2-3.ギルドクエスト ゴブリン
翌朝。
レフナンティのギルド入口で遼と待ち合わせをしていた俺は、珍しく時間前に到着していた。
遅刻ばっかりしてるのに何故かって?そりゃあ…新しい武器を使うのが楽しみすぎて早起きしちゃったからだ。
腕を組んで欠伸をしながら立っていると、道の向こう側から遼が歩いてくるのが見えた。
そして、俺が立っているのを見ると…ご丁寧に目を擦っての2度見を披露してくれた。
「えっ…。龍人……なんでいるの?」
「なんだよ。待ち合わせしてたんだから居るのは当たり前だろ。」
「いやいや。ここ数年、遅刻しなかった事が無かったよね?どうしたの?大丈夫?」
「失礼だなっ。俺だって時間通りに来れるって!」
「いやいや、どの口が言うのさ…。」
チクショー。この流れで、新しい武器を使うのが楽しみで早起きしたなんて…言えない。こうなったら、強引に話を持ってくしかないな。
「ったく。俺が早くきたってだけで騒ぎすぎだよ。早くギルドでクエスト受けようぜ。」
「え…あぁ。うん。分かった。」
どこか煮え切らない顔をしつつも、頷いた遼は先に歩き出した俺を追いかけてギルドの中に入ってくる。
さぁ!気持ちを切り替えてギルドクエストやるぞー!
ギルドの建物内部は絢爛豪華な装いで、厳粛な雰囲気を感じさせる。ここレフナンティという素朴な文化を持つ街の中で唯一異文化を感じさせる建物なのである。
…なんて感じだったらよりワクワク感なんだけどね。残念ながら普通の内装だ。受付カウンターも、置いてある椅子もテーブルも全部木造りだし、受付のおねーさんも俺たちと同じ麻の服を着てる。
「どうしよう龍人。」
「ん?」
「なんか緊張してきちゃったかも。」
オマケに隣にいる遼は緊張していやがるし。なんつーか…ワクワク感が無い!
俺が「あーあ。」と思ってゲンナリしていると、受付のおねーさんがにこやかに声を掛けてきた。
茶色のロングヘアーを揺らす童顔系美人だ。うん、可愛い。
「はい!お待たせしましたー!ギルドカードを見せて下さい。…はい!オッケーです。えぇっ…と、初めての依頼ですね。ギルドシステムは理解してますか?」
「まぁ…大体は。」
試験合格の後に、ざっと説明されたから大枠は分かってる。要はクエストを達成してギルドランクを上げる。的な感じだった筈。
「んー、その感じは少し怪しいですね。簡単に説明しておきますよ?」
「あ、じゃあお願いします。」
ん?ちょっと鼻の穴が膨らんだような。もしかして新人に説明するのが好きなのかな?だとしたら見かけによらず変人というか…。
「まず、ギルドランクはどの星でも共通になります。ランクを上げる基準も同じです。あなたたちはEランクだから、Cランク迄はランクアップクエストを達成すれば上がれますよ。言っちゃえばCランクからが本番って感じもありますね。」
「そのランクアップクエストは今からでも受けられるのか?」
「もちろん!でも、ギルド判断で不可とする場合もあります。貴方達みたいなど新人とかね。」
ど新人…。そーゆー表現をされると地味に悔しいな。
「因みに魔獣にもランクがあるのは知ってますか?」
「何となくは。」
「魔獣もギルドランクと同じEランクから始まります。注意点はギルドランクの1つ上のランクに該当する魔獣が対象のクエストしか受注出来ない事です。」
「1つ上って事は…。」
「えぇ、Dランク迄です。」
なるほどね。強い魔獣を討伐するクエストを受けるなら、ギルドランクを上げるのが最優先になる訳だ。
「ランクの説明は以上で……。」
そこからはクエストの選び方とか、報酬の受け取り方とかの基本的な話だった。
正直、当たり前過ぎてあんまり覚えてない。ま、大丈夫だろ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
んでもって、俺と遼が初めてのクエストに選んだのは『ゴブリンの討伐』だ。
どうやらレフナンティの北側にある森奥に住んでいるゴブリンが、北門の近くに出没し始めたらしい。
とは言っても魔獣Eランクのゴブリンだから、そんな脅威ではない。ただ、北門周辺住民から不安の声が上がっていて、討伐の依頼が出されたんだとか。
依頼のメインは討伐だけど、サブ依頼でゴブリン出没の原因調査ってのもあるから、今回は北門周辺のゴブリンを討伐しながら森奥の方まで足を伸ばしてみるつもりだ。
「ねぇ、龍人。」
「なんだ?」
「ゴブリンだよ?ゴブリン。」
レフナンティの北門を出て森の方へ草原を歩いていると、テンションの低い遼がゴブリンを連呼してきた。
そんなに怖いのか?
「ビビりすぎだろ。」
「違うって。何度も倒した事がある魔獣が初めてのギルドクエストって…凄いテンション下がるんだよね。」
「まぁそれは分かるけど。だからと言って、ゴリ押しでランクアップクエストは受けられないだろ?」
「そうなんだけどさぁ…。」
当初、俺と遼は速攻でランクアップクエストを受けるつもりだったんだよな。
でも、受付のおねーさんがど新人はNGと言った通り、依頼を達成して実力がある事をギルドに証明する必要があるわけだ。
で、今日受けられるクエストで1番難度が高いのが今回のゴブリン討伐だった訳。
それに他のクエストはお婆ちゃんのお買い物とかなんだから、魔獣と戦うクエストってなだけで十分な気もすんだけどなー。
「遼。気持ちを切り替えていこうぜ。ゴブリンだからって舐めると痛い目見るぞ?」
「えぇ…だってゴブリンだし…。」
やる気が出ない遼を慰めながら草原を歩いていると、岩陰で何かが動く。
「遼。」
「うん。いるね。」
遼が腰につけた銃を手に取る。
「え、戦うの?あんなにやる気無かったのに?」
俺は思わず突っ込んでしまう。げんなりしてたのに、反応が早すぎるだろ。
「だってさ…何もしないで終わるのも嫌だし。」
「……まぁいいや。任せた。」
ここで俺が戦って遼のテンションが駄々下がりするよりは、任せた方が確実に良いだろ。
「じゃ、パパッと倒すねっ。」
遼は銃口を岩陰に隠れている相手へ向ける。
少しの沈黙の後、そいつは岩陰から飛び出してきた。
「キシャャャャアアア!!」
薄緑の体に茶色い布切れを腰に巻いた禿頭の魔獣…ゴブリンだ。
両手の指先に伸びた鋭い爪を振りかざし、俊敏な動きで俺と遼目掛けて襲いかかってくる。
パァンパァンパァン!
そんな猛るゴブリンに対して3発の銃声が鳴り響いた。勿論、遼の双銃だ。魔力の弾丸が空気を切り裂いてゴブリンの胴体へ着弾する。
「グキャァァア!!!???」
衝撃に倒れたゴブリンは被弾箇所から血を垂れ流し、痛みに転げ回った。
…うえぇ。普通に痛そうだな。
てか、3発も銃弾を受けたのに、あそこまで暴れ回るとか魔獣ってタフだわ。
「よしっ。とどめだ!」
余裕の遼は更に魔弾をゴブリンに叩き込む。
「グキャァァ……。」
連続で魔弾を受けたゴブリンは力なく四肢を投げ出して絶命した。
…やっぱり、いつも倒してる魔獣だから余裕だよなぁ。
「遼、余裕じゃんか。」
取り敢えず褒めてみると、遼は銃をクルクル回しながら首を横に振る。
「全然ダメだよ。テンション上がらないし、6発も撃っちゃったし。ゴブリンだったら4発位で倒せるんだけどね。やっぱり集中力が無いみたい。」
…遼のやつ、無駄に高いレベルを求めてるな。近接武器を使う俺でも3回は斬撃を叩き込まないと倒せないのに。
あれ…?もしかして、俺より遼の方が強いのか?模擬戦やるときは同じくらいの勝率だったと思うんだけど…。
「龍人っ!行こう。もう早くこの依頼を終わらせてランクアップクエスト受けたいや。」
やる気ない割には、別のベクトルから結局やる気あんじゃん…。まぁ、結果オーライなのか?
「はいよー。北門周辺には全然ゴブリンが見当たらないし、森奥に行ってみるか。」
「だね。」
という事で、俺と遼はレフナンティ北側に広がる森地帯へ足を踏み入れたのだった。
俺、依頼が始まってから1回も戦ってないんですけど…?