第11話 イケメン彼女は慣れが必要
彩夏姉がかっこかわいい洋服を探しにスタッフルームの奥へと消えている間。
海外バンドのヒットナンバーが流れる店内で、早乙女さんの目が俺を真っ直ぐ捉えた。
涙目の彼女を見た瞬間、踏み込み過ぎたかと後悔したけど。
早乙女さんは乾いた笑みで大丈夫と言ってくれた。
そうして俺は、早乙女さんの昔話を聞いた。
「……だから、私は"可愛い"に自信が持てないの。速水くん風に言うなら、"好き"に正直になれないんだ」
短く纏められた過去の話は断片的で、随分と曖昧な物だった。
それでも、早乙女さんの心に深い傷として、辛いトラウマとしてずっと残っていることだけはわかった。
昔、同じような女の子に出会ったことがあるから。
その気持ちを完全には理解できないけど、想像して寄り添うことは難しくない。
だから最初に、早乙女さんに謝るべきことがある。
「話してくれてありがとう……それで、"好き"に正直になってもいいとか偉そうなこと言ってごめん」
早乙女さんの過去の話を知らなかったとはいえ、本人からすれば余計なお世話だっただろう。
トラウマの影響で、"好き"に正直になれない状況だったのだ。
俺の発言は楽観的で無責任だったと言える。
それでも、早乙女さんは激しく首を振って否定してくれた。
「速水くんのその言葉で、私は勇気が出たから……謝る必要はないよ。むしろ、凄く感謝してる」
透明な膜が張った瞳を拭って、早乙女さんは優しく笑い掛けてくれる。
その姿はやっぱりカッコいいけど、可愛くもあって。
早乙女さんの"好き"が否定されたままで良いはずがないと、強く思った。
早乙女さんが堂々と"好き"に正直になれるように、少しでも力になりたいと、心から思った。
「早乙女さんは可愛い系が好きなんだよね?」
「……うん」
「でも、誰かに見られたり、知られたりするのが苦手だと」
「……うん」
どうやら今日も、行き交う人々の視線が痛かったらしい。
我慢をしていると感じたのは、あながち間違いではなかったのだろう。
早乙女さんは、俺のお陰で我慢できたと笑ってくれたけど。
そもそも、可愛い姿を我慢しないといけない状況がおかしい。
「よかったら、この服を一度着てほしい」
俺はいつの間にか戻って来た彩夏姉から洋服一式を受け取って、早乙女さんにそのまま手渡す。
彩夏姉は空気を読んでか、またスタッフルームへと離れていった。
また店内に二人だけとなり、BGMが静かに響き渡る中で。
早乙女さんは、俺の言葉に静かに頷いた。
「今日はありがとう」
駅までの帰り道で、早乙女さんが小さく呟いた。
その手には大きめの紙袋があって、中には小春姉の店で買った可愛い系の服が入っている。
つまりは今日着ていた服で、今は着ていないということ。
今、早乙女さんが着ているのは先程、彩夏姉の店で買った新しい服だ。
ニット生地のワンショルダーカットソーは黒色と相まってクールで大人びた雰囲気を。更にはボトムスはデニムのジーパンでストリートに。
全体的にカッコいいコーディネートだが、女の子が着ることで柔らかく可愛らしい印象も与えることができる。
その最たるポイントである右肩の露出を早乙女さんは少し恥じらっていたが、俺がいつも通り素直な感想を伝えると、一つ深呼吸をしてから購入を決めていた。
まさか、あれがきっかけ……ってそれは自惚れすぎか。
「速水くんのお陰で少し自信が出た」
「お陰って……俺はほとんど何もしてないよ」
「可愛いって言ってくれた」
「まあ、そのくらいは……」
後ろから彩夏姉の視線が痛かったので言わざるを得なかったというか。
実際、可愛かったから言おうとは思っていたけど。
普段の格好から可愛いと言われ慣れていないのか、早乙女さんは顔をほんのり赤くしていた。
そう、別に俺に言われたからというわけではないのだ。
大切なのは、早乙女さんが"可愛い"に慣れること。
トラウマを乗り越えて、好きな格好で外に出て、好きな物を好きと言うことが望ましい。
「その服はカッコいいと可愛いを合わせ持ってるからさ。早乙女さんが可愛い服に慣れるのに役立つと思うよ」
「可愛いに、慣れるか……」
早乙女さんが再び、ポツリと呟いたタイミングで丁度、駅に着いた。
俺たちは家が逆方向なので、別々の路線へと別れなければならない。
「じゃあ、また学校で。今日の事も秘密にしておくよ」
「あっ……そ、その事なんだけどさ」
早乙女さんは、小さく身体を動かしながら何かを言い淀む。
暫く時間が経った後、やがて何かを決心したように目が合った。
「……私、"好き"に正直になりたい。だから、"可愛い"に慣れないといけない」
凛々しくも、弱弱しい表情と声音を俺は黙って聞く。
どれも、俺が早乙女さんに掛けた言葉だ。
どうやら、彼女の中で少なからずは響いてくれたらしい。
「……でも、一人だとちょっと難しいんだ。私はそんなに強くないから」
人並みと電車の音が騒がしい駅内でも、早乙女さんの声がはっきりと聞こえる。
それくらい、静かに紡がれる言葉は並みならぬ気持ちがこもっていた。
「……だから……よかったら、また私と一緒に出掛けてくれないかな? ……速水くんとなら、頑張れると思う」
早乙女さんが上目遣いで、不安そうに見つめてくる。
その様子がとても可愛らしくて、思わず俺は一瞬固まってしまった。
思わぬお誘いに対する答えが中々出てこなかったというのもあるけれど。
こんなことなら、姉さんたちからもう少し指導してもらえば良かった。
「俺で良ければ、いくらでも協力するよ」
「本当!?」
「まあ、できることは限られてると思うけど……」
「そんなことない! やった、嬉しい……」
パッと笑顔を咲かせて子供らしくはしゃぐ早乙女さんはやっぱり可愛い。
普段はイケメンでカッコいいから尚更、可愛さが際立つのかもしれない。
「これからよろしくね、速水くん」
「こちらこそよろしく……って、なんか変だな。クラスメイトなのに」
「それもそうかも……えへへ」
無邪気に笑う早乙女さんは以下略。
俺だけが知っている、早乙女さんの可愛い姿。
そう思うと、少しだけ頬が熱くなった。
最新話更新、大変お待たせしました。
これにて第一章完結です。
第二章はとにかく早乙女さんが可愛いくて、速水くんが意識し始めて。
そんな甘いお話が続きますので、引き続き本作を読み進めてもらえる嬉しいです。




