第5話 イケメン彼女は一歩を踏み出す
"好き"に少しだけ正直になる。
そう心に決めて、頑張って行動したのに。
『俺は店員として当然のことをしただけだし、お礼は気にしなくて大丈夫だよ』
勇気を出して送信したメッセージの返信は、実に速水くんらしい内容だった。
彼はとても誠実で真面目な人だ。
困っている人がいれば手を差し伸べるし、いつだってほしい言葉をかけてくれる。
そんな速水くんが私は大好きだし、尊敬している。
今日はそれが完全に裏目に出てしまった。
でも、このままじゃ終われない。
断られたままだと、お礼の気持ちと好きの気持ちが整理できない。
だから今日一日、速水くんと話す機会を伺っていたんだけど……。
「全然話し掛けられない……」
私が中々勇気を出せなかったのもあるけど、いざという時に限って階段から先輩が降ってきたり、後輩が喧嘩を始めそうだったり、クラスメイトが怪我をしてしまったり。
トラウマから身を守るため、私は理想の男の子を演じてしまう。
それは少女漫画の王子様と、速水くんに影響を受けていて。
ついつい、身体と口が動くようになってしまったのだ。
だから――
「やっと捕まえた」
速水くんに対しても、癖が抜けずにやってしまった。
本当は、普通に話し掛けようとしたのに。
緊張しすぎて足がもつれて、そのまま壁にドンって。
テンパって変なセリフも言っちゃったし、絶対おかしいと思われてる。
ああ、でもやっぱり速水くんはカッコいいな。
顔も性格もカッコいいなんて、そんなの反則だ。
このままずっと見ていたいくらい……。
「……はっ! ご、ご、ごめん速水くん! すぐどくから!」
もう本当に、何やってるんだろ私。
「いきなりごめんね、驚かせちゃったよね……」
「別にいいけど、どうしたの?」
「それは……ちょっと話したいことがあって……」
やっぱり速水くんは優しい。
挙動不審な私と目線を合わせて、ちゃんと話を聞いてくれる。
だからこそ、落ち着いてゆっくりと話がしたい。
「……速水くん、場所変えていい?」
優しく、速水くんが頷いてくれる。
「こっち来て」
あとは私が勇気を出すだけだ。
(何やってんだ私!!!)
速水くんと手を繋いでしまった。
正確には手首だけど、そんなの今はどうでもいい。
全身が熱くなって、頭がどうにかなりそうだ。
「早乙女さん、話って何かな?」
「あっ、えっと……」
そうだ、私は速水くんに言いたいことがあったんだ。
ここなら空き教室で誰もいないし、話をする場所としては最適だ。
メッセージでも難易度が高かったのに、直接は凄く恥ずかしいけど。
――"好き"に正直になっていいんじゃないかな?
他ならぬ速水くんの言葉が、私の背中を優しく押してくれた。
「昨日送ったメッセージのことなんだけどね?」
「ああ、やっぱりそのことか」
「……やっぱり?」
「うん、ちょっと予想してた」
ニコリ、と速水くんが人の良い笑みを浮かべる。
いつも遠目から見つめていた、私の大好きな顔だ。
また、"好き"の気持ちが強くなる。
頑張れ、私。
「あのね……やっぱりお礼、させてくれないかな?」
「そう言われてもなあ。俺は本当に気にしてないよ?」
「私が気にするの! ……とても救われたから」
思ったより、大きな声が出た。
速水くんが目を丸くしている。
もう一歩、あと一歩。
「私、素敵なカフェを知ってるから……一緒に行かない?」
これで断られたら潔く諦める。
だって、これ以上進むことは今の私にはできない。
精一杯の勇気を込めた私の誘い。
お願い、私と一緒に――
「そこまで言ってくれるなら。週末だよね、一緒に行こうか」
いつだって速水くんは私がほしい言葉をくれる。
その日の晩、私は"好き"の気持ちが溢れて眠れなかった。
次回、お出かけ編。
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