第9話 イケメン彼女は無理をしている?
早乙女さんに案内されたカフェで極上のスイーツを平らげた後、今度は俺の案内でとある店に向かった。
ちなみに、カフェでのお代は早乙女さんが払ってくれた。
俺の抵抗虚しく、今日はお礼だからの一点張りで根負けを喫した形。
その挽回を含めて、目的地には大きな意味があるはずだ。
「着いたよ」
「ここは……お洋服屋さん?」
「そう。俺の姉がやってるとこ」
「あれ、前もそう言ってた気が……」
「うちの姉は三つ子なんだ。全員が店構えて服売ってる」
ここは次女の店だと補足すると、早乙女さんは感嘆の声を漏らした。
ついでに、率直な感想を一つ。
「何だか、カッコいい感じだね……」
その感想は概ね正しい。
外装は黒を基調とした寒色で統一され、店内に足を踏み入れればモノクロな世界が待っている。
売ってる服も店装に違わず、ロックでパンクなクール系。
そんな"カッコいい"洋服店に、俺は用があった。
とんでもないお節介かもしれないけど、確かめてみる価値はある。
「いらっしゃい……って、渚じゃん。いきなりどうし……た?」
カランカランと鈴の音を鳴らしながら入店すると早速、店長であり、年の離れた三つ子の姉である速水彩夏が迎えてくれた。
途中で不自然に言葉が途切れたのは、俺が女の子を連れてきたからだろう。
生まれてこの方初めてのことだし、彩夏姉が驚くのも無理ない。
「どうしたのこの子、渚の彼女?」
「違う、友達」
「ふーん、友達ねえ……」
今日で二度目の質問に即答すると、彩夏姉は何故だか疑いの目を向けてきた。
視線は真っ直ぐ早乙女さんに向けられ、上から下まで見定めるように嘗め回す。
「……ふむふむ」
何やら勝手に納得しているが、嫌な予感しかしない。
彩夏姉は、三つ子の中で一番俺をからかってくるのだ。
フランクな感じで距離も近いし、一度ペースを握られると大変なことになる。
「彩夏姉、早速だけど頼みがあって」
「……ん? その子関係?」
「話が早くて助かる。ちょっと、服を選んでほしくて」
「えっ……も、もしかして、それって私の服?」
「もちろん、そのために来たんだから」
早乙女さんが「聞いてない」と言いたげな顔をしているけど、言っていないのだから当然だ。
これは単なる俺の独断で、お節介なのだから。
「どういう系統をご所望で?」
普段はやっかいな姉とはいえ、仕事中は服に愛と情熱を捧ぐエリートだ。
俺が早めに話を振ると、期待通り彩夏姉は仕事モードに切り替えてくれた。
「中性的で端正な顔に、スラっとした長身と程よい肉付き。外見から判断すると、モード系とか似合いそうだけど……今は随分と可愛い服を着てるね」
「その"可愛い"系統を彩夏姉には頼みたい」
「……私の店で?」
冗談でしょ、といった風に彩夏姉は口角を上げる。
早乙女さんも、小さく首を傾げたままだ。
周りを見渡せば、可愛いとは正反対の服ばかりが並ぶ。
一見、矛盾した目的と店選びに見えるだろうけど……。
「"かっこかわいい"なら分かりやすいかな」
「ああ、なるほど」
俺の意図を察したのか、彩夏姉はニヤリと笑って何度か頷く。
「ちょっと待ってな。いくつか似合いそうなの持って来るわ」
そう言って、彩夏姉は店の奥へと消えていく。
一方、色々な意味で取り残された早乙女さんは不思議そうな顔をして、ちょんちょんと優しく俺の肩を叩いた。
「……どうして私をこの店に?」
それは、至極真っ当な疑問だった。
洋服店に突然連れてこられて、いきなり服を選ばれることになり、一体全体なんのこっちゃといった感じだろう。
だからそろそろ、俺の考えを伝える必要がある。
「これは勝手な推測なんだけど……早乙女さんが無理をしてると思ったんだ」
「……私が、無理を?」
「うん。俺にはそう見える」
偉そうに語りつつ、俺が早乙女さんについて知っていることはとても少ない。
イケメンでカッコいいこと。
一人っ子であること。
スポーツが得意なこと。
この三つ以外は特に思い浮かばない。
何せ、俺は避けられていた(と思っていた)くらいだし。
クラスメイトとはいえ関わる機会がなければ、普段の様子と自己紹介の情報にプロフィールは限られてくる。
でも、あの日偶然、俺は早乙女さんの意外な一面を知った。
彼女は"可愛い"が好きらしい。
そして、そんな"好き"をどういうわけか隠している。
もう少し具体的に表せば、人目を恐れている。
この短い関わり合いの中で、俺は確かにそう感じた。
「早乙女さんは何か理由があって、"好き"なことを我慢しているんじゃない? ほら、可愛い服が好きなのに、制服はスラックスだったり……」
言っているうちに、本当にこれで良かったのだろうかと疑問が浮かぶ。
勝手に推測して、勝手に力になろうとしている。
それは、母と姉の教えに由来することだけど、正解なのかはわからない。
だけど、今回ばかりは大正解だったようだ。
「……どうして分かったの?」
早乙女さんは驚いたような顔で。
そして、少しだけ瞳を潤ませて。
俺の目を真っ直ぐと見つめていた。
次話、再び早乙女さん視点へ。
「面白い」「続きが読みたい」という読者様はブックマーク登録して、本作を読み進めてもらえると嬉しいです。
また、後書き下の☆☆☆☆☆から評価ポイントを入れていただけると、作者と作品の力になります。




