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2-4.ゴブリンとの戦い

初クエストに出陣です。

 レフナンティ北側に位置する森は、基本的に住民が立ち入らない地帯になっている。

 その理由は単純明快。魔獣が出るからだ。

 森林街はその殆どが森に覆われている星で、唯一切り開かれているのがレフナンティなんだよな。

 んでもって、その広大に広がる森の中で、レフナンティの北側に位置する森だけが魔獣の棲家となってるらしいんだ。

 そんな訳で、この森に立ち入るのはギルドクエストを受けた人だけってのが一般的な常識になっている。

 …ん?じゃあ、俺と遼がゴブリンを倒した事があるのはなんでかって?それは…まぁ修行の一環でこっそりと森と草原の境目ら辺にね。

 北側の森には基本的にゴブリンしか棲息していない。…とは言われてるんだけど、時々他の魔獣が出現するらしいんだよね。

 そういう時には緊急クエストがギルドから出されるんだとか。この緊急クエストも当然ランク付がされてる訳で、つまり…いざという時にランクが足りないと緊急クエストすら受けられないって訳だ。

 ゴブリン以外の魔獣が出るのは本当に稀だから、ランクを如何に上げておくかが、充実したギルドライフになるかどうかを大きく左右する要因のひとつになるって訳だね。

 長々と説明してきたけど、簡単に言えば…今回俺と遼が森の奥を目指しても結局出てくるのはゴブリンだけって事だ。

 流石に集団で現れて囲まれたりしたらヤバイかもだけど、そーゆー大量出現もほとんど聞いたこと無いしな。

 とにかく、ゴブリンが北門近くに出現する原因を見つけなきゃだ。


「遼、ゴブリンの気配感じるか?」

「…ううん。全然だね。むしろ、いつも森と草原の境目くらいで特訓してる時の方がゴブリンと遭遇してるんじゃないかって気がするかも。」

「やっぱりそうだよな。」


 森の中を奥目指して歩く俺達だけど、何故か最初に草原でゴブリンを倒して以来、全く遭遇してないんだよね。

 森の中もなんてゆーか…いつもより静かなような気もする。


「普段いそうなゴブリンと全く遭遇しないって事は…もしかしたら何処かに集合してたりしてな。」

「その可能性ありそうだね。…気を付けないと。」


 やる気がなかった筈の遼は、雰囲気がいつもとやや違う森の様子に触発されて警戒心マックスになってた。

 …明らかにおかしいもんな。

 ここまでゴブリンがいないとなると、俺と遼をどこかで待ち構えてるんじゃないかって思っちまうよ。


 それから10分程歩いた時だった。


「…遼、止まって。」

「ん?………あれは。」


 俺と遼は木々の陰から先を覗き見る。

 そこには…20体前後のゴブリンが集まっていた。奴らの後ろには洞窟があり、入口を守るようにウロウロと周辺を警戒している。


「あの洞窟に何かあるのかな?」

「んー、お宝とか?」

「お宝かぁ…ゴブリンのお宝ってなんだろ?」

「チープそうで想像できないかも。」


 軽口を叩きながらゴブリンの動きを注視する。

 なんてゆーか…守ってるというニュアンスが少し違う気がする。

 警備してる。みたいなね。まぁ守ってるってニュアンスは同じだとは思うんだけど…。

 少しの間観察を続けていたけど、ゴブリン達が大きな動きをする気配は全くなかった。


「遼、奇襲するか?」

「そうだね。動きはないし、下手に増員とかが来る前に攻撃しちゃった方が良い気がする。」

「だよな。一気に攻めるか。」

「グギャ。」

「……遼アホか。ゴブリンの真似なんかしなくていいだろ。」

「えっ?」

「…え?」


 今のが遼の声じゃないとすると結論は1つ…だよな。

 いやーな予感がするぜ。

 ゆっくり後ろを振り向くとアホ面の遼が首を傾げている。

 問題はそこではない。

 遼のアホ面はいつも通りだとして…問題は遼の後ろに立つ存在だ。


「グギャ?」


 そいつは…ゴブリンは遼と同じように首を傾げて立ってやがった。

 何故だ。何故そんなに可愛くない外見なのに、可愛い小動物みたいな動きをするんだ!…いや、そうなると遼も小動物的な動きをしてる事に?甘えん坊キャラなのか!?


「グギャギャ。……グギャァァアアア!!」


 そして、ゴブリンは唾を撒き散らしながら叫んだ。

 …あーあ。完全に見つかったよな。


「遼!洞窟の前で戦う!俺は洞窟側、遼は森側だ!」

「…うん!」


 木々の間から飛び出して洞窟の前に躍り出ると、20数体のゴブリンが奇声を上げながら威嚇してくる。

 ちっ。ちょっとヤバイかもな。

 洞窟の前にいるだけならまだしも、森からもゴブリンが姿を現し始めてる。いつの間にこんなに集まってたんだよ…。

 時間をかけてゴブリンの動きを観察してたのが裏目に出ちまったみたいだ。

 だけど、こうなったら戦うだけだ。

 それに…新しい武器も使いたかったしね。

 俺が魔法陣から武器を取り出したのを見て遼が目を丸くする。


「あれっ?龍人…武器変えたの!?」

「おうよ。厳しい武器選別を経て、最適解を見つけたんだ。」

「えぇ…なんかカッコよく言ってるけど、慣れない武器で大丈夫なの?」

「それは…見てのお楽しみだっ!」


 刀を構えながら、師匠との武器選別を思い出す。

 師匠…フードの男が言うには圧し斬る剣よりも、引き切る刀の方が俺に合ってるらしい。

 実際に刀を使ってみた感覚も悪くなかった。俺の感覚だと、叩き斬る剣と切り裂く刀って感じだったかな。

 俺は元々パワータイプって訳でもないし、そう考えると刀で技巧タイプってなるのは良いのかも知れない。

 ともかく…だ。今はこの刀でゴブリン包囲網を切り抜けなきゃいけないんだ。


「シャア!!」


 睨み合いに痺れを切らしたゴブリンの1体が動き出し、鋭い爪で切り掛かってきた。

 俺は刀でゴブリンの爪を受け流し、体勢が崩れた所を後ろから袈裟斬りを叩き込んだ。


「グ……グギャグギャギャギャッ!?」


 ゴブリンは痛みにのたうちまわる。


「龍人やるね。」

「だろ?…来るぞ。」


 仲間が斬られて興奮したゴブリン達が奇声を上げ、駆け出してきた。

 おぉ。結構怖いな。1体なら別に余裕だけど、20体以上のゴブリンが向かってくるプレッシャーは全然違うわ。

 ま、だからと言って負けるつもりも無いけどね!

 背後で遼が魔弾を連射するのを耳で確認しながら、俺は魔法陣を展開する。

 使うのは属性【風】だ。風刃を発現させ、正面から向かってくるゴブリン共に連射する。


「グゲギャ…!」


 どこかの漫画みたいな悲鳴をあげながら風刃を受けたゴブリンが倒れていく。

 …が、倒れた仲間を踏みつけながら…後続のゴブリンが止まる事は無い。

 仲間意識があるんだか無いんだか。まぁ戦闘において仲間の負傷に気を取られて動きを止めるのは愚策も良い所だから、その点においてはゴブリンの行動は間違ってない。


「まぁ…それで勝てるかどうかは別だけどな!」



 ここで引くのは悪手だ。背後の森からもゴブリンが来ている以上、引いたとしても何も変わらないからな。

 ここは攻めて押し返すしかない。

 俺は刀を片手にゴブリンの群れに突っ込んだ。

 斬る。斬る。斬る。

 ゴブリンの爪を避け、風刃で跳ね返し、刀を踊らせる。

 よし。いける。俺が洞窟前のゴブリンを倒し切れば、後は後ろからきている奴らを倒すだけだ。それなら遼と2人で余裕なはず。

 …こっそり北の森周辺で特訓してて良かったな。

 後ろから飛びかかってきたゴブリンを回し蹴りで跳ね上げ、刀で切り裂く。これが最後の1体だ。


「よしっ!遼!こっちは終わったぞ!」

「…早いね。じゃあこっちも手伝っ……龍人!!」


 俺の方へ目線を向けた遼が叫ぶ。

 その直後、背後に魔力と熱を感じた俺は振り向きつつ、攻撃魔法を防ぐ魔法壁を展開した。

 薄青色の半球状結界が俺を守るように出現する。


「炎…?いったいどいつが。」


 魔法壁に直撃したのは炎だ。火炎放射とも言うべき質量の炎が結界を破壊せんと暴れ回る。

 あちっ…!魔法壁を球状で展開すりゃ良かったな。

 炎の発生源を探しながら、魔法壁の特性を思い出す。

 魔法壁は結界魔法の1つだ。

 相手の攻撃を防ぐ結界魔法を防御結界と呼ぶ。で、その防御結界は非物理に強い魔法壁、物理に強い物理壁に分かれるんだ。

 魔法壁は球状で、物理壁は6角形が張り合わさった形という見た目の違いがあるから、見ればすぐに判別はつく。

 んで、防御結界は基本的に空間に固定される形で展開されるんだよね。だから、動いて避けながら相手の攻撃を避けるって立ち回りが難しい。

 その制約が無ければササっと動いて炎を放ってる相手に反撃出来るんだけど…。

 ついでに言えば、もう一つの制約が結界魔法は隔絶結界ってゆー種類になる事だな。簡単に言えば…発動した術者の攻撃も防ぐって事だ。

 まぁ、だからこそ半球状で魔法壁を張ったんだけどな。全方位を囲う球状だと俺の反撃も出来ないけど、半球状なら結界を迂回する形で攻撃が出来る。それは相手も同じ条件ではある訳だけど…。


「龍人!フォローお願い!」


 ん!?説明っぽい思い出し方をしてたら、遼がいきなり走り出した。しかも、森から現れるゴブリンを放置する形でだ。

 …あぁ成る程ね。

 俺は親指を立てて遼へ承諾の意を伝えると3つの魔法陣を展開して森へ風刃を連発する。

 視界の端では遼が双銃を構えて魔弾を連射していた。魔弾は洞窟の方へ飛んでいき…。


「グゲェッ!?」


 といういかにも悪者的な悲鳴が聞こえて炎が止まる。


「ナイス遼!」

「うん!」


 魔法壁を解除した俺は、魔法陣に残った魔力を全消費して森から迫るゴブリンへ風刃を一斉射出。洞窟の方を確認する。

 そこに居たのは、皮の鎧を身に纏い、灰色の角が生えた兜を被り、木で出来た杖を持った魔獣だった。

 ある程度の装備を整えた魔獣の顔は…ゴブリン。他のゴブリンと比べればちょっと下賤じゃない雰囲気はあるけど、ゴブリンだな。

 確かこの魔獣はDランクの…。えっと…。

 ……あれ?


「龍人…ゴブリンロードじゃないかな?」

「あぁそれだな。」


 …なんだよ。今、名前忘れてたって思ったろ?

 そんな事無いんだからな。遼に名前を言う役を譲っただけだし!

 ともかく、ここでゴブリンに加えてゴブリンロードが出てきたってのは…大きな意味を持つ。


「マズいな。ゴブリンの数が多い上にゴブリンロードが魔法を使ってくるとなると…流石に多勢に無勢だぞ。」

「だよね。一回…逃げる?」

「そうしたい気もあんだけど、もし…このまま俺たちが逃げたらコイツ等、レフナンティに来るよな?」

「そっか。でも警護団なら…。」

「いや、他のクエストにメインメンバーが出払ってる可能性もある。それに、俺たちが逃げ切れるとも限らないだろ。この数が森にいるんだぞ?」

「あ…。」


 俺が言いたい事を理解したのか、遼が苦い顔をする。

 これだけのゴブリンが押し寄せている中、俺と遼が森を抜けてレフナンティに逃げられる可能性は…微妙なラインだ。

 2人でなんとか渡り合えてるのは、洞窟前の開けた場所にいるから。これで実力を過信して森の中に入れば奇襲を受けて即お陀仏になる事もあり得る。

 それに、ゴブリンロードが使ったのは炎。森の中で使われたら不利になる事は間違いない。


「この場所で戦うしかない。」

「そうなるよね…。いけると思う?」

「正直、なんとも言えない。けど、1番可能性が高いのはここで戦う事だろ。」

「はは…。簡単なクエストだと思ってたんだけどな。」

「やるっきゃないだろ。」

「だよね…。よしっ!龍人、ゴブリンロードは任せたよ?」

「おうよ。」


 作戦の打ち合わせは必要ない。俺も遼も互いの手の内は知り尽くしてるからな。それに、魔法を使うゴブリンロードが相手なら俺の方が適任だ。

 遼は魔弾が使えるけど、属性魔法は未習得だからな。

 刀を持つ手に力を込めながら、俺は周りの状況を確認する。

 ゴブリンは森側に6体。洞窟前のゴブリンロードを取り巻くように12体。

 …洞窟の中に更に強い個体とか居ないよな?

 最優先課題はゴブリンロードの撃破だ。

 問題は魔法陣が足りるかだな。

 ストックできる魔法陣が20個で、使ったのが…5個か。残り15個の魔法陣で倒し切れるか微妙な気がする。

 余談ではあるが…俺は魔法陣を展開して発動する魔法を使える。描く魔法陣を即展開発動出来るのは普通に強い。

 ただ、展開出来るのはストックした数の魔法陣が上限だ。俺がストックできるのは下位魔法陣20個分までだ。

 因みに中位魔法陣が下位魔法陣5個分、上位魔法陣は下位魔法陣10個分の計算になる。

 さて…、どう切り抜けるか。

 今の状況で燃費の良い最効率な立ち回りは…。


「……よし。」


 俺は魔法陣を展開してそのままにし…ゴブリンロードに向けて駆け出した。

 複数体のゴブリンが行手を遮るように立ちはだかるが、その程度で止まる俺じゃない。

 刀を閃かさせ、ゴブリンを斬り捨てる。俺の斬撃後の隙を狙って別のゴブリンが攻撃をしかけてくるが、甘い。俺は斬撃と同時に展開していた魔法陣から風刃を発動してゴブリンの土手っ腹に叩き込んでやった。


「グギャァァッ!?」


 よし。ここまでは順調。


「グルァッ!」


 ここで敵方ボスのゴブリンロードが杖を振り上げる。杖の先に炎が出現し渦を巻く。炎渦はどんどん大きくなり、上空へ伸びていき…火の雨となって降り注いだ。

 …おいおい。流石に魔法力高くないか?この魔法、中位レベルだぞ。

 驚くべくは火の雨がゴブリン等迄も燃やし始めたことだ。敵味方の区別無しかよ…!

 俺は新たに魔法陣を展開して風を纏うと、疾風の如く火雨の中を駆け抜ける。


「あっ……ちぃんだよ!」


 ゴブリンロードの前に陣取る4体のゴブリンまで肉迫し、刀を横一文字に振り抜く。魔法陣を展開して風を纏った強力な1撃だ。

 風の力によって速度と威力が格段に向上した斬撃がゴブリンの体を易々と斬り裂いていく。

 …なんか、俺ツェー的な雰囲気だな。ちょっと楽しいかも?


「グギャルア!」


 けど、そんな余裕感はすぐに消え失せる。

 4体のゴブリンを屠った事で守る個体がいなくなったゴブリンロードが怒り狂いながら火炎放射を放ってきた。

 いやいや。ゴブリンロードってこんな強いの?Dランクの魔獣舐めてたかも。


「…けど、もうチェックメイトなんだっよっ!」


 俺はパチンと指を鳴らして身を屈める。

 その直後、頭上を水砲が通り抜けていった。

 火炎放射は水砲によってみるみる勢いを衰えさせていき、ゴブリンロードに直撃して吹き飛ばす。


「グゲェッッ!?」


 洞窟の入口横にぶつかったゴブリンロードは潰れたカエルみたいな声を出す。


「じゃあな。」


 すぐ目の前に接近して風を纏わせた斬撃を放つと、ゴブリンロードは白目を剥いて動かなくなった。


「よし。こっちはこれで片が付いたな。」


 いやぁ危なかった。あの場面で火の雨が来てたらかなり苦戦したぞ。

 額に浮かぶ汗を拭いながら後方を確認すると、地獄絵図が広がっていた。


「わーぉ。」


 余りにも酷い光景に言葉が出てこない。


「あ、龍人!終わったの!?こっち手伝って!」


 ヘルプ的な事を言いながらも、遼が放った魔弾がゴブリンの両手両足を撃ち抜いていく。

 いや、殺さないってのは凄いんだけど、遼の周りには両手両足から血を垂れ流したゴブリンが多数転がり、苦悶の声を漏らしていた。

 だから、言ってやったよね。


「いやいや。鬼の所業をする遼さんや。手伝える事ないよ?」

「えっ!?だってまだまだ………あれ?」


 不思議そうに周りを見回す遼は不思議そうに首を傾げる。


「なんか終わってる……みたい?」

「みたいじゃなくて、遼を恐れて逃げ出したんだろ。」

「えぇっ!?龍人がゴブリンロードを倒したからじゃない?」

「まぁ…どっちもだな。」

「それじゃあ俺が怖いみたいになっちゃうじゃんっ。」

「いや、実際その通りだし。」

「そんなぁ。」


 ともあれ、これでゴブリンがレフナンティを襲う事は…ないだろ。多分ね。


 残る問題は1つ。


 俺と遼は顔を見合わせると…洞窟の方へ視線を向けた。

 この洞窟に何があるのかって事だ。

やっとまともな戦闘シーンに辿り着きました。

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