第五話
8月8日
開戦から1週間。台湾と先島諸島をめぐるアジアでの戦いは新たな局面を迎えた。
アジアにおける自由の擁護と、中国にこれまで虐げられてきたチベットやウイグル等の独立支援を名目に、再び「世界の警察官」を宣言したアメリカは、日米安保適用と共に中国に対して宣戦を布告。
空母「ロナルド・レーガン」を主力とした米海軍第7艦隊の他、米本土からの空母「カール・ヴィンソン」と空母「セオドア・ルーズベルト」の2個空母打撃群と第1海兵遠征群が到着し、苦戦を強いられている台湾軍を支援した。空母打撃群と海兵隊の航空部隊、そして日本の基地からの空軍戦闘機部隊と、グアムから発進した本土所属のBー52ストラトフォートレス戦略爆撃機とBー1ランサー戦略爆撃機と合わせて、台湾に侵攻した中国軍部隊を駆逐し、台湾海峡における中国の海・空兵力を壊滅させた。
中国の猛攻をしのいだ台湾軍は、中国本土への逆上陸作戦を図る。米本土からのステルス戦略爆撃機Bー2スピリットとロサンゼルス級攻撃型原潜からの巡航ミサイル攻撃で中国本土の主要軍事施設が壊滅的打撃を受け、米軍の強力なサイバー攻撃によって中国の通信網は麻痺してしまう。
開戦から3週間後、台湾陸軍と台湾海軍陸戦隊は米海兵隊と共同で中国本土への上陸作戦を敢行。人民解放軍東部戦区の第31集団軍の抵抗を排除。その後ハワイ駐屯の米陸軍第25歩兵師団と緊急展開部隊の米陸軍第18空挺軍団、そしてイギリス・カナダ・オーストラリア等の多国籍軍部隊も加わり、先に上陸していた米台連合軍が首都北京に向けて進撃した。
北京では中国共産党首脳部に衝撃が走っていた。
米軍を中心とした多国籍軍が台湾軍と上陸してきた。さらにはインドとベトナム、ロシアも国境に軍を集結させていた。アメリカの強力なサイバー攻撃の影響で中国国内のあちこちで混乱が生じていて、もはや収拾がつかなくなっていた。自国の人民達を見捨てることに何の躊躇いもなく、共産党首脳部は国外へ脱出した。
連合軍が北京に入った時には、共産党首脳部が既に脱出した後で、自分達を見捨てた共産党に対して憤っていた人民達は、連合軍を「解放軍」として歓迎した。天安門に掲げられていた毛沢東の肖像画は外され、台湾(中華民国)の国旗である「青天白日満地紅旗」が掲げられた。首都北京の制圧は台湾軍の役目だった。
70年余り続いた中華人民共和国の歴史に幕が下りた瞬間だった。