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5-25.平等派、至上派

 キタルは折り畳まれた紙を広げていく。

 そこには…人物相関図のようなものかびっしりと書き込まれていた。


「これを見て分かる通り、天地が裏で糸を引いているのでは?と疑わざるを得ない事件が多数起きているんだよね。」

「……。」


 ヘヴィーは沈黙を保つ。穏やかな表情で、しかし真剣にキタルが広げた紙を見ていた。その様子を横目で見ながら、キタルは続ける。


「そして、僕が1番注目しているのがアウェイクに関わる事件なんだね。これは確か1年生が何人か関わっていたよね。そして、報告にあるサタナスという科学者…魔法街戦争の時にも存在が確認されているんだよね。離れたビルの屋上であの爆発を見ながら笑っている白衣の男が目撃されているんだよね。人相は今回のサタナスとほぼ一致。そして、魔法街戦争は天地が裏工作をしていたという見解が強いのは、一部の者なら周知の事実なんたよね。これでもまだ…天地は関係ないって言うつもりなのかを聞きたいんだね。」


 ヘヴィーは静かに息を吐くと、軽く目を閉じ、直ぐに開いた。それまでの真剣な眼差しは消えていて、穏やかな光だけが灯っている。


「キタルの言う通りなのである。しかし、隠すつもりはなかったのじゃが……まぁ良いでの。」


 ここで一旦口を閉ざしたヘヴィーは会議を行う面々へ視線を送る。そして、ラルフへ顔を向けた。


「ラルフよ。空間を切り取って欲しいのである。」

「……わかりました。」


 ヘヴィーの意図を汲んだラルフは魔力域を広げ…会議をしている部屋の空間を切り取り、ズラした。


「オッケーです。これで盗聴は出来ないですよ。身内に内通者がいない限り…ね。」


 ピクリ。と、キャサリンの眉が反応したが、隣に座るラルフからは死角だった。


「そんな物騒な事言わないで欲しいわぁ。仲間を信じなければ…天地には勝てないわよぉ?」


 いつものエロ教師風に戻ったキャサリンだったが、ラルフは取り合わない。


「ピリピリする場面で和ませようとしなくて良いぜ。魔法街戦争を引き起こす暗躍が出来る連中だ。十中八九魔法街に奴らの手先は潜り込んでる。牽制だよ。」

「…はぁい。」


 ラルフに怒られてシュンとしたキャサリンは、金のロングヘアを指でクルクルと弄りながら椅子に深く腰掛けた。拗ねた子供と同義の体勢である。


「ほほほ。真の悪人とは善人面が上手いものである。さて…今から話す事は、いすれ周知の事実となるだろうが、今は口外禁止なのである。魔導師団のもう1つの目的…それは……」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「魔導師団?なんだそれ。」


 ルーチェからニュースを聞いた俺は首を傾げた。

 名前的には魔法使いで構成する団体なんだろうけど、魔法使いじゃなくて魔導師って表現なのが気になるな。

 なんつーか、お高く止まった印象を受ける。


「んー、簡単に言いますと…魔法街公認の部隊という感じですの。」

「なるほど。その魔導師団がどうしたんだ?その人達が見学に来るとか?」

「龍人君…少しは世間動向に気を配った方が良いわよ。魔導師団は未設立よ。」

「…ん?」


 はてなマークを浮かべると隣でサイダーを飲んでいた遼が苦笑いをした。


「龍人、俺でも知ってるのに。3つの魔法学院から6人ずつ選抜して結成するらしいよ。」

「あー、つまりエリート魔法使いが選ばれる訳か。俺達も4年生になったらチャンスがあるかもな。」


 …ん?俺何か変な事言ったか?3人とも顔を見合わせちまったんだけど。


「龍人君…まぁ普通はそう考えるんだろうけど。魔導師団は学院生限定なのよ。そして、メンバーを頻繁に変える予定は無いらしいの。」

「つまり、1年生を中心に選ばれる可能性が高いのです。」

「へぇ…。」


 なんだろう。ちよっと違和感がある。

 こーゆーのって指折りの実力者を集めるのが普通じゃないかね。なんか裏事情を抱える団体になりそうで嫌だな。

 うん。普通に選ばれなくて良いな。俺にはやるべき事があるし。


「皆は選ばれたいとかあんの?」

「私は拒否するわね。色々と縛られそうな気がするもの。」

「俺もやりたくないな。」

「私は…どちらでも良いですの。ただ……」


 ルーチェだけはそんなに否定的じゃないらしい。


「ご通行中の皆さん!!!皆様はニュースを見られたでしょうか!?」


 うわっ。いきなり大声量で話し始めた人がいるんですが。

 何かを言いかけていたルーチェは眉間に手を当てると、頭痛を振り払うかのように頭を振った。


「私の懸念事項はアレてすの。」

「アレ?」

「聞いていれば分かると思います。」


 因みに俺たちがいる場所は中央区にある商業地区。行政区を取り囲むようにドーナツ状に広がる地区だ。

 人通りも多く、街頭演説をするならもってこいの環境だとは思うけど…。

 ともかく、そのおっちゃんは大仰な身振り手振りで演説を始めた。


「あの驚愕のニュースは、私達が立ち上がって止めるべきなのです!各魔法学院から6人ずつの魔法使いを選出して結成する魔導師団。何故このような団体を結成する必要があるのでしょうか!?これまで、私達はギルドというシステムを活用して困難を乗り越えてきました!先日の緊急クエストだって街立魔法学院とシャイン魔法学院の生徒達の奮闘によって危機を乗り越えました。それを、今更魔法街お抱えの魔法使いを抱える意味はあるのか!?これには大きな陰謀があるに違いありません!!」


 ゲリラ街頭演説で陰謀論を唱えるとか…中々やるな。下手したら警察にしょっ引かれるんじゃないか?


「やはり…ですの。皆さん、荒れると思うのでご注意ください。」

「荒れる…?」

「えぇ、それもかなり激しく。」


 やだなぁ…。って、なんか人がかなり集まってきた。

 この話題って世間の皆様はそんなに関心があるのか。イマイチ魔法街で、その辺りの感覚が掴めないな。別に国お抱えの魔法使いなんて当たり前だと思うんだけど。

 …けど、実際は俺の想像を超える話の展開になった。

 演説する男は人々の注目が自分に集まっている事を確認すると、指をパチンと鳴らした。

 すると、男上にホログラフィックみたいな感じで図が表示された。

 なになに…史上派と平等派って書いてあるな。


「皆さんの記憶に新しい魔法街戦争!あの痛ましい戦争はこの2つの派閥の争いから始まりました!紆余曲折を経て派閥間の対立は収束を見せた。しかし!この魔導師団設立は魔法街戦争の再来を助長するものに他なりません!これまで平等派と至上派は共存を図ってきた。それは、どちらの理念にも尊重すべき考え方があるから。2つの派閥は手を取り合うべきなのに、魔法街が主導でこのパワーバランスを崩そうとしているのです!!!こんな事を許して良い筈がありません!さぁ皆さん、今こそ民衆の力を示す時です!立ち上がりましょう!」


 凄い話だな。

 魔導師団の設立が至上派と平等派のパワーバランスを崩すのか。

 強い魔法使いを魔法街が抱える訳だから至上派が強くなるって事なのかな?

 でも、こーゆーのって個人の意見ではなくて…議会みたいな多数の意見が出る場で議論して決まるんじゃないのかね。そうだとすれば、何か真意があるって事も…。


「おいおいそこの演説している君ぃ!何を戯けた事を言ってるのさぁ!?魔導師団という組織を作る事で、魔法街の魔法使いの質を更に上げていく事は街圏という枠組みで見た時に確実に必要な話だよねぇ!?そしてそれは他星へのアピールにもなるんだよぉ。君の発言は平等派という名を振りかざした排他的で保守的な話だよぉ!?」


 見た目も話し方もチャラい系のお兄さんが演説バトルを仕掛けた!

 想定外のライバル登場に、演説家のおっちゃんは戸惑っている。


「そ、そんな暴論がありますか!?魔導師団が設立され活躍をしていく事で、強き魔法使いが魔法街を導くべきという至上派の考えが広まるのは当然の摂理でしょう。つまり、至上派推進策とも捉えられるのです!」

「それは違うよねぇ!?あくまでも目的は魔法街公認の団体を持つという事。これは外交に於いて大きな意味を持つのさぁ!君は街圏の環境を知っているのか!?例えば機械街はその先進的技術で魔力が無くても生活可能な文化を作り上げているんだよぉ!戦闘に於いてもそぅ…魔法じゃないんだ。強力な誰でも使える武器を持つ事で、戦闘力は遥かに跳ね上がる!ならば、魔法街も外交を有利に進めて先進的技術を輸入するすれば……それこそ平等と言えるんじゃないのかぁ!?」


 チャラ男もおっさんも言い分は間違っちゃいない気がする。でも…これじゃあ。


「予想通りですの。」

「どういう事かしら?」


 イラッとした様子で演説家を眺めていた火乃花が問うと、カフェ席から立ち上がったルーチェは苦い顔で言った。


「今の段階で魔導師団の在り方、平等派と至上派のパワーバランスについて話すのは好ましくないのですわ。魔法街が魔導師団を設立するとしか発表をしていない段階で、この論争は不要な情報の一人歩きを招きますの。」

「でも、2人とも主張に変なトコは無かったよ?」


 遼の指摘にルーチェは頷く。


「だからこそ厄介なのですわ。どちらの主張も正しいと言えるからこそ、今後形成されるであろう2つの勢力は拮抗しますと。片方が淘汰されるなら良いのですが、いずれ全面抗争となりかねないのですわ。そうなったら…下手をしたら第2次魔法街戦争です。」

「そこまで発展するか?」

「私は大いにあり得ると考えていますの。」


 本当に?とは思うけど、可能性はあるか。

 現に俺たちの目の前で聴衆同士での言い合いが起こり始めてるし。

 俺が思ってるのよりも平等派と至上派の禍根って根が深いのかも。


「嫌な話ね。一先ず巻き込まれる前に移動しましょう。」


 火乃花に促されて俺たちは素早くその場を立ち去ったのだった。


 その後、向かったのはギルドだ。今日は討伐クエストをやる。という趣旨で集まっていたからね。


「…あんまし良いクエストが無いな。」

「そうね。Dランクばっかし。」


 いつもならBランク位までの討伐クエストはあるんだけどな。


「受付の方に聞けば、未掲示のクエストがあるかも知れませんの。」

「へぇー。そんなんあるんだな。行ってみるか。」


 流石ルーチェ。こういう時の豆知識は尊敬できるよ。


「あら…?皆さん野暮用を思い出しましたので、少し待っていて欲しいのですわ。」

「ん?分かった。」


 ルーチェはペコリと頭を下げると足早にギルドの正面入り口から出て行った。野暮用ってなんだろ?まぁ後で聞いてみれば良いか。

 残った俺達は受付のお姉さんに聞いて2つの未掲示クエストを紹介してもらった。1つは禁区でのエレメンタルウルフの群れ討伐クエスト。もう1つが、トレントの残党狩りクエストだ。

 どちらのクエストも難度は高め。エレメンタルウルフの群れは100匹規模らしく、数の暴力に晒される可能性がある。トレントは知っての通り…だいぶ苦戦したからなぁ。

 という訳で、クエストの受注を保留にしてルーチェの到着を待っている。


「…遅いな。」

「ホントだね。」

「何か事件に巻き込まれたとかないかしら…。」


 あり得るな。

 外は平等派と至上派の演説とかで盛り上がってそうだし。下手したら両派閥の暴動なんて事もあり得る。


「探しに行くか。」

「だね。危ない気もするし、3人で行こう。」

「そうね。」


 という事で、ギルドから出た俺達は付近を歩いて探す事にした。携帯電話があったら楽なんだけど。魔力を動力した通信機とかって無いのかね?

 中央区のギルドは行政地区にあるからか、周りで演説をしている人は流石にいなかった。商業地区の方が取り締まりは緩そうだし、当然っちゃ当然か。それでも、街行く人々の会話の端々に魔導師団関連の単語が聞こえる。

 少し歩き回っていると、火乃花が足を止めた。


「あ、ルーチェいたわよ。」

「どこ?」

「あそこね。あの高級ホテルの道路の反対側。」

「ホントだ。何やってんだろ。」


 腕を組んで立つルーチェはやけに真剣な顔でホテルの入り口を観察していた。


「あら。あの入り口に立ってる人ってラスター長官じゃないかしら。ルーチェのお父さんの。野暮用って、ルーチェのお父さんに何か用があったのかしら。」


 火乃花が指し示したのは金髪オールバックにサングラスを掛けた、ちょっと浮世離れした人物。周りには何人かの人を侍らせている。ヤケに美人な人もいるな。秘書さんだろうか。

 つーか…ラスター長官、見た事あるよね。俺。


「……え、あの人が税務庁長官で、ルーチェの父親?…ラスター長官?」

「そうだよ。ていうか、龍人知らないの?長官らしからぬファッションで有名だよ。俺でも知ってるのに。」

「いや、知ってる人なんだけど、知らなかったというか……。」


 おいおい。マジか。あの時のラスターが税務庁長官だったとは。つーか、長官を呼び捨てって良いのか?でも、本人がそう言ったんだし…。


「どういう事?もしかして龍人君…何かやらかしてるの?」


 火乃花が疑惑の目を向けてくるんですか!


「俺も直接見るのは初めてだけど…カタギの人っぽくないね。」


 遼は見るの初めてなのか。

 まぁ俺も初めて会った時は裏社会関係の人かと思って焦ったからな。金髪オールバックにサングラスっていういかにもなファッションで税務庁長官ってのも驚きだし、あのお嬢様雰囲気バリバリのルーチェの父親ってが驚きだ。

 でも、基本的に良い人なんだよな。

 前に会った時は「いざとなったら君を助けよう。」みたいな事も言ってくれてたし。

 それはそれ…だよね。

 いやぁ世間って狭いもんだね。俺がこれまでにあった人で他にもお偉いさんとか居るのかも。

 …うわっ。無意識にやらかしてる可能性あんじゃん。


「一応何もやらかしてないよ。入学当初に中央区で迷ってたら道案内してくれたんだよね。」

「そういう事ね。長官相手に何かやらかしてたら相当ヤバいからちょっと焦っちゃったじゃない。」

「流石にお偉いさん相手にやらかさないよ。」

「え、でも…龍人はあの人が長官って知らなかったんだよね?」

「そうね。龍人君なら気付かずに無礼を働く可能性は十分にあるわ。」

「失礼なっ!」


 俺の素行評価どんだけ悪いんだよ!


「あ、ラスター長官は中に入って行ったわね。」

「ホントだ。お父さんに用事があったんじゃ無かったのかな?」


 しかも俺の反論をスルーして話を進めるし。

 くそー。さり気なく弄られキャラになりつつあるのか俺?


 漫才風?なやり取りをしながら、俺達はルーチェに声をかける事にした。


「よっ。ルーチェ。何してるんだ?」


 俺達が声を掛けると、難しい顔をしていたルーチェはキョトンと顔をして、それからいつもみたいに微笑んだ。


「あら、皆様どうしたんですの?」

「どうもこうも、ルーチェが帰ってこないから探しにきたんじゃない。」

「それは失礼致しました。実はお父様に用があったのですが、大事な会談があるそうで…。なので、これから一度家に帰らなければなりませんの。申し訳ないのですが、本日はクエストに参加できませんの。」

「そうなのね。まぁ私達の方も大したクエストが無いから悩んでたし、丁度良いわね。じゃあ今日は解散にしましょうか。」

「ありがとうございます。ではまた明日学院で。」


 ペコリと頭を下げたルーチェは小走りで走っていった。

 最後に一瞬だけ悲しそうな表情が見えたような…。いや、そんな要素ないか。気のせいだな。


「俺達はどうする?」

「気が抜けちゃったし、私は買い物でもして帰ろうかしら。」

「遼は?」

「俺も帰ろうかな。至上派と平等派の騒動に巻き込まれたくないし。」

「じゃあ解散だな。」

「龍人君はどうするの?」

「俺は…どうしよう。」


 思わず首を傾げてしまう。

 特にやる事が無いんだよな。

 そんな俺を見た火乃花はメモ紙を取り出してニヤッと笑った。


「じゃあ、買い物に付き合ってくれる?」

「ん?別に良いけど。遼も行く?」

「俺は……遠慮しとくよ。」


 遼の奴、断る前に火乃花のメモ紙をチラ見してたんだけど。


「じゃあ行きましょっ。色々買いたかったから助かるわ。」

「龍人。頑張って!」


 火乃花に腕を引っ張られて歩き始めた俺を…満面の笑みで見送る遼だった。


 この後、俺が大量の荷物持ちをさせられたのは言うまでもない。尻に敷かれている彼氏…の構図で恥ずかしかったのは言うまでもない。

 更に、収納魔法陣を使えばよかったと布団に入ってから気付いて落ち込んだのは…また別の話だ。

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