第4話 イケメン彼女は壁ドンが似合う
小春姉の店でバイト中、早乙女さんの可愛い姿を知った翌日のこと。
昨日の出来事がまるで嘘だったかのように、今日は彼女のイケメンな姿をよく目にした。
遭遇率が高すぎて、偶然ではなく必然だったりと疑うほどだ。
時には階段で転びかけた先輩を受け止め。
時には後輩の喧嘩の仲介に入り。
時には怪我をしたクラスメイトを保健室まで連れて行く。
最後に至っては、お姫様抱っこというオマケ付き。
やっぱり、早乙女さんはイケメンでカッコいい。
それはもちろん、顔だけではなく性格も含めて。
そして、放課後。
今日は本当に、早乙女さんのイケメンな姿をよく目にする。
目にするというか、今回は文字通り目の前だった。
どういう状況かというと、廊下で早乙女さんに壁ドンされてる。
「やっと捕まえた」
少女漫画に出て来そうなセリフを呟く早乙女さん。
ふんわりと漂う甘い香りと、微かに聞こえる呼吸音。
目と鼻の先に早乙女さんの端正な美貌が迫り、俺は思わず魅入ってしまった。
「……はっ! ご、ご、ごめん速水くん! すぐどくから!」
何かに気付いたように、凄まじい身のこなしで早乙女さんが後ろに下がる。
あたふたとテンパってるが、これくらいは平常運転のはず。
何たって、お姫様抱っこを平気な顔で行うくらいだ。
どちらかというと、テンパっているのは俺の方。
ホームルームが終わって帰ろうとしていたら、向こうから早乙女さんがやって来て。すれ違いざま、俺に倒れ掛かるような勢いで壁にドン。
一瞬のことで、数秒は何が起こっているのかわからなかった。
「いきなりごめんね、驚かせちゃったよね……」
「別にいいけど、どうしたの?」
「それは……ちょっと話したいことがあって……」
それなら普通に話し掛けてくれれば良かったのに。
わざわざ捕まえなくても、俺は逃げたりしない。
まあ、それはいいとして。
「今の見た!? 壁にドンって!」
「何あれ、カッコ良すぎかよ」
「私の彼氏になってくれないかな……」
「あの男子が羨ましい!!」
本日のベストオブイケメンムーブに、周りの注目が否応なく集まっている。
例によって、男子からは尊敬の眼差しが、女子からは黄色い声が。数人は目がハートになっているような。
残念ながら、ここではゆっくり話せそうにない。
話の内容によってはここでもいいが、周りに聞かれたくない話かもしれない。
そして今回は多分後者だ。
何となく、早乙女さんの雰囲気からそんな感じがする。
「……速水くん、場所変えていい?」
案の定、早乙女さんがそんな提案をして。
俺が頷いた瞬間だった。
「こっち来て」
早乙女さんが俺の腕を掴んで、優しく引っ張る。
そのまま、廊下を走る……ことはなくて、早歩きする形になった。
傍から見ると、王子様がお姫様を連れ出しているような。
自分でお姫様っていうのは恥ずかしいけど。
立場的にその役割に当てはまるから仕方ない。
「早乙女さん、俺は自分で歩けるけど……」
「……」
「聞こえてない……」
まあ、このまま行き先は早乙女さんに任せよう。
早乙女さんに手を引かれながら、俺は話の内容を考えるとする。
思い当たる節なら一つだけあった。
それは、昨夜届いたお礼の話を断った件だ。
"好き"に正直になると決めた早乙女さん。
このままお礼を断られたままじゃ終われない。
ということで次回、早乙女さん視点です。




