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5-32.火日人、コンセル

朝の渋滞で更新する時間が取れませんでした。

遅くなり、申し訳ありません。

「ダァーハッハッ!!ウケる。ヤバいだろ!」


 ソファーをバンバン叩きながら爆笑して、涙を流して苦しそうにプルプルと震えているのは…霧崎火日人さん。火乃花の父親だ。

 笑っている原因はハロウィンを経て俺が獲得した「踊るフィアンセバナナ」という二つ名だ。


「バナナコスプレだけで面白いのに、踊って、しかも婚約者とか、意味不明すぎて救いようがねぇな!」


 タバコをプカプカふかしながら「おもしろいもの」を見るような目を向けてくる。


「踊るバナナまでは真実だけど、婚約者は捏造に近いんですよね。ホント良い迷惑ですよ。」

「ガァーハッハッ!まぁ気を落とすな。有名になるのは悪くないぞ。………どう有名になるかはかなり重要だが。………プッ。」


 ……完全に馬鹿にされてるんですが!


「なぁ、コンセル。お前もそう思うだろ?」


 火日人さんは後ろに控えている長身の男性に声をかける。薄茶髪を無造作ヘア風に整えたスーツをビシッと着こなすワイルド風秘書だ。ナンバーワンホストって言われたら納得出来てしまう風格を持ってるんだよなこの人。


「…そうですね。一般的に龍人さんの状況はかなり面白いものかと思われます。」

「だろ!いやぁ、火乃花も良い友達を持ったな!」

「はは…そりゃどうも。」


 爆笑する火日人さんの後ろに立っているのに、コンセルさんは至って冷静。…きっとこれくらい冷静沈着な人じゃないと、火日人さんの秘書は務まらないんだろうな。大変そうだもん。

 涙を溢しながら笑いまくった火日人さんは、少しして落ち着きと目元に溜まった涙を拭いながら俺達に視線を送る。


「それにしても、天地に対抗するべくチームを結成するとか…龍人は中々行動力があるな。しかもメンバーも面白い。俺の娘、ブラウニー家の娘、クレアはライカスの娘、そしてお前と同郷の遼。良いメンバーじゃないか。」

「えっ…私のお父さんを知っているんですか?」


 クレアが驚いた顔で火日人さんに聞く。そりゃぁそうだよな。クレアって白金と紅葉の都に元々住んでたんだから。


「そりゃぁ知ってるさ。お前の親父は相当な格闘術の使い手だっただろう?俺も過去に1度だけ試合をした事があんだよ。…もう2度とやりたくないな。」


 えぇっ。この激強い人が2度と戦いたく無いって、クレアのお父さんどんだけ強かったんだよ。


「ありがとうございます。でも、私のお父さんはもう…。」

「あぁ、知っている。」


 クレアの言葉を遮った火日人さんは、静かに頷いた。


「お前の両親が亡くなったのは、きっと何か理由がある。あんなに良い夫婦が娘を残して先に逝っちまうとか、普通じゃねぇからな。」

「私も…そう信じてます。」


 返事をするクレアの瞳には強い光が宿っていた。…本当に両親の死を受け止めて、乗り越えようとしてるんだな。

 因みに他のメンバーもクレアの境遇については全員が知っている。

 これから共に天地と戦う仲間に隠し事はしたくない。と、クレアが自分で話す事を選んだんだ。

 クレアの様子を見て深く頷いた火日人さんは、真面目な表情に切り替えると俺に視線を向けた。


「そんで、今日来た目的はお前達が敵対しようとしてる天地について知りたいってんだろ?」

「はい。少しでも情報が欲しい状況なので。」

「うしっ。そしたら、俺の頼れる秘書コンセルが情報網を使って色々と掴んでるから、一緒に聞くか。」

「お父様…一緒に?」

「あぁ、俺もまだ報告は聞いていないからな。最近忙しいんだよ。どっかのお偉いさんが選抜組織とかを立ち上げようとすっからよ。その組織と警察組織の領分がバッティングするやしないやらの調整が難航してんだ。」


 火日人さんの言葉を聞いた火乃花が非常に微妙な表情になる。

 そりゃぁそうだよね。自分が選抜されるかも知れない魔導師団が、自分の父親の仕事に悪影響を与えるかも知れないって言われたら反応に困るよな。

 けど、火日人さんは火乃花の様子を気にする事なくコンセルさんに報告を促した。


「じゃぁ頼むぜコンセル。」

「はい。承知致しました。」


 恭しくお辞儀をしたコンセルさんは俺達と火日人さんの横に置かれたホワイトボードの前に移動すると、文字を書きながら報告を開始した。


「まず、天地の動向について、詳細を掴む事は出来ませんでした。やはり隠密行動にはかなり長けた集団であると予測されます。その上、直接戦闘でもかなりの実力を持っているとの噂もありますので、油断は出来ない相手かと。」


 コンセルさん…立ち方というか、ホワイトボードに書く時の姿勢っていうか、カッコいいな。


「ただ、詳細は確認出来ないとは言っても、この魔法街で何かしらの活動をしている形跡は発見できています。確実ではありませんが、そうだと仮定しておくのが良いと思われます。」

「おぉ、やるじゃねぇか。具体的にはどういう痕跡だ?」

「それは…。まぁ良いでしょう。裏組織メンバーの根城に踏み込んだところ、見るも無惨な姿で全員が虐殺されていたのです。それも数件同じような事件が起きています。」

「あぁあの事件か。それが天地の痕跡…ねぇ。確かにそう考えると辻褄が合うかもな。裏組織ってのは基本的にある程度の実力者を抱えてるもんだ。そいつらが暴れたっていう通報も無く虐殺されてんのは、普通に考えて以上事態だからな。天地の奴らだったらそれ位は…可能か。」


 タバコの煙を口から吐き出しながら、火日人さんは顎をさする。


「えぇ。故に、裏組織関連で何かしらの工作をさせ、その上で必要がなくなったタイミングで口封じで殺している。という仮説が成り立ちます。…反吐が出る所業ではありますが。」


 心底嫌そうに顔を歪めながら、コンセルさんはホワイトボードに「裏組織の虐殺事件」と書いていく。

 なんか、ドラマとかで見る警察の捜査会議みたいだな。何故かちょっとだけワクワクするんだが。


「ここから先は私の私見にはなるのですが、今回魔法街が設立を決定した魔導師団。この組織は天地にとって邪魔な組織になるかと思います。恐らく…今回の魔導師団設立にあたって何かしらの妨害工作が為されるのではないでしょうか。」


 この物騒な発言に火日人さんの眉がピクリと反応する。


「そりゃぁ物騒な話だな。具体的にどういう妨害工作があると予想してんだ?」

「そうですね…。魔導師団設立自体を防ぐのは幾ら天地といえども難しいっでしょう。となると、取りうる手段は1つ。」

「…候補者の暗殺ね。」


 ボソッと答えを呟いた火乃花に室内全員の視線が集中する。

 コンセルさんは大仰に頷く。


「えぇ、そうですね。魔導師団に所属するメンバーのレベルを下げること。それが最も手っ取り早い。また、魔導師団のメンバーが決まる前に暗殺する事で暗殺失敗のリスクが減ります。魔導師団の一員となった事で、魔導師団専用の特別宿舎を宛てがう可能性も否めませんから。」


 …ちょっと話が不穏な雰囲気になってきたな。

 コンセルさんの言っている事が本当だとすると、俺達は暗殺を警戒しながら魔導師団の選抜に挑むのか?

 流石にそれは厳しいような…。

 火乃花、クレア、ルーチェ、遼…全員が想像以上の危険な可能性に表情を曇らせている。


「く…はははっ!良いじゃねぇか。そりゃぁ逆にチャンスだろ。」


 …はい?この人、頭でも狂ったんじゃないか。何がチャンスだよ。ピンチの間違いだろ。


「相手が暗殺をしようとすれば、そいつを捕まえれば良い。この魔法街で暗殺が出来る奴だ。相当な手練れが来る可能性が高い。手練れって事は天地の中枢に近い人物である可能性が高い。お前ら、暗殺されないで捕まえてやれ。」

「…………。」


 全員が沈黙を保つ。

 そりゃそうだ。まさかそんな無茶振りをされるとは思わないもんな。


「お父様。天地が相手だったら普通、捕まえろじゃなくて…死ぬな。じゃない?」


 呆れ顔の火乃花を見て火日人さんが笑う。


「なぁに言ってんだ。天地と構えようって奴が逃げてどうすんだよ。強敵を相手にした時に、どういう心持ちで行動を決めるのか。それこそが真に強い奴とそうじゃない奴の差だ。病は気からって言うだろ?」


 言っている事は間違いないと思うけど、最後の比喩は下手っぴだな。


「火日人さんはそうは言っていますが、死んだら元も子もありません。その辺りの見極めを正確に出来るのも実力の内ですよ。最初から逃げ腰にならず、戦いに負けたとしても勝負に勝てる道筋を意地でも見つけ出す。それこそが大切なのでしょう。」


 コンセルさん…素晴らしいフォローですね!そう言ってくれれば良いのに。火日人さんが言うと「気合だ!」って聞こえるから不思議だ。


「本当にお父様は秘書に恵まれてるわね。」

「あぁん?俺は誰が秘書でも変わらねぇよ。」

「火日人さん。それなら、私は今後諸々の後始末をやらなくて良いと言う事でしょうか?」

「はい。すいません。俺が悪かった。」


 火日人さんの余りにも早い変わり身に全員がズッコケる。

 この人…結構適当だな。その癖強いから文句は言えないけどな。


「あの…質問良いですか。」


 ズッコケから復活した遼がおずおずと手を挙げた。


「おう。何でも言ってみろ。」

「天地と戦うのは、俺も覚悟をしているから良いんですが…そうは言っても実力差を埋めるのって難しいですよね。何て言うか、何か一瞬でも実力差を埋める隠し技というか、作戦というか、魔導具というか…そんなのって無いですか?」

「んなのある訳ねぇだろ。」


 一蹴。ショボンと遼の完成。


「…あるにはあります。」

「へっ?」

「本当ですか?」


 間抜け顔の火日人さん。目を輝かせる遼。澄まし顔のコンセルさん。


「これは…まだ確実に信頼が置けるという物では無いのですが、先日とある企業が発明したブースト石という魔導具が天地に対抗する手段として有効であるかもしれません。」

「…コンセル。俺はあの魔導具は認めないっつってんだろ。」


 ブースト石という言葉が出た瞬間に火日人さんから怒気が噴き出す。

 普通にあの怒気をぶつけられたら、俺だったらビビるんだけど…コンセルさんはどこ吹く風だ。


「もちろんそれは重々承知しています。しかし、いずれこの子達の耳に入る話です。ブースト石を使うにしても使わないにしても、事前に情報を耳に入れて、噂ではない判断材料を持つ事は良いと思うのですが。」

「そりゃぁそうだがよ、俺はあれを使う奴は認めないからな。」

「それは私に言うのではなく、この子達に言うべき言葉かと思いますが…ともかく、説明しますよ?」

「けっ。好きにしろ。」


 火日人さんは脚を組み、タバコを吸いながら上を向いてしまう。そんなにブースト石ってのが嫌いなんだな。


「火日人さんはこう言っていますが、あなた達の事を考えての発言ですので。さて、そのブースト石ですが、簡単に言いますと短時間限定で魔力出力を一気に底上げする魔導具です。」

「その魔導具…噂を聞いた事ありますの。確か、まだ非公認ながら購入希望者が多く、しかも正規ルート以外で購入できない真っ当な魔導具との話だったような気がしますの。」


 ルーチェの言葉にコンセルさんは重々しく頷く。


「えぇその通りです。まだ生産量が少ないため、そこまで流通はしていませんが…その効果は抜群だと聞きます。」

「でもさ、そこまで良い効果があるんなら副作用とかあるんじゃないんですか?」


 コンセルさんは俺を見る。…え、何でそんな鋭い視線を向けるんだし。


「龍人さんの言う通りです。ブースト石は24時間以内に1回の使用という制限があります。2回目の使用をすると魔力暴走、3回目の使用をすると魔力回路が壊れる。…そんな風に堂々と発表もされているようです。」


 え。そんな危ない魔導具なのに正規ルートで販売されてるっておかしくないか?


「皆さんは今の話を聞いて正規ルート販売がおかしいと思われるでしょう。しかし、1回の使用であれば人体への影響は全くない。しかも約30分限定で爆発的な魔力を操る事が出来る。これは、正直な話かなり秀逸な魔導具と言って差し支えありません。」

「それって…でもおかしいと思います。」


 可愛い唇に人差し指を当て、首を傾げながら疑問を呈したのはクレアだ。


「おかしいとは?」

「だって、正規ルートで販売されているって事は、魔法街として、今コンセルさんが言った副作用を全て把握した上で…使用を推奨しているって事になりますよね。」

「これはこれは…クレアさんはかなり的確な推理力をお持ちですね。」

「あ、えっと、ありがとうございます。」


 思いも寄らぬところで褒められたクレアは頬っぺたを押さえて顔を赤らめた。


「今のご指摘通り、魔法街はブースト石の使用を今後推奨する可能性があります。それはつまり、そうする必要があると考えているという事。」

「それってどういう…」

「つまりだ。」


 火乃花の言葉を遮り、タバコを人差し指と親指で摘んだ火日人さんがイライラした様子で話す。


「魔法街は天地が活動をしている事を認識していて、来る災難に向けて魔法使いの力を増強する事を目論んでいる訳だ。そうでもしないと天地に対抗は出来ないって考えているんだろうな。けどよ、ブースト石の力なんて仮初の力だ。使い方を間違えれば自身も仲間も傷付ける。2つ使えば魔力暴走。2つ使わなければ大丈夫。だがよ、強制的に2つ使わされたらどうなる?本人の意思とは無関係に魔力が暴走する。結果、テロと同じ現象が起きる。現在の魔法街は平等派と至上派の対立が再び表面化してきている。その中で魔力暴走が頻発したら…マジで死人が出んだろ。だから、俺はブースト石なんていう紛い物の力を手に入れる魔導具には反対なんだ。俺の部下には絶対に持たせねぇ。」


 ここまで一気に話した火日人さんは、イライラが高まったのがダンっと立ち上がると盛大にため息をついた。


「まぁ、使う使わないの選択はお前達自身が決めろ。これ以上俺が言う事はないからな。ったく、マジでイライラしてきたぜ。クソしてくるから、後はコンセル…任せた。」


 手をヒラヒラ振りながら火日人さんは部屋から出て行ってしまった。

 …なんつーか、大きな子供みたいな人だな。


「はぁ…全く。火日人さんは確信を突きながらも、いつも感情で動いているように見せるんですよね。あまり気にしないで下さいね。」


 肩を竦めるコンセルさん。…苦労してるんだなこの人も。


「さて、天地に関する話で私が本日用意していたのは以上ですが、何か質問はありますか?」


 俺達はコンセルさんと目が合うと静かに首を振る。正直貰った情報が結構多いから、一回整理したいね。


「無さそうですね。逆に私から1つ質問をさせて頂きます。龍人さん、あなたの魔法はかなり特殊との報告を受けていますが、それはどうやって習得したのでしょうか?」

「え…俺ですか?」

「はい。もし、習得可能だとすれば、私達の戦力強化に繋げられるかと思いまして。」

「あぁ。残念ですけど、固有能力みたいなもんなんですよね。俺、職業が【龍人】でして、多分その関係で固有のスキルを使えるんだと思います。」

「なるほど。固有スキルとなると、流石に真似するのは難しそうですね。教えていただいてありがとうございます。」


 コンセルさんは凄い丁寧なお辞儀をする。


「良いですって。大したことじゃぁありませんし。」

「そうですわね。これ以上あれこれ話しているとお邪魔になりますから、私達は退散しましょう。」


 スクっと立ち上がったルーチェが俺達の退室を促す。

 微妙に強めな雰囲気だ。なんか嫌な事でもあったのかな?そんな様子は無かったと思うんだけど。


「それでは気を付けてお帰り下さい。」


 最後まで丁寧なコンセルさんに見送られて、俺達は警察庁を後にしたのだった。


 さて…色々情報をもらったけど、一先ずは暗殺に気を付けつつ魔導師団選抜試験に臨むのが優先事項になるのかな。

 他の魔法学院の人達と戦うのも楽しみだし、龍魔力の操作をもう少し練習しますかね。

次回からは魔導師団選抜が中心となります!

戦闘シーン多め…のはずです。

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