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5-33.魔導師団選抜試験

 魔導推進庁の中にある闘技場に集まった魔導師団候補の俺達は、其々の学院に分かれて座っていた。庁舎の中に闘技場があるって…ここの人達は普段から戦闘訓練でもしてるのかね。そうだとしたら脳筋みたいな人が沢山いそうで怖いんですが。


「さて、よく集まってくれた。」


 灰色の髪、左目に眼帯といういかにも厨二みたいな風貌をしたロア長官は、口元に微笑を湛えながら俺達を見回す。


「以前も伝えたが、今週は模擬戦を行わせてもらう。対戦相手は完全にランダムだ。隣に座る同じ学院の者と戦う事も往々にしてあり得るから、心しておくように。」


 あら、学院対抗戦みたいなのを予想してたんだけど、どうやらそうじゃないみたいだ。


「更に、この模擬戦では誰かしらの試合が行われている最中に誰かと話す事は禁止させてもらう。故に全員の座り方を変える。これは話している振りをして模擬戦に介入される可能性があるからだ。」


 ロア長官が指を鳴らすと、闘技場のドアから複数人の係員みたいな人たちが入ってきて俺達の誘導を始めた。

 その通りに座ると…全員が一定の距離を取った位置に座らされていた。

 これじゃぁ誰かと話すのは無理だな。それこそ大きめの声で話さないとちゃんと会話が出来なさそうだ。そんな事をしたら「禁止と言っただろう!」と怒られちゃうよね。


「この模擬戦では個人個人の力を確認するからな。誰とも話せないのは退屈かもしれないが、その辺りは理解頂きたい。さて、ここからは模擬戦のルールを説明しよう。」


 ここで係員の人達が丸プレートの付いた銀のネックレスを俺たちに配る。

 確か…タリスマンだっけ?装着者のダメージを一定値まで引き受けて、限界を超えると壊れるやつだよね。


「今君達に配ったのはタリスマンという魔導具だ。それは実力の差を図る為の目安として使ってもらって構わない。あくまでも勝敗は戦闘不能になるか降参するかで決める。あぁ…一応言っておくが、死に至る攻撃と判断したら止めさせてもらう。その場合も、攻撃を止めた時点で勝敗が決するものとする。」


 まぁ普通の内容だな。タリスマンが壊れたら負け。じゃないのは良いと思う。このタリスマンがある事で戦術の幅が広がるもんな。ダメージ覚悟で攻めるのか、相手の攻撃を見極めるのに使うのか…とかね。


「尚、この模擬戦で死者が出たとしても、それは私達魔導推進庁は一切関与しないものとする。」


 最後の一言でざわめきが広がった。

 ……つまり、俺たちの本気を見る事があくまでも優先事項で、その過程で死者が出るのは必要な犠牲って事か。

 死に至ると判断しない攻撃が、死に至らしめる可能性も考慮してるんだとは思うけど…物騒である事に変わりはないわな。

 このまま異論が出て荒れるんじゃないか…?


「………ふぅん。いいね。動揺はしたが、受け入れたか。」


 そう。誰も異論を唱える人がいなかったんだよね。魔導師団に選ばれるって事は、時に死と隣り合わせの危険な任務もある。その可能性を全員が認識してるって訳だ。

 …若干1名を除いて。

 俺のちょっと後ろに座っている人物から「カタカタ」という変な音が聞こえてきたのですよ。チラッと見ると…遼が引き攣った顔で震えていましたとさ。ちゃんちゃん。


「ならば、早速始めさせてもらおう。この模擬戦は1週間かけて行う。1回しか戦わない者もいれば、何度も戦う者もいるだろう。そして、模擬戦を行なっている最中は魔法街の中であればどこに居ても構わない。勿論この場所で見学をしても良い。別の場所で遊んでいても構わない。次の模擬戦で戦う者は控え室にタリスマンを通じて転送する。故に、タリスマンを手放す事の無いように。そして、先ほども言ったが、基本的に誰かが模擬戦を行なっている最中にこの場所で誰かと話すのは禁止する。誰かに介入されたら、正確な個人の評価が出来ないからな。それでは…模擬戦を開始しようか。」


 ロア長官が指をパチンと鳴らすと、他の学院の4人がタリスマンが発した光に包まれて転送されていった。

 なるほどね。あんな風に転送されるのか。模擬戦の事前予告がされないって…ちょっとドキドキだな。


「さて…じゃぁ行くか。」

「えっ龍人どこに…あっ。」


 カタカタ遼君が模擬戦開始早々に立ち上がった俺を見て驚いた顔をして話しかけてきたけど、俺は人差し指を口に当てて「静かに」のポーズを取った。

 この場所では会話禁止だからね。始まってすぐに禁止事項でお咎めとか無理よ無理。

 少し離れた場所にいるルーチェに視線を送ると、相変わらずののほほんとして表情で小さく頷いてくれた。

 よし。じゃぁいきますかね。

 皆が「マジで?コイツやる気あんの?」みたいな表情で見てくるけど、そんなん関係ない。用事があるんですよ。

 それに、他の人の戦いを見ていない状態、つまり初見で相手にどうやって対抗していくか。っていうのも、今後天地を相手にするなら必要だろうからね。その実地訓練も兼ねての行動なのである。


 という事で、魔導推進庁を出た俺はスタスタと目的に向かって歩く。


 10分後。俺が到着したのは税務庁。

 受付のお姉さんに声をかける。


「すいません。高嶺龍人ですが、面会の予約をしてるんですけど。」

「こんにちは。高嶺さんですね。…!?えっと、面会のお相手はラスター長官でお間違いないですか?」

「…?はい。そうですけど。」

「これは失礼致しました。長官のお客様とは思わず…。お約束の時間まで少しありますので、応接室でお待ちいただいてもよろしいでしょうか。お時間になりましたら長官が伺うと思いますので。」

「分かりました。…あの、応接室ってどこですか?」

「あっ。はいっ。この通路をまっすぐ行って…。」


 という事で、応接室の場所を聞いた俺は案内通りに廊下を歩いて応接室へ無事に到着したのだった。

 ん?何の目的でラスター長官と会うのかって?そりゃぁ…色々よ。

 ま、そこは少し楽しみにしてもらうって事で。勿体ぶってはいないぞ?うん。


 コンコン


 応接室に入ってから15分位したタイミングでドアがノックされる。

 眠くなってウトウトしていた俺はビクッと反応すると、思わず背筋を伸ばす。気分はいけない事をしていて見つかった学生だ。


「やぁ待たせたね。それにしても、あの時の君が娘のルーチェとパーティを組むとはな。まだパーティ名は決まっていないようだが…我が娘を仲間として大事にしてくれよ。」

「はい、分かりました。」


 部屋に入ってきたラスター長官は、サングラス越しに俺を観察してくる。

 …うん。やっぱりこの人、どう考えても裏社会のドンにしか見えないんだけど。

 ラスター長官は俺が緊張していると勘違いしたのか、少しだけ柔和な雰囲気を滲ませながら俺の正面に座った。


「さて龍人君…君が私のところに来た理由だが、ルーチェから聞いていた内容で間違い無いかな?」

「はい。里、天地、里の因子、聖龍について知っていることを教えて欲しいです。」

「うむ。ではその前に…私がその情報を話すメリットはあるのかを教えてもらおうか。下手に情報を与えて娘を危険に巻き込まれるのは勘弁願いたいのだが。」


 …そうきたか。何の抵抗もなく教えてくれるとは思っていなかったけど、ルーチェを危険に巻き込んで欲しくないとかずるいわな。親心には勝てませんよ。

 メリット…ね。


「ラスター長官、俺は…天地がこの世界に対して、この星に住む人達にとって良く無いことをしでかそうとしているのを止めます。それがメリットです。ルーチェが危険に巻き込まれると言いますが、それは俺が情報をラスター長官から貰っても、貰わなくても、天地が本格的に魔法街で活動を開始したら変わらないですよね。寧ろ、事前に情報を手にれている分…安心があると思うのですが。」

「ほぅ…面白い。どちらにせよ危険に巻き込まれるのだから、どうやって安全に危険に巻き込まれるときたか。ならば、龍人君達のパーティが天地の暗躍を止められる保証はあるのかな?」


 この人、俺のことを馬鹿にしてるのかね?


「そんなのありませんよ。ただ…俺は、これからもっと強くなります。そして、天地を止められる位に強くなるつもりです。今はまだ敵わないかもしれないけど、それは今の話です。俺は、俺の仲間達は未来に向けて今も歩んでる。それをラスター長官は否定するべきではないと思いますが。」


 …やべ。ちょっと強めの口調になっちまった。怒ったかな?


「くく…。」


 え?


「ははははっ!良いな。そういう気概のある男は好きだよ。娘が共に戦うことを選んだだけのことはある。前にも言ったが、君が本当に困った時には助けてあげよう。私にはそれだけの実力があるからね。…さて、本題に入ろうか。」


 あら。「生意気言うなガキが!」的な感じで怒られて追い出されるかと思ったけど、案外そうでも無かったのね。


「お願いします。」

「あぁ。まずは里についてだが、これは私にも何処にあるのかは分からない。各星圏内にそういった星があるという話も聞いたことはない。ただ、伝承系の文献に里の名前が記載されていることも事実。現状ではそういった星があるだろう。としか言う事は出来ないな。」

「そうですか…。」


 やっぱり空振りになるか。

 ちょっと落ち込むなぁ。情報が全然手に入らない。


「だが、里の因子については情報が幾つかある。幾つかの古い文献にある記載なのだが、その因子というのは『世界を繋ぐ力』らしい。しかも、其れらの文献で記載内容は共通。つまり、信憑性が高いとも言える。」

「世界を繋ぐ力…抽象的ですね。」

「そうだな。世界の解釈、繋ぐの解釈は多岐にわたる。それこそ歪み合う世界を1つに纏める為の強い力とも捉える事が出来る。もしくは、もっと別の意味があるのかも知れない。ただ…天地はその因子という力を探しているんだろう?」

「はい。そうみたいです。」

「そうなると、天地の目的、もしくは目的達成の為の手段に里の因子とやらの力が必要なのだろう。龍人君の力は聞いているが、どうやら一般的なものとは大分違うようだな。魔法陣展開魔法だったか?常識ではあり得ない魔法だ。それがスキルだとしても、その特異な能力を説明する事は出来ない。少なくとも、一般的な方法で得られるスキルでない事は確かだ。」

「それは…そうだと思います。多分俺には龍の力が使えるんだと思います。職業も龍人ですし。」

「ははっ。そうだったな。名前と職業が同じというのは、かなり面白い。それに職業名も今まで聞いた事が無い。そして…君が魔法街に来てから物騒な事件が増えているのもまた事実。」


 物騒な事件…?そんなんあったっけ。

 ラスター長官は俺の顔を見てニヤッと笑う。


「どうやら感知していないようだね。人の魔力が暴走する事件…アレもその1つだ。そして、中央区の高官の何名かが最近になって姿を消している。君という存在を見つけた天地が、君の持つ力を利用するために動き始めた。…そう考えてもおかしくはない。」

「それは…否定できませんね。」


 話の雲行きが怪しいな。お前が疫病神なんだから魔法街から出ていけ。とか言われたらどうしよう。


「だからこそ、君には…囮になってもらいたいと考えている。」

「…へっ?」


 囮?俺が?


「天地は恐らく魔法街での活動を活発化させている。その目的の1つに君の力がある事は間違いが無いだろう。故に、奴らの尻尾を掴む為に君の力を利用したい。そう考えているのさ。」

「それ、本人に直接言います?」

「直接言うから良いのだ。騙して利用するのではなく、本人了解のもと利用させてもらう。どちらの方が成功確率が高いのか。という話だな。」


 …この人、出来るな。


「まぁ…良いですよ。どうせ俺も天地とは事を構えるつもりなんで。」

「…まさか即答で承諾するとは。これは驚かされたな。まぁ具体的な作戦は無いから安心してくれ。君が自由に動き、その動きに合わせて私達が動くからな。」


 あ、それは助かる。変に作戦とかあって動きを縛られるのは大変だもんね。


「うん。ではそんな君に聖龍について話をしようか。」

「知ってるんですか!?」

「あぁ。但し極秘事項だ。」


 そこから俺は、予想外の話をラスター長官から聞いたのだった。

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