第13話 イケメン彼女はシェアしたい
「……可もなく不可もなくだな」
バスケの試合が終わった後、俺が亮に掛けられた言葉がこれだ。
シュートを二本決めて、後は何本かパスを通したくらい。
勝利に貢献はしたけど、活躍したとはいえない。
そんな、素人にしてはよくやったレベルの内容を。
「バスケの試合、凄くカッコよかったよ」
早乙女さんはめちゃくちゃ持ち上げて褒めてくれた。
「お世辞でも嬉しいよ」
「お、お世辞じゃないもん……」
頬を膨らませる早乙女さんに、俺は苦笑で応じる。
その表情も、可愛らしい語尾も、学校での姿とはガラリと変わる。
放課後、駅で待ち合わせをして向かったお店の雰囲気がそうさせるのか。
男物の制服を着たままでも、早乙女さんは十分女の子っぽく見えた。
ただ、事情を知らない他のお客さんにとってはやはり、本当の性別を見極めるのが難しいらしい。
「ここのお店はね、ケーキの種類が豊富でね! オープン記念に値段が安くなってたり、限定メニューがあったりして――」
やけに饒舌な早乙女さんが、メニュー表を前に目をキラキラと輝かせる。
その無邪気な姿に、女性客の視線が集まり。
「イケメン」
「カッコいい」
「王子様」
「尊い」
確実に男の子と勘違いしているであろう声がチラホラと聞こえてきた。
「……速水くん、決まった?」
「あ、えっと……まだ悩み中かな」
「そうだよね、悩んじゃうよね!」
シンプルなショートケーキに、三層ムースのチョコレートケーキ。大きな栗が乗っているモンブランに彩り鮮やかなラズベリーパイ。
早乙女さんは、メニュー表に並ぶ美味しそうなスイーツを心底楽しそうに見つめる。
「中々一つに決められなくて困っちゃうよ……」
こっちが早乙女さんの本当の姿であることは間違いない。
外見は中性的な男の子に見えるだろうけど、内面は可愛らしい女の子。
前みたいにレディースの服を着て、少し髪を伸ばせば、今度は違う種類の声と目線が集まるのだろう。
「俺はこのレアチーズケーキにしようかな」
「あっ……そのケーキ、私も気になってたやつだ」
「そうなの? じゃあ、俺は他のやつに……」
「いやいやいや! 私が他のケーキ選ぶから大丈夫だよ!」
でも、と俺が言う前に、早乙女さんは「これにする」とイチゴタルトを指差した。
さっきまであんなに悩んでいたのに、ここに来て即決。
俺に気を遣ってくれたのだろうか。
そういう優しさは、学校のイケメンな姿と変わらない。
「ねえ、早乙女さん。良かったらお互いのケーキ、半分交換しない?」
「そ、それって、シェアするって事?」
「そうそう。俺もイチゴタルト、ちょっと気になってて」
俺が提案すると、早乙女さんがパッと笑顔を浮かべる。
よほど、チーズケーキを食べたかったのか、幸せオーラがとても伝わってくる。
「やった……速水くんと半分こ……」
小さく呟かされた声は、店内に流れる流行りのJPOPに掻き消されてしまったが、喜んでいることは間違いない。
こうして一緒に過ごしていると、早乙女さんは本当にどこにでもいる女の子で。
そんな可愛らしい早乙女さんを、俺だけが知っているのは勿体ないと思った。




