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5-27.魔導師団選抜説明会

 さぁさぁ遂に魔導師団選抜の説明会が開かれるぜ!

 魔導師団は魔法街が誇るエリート集団。皆の憧れとなれる魔法使いを目指して、ここから俺の全力ストーリーの始まりだ!

 皆見てろよ!絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対魔導師団に選ばれてやるんだからな!!


 ……なぁんてヒーロー漫画の主人公みたいなやる気に満ち溢れた気持ちで来れたら良かったんだけどな。

 俺の気分はテン下げ〜。だ。

 そもそも魔導師単に選ばれると面倒くさそうって所で、候補に選ばれたくなかったってのはあるけど、それだけが原因じゃない。

 と言うのも、魔導推進庁の前で平等派と至上派の論戦が繰り広げられてるんだよね。

 俺達魔導師団候補の生徒が魔導推進庁に入るタイミングで応援の声やら、罵声の声やらを投げかけられるっていう最悪な状況。マジで面倒臭い。

 そして、俺のテンションが上がらないもう1つの理由…。それは。


「魔法学院生諸君。良く集まってくれた。魔導推進庁の前に騒いでいる輩が集まっていて、この説明会が始まる前から気分を害されたかも知れないが、許してほしい。私としても魔導師団設立に際して世論がここまで盛り上がるとは思っていなくてね。とはいえ、流石に彼らも建物の中には入ってこないようだから、落ち着いて話はできそうだな。さて…と、もう気付いているかもしれないが、各魔法学院間で誰が候補者なのかが分からないように、今回は隠匿の魔法を掛けさせてもらっている。なので、同じ部屋に居るが、他魔法学院の人達を見る事は叶わない。ご理解頂ければ…だな。」


 ふむふむ。だから俺達街立魔法学院の周りにモヤモヤしたものがあるわけね。


「そして、この部屋に入ってきた諸君の顔を見る限り、同じ疑問を抱いたように思う。その疑問に答えよう。魔導師団は各魔法学院の1年生から選抜する。」


 …やっぱり。俺のテンションが全く上がらないのはコレが原因なのですよ。

 って言うのも、各学年10人ずつくらいの候補者がいて、その中から6人が選ばれるって思ってたのにさ…まさかの1年生の候補者12人の中から選ばれるっていうんだもんよ。

 魔導師団に選ばれたい人にとってはとても良い倍率かもしれないけど、選ばれたくない俺からすると最悪な倍率な訳ですよ。

 さて、どうやって選抜されるのを回避するかな…。

 あ、因みに俺達の前で話しているのは魔導推進庁長官のロア=べロウという左目に眼帯をした灰色髪の人物だ。ロア長官って呼んだ方が良いのかな?は、俺達を前にして淡々と話し続ける。感情あるのか?ってレベルなんですが。


「まずは1年生から選抜する理由を伝えるか。その理由は単純。魔導師団のメンバーを1年単位で変えるつもりが無いからだ。魔法学院を卒業して就職するから魔導師団を辞めるという事態は可能な限り少なくしたからな。そして、魔導師団に選ばれた者には特別な訓練を行ってもらう。これには各魔法学院の特色に染まりすぎていない方が効果が出る…つまり、強くなれる。と私は仮定している。そうなると、学年が上がるほどに魔法学院毎の教育方針により得意分野や成長分野が異なってくる。それだと是正するのに時間が掛かることは容易に想像出来るし、下手をすれば是正できない可能性もある。それでは魔法街の今後を担うであろう魔導師団としては役不足だ。故に、比較的白いキャンバスであろう君達1年生を候補とさせてもらった。」


 ロア長官は静かに説明をしながらも、俺達の一挙一動を観察していやがる。

 恐らく…だけど、この説明会の最中にも選抜メンバーの審査が行われている気がするな。


「さて…ここからは魔導師団選抜の方法を説明しようと思う。と、その前に現段階の説明に対して質問はあるかな?」


 えぇ…このタイミングで「質問はあるかな?」って聞かれても聞きにくいでしょ。


「…む?1人だけか。では……いや、このままだと他の魔法学院には質問内容が聞こえないのか。そうなると、1人だけ声が出るようにして、魔法で変声効果を追加して…。よし。話していいぞ。」

「全くまどろっこしいのですわ。互いの魔法学院同士で魔導師団候補者の潰し合いなんてする訳が無いのですわ。」

「それはそうかもしれない。しかし、この世に絶対はないからな。何事も保険というのは大事だよ。」

「はぁ…。じゃぁ質問をするのですわ。ずばり、聞きたいのは1つです。この魔導師団選抜は、辞退できるのかを知りたいのですわ。」


 うわっ。すっげぇ突っ込んだ質問をしてんだけど!?

 しかもこの話し方、どこかで聞いた事あるような。無いような。


「ほぅ…。魔法街公認の魔法使い…魔導師に選ばれると言うのは、非常に名誉な事だと思うのだが。それを上回る何かがあるという事かな?」

「それは分かりませんの。魔導師団の概要しか教えてもらっておりませんから。私は私のやりたい事がありますの。それを前提として、魔導師団の在り方が私の進む道に沿うものなら喜んで参加しますの。しかし、そうでなければ辞退も止む無しと考えていますわ。」

「そうか。君がそういった質問をするという事は、きっと同じような事を考えている者もいるのだろう。ふむ…。それならばこうしよう。先ずは全員に選抜の為の試験を受けてもらう。その間に魔導師団の目指す先を、魔導師団の一員となるメリットを伝えるようにしよう。そして、選抜試験を全て終えた後に私が全員と個人で面談をさせてもらう。辞退したい者はその面談で私に伝えてくれ。これでどうかな?」

「それなら問題無いですわ。」

「それなら良かった。他に質問のある者はいるかな?…無さそうだな。そうしたら、選抜方法を説明しよう。」


 ロア長官が指を鳴らすと、宙に文字が浮かび上がる。

 その文字は「模擬戦」。


「今回の選抜は4つの選抜過程を経る予定だ。その1つ目が模擬戦。これは個人対個人の戦いを見学させてもらう。この模擬戦は魔導師団として任務に赴き、対人戦を行う必要が出た時に皆がどういった行動を取るのかを見させてもらう。」


 うん。まぁ妥当な内容だよね。


「その後にはスニーキング試験、筆記試験、私との戦闘…と続く。内容としては分かりやすいと思う。11月1週目から毎週土曜日に1つずつ進めさせてもらうから、そのつもりでお願いする。」


 げっ。筆記とか無理なんですが…。つーか、4つ目のロウ長官との戦闘ってどういう事だし。省庁の長官を務める位なんだから、相当に強いだろ。そんな人と戦うなんて…あれ?意外に良い経験になるのかな。

 うん。前向きに捉えれば良いのかも。他の魔法学院の人達とも模擬戦等が出来るって考えれば、まぁ有りかな?

 最終的に断って良い流れ出し。

 もしかしたら、これは全力で取り組む価値があるのかもしれないぞ。

 ロウ長官は俺達の反応を見ながら、静かに頷いた。


「質問は無さそうだな。私からの説明は以上だ。11月最初の土曜日だから…来週の土曜日からとなる。ある程度は厳しい試験となるだろうから、今のうちにイベント等を楽しむと良い。今週末はハロウィンで盛り上がるだろうからな。最後に言っておきたい事はあるかな?」

「ありますわ。」


 またお嬢様口調。って事は…。


「街立魔法学院1年生のルーチェ=ブラウニーですの。今回、敢えて各魔法学院同士の顔が見えないようにしているとの事ですが、私から提案がありますの。この場で各魔法学院の皆様と面通しをしておきたいですの。」


 うわぁ…ルーチェの奴、これまた突っ込んだ事を言うのね。

 ロウ長官の眉がピクッと反応してましたよ!?


「ほぅ。その心を聞かせてもらおうか。」

「単純ですわ。いずれ共に戦うであろう人達の顔を見ておきたいのが1つ。そして、魔導師団になるのを妨害されたくらいで試験に落ちるようであれば、そもそも魔導師団に選ばれる資格は無いですの。私はそれも試験の過程で必要な障害だと考えていますの。」

「…良い。そういったハングリー精神を持つ者が魔法学院に在籍していると言うのは、魔法街の将来もまだまだ明るいかもしれん。」


 僅かに口の端を持ち上げて笑ったロウ長官は、ルーチェから俺達へと視線を移す。


「さて、ルーチェの話を受けて皆はどう思うかな?この試験は公平に行うべきだ。私としては1人でも面通しに反対する者がいれば、行わないつもりだ。さて…とは言ってもここで反対意見がある者に手を挙げるように言った所で上げずらいだろう。だとしたら…面通しに反対意見があるものは体内にある魔力の質量を微量に連続で増減させてくれ。」


 …え。そんなの普通だったら感知出来ないと思うんだけど。

 それが出来るってなると、ロウ長官の魔力感知力って途轍もないんですが。


「…ほぅ。まさか、誰も魔力を動かさないとは。これは…面白い。1年生だけを集めた時から、やや心配だったが、どうやら杞憂だったようだな。骨のある奴らが揃っているようだ。ならば、望み通り面通しといこうじゃないか。」


 パァン!と弾ける音がしたと思うと、各魔法学院を隔てていたモヤモヤが消え去った。


 …コイツらが魔導師団の候補か。

 どいつもコイツも結構ギラギラした目じゃない。こりゃぁそう簡単に試験で勝ったりは出来無さそうだな。

 あ、マーガレットもいる。

 やっぱりさっき発言したのはマーガレットだったのかな。隣にはマリアもいる。やっぱりあの2人は実力者だよねぇ。

 ダーク魔法学院の方にも、どっかで見た事がある奴がいるな。…どこだっけ?あの黒髪とサラサラヘアーは絶対会った事ある気がする。

 駄目だ。思い出せない。


 そんな事を考えて首を捻っていると、ロウ長官は俺達が互いの様子を観察しているのを面白そうに眺めながら手をパンパンと叩いた。


「さぁ、今日はこれで解散とする。互いの面通しとなったのだから、自由に交流しても良い。このまま潰しあっても良いぞ?くくっ。じゃぁ私は失礼する。」


 うわぁ。物騒な事を言い残してロウ長官は部屋から出て行った。

 え、どうすんのさ。凄い微妙な雰囲気なんですが。

 と思ったら、そんな雰囲気を一気にぶち壊す人が居た。


「すっげー!!強い人達と戦い放題じゃん!!」


 両の拳を突き上げてガッツポーズをしたのはルフトだ。あぁ…そうでした。バトルジャンキールフトさんはこーゆー状況好きそうだもんな。


「龍人!やっぱり私達は運命ですの!!」

「ぐぶっ!?」


 突然、顔が柔らかいものに包まれたかと思うと、何者かに押し倒される。

 って…マーガレットか!奇襲してくんなし!!


「うわぁ…大胆だね。私…見ていて恥ずかしいな」


 そんな事を言いながら顔を両手で隠しつつも、指の隙間から俺にくっつくマーガレットを覗いているのは杉谷ちなみだ。ほっぺた赤くなってるし!

 これまでちなみとはあんまし関わりがなったから良くは知らないんだけど、確か属性【全】を操るミラクル少女だったけか。授業の対人戦とかでも戦った事が無かったからなー。

 前に遼が「ちなみの使える属性が多くて、突破する戦略を練るのが難しいよ。」ってボヤいてたから、強いんだとは思う。てか…魔導師団候補に選ばれてる時点で強いのは確定か。

 見た目はボブストレートの茶髪にクリっとした目、アヒル口とかなりおっとりな雰囲気なんだけどね。巨乳なのもおっとり感にひと役かってるかも知れないな。


「ちなみ、女ったらしの龍人は放っておいた方がいいわよ。」


 火乃花…何故助けてくれないんだし!?引っ付いてるマーガレットを剥がして欲しいんですが!?


「龍人君…その人は知り合いなの?」


 げっ。クレアがウルウルしてるんだが。


「知り合いだけど、このま…」

「私のお婿候補ですわ!」


 それまでザワザワしていた部屋の中が静まり返った。

 …全員の視線が集中している気がするんですが。えぇ間違い無いでしょうね。


「…龍人君って許嫁がいたんだね。」


 えぇっ!?クレアさんや。そんなにドヨリンしなくても良いじゃないの。クラスメイトに許嫁がいても、それは人それぞれの人生だからさ。自分はまだ彼氏もいないのに。とか思ってるんだったら、全然焦らなくて良いと思う訳ですよ。つーかクレアは可愛いんだからすぐに彼氏位出来るでしょ。寧ろ俺が立候補したい位だし。

 でも…俺にはマーガレットっていう許嫁がいるんだよな。


「ってちがぁぁぁう!!」


 ブワンっとマーガレットを持ち上げてお姫様抱っこした俺は、堂々と宣言する。


「お婿候補だから許嫁じゃない!!!」


 再び静まり返る室内。

 え?今の俺の主張って何か間違ってたの?


「あら、皆の前で私をお姫様抱っこだなんて…龍人は相変わらず大胆ですの。ポッ…ですわ。」


 マーガレットが俺の腕の中で両手で頬っぺたを押さえて「イヤンイヤン」してやがる。

 駄目だ。俺にはもう事態の収集は無理だ!!


「龍人…テメェ!!!そんな可愛い子にお婿さん候補にしてもらっているのに抵抗するとか…爆死しろ!!」


 えぇ!?今度はバルクが飛び掛かって来たんですが!?


 そこからはアレよアレよと大騒ぎに発展した。幸いなことに本気のバトルが勃発する事は無かったけど。

 いやぁ…マジでクレアと周りの皆の誤解を解くのにめっちゃ時間かかったんだから。

 ちょいちょいマーガレットが「私は龍人と添い遂げるつもりですわ。」みたいな発言をチョイチョイぶっ込んでくるから、毎回話が少しずつこじれるんだもんよ。


 最終的にダーク魔法学院の浅野文隆って人が「いい加減にラブコメはやめなよ。俺、そういうのイライラすんだよね。」と、冷たく言った事で皆のお騒モードが沈静化したのが1番大きかったかな。因みに、この浅野文隆って人は俺が中央区で見た黒髪サラサラヘアー君って事が判明した。あの暴走したヤンキー達を簡単に倒した人ね。

 確か強かったような気がする。


 因みに、マリアも俺が誤解を解くのを手伝ってくれた。

 どうやらマーガレットのこういう猪突猛進系?なのは日常茶飯事らしく、ぶっ込み発言をするマーガレットにツッコミを入れるのは凄く上手かったぞ。往年の漫才コンビみたいな感じなのかね。


 とまぁ、こんな訳で…いや、どんな訳だよって気もするけど、魔導師団選抜の説明会は何とか無事に終わったのだった。

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