第7話 イケメン彼女は圧倒される
早乙女さんに案内されたカフェは、外装から内装、メニュー名まで全てが"可愛い"で埋め尽くされていた。
わかりやすく表現するならば、SNS映えしそうなお店だ。
実際、カシャカシャとシャッター音が鳴りやまないし、周りを見渡せば若い女性の姿しか見当たらない。
こうなると肩身が狭いというか、俺だけ場違いに思えてくる。
そんな中で、早乙女さんは宝石のように目をキラキラと輝かせていた。
「……期間限定のパンケーキ……チョコレートケーキも捨てがたい……」
メニュー表をまじまじと見つめて、自分の世界に入っている早乙女さん。
その様子は他のお客さんと変わりなく、お店の雰囲気によく馴染んでいた。
今日は制服とは違い、レディースの可愛い服を着ているし。
よく見れば、薄っすらとメイクもしているような。
やっぱり、女の子なんだなあ――そんな当たり前の感想が浮かぶ。
「……今更だけどさ。速水くん、こういうお店大丈夫?」
「ん? 大丈夫ってのは?」
「甘い物、キライだったりしないかなと思って」
何となく早乙女さんを見つめていると、いつの間にか目が合っていた。
少し不安そうな顔で、本当に今更なことを聞いて来る。
入店した後に好き嫌いを聞く辺り、余程このカフェに夢中だったらしい。
幸い、俺は姉たちの影響で甘味には大分慣れている。
めちゃくちゃ大好き、とまではいかないけれど。
好きか嫌いかで言えば、間違いなく好きの部類に入る。
俺がその旨を伝えると、早乙女さんはパッと明るい表情を浮かべた。
「それならオススメがあってね! この練乳ミルクのイチゴムースパフェが……」
水を得た魚、改め、スイーツを得た早乙女さん。
テンション高めにメニュー表を見せて来る姿はとても微笑ましい。
何でも、ここは早乙女さん行きつけのお店らしく、定番のメニューやイチオシのスイーツ、裏オプションの存在なども教えてもらった。
どうやら彼女は、好きな物には夢中になるタイプらしい。
やけに饒舌な早乙女さんの話に相槌を打ちながら、俺は注文内容を決めて店員さんを呼んだ。
「ご注文をどうぞ」
「えっと、季節限定の桜パフェを一つと……」
迷いに迷った結果、限定メニューを選んだ早乙女さんが急に固まる。
何やら、口をパクパクとさせ呆気に取られているようで。
その視線の先は、オーダーを取りに来た女性の店員さんだった。
「あれ……もしかして、飛鳥?」
「……ヒトチガイデス」
「いや、絶対飛鳥でしょ」
「チガイマス」
茶髪のセミロングヘアーが特徴的な小柄な店員さんは、少し驚いたような顔で早乙女さんを見て、それから急に俺の方を見た。
すると、店員さんの口角がゆっくりと上がり始めて。
最終的にはニヤニヤとした顔で早乙女さんに向き直った。
「珍しく飛鳥が可愛い恰好してると思ったら。……なるほどねえ」
「な、なにその顔……あっ、わ、私は飛鳥じゃないから」
「もう他人の振りははいいって。ついに飛鳥にも春が来たんでしょ? 普通にお祝いさせてよ」
「……春? もうすぐ夏だけど」
「比喩よ比喩。ようするに……」
何やら早乙女さんと知り合いっぽい店員さんは、俺の方を見てニンマリと笑う。
その瞬間、ゾッと感じたことのある悪寒がした。
背筋が凍るような寒気の正体。
これはきっと……。
「飛鳥にもようやく彼氏ができたんだねえ」
「か、か、か、彼氏!?」
「だから可愛くオシャレしてデートしてるんでしょ?」
「でっ、でぇ、デート!? にゃ、な、なにを言ってるの!!」
ああやっぱり、この光景は見覚えがある。
姉たちと俺の会話と同じだ。
年上の身内や親戚に対して、会話の主導権を握られる感じ。
特に、恋愛沙汰に関しては全く太刀打ちできないのだ。
現に早乙女さんは、顔を真っ赤にして為す術なしでいる。
こうなったら、第三者の俺が頑張るしかない。
「あの……俺は彼氏じゃなくて、早乙女さんのクラスメイトです」
うん、これで完璧だ。
何故か、早乙女さんは少し残念そうな顔を、店員さんはとても残念そうな顔をしているけど、事実を伝えるに越したことはない。
「ありゃー、私の勘違いだったか」
「そ、そうだよ。速水くんは友達で……」
「じゃあ恋人候補か」
「~~~~~っ! ゆう姉、からかわないでっ!」
いつもはイケメンムーブで場を支配する早乙女さんが、誰かにここまで圧倒されている早乙女さんはと新鮮だ。
ただそれよりも今、ゆう姉って言ったか?
顔があまり似ていないし、家族というよりは友達のような……。
「初めまして、飛鳥の彼氏候補さん。私は真壁優奈、大学一年生です。飛鳥の従姉妹で、親友やってます」
「は、初めまして……速水渚です」
なるほど、親戚のお姉さんというわけか。
それなら色々と合点がいく。
「ゆっくりと話したいところだけど、生憎仕事中でね。また今度、詳しく話を聞かせてよ」
「そ、そういうのはいいから! 早くオーダー取って!」
「もーっ、飛鳥はせっかちだなー。はいはい、注文どうぞー」
ニコリ、と笑う真壁さんと目が合って、やっぱり悪寒が襲った。
この人は俺の姉たちと同じ匂いがする。
つまりはとてもやっかいということだ。
この度、本作がジャンル別日間ランキング1位に輝きました!
明日には順位が落ちてしまいそうですが、これからも連載頑張りたいと思います。
「面白い」「続きが読みたい」という読者様は是非、ブックマーク登録をお願いします。