第6話 イケメン彼女は可愛く着飾る
五月の中旬、春と夏の境目でまだ日差しが温かな頃。
今日は早乙女さんと一緒にカフェに行く日。
俺は指定された待ち合わせ場所に少し早く到着した。
正直言って、あまり気は進まない。
それは早乙女さんに問題があるわけじゃなくて。
誰のせいかといえば、間違いなく家族のせいだ。
そこに愛があることは分かっているし、仲は凄く良いんだけど。
母親には着せ替え人形にされ、三つ子の姉にはこき使われ、そうやって女性の悪いとこばっかり見て来たから、顔や態度に出さないけど異性は少し苦手だ。
素敵なところは素直に褒める、待ち合わせは男が絶対に先、とにかくレディーファースト。
そんな事をあれこれと叩きこまれて、今ではすっかり習慣に。
お陰で異性に対してすっかり気疲れするようになってしまった。
恋愛感情なんてもってのほか。
好きになる前に疲れてしまう。
「でも、早乙女さんは話しやすいんだよな……」
どういうわけか、彼女は男の子の格好をしている。
深く理由は知らないけど、俺にはそれが心地よい。
もちろん女性として接するけど、変に意識しなくていいというか。
早乙女さんが凄くイケメンでカッコいいからかもしれない。
だから――
「お待たせ、速水くん……待たせちゃった?」
「いや、俺も来たばかりだから大丈夫だけど……」
約束の時間ぴったりに現れた早乙女さんの姿を見て、俺は頭が真っ白になった。
「……変、かな?」
もじもじと小刻みに揺れながら、チラリと俺を覗き見る早乙女さんは私服を着ていた。
もちろん、今日は休日で学校はないから当たり前なんだけど。
俺の思考を一瞬奪ったのは、その洋服が見覚えのあるもので、同時に明らかな違和感があったからだ。
水色のリブニットに、オフホワイトのロングチュールスカート。
どこからどう見てもそれは、俺が選んだコーディネートで。
「いや、全然変じゃない……けど」
「……けど?」
「その……なんて言えばいいんだろ」
口には出せない言葉が喉に詰まる。
ついでに、視線の置き場も迷う事になった。
心の中で違和感の正体をはっきり表現すれば。
いつもは男の子と間違えてしまうくらいなのに。
早乙女さんの胸が……とても大きくなってた。
「……あっ、その……えっと……」
どうやら、早乙女さんが俺の言わんとしていることに気付いたらしい。
少し顔を赤らめて、恥ずかしそうに該当部分を両腕で覆う。
「普段は抑えて隠してるの……」
「へー……そうなんだ……」
これはどう反応するのが正解なんだろう。
男物の制服を着ているイケメン女子が実は巨にゅ……胸が大きかった時の反応なんて教わってない。
いや別に、教えてもらわなくていいんだけれど。
なるほど、Lサイズを求めていたのはそういうことか。
「改めて、良く似合ってる」
「……ありがと」
俺は母と姉の言いつけ通り、思った通りの感想を伝える。
早乙女さんは五月の太陽が暑いのか、頬を桜色に染めていた。
「じゃあ、行こうか……」
「うん……案内するね」
何故か、"可愛い"という言葉を口に出せなかったのは内緒だ。
どうやら俺は、早乙女さんの思わぬギャップに少しだけ意識してしまっているらしい。
"好き"に正直になろうと頑張る早乙女さん。
そんな彼女を意識し始めた速水くん。
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