問題は衝撃波1発の威力が異常に高い事だ。それに、無作為とは言っても一定の方向性は持たせられるみたいで、俺のいる方に向かう衝撃波の密度か高い。

 気を抜いたら…負けるな。1発食らって無防備な状態になったら、それこそボロ雑巾みたいになるまて次々と衝撃波を受けそうだ。

 なんつーか、強い属性魔法に頼り切った無駄の多い攻撃だね。まぁその分脅威的だけど。


「力技には…力技だろ。」


 魔法陣を展開しつつ…突撃を選択する。龍劔術【黒刀】の夢幻で正面から飛んでくる衝撃波を弾きつつ…って、1発の威力やっぱりヤバいな!連続で弾くのは難しいぞ。

 作戦変更だ。

 展開していた魔法陣を連続で発動する。

 水砲を文隆に向けて連続射出。衝撃波と激突し弾け飛ぶ。大量の水が弾け飛ぶ事で、雨の如く水が降り注ぐ。

 んで、仕上げは動きながら地面に仕掛けた魔法陣の一斉発動。魔法陣から水を一瞬で蒸発させるレベルの高熱が発せされる。


「はっ!この程度の熱で俺が負けると思って…!?」


 水は蒸発すると何になるか?そりゃぁ簡単。水蒸気だ。そして、その水蒸気が大量に発生すると…濃霧のように視界が遮られる衝撃波が水蒸気を吹き飛ばすけど、それじゃぁ視界は晴れない。


「よし。」


 濃霧が発生したタイミングで闘技場の天井近くに飛び上がっていた俺は、水蒸気に包まれて俺を見失っている文隆を見下ろして肩をグリンと回した。

 んで、魔法陣5つの直列展開を5つ並列展開する。合計25個の魔法陣が直列並列励起し…雷のような電撃が闘技場一帯に降り注ぐ。


「ぐ…ぎゃぁぁぁ!?」


 水蒸気でびしょ濡れだったろうからね。そりゃぁ電撃は効果覿面だろう。


「おい…あいつ、今使った属性魔法何個めだ?」

「あの黒い魔力も含めたら5個目じゃないか?」


 お、他学院の奴らが俺の使う属性魔法の種類が普通より多いことに気づいたみたいだな。


「う…まだ…まだだ!」

「しぶといな。」


 水蒸気が晴れた所に立っていたのは、所々焦げた文隆。結構なダメージだったと思うんだけど、俺の事をギン!って睨んでいる。タフだ。


「まだだ。俺は、俺は…強いんだ!」

「上には上がいるんだよ。」

「…はっ!あの遼って奴はクソボロになっただろうが!俺と戦う奴は皆があ〜ゆ〜雑魚みたいになる運命なんだよ!」


 カッチーン。

 言い方ってものがあんだろう。


「おい。」

「なんだよ…!」

「いい気になるなって。このおかっぱ野郎。」

「お、お、お…おかっぱ!?この俺の、この髪型をおかっぱって言うのか!?し、失礼な奴だな!!」

「おかっぱはおかっぱだろうおかっぱ野郎。人の悪口ばかり言いやがって。斬り伏せてやる。」


 魔法陣を展開し、龍劔を取り出す。

 ここからは手抜きは一切なしだ。


「龍劔術【黒刀】。」


 龍劔が黒い龍魔力に覆われ、赤い稲妻が刀身に纏わり付く。


「な、なんだよ!そんな怖い顔をしたって怖く無いんだからな!」

「…はいはい。行くぞ?」


 ダン!と地を蹴り、文隆へ向かって駆ける。


「う、うわぁぁぁ!!!」


 文隆は錯乱したように激震棍を振り回して衝撃波を放ってくるけど、衝撃波が放たれる度に魔法壁を展開して俺に届く前に防いでいく。

 そして、4つの衝撃波が纏まって正面から飛んできたのに対し、龍劔と夢幻の交差斬りで衝撃波を霧散させる。その先に居るのは…焦りの表情で顔を引き攣らせた文隆。


「遼に対してやった事を悔いて負けてくれよ?」

「なっ…!?」


 文隆の返事を待たず、双刀による斬撃を連続で叩きつけた。


「ぐあぁぁっ…!」


 斬撃の衝撃に身を仰け反らせた文隆は、天井を仰ぎながら倒れていった。


「これで懲りたか?」

「くそ…俺はまだ死ね無い!この程度の出血で……あれ?出血……えっ?」


 2本の刀で容赦無く斬られたのだから、通常であれば致命傷レベルの出血に至ってもおかしくない。

 …峰打ちじゃなかったらな。

 こいつには一方的な暴力以外でも力を示せるって事を学んでもらわないとね。


「…まさか、お前、この後に及んで手加減したのか?」

「手加減はしてないよ。攻撃は全て全力。ただ、刀が峰打ちだっただけだ。結果はどちらにせよお前の負け。その先にお前が生きているか死んでいるか。それくらいだろ。違うのは。」

「そんな…俺は…。」


 仰向け状態で体を動かす事が出来ない文隆は、瞳から涙を零す。


「………俺の負けだ。」


 少しして、文隆は静かな声で負けを認めた。

 この言葉を言うのに、きっと俺には計り知れない葛藤があったんだろうな。

 今回のことをきっかけに、属性魔法に頼りすぎない強さを身に付けてくれれば良いんだけど。


「はい!それでは高嶺龍人、浅野文隆の試合は高嶺龍人の勝利となります!いやぁ良い戦いでしたね。」


 観客席に座る他の学院生達から送られる疎な拍手を背に、俺は選手控え室へと戻る。

 いやぁ、ちょっと感情的になっちまった気がしたけど、魔法の使い方は前よりも上手くなった気がする。

 もう少し龍劔術【黒刀】の瞬間火力を上げられれば、もう少し戦略の幅が増えると思うんだけどね。


「龍人君。お疲れ様。」


 そこに居たのはクレアだった。


「次はクレアなのか。」

「うん。相手が誰なのか心配だけど、全力で頑張ってくるね!」

「おうよ。俺も観客席で応援してるよ。」

「ありがと。私も特訓の成果を見せなきゃ!」


 ニコッと気負いしない笑顔を見せたクレアは堂々とした足取りで闘技場へ向かっていった。

 さて、俺は休みつつ応援でもしますかね。

 係員の人に案内されて観客席に移動した俺は、闘技場の上に立つクレアの相手を見て思わず呟いてしまう。


「…この組み合わせ、絶対なんかの意図があるだろ。」


 そこに立っていたのは金髪縦ロールを揺らす抜群スタイルの美女…マーガレットだった。

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