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5-34.魔導師団選抜試験 模擬戦

 タリスマンの光に包まれて魔導推進庁の選手控室へ強制的に戻された俺は、近くにいた係員へ声を掛けた。


「あの…俺模擬戦って、何試合目ですか?」

「えー…10試合目ですね。高嶺龍人さんの模擬戦が本日最終試合の予定です。」

「10試合目か。ありがとうございます。」


 その日の最終試合とか注目されそうじゃん。初日だから皆会場で見てそうだし。

 控室に置いてあったラスクを齧りながら待っていると、突如控室が揺れる。俺の前の人達の試合で揺れてんのかな。震度5の地震並みに揺れてるような気がする。

 そんな呑気な事を考えていると、揺れが収まってすぐに闘技場の方が騒がしくなった。


「はい!どいてどいて!!急患です!」


 ガタガタと音を立てて入ってきたのは、担架を担いだ係員2名と、その担架に乗せられた…。


「……遼?」


 両手両足が変な方向に曲がり、全身ズタボロ状態の…俺の親友だった。


「君、この子の知り合い?一先ずどいて!早く治療しないと危ないから!」

「あ…はい。」


 控室を通って運ばれていく遼を見ることしか出来なかった。

 …遼の対戦相手は誰だったんだ?あそこまで痛めつける必要ないだろ。


「あっ、高嶺さん!まだ次の試合では…!」


 係員の制止を無視して闘技場に入る。

 ボロボロに破壊された闘技場の中心には…おかっぱちっくな黒髪の青年が佇んでいた。白ワイシャツにジーパンを履いて立つ姿は静かで、周りの惨劇と本人の様子のギャップに強い違和感を覚えざるを得ない。


「お前は…。」

「ん?君は…さっきの遼君の友達かい?」

「あぁ、そうだ。」


 コイツ…魔瘴石の事件の時に中央区で暴走したヤンキーをぶっ飛ばしてた奴だ。


「いやぁ、ごめんね。余りにも弱くて、思わずやり過ぎちゃったよ。」

「…は?」

「そう怒るなよ。俺はお遊びでここに居る訳じゃぁないし、それにさ…命の危険性については事前に説明があったよね?」

「……。お前、腐ってんな。」

「ははっ!好きに言えよ!勝者が正義だろ?」

「名前は?」

「いいねぇ。逆上せずに名前を聞いてくるあたり、自制心は強いのかな?俺は浅野文隆。君は?」

「俺は高嶺龍人。文隆…俺と戦う事になったら覚悟しろよ?その腐ったプライド、へし折ってやる。」

「望むところさ。」


 肩を竦めた文隆は、一触即発の雰囲気となった俺たちに対して退場を促す審判の言葉に従い、反対側の控室へ歩き去っていった。

 絶対許さんからな。ボッコボコにしてやんよ。


「いいねぇ。」


 会場に拡声された声が響く。…ロア長官か。


「君達のそういう闘志溢れる姿には好感が持てる。まぁ、実力社会であるのは間違いが無い。どんなに正論を述べようと、目の前に迫る暴力に負ければ正論は正論で無くなる。つまり、正しいことを正しくする為には、其れ相応の力が必要だと言う事。観戦しているお前達もその事は重々心に刻むべきだな。さ、次行こうか。」

「は、はい。それでは、次の試合は街立魔法学院の高嶺龍人と、ダーク魔法学院の…。」


 そのままダーク魔法学院の奴と模擬戦を行う事になった俺は、圧勝した。

 ラスター長官から「聖龍が封印されている場所は分からない」って話は聞いたんだけど、どうやら「封印されている聖龍を解放する為には、それに起因する力を使いこなす事が必要かもしれない」って話だったんだよね。

 つまり、俺に宿る龍の力を十全に使いこなせなければ…聖龍が封印されている場所が分かったとしても、解放できない可能性があるって訳だ。

 だから…と言う訳じゃぁ無いんだけど、出し惜しみはしない事にしたんだよね。

 その結果、初っ端から全開で攻め…圧勝と。文隆の態度にムカつき過ぎて対戦相手の名前すら覚えていないのが、ちょっと失礼かな。とは思ったけど、戦った後に「名前なんだっけ?」って聞くのもアレなのでスルーさせて頂きました。


 その日の模擬戦はやっぱり俺の試合で最後だったらしく、ロア長官の「君達の戦い方は非常に面白い」という賛辞を受けて解散となった。


 今更なんだけど、毎日模擬戦をやるって…学院の授業に全然参加出来ないじゃん!

 と、思ってたら…。


「午前中は授業、午後に模擬戦というスケジュールで1週間行うらしいのですわ。ハードなのです。」


 と、ルーチェが教えてくれた。どうやら俺がラスター長官の所に行っている間に案内があったらしい。

 最初に案内しとけし!って心の中で叫んだ俺は間違ってないと思う。


 そして翌日。

 午前中の授業を終え、模擬戦を行う魔導推進庁の闘技場に到着した俺は…。

 マーガレットに壁ドンされていた。

 時は模擬戦2試合目が開催されている頃。

 場所は魔導推進庁の一室。マーガレットが係員に頼んで借りたらしい部屋に呼ばれた俺は、壁ドンされつつ至近距離に迫るマーガレットの顔を真っ直ぐ見つめていた。


「龍人…悔しくないのですか?」


 二次元的な考えでいくと状況的には胸キュンなシチュエーションなんだけど、マーガレットの顔は真剣そのものだった。胸キュンもドキドキも全然ない。…無いはずだ。


「そりゃぁ悔しいさ。でも、あの場で俺が何かをするのは別の話だろ?」

「そうかも知れません。でも、浅野文隆…彼の戦い方は、遼がボロボロになっていくのを楽しんでいましたわ。断じて許せる行為ではありませんわ。」


 遼が負けるまでの過程…そんなに酷かったのか。


「俺だって結構やる気だぞ?模擬戦じゃ無かったらあの場で叩き潰しに行ってたし。けど、今は魔導師団選抜の模擬戦だ。そのルールに則ってアイツを倒す必要があるだろ。」

「…もし、戦う機会がなかったらどうしますの?」

「そん時は…魔導師団に選ばれたアイツと対立して叩き潰す。…としか言えないかな。」

「そうですか…。分かりましたわ。龍人の気持ちが分かったので、良いとしますわ。それにしても…魔導師団に入るつもりありませんの?」

「しっ。」


 マーガレットの唇に人差し指を当てる。魔導推進庁の中だ。どこで盗聴されているか分からないからな。


「魔導師団には入るつもりだよ。そんで、あまりにも文隆がふざけた奴だったら…俺が叩き潰すんだ。」


 と、言いながら俺はマーガレットにウインクをした。


「なるほどですわ…。それなら、私が今ここで騒ぎ立てるのは野暮ですわね。」

「だな。」


 俺が本当に言いたい事を言外で理解してくれたっぽいマーガレットは、納得したように頷くと…マーガレットの唇に当てていた人差し指の手を包み込んできた。


「ところで…龍人。今の私達の体勢…激しく求め合う恋人みたいですわ。」


 頬を上気させて、ウルウルとした目をするマーガレットは…可愛かった。それでいて美しい感じもあるし、エロさも…これ、誰も来ない個室でこんな雰囲気で迫られたら…。


 コンコン


「失礼しまぁす。…あら、お二人さん…こちらの部屋を予約されてます?」


 咄嗟に離れた俺とマーガレットは、喧嘩をした後みたいなポジショニングで背を向け合い、入ってきた女性職員へ視線を送った。

 …危ねぇ。魔導推進庁でイチャイチャしててとか噂がたったら洒落にならん。


「あら。私がこの部屋を貸して欲しいと受付の方にお願いしていますわ。」

「あっそうなんですね。申し訳ないのですが、緊急の会議が決まりまして…他に空いている部屋がない為、こちらの部屋を使わせて頂けないでしょうか?」

「もちろんですわ。行きますわよ龍人。」

「お、おう。」


 ツカツカと部屋を出ていくマーガレットの後ろを追いかける。

 …ん?通り過ぎる時に女性職員の人が「頑張れ!」みたいにガッツポーズしてきたんだが。もしかして、見られてた?…まさかね。

 まさかね。


「龍人。」

「なんだよ。」


 隣を歩くマーガレットがチラチラと俺を見てくる。


「…さっき、私の魅力にちょっとくらっときてましたわよね?」

「なんの事かな?気のせいじゃないかな?」


 しまった。動揺して棒読みになっちまった。

 俺の反応を確認したマーガレットは…嬉しそうに頬を染めた。


「ふふっ。嬉しいですわ。いつもさり気なく躱されている感があったのですが、少しずつ私の魅力が伝わっているという事ですわね。」


 やばい。このままじゃ、マーガレットの俺を婿にする路線が完全に決定事項になっちまう。…いや、既に手遅れ感あるか?


「マーガレット。俺は誰かと恋愛をするつもりはないからな。今はそんな余裕はない。」

「今は…という事は、いずれは恋愛をしても良いと思っているのですわね?その時…私は恋愛の対象に入っていますか?」


 最後の疑問を投げかける時に、俺の服の端をちょこんと摘むマーガレットを見て、俺の心は再び動揺していた。

 こうやって好意を向けてくれる事は嬉しい。でも…、俺と一緒にいるってのは天地とのアレやこれやに巻き込む事に他ならない。嬉しい反面、複雑な感情も蠢いている。

 …待て待て。そもそもなんて…。


 パシっ。…と、マーガレットが考え込んでいた俺の顔を両手で包んだ。

 そして、俺の目をジ…っと覗き込んでくる。


 その体勢のまま十数秒。


「…龍人。あなたは、何を抱えているのですか?瞳の奥に恐怖と怒りが見えますわ。」


 …マジか。目を見るだけで普通そこまで分かるか?

 もしかしたらマーガレットって相手の心を読む力でも持ってるんじゃ…。


「答えて欲しいのですわ。」

「マーガレット…。」


 真剣だった。お遊びとかそんなんじゃなくて、真剣に俺の事を考えてくれている顔だ。

 悩む。俺が天地と戦っている事を話しても良いのか。

 …いや、駄目だ。無闇矢鱈に人を巻き込むのは良くない。


「俺は…そんな悩んでないよ。マーガレットが俺の中に怒りを見たんなら、それは文隆に対する怒りだろ。」

「…そうですか?」


 うわぁ。全然信じてくれてない。ちょっと無理があるのは分かるけど。


「まぁいいですわ。いずれ、話してくれると信じていますわ。さ、そろそろ闘技場ですわ。」


 俺の顔をパッと離したマーガレットは小走りで先に行ってしまう。

 ちょっと残念な気持ちになったのはきっと気のせいだろう。うん。

 マーガレットを追いかけて闘技場に入ると、白熱した試合が展開されていた。

 戦っているのはルーチェとダーク魔法学院の誰かさんだ。

 属性【光】と属性【闇】が激しくぶつかり合い、闘技場を明滅させている。

 俺は近くの空いている席に座ると、改めて闘技場に座っている人達を眺めてみた。因みに昨日手足が折れていた遼は、魔導推進庁の優秀な魔法使いさん達によって完治させてもらったらしく、普通に観客席に座っている。ボロ負けした翌日だから表情は暗いけどね。


「そういや、天二もいるんだよな。」


 天草天二。俺と同じ街立魔法学院の1年生だ。普段から余り話さないんで、何を考えているか良く分からない奴だ。ダボダボの白黒パーカーにジーパンを着て、癖っ毛の髪は寝癖ですか?って感じにボサボサ。これまで属性魔法を使っている所も見た事ないんだよね。

 それなのに、決して弱くないから不思議なんだよなー。

 夏合宿のサバイバルレースでも確か上位に入ってなかったっけ。

 今もボケーっとルーチェの戦いを観戦している。

 模擬戦でどれくらい強いのかを見れるかもしれないし、ちょっと楽しみにしておくかな。

 っと、そろそろルーチェの試合が終わりそうだ。

 光魔法の乱射と屈折を乱発して、それらのベクトルを対戦相手に向けて一斉に叩きつける凶悪攻撃が決まる。


「勝者、街立魔法学院のルーチェ=ブラウニー!」


 審判と観客に向けて丁寧なお辞儀を披露するルーチェに疎らな拍手が送られる。

 「良い戦いだった!」って感じで大きな拍手が送られても良いレベルの戦いだったとは思うんだけど、選抜試験っていう特殊な環境が「取り敢えず拍手はしとくかね」的な対応にさせてるんだろう。

 まぁそうだよね。魔導師団に選抜される事を考えると、強者イコール障害だもんな。素直に賞賛は出来ないか。


 …っと、次の次の試合は俺か。いきなり控室に転送されたから驚いたよ。


「係員さん、次はは誰が戦うんですか?」

「申し訳ありませんが、ひとつ前の試合内容は言えないことになっているんです。」

「あら。そうなんですか。」

「はい。自分の戦いに集中してもらう為に、ひとつ前の試合情報を伝える事は禁止なんです。教えちゃうと私が後で大変なので、我慢して下さい」


 係員のお姉さんは困ったように顔を顰める。きっとこの部屋に転送されてくる皆に同じ質問をされているんだろうな。何度も聞かれたら流石に困るわな。「先に説明しておいて下さいよ!」って俺が係員だったら言ってると思う。


 15分位経って…ウトウトしていた俺は係員さんに起こされた。


「高嶺龍人さん。試合ですよ。」

「んあ?…あ、そっか。はい。行きま〜す。」


 途中で眠くなった影響でやる気が全く湧き上がってこない。

 眠い目を擦りながら闘技場に移動した俺は…思わず凶悪な笑みを浮かべてしまう。

 そこに立っていたのは、おかっぱ風黒髪の浅野文隆だった。


 こりゃぁ、昨日のやりとりを見たロア長官が故意に組んだ対戦カードだろ。

 俺としては願ったり叶ったりだから良いけどな。


 さて、暴れますかね!

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