5-30.ハロウィン〜花火〜
際どいメイドコスチュームのマーガレットは両手に光を収束させていく。
魔力の質を高める練習をする前に、マーガレットが見本を見せてくれるらしい。
「先ずは普通に魔力を属性魔法に変換して放つ場合ですわ。」
マーガレットの両手から1つずつ光の球が放たれ、上空に昇っていく。
おぉ〜夏の風物詩を思い出すな。
ヒュ〜〜〜〜パァァァァン
あ、普通に花火だ。
これが夜空だったらとても綺麗なんだろうね。あいにく今は夕方少し前だ。
「今のが魔力を100使った場合だとすると、次も同じ魔力100を使った場合です。」
再びマーガレットの両手に光が収束し、上空に向けて2つの光の球が放たれる。
…あ、今回のは光球の発光が強い気がする。
ヒュ〜〜〜ドォォォン!
「わぁぁ…綺麗だね。」
そんな風に言って俺の顔を覗き込んだクレアがニッコリと微笑んだ。
それ、反則級!
じゃなくて…マーガレットの放った花火は最初のものよりも光も大きさも全然別物だった。本当に同じ魔力量で放った魔法なのか?って疑いたくなるレベルで違う。
「これが違いですわ。言葉で説明しますと、魔法として放つ魔力をそのまま使用するのではなく、魔力の凝縮による魔力質の向上を図ることで属性魔法として発動した際に魔力が霧散していく速度を減らし、且つ属性変換効率を向上させられるので魔力100に対する変換効率が限りなく100に近づくのですわ。」
「…?」
いきなり難しい話が始まった事で、皆が頭の上に?マークを浮かべて首を傾げてしまう。
えぇっと、つまり…。
「つまり、魔力の質を高めて魔法を使う事で威力が上昇するんですの。」
おぉ、ルーチェの的確な要約、分かりやすい。
分かりやすいけど、単純に難しそうな気がする。
「私はお父様に嫌ってほど仕込まれたから出来るけど、コレってそんな簡単に習得出来る技術じゃないわよ?それこそ魔力操作の基本をちゃんと押さえてないと…変にやって魔力暴走なんて危険性もあると思うわ。」
火乃花は習得済みなのね。となると、さっきの反応からしてルーチェも当然習得してるんだろうな。良い家柄育ちのエリート教育を受けてきた人達は一歩先を行ってるなぁ。
難易度の高い(らしい)内容に難色を示す2人を見ながら、マーガレットは顔の前で指を横に動かした。
「チッチッチッチ!ですわ。難しいのは百も承知。けれども、それを短時間である程度マスターしてしまう。それこそが魔力操作鍛錬の醍醐味なのですわ。皆さん、今からコツを教えますから集まってください。」
すっげぇ自信だな。
という訳で、俺たちはマーガレットから魔力の質を高める方法について伝授を受ける事になったのだった。
内容を簡単にまとめると、普段属性魔法を発動するために練っている魔力を凝縮するイメージかな。その凝縮自体は普段使っている色の薄い魔力の色を濃くするイメージが良いんだとか。
んでもって、凝縮した魔力は指向性の制御が難しいから、ゆっくり優しく属性魔法に変換をしていく。
基本的にはこれだけだ。
この過程をまずはスロー状態で実施し、少しずつ凝縮と変換速度を速くしていくだけ。
簡単なようで繊細な魔力操作に皆は真剣に取り組んでいた。
俺?俺は何故かすぐに出来たんだよね。っていうか、魔法陣を展開するのが、魔力の凝縮とほぼ同義みたいな感じだったんだ。気付かずに出来ていたっていうラッキーパターンだ。
そんな状況だったので俺は少し離れたところで皆が暴発させたり、上手くいったりして夜空に花開く花火をのんびりと眺めていた。
いやぁ綺麗だね。時々爆発みたいな花火もあるけど、それもまた風情ってもんだろ。
「龍人君はもう良いの?」
疲れた様子のナースクレアが近寄ってきた。
最初から良い線いってたから、魔力の質については習得したのかな?
「うん。俺は最初から出来てたみたいだから。ラッキー的なやつだね。」
「そっか。…隣、座っていい?」
「もちろん。」
「ありがと。」
俺の隣に座ったクレアは、女の子座りでクラスメイト達が打ち上げる花火を見ている…んだけど、何故か俺の方をチラチラ見てくるんだが。
「今日、楽しいね。」
「だな。東区ってもっと排他的なのかって思ってたけど、俺達の住む南区とそんな変わらない気がするな。」
「そうだね。学院間のいがみ合いって、もしかしたら大人だけのエゴなのかも。」
「それはあるかも。」
「こういう楽しい毎日がずっと続けば良いのにね。」
「……ん?…そうだな。」
どうしたんだろ。なんかクレアの表情に翳りがある気がする。
花火を見ながらも何かを思い出しているかのような…ちょっと寂しそうな顔をしている気がする。
少しの間、俺とクレアは言葉を交わす事なく花火を眺めていた。
「えっと…龍人君。」
「ん?」
「あのね、私…龍人君の力になりたいんだ。」
「…いきなりどうしたんだ?」
「前に夏合宿で言ってくれたよね。龍人君が戦っているものについて話してくれるって。」
「あぁ…もちろん覚えているよ。」
覚えているさ。でも、話していいのか迷っていたんだ。だって、巻き込みたくないから。
「あのね…私に遠慮はしなくて良いんだよ?だって、私は…もう大切な人を失いたくないんだもん。」
「どういう事だ…?」
もう失いたくないって…既に何かを失ったってことなのか?
「実はね、私…元々魔法街に住んでいた訳じゃないんだ。…あ、これから話す内容はちょっと重いけど、私はもう乗り越えてるから、重く受け止めないでね。」
「あ、あぁ。わかった。」
そんな前置きされたら身構えちゃうんだけど、そんな事は言えないよなぁ。
「私は白金と紅葉の都って星に住んでたんだ。そこでお父さんとお母さんといたの。私の両親は商店を営んでいて、店はお客さんの笑い声が良く聞こえていて、私も大好きだったなぁ。でもね、お父さんとお母さんがいきなり自殺しちゃったの。原因は分からなくて、私は遺言に従って知り合いだっていうキャサリン先生がいる魔法街に来たんだ。」
「そんな事があったのか…。」
衝撃に顔を曇らせる俺を見て、クレアは優しく微笑む。
「大丈夫だよ。話せるくらいには割り切れてるんだから。それでね、その後に魔法街戦争があったんだ。私は何も出来なかったけど、戦争の後に戦争孤児の子達がいる孤児院に通うようになったの。そこで思ったんだ。両親が死んで落ち込んでいる私を掬い上げてくれたキャサリン先生みたいに、私も孤児の子達の心を救けたいって。」
クレア…なんて素敵なんだ。
俺だったら、きっと復讐だ!犯人は誰だ!!って暴れ回りそうな気がする。
「それでね、最近思うの。魔法街戦争はきっとあの天地っていう組織が裏で糸を引いていたんじゃないかって。あのサタナスも天地の一員だろうってラルフ先生も言っていたし。龍人君、遼君、火乃花さん、ルーチェさんは最近パーティを組んでギルドクエストをやってみるみたいだけど、きっと天地に対抗する為に修行…?みたいなのをしてるんだよね?」
うげっ。めっちゃ鋭いじゃん。そこまで察してるのか。
ヒューードォォン
ルフトの打ち上げた魔力花火が花開く。つーか、花火の形が三角なんだが。
「おっし!変形花火完成なんだもんね!」
流石ルフト。
…って、クレアの質問に答えなきゃ。
「そうだよ。俺と遼は天地に故郷を壊滅させられて、火乃花は魔法街戦争みたいな悲劇を引き起こさせたくなくて、ルーチェはそんな組織の存在を知って放って置けない。的な感じだったかな。天地に対抗する為に強くなる事、頼れる仲間を増やす事。それが今の目標…みたいなものかな。」
「故郷を…そんな辛い事があったんだね。………龍人君、私も仲間に入れてくれないかな?」
えっ!?それはちょっと予想外の展開だぞ。
確かにクレアのサポートに特化した魔法はすごい頼りになるけど、こんな可愛い子を巻き添えには出来ない。
…いや、可愛い子云々は冗談だよ?
でもさ、危険であると分かりきっている事に、そう簡単に仲間として巻き込んで良いのかっていう悩みがね。
「……駄目かな?」
そうやって聞かれたら駄目とは言えない。言えないんだけどさぁ…。
「バナナ龍人、俺は良いと思うよ。」
「…人のことそんな風に呼ぶなし。」
いつの間にか近くに立っていた遼がクレア参加に同意してきた。
「私達もクレアが仲間になるのは良いと思うわ。バナナ龍人君。」
火乃花…悪ノリするなし。隣にいるルーチェもニコニコしながら頷いてるし。
「バナナ龍人って呼ばれるのは納得いかないけど、皆がそう言うんなら…良いのかね。」
「え、龍人君は嫌…なの?」
両手を胸の前で組んで、ウルウルな瞳を向けるとか…ズルい。いや…でも、俺自身の言葉で返事をするべきか。
「クレア…天地と戦うって事は、あのサタナスみたいにイカれた奴らに狙われる可能性もあるって事だ。最悪…命を落とすかも知れない。その…覚悟はあるんだな?」
クレアは俺を真っ直ぐ見ながら、揺るぎない瞳で頷いた。
「うん。私、悲しい子が1人でも少ない世界が良いと思うんだ。だからね、出来る事はやりたいの。大袈裟かも知れないけど…その為に命を投げ打つ覚悟だってあるよ。」
「そっか…分かった。皆、良いかな?」
「勿論っ。」
「よろしくねクレア。」
「これでまたライバルが増えましたの?」
ルーチェ、謎の発言はやめろし。
「そしたら、今後について話す時間は改めて設ける事にして…今は楽しむかっ。」
俺達5人が集まってる事に気付いたのか、丁度マーガレットが駆け寄ってくる所だった。
「ほらっ!何を談笑しているのです!?これから大一番の花火を打ち上げますわっ。」
メイド姿で弾けんばかりの笑顔…これはこれで破壊力あるな。
「オッケー。いっばつデッカイのやりますか!」
「やる気あるのは良いけど…バナナ。」
後ろで火乃花が失笑してるけど、俺は気にしないんだからな!!
その後、俺達が盛大な花火を夕焼けの空に打ち上げまくり、マーガレットの家の人に盛大に怒られたのは言うまでもない。