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XXIII 特別収録2 ~バイオエタノールに秘められた可能性~

 前の章ではバイオエタノールによる二酸化炭素削減法について書きました。

 そのための資料を調べている中で、私はこの物質には大きな可能性が秘められているのではないかと考えるようになってきました。

 そのため、私はバイオエタノールについてさらに詳しく調べ上げ、この度特別編として作品にすることを決めました。

 この章の内容は二酸化炭素削減には直接関係ありませんが、読者にとってバイオエタノールについてさらによく知るための手がかりとなればと幸いです。




 バイオエタノールは、植物に含まれる糖分を酵母菌によって発酵させて、エタノールと二酸化炭素にします。

 理論上では180グラムのグルコース(ブドウ糖)から92gのエタノールが生成することになりますが、実際は全ての糖が分解されるわけではありません。

 あまり濃度が高くなりすぎると酵母自身が死んでしまいます。

 そのため、酵母の発酵によって生じるエタノールの濃度はせいぜい8~10%程度です。

 もちろんこの中には多量の水分も含まれます。

 もしこの濃度でガソリンに混ぜたりすれば自動車は止まってしまいます。

 そのため水分を除いて純粋なエタノールにする必要があります。

 水分を取り除くために最も有効な手段は加熱して蒸留することです。

 水の沸点は100℃、エタノールの沸点は78.3℃なので、加熱すればまずエタノールが先に気体になります。

 しかし水とエタノールは非常に混ざりやすく、しかもエタノールと一緒に水も気体になりますので、簡単な蒸留装置では濃度50%くらいまでにしかなりません。

 そのため、濃縮するためには精密な装置を使うか、何回も蒸留も繰り返す必要が出てきます。

 ただし、蒸留ではどんなに精密に行っても濃度96%が限界です。

 自動車用燃料として使用するには濃度99.5%にする必要があるため、その後は別の方法で濃縮します。

 詳しいことは割愛しますが、その処理をする際には多量のエネルギーが必要です。

 本によれば、濃度5%を90%まで濃縮するのに必要なエネルギーと、濃度90%を99%にするのに必要なエネルギーが同程度と書かれていました。

 この時に使用するエネルギーとして化石燃料を使っていては、植物が吸収した二酸化炭素量が相殺そうさいされてしまいます。

 ブラジルではその点を考慮してサトウキビをしぼった後のカス(バガスと呼ばれています。)を燃やすことでその問題を解決しています。

 しかしアメリカを始め、多くの国では化石燃料を使っているのが現状です。

 私の思惑では日本もそれに近い形になるような気がします。

 ただ、廃木材や稲わら、古紙などを集めて燃料として使うことが出来れば、ブラジルでバガスを使うのに近い形になるのではないかと思います。




 現在世界で製造されているバイオエタノールはほとんどの場合、農作物の食用部分を利用して作られています。

 ブラジルではサトウキビ、アメリカではトウモロコシが主流です。

 他にも麦やサツマイモ、ジャガイモなどからエタノールを作る国もあります。

 言うまでもなく、どれも私達が食べ物として利用しているものです。

 そのため、食品の価格上昇を招いてしまうケースがあり、批判する人達も多いです。

(私もこの作品を書くまでは批判的な立場をとっていました。)

 そんな中でエタノールの需要は増える一方です。しかし、食用部分からエタノールを作るということはそろそろ限界に近づいています。

 まして食料の60%を輸入に頼るわが国では、食用部分からバイオエタノールを作るというやり方はとても無理でしょう。

 それを考慮して、現在日本を初めとする多くの国では、木材や草などからバイオエタノールを作る研究をしています。


 木材や草にはデンプンやブドウ糖の含有量は少ないですが、その代わりセルロースが多く含まれています。

 セルロースは細胞壁の原料となる物質で、光合成で合成されたグルコース(ブドウ糖)を無数につなげることで得られます。

(私達は紙や綿、木材、稲わらなどの形で利用しています。)

 そのため、理論上はこのセルロースを分解して、酵母を作用させればバイオエタノール得られます。

 しかし実際のところ、草や木材からエタノールを得ることは技術的に難しいです。

 すでに実用化された例もありますが、たくさんのエネルギーを使う割には、農作物の可食部分から得られたエタノールと比べると少ないです。

 ここで、木材をどのようにして糖類まで分解するのかについて簡単に説明しておきます。


・セルラーゼ処理

 草食動物は草などに含まれるセルロースを、体の中でセルラーゼという酵素で分解して糖分(グルコースや麦芽糖など)にし、それをエネルギーとして利用しています。

(人間はセルロースを消化することは出来ませんが、食物繊維として利用しています。)

 これを応用し、遺伝子組み換え技術でセルラーゼの遺伝子を大腸菌などに組み込み、セルロースを分解しようとする研究が盛んに行われています。

 ただ、植物はセルロースをはじめとする複数の種類の物質が複雑にからまった構造をしているため、非常に強固です。

 実際、木材のかたまりにセルラーゼを処理しただけでは、ほとんど糖分は生成しません。

 そのため、酵素処理の前に細かい木くずにすることが必要不可欠です。

 さらに、酵素処理は現段階では約50℃で24時間以上の条件となるため、その間にエネルギーもかなり使うことになります。

(もしその間に雑菌の混入があれば、それまでの努力は台無しになってしまいます。)

 このエネルギーをいかに少なく出来るか、さらにはいかに短い時間で多くの量の糖分を作り出せるかが、今後の研究課題と言えます。

 また、セルラーゼは現時点では値段が高いですので、使い捨てにしたり酵素活性を失わせないような工夫をしてコストを下げることも必要です。



・熱処理

 木材は水熱処理や爆砕処理と呼ばれる方法によって熱を加えることで分解されます。


1. 水熱処理

 木材を230℃以上に加熱した水蒸気で処理をする方法。こうすることでセルロースを糖類に分解出来ます。

 これがうまく実用化されれば、セルラーゼ処理にかかるエネルギーやコストを減らせるかもしれません。

 すでに前向きな成果も報告されていますので、今後が楽しみです。


2. 爆砕処理

 木材を高温高圧の蒸気で蒸した後、一気に大気圧に戻す方法。

 米を原料にしてポン菓子を作るやり方と原理は同じです。

(ただ、私は直接ポン菓子を作る様子を見たことがありませんが…。)

 この方法で得られるのは繊維状のセルロースで、糖類までにはなりませんので、この後セルラーゼ処理が必要になります。


 他にもやり方はありますが、あまり作品の難易度を上げたくなかったので、割愛しました。



・硫酸法

 硫酸法は酸を用いてセルロースを加水分解して糖分を作り出す方法です。

 このやり方はかなり前から行われており、日本でも1962年にこの方法で木材を分解する工場が建設されたことがあります。

(ただし、1年で閉鎖となりました。)

 酵素を使う方法と違って、反応は数分から数十分程度で終了します。

 しかし、硫酸によって装置が腐食してしまうことが起こりうるので、そこがデメリットです。

 また生成した糖がさらに分解して別の物質になってしまうことも起こります。

 そうなると糖の収量が減ってしまいますし、その物質によって酵母の作用が阻害されてしまうといったデメリットもあります。


 この工程はバイオエタノールを作る上で最も大きな障害になる部分だと思います。

 しかし、私達日本人はこれまで「プロジェクトX」などで紹介されてきたとおり、私達は懸命な努力によって様々な発明をし、世界を驚かせてきました。

 私も本業が理科の技術者だけに、その実績を忘れてはいけないと思っています。




 現時点でバイオエタノールは、自動車用燃料として使われています。

 私が資料集めのためにこれまで読んだ本でも、基本的には燃料にすることを前提で書いてありました。

 しかしエタノールはお酒に含まれるアルコール以外に、工業面でも利用されており、日本では年間30万キロリットルが使われています。

 工業用の用途としては、消毒用エタノール(注射前に塗りつける液体です。)、医薬品、溶剤などに利用されています。

 消毒用エタノールの濃度は70%なので、この濃度であれば蒸留だけでもOKなのではないかと私は考えています。

 他にもエタノールは様々な種類の物質に変化することが知られています。

 種類はいくつもありますが、私はその中の代表として、エチレンを挙げてみます。


 エチレンはエタノールと濃硫酸を混ぜて160~170℃に加熱すると生成することが知られています。

  C2H5OH → CH2=CH2 + H2O

 エチレンは国内で約690万トンが生産されており、工業の面で非常に重要な物質です。

 工業用に利用されているエタノールはこの逆反応によって製造されています。

 また、エチレンはさらに別の物質に置き換えられて利用されています。

 その代表的なものとして次のようなものが挙げられます。


・付加重合させるとポリエチレンになります。

  nCH2=CH2 → (-CH2-CH2-)n

 ポリエチレンはラップやレジ袋、薬品のビンなどに使用されています。


・酸化させるとエチレンオキシドになり、これに水を反応させるとエチレングリコールになります。

  2CH2=CH2 + O2 → 2CH2-(-O-)-CH2 (炭素と酸素で三角形を作っています。)

  CH2-(-O-)-CH2 + H2O → OH-CH2-CH2-OH

 エチレングリコールは自動車の冷却液に使用されている他、テレフタル酸と付加重合させてポリエチレンテレフタレートを作るための原料になります。

 ポリエチレンテレフタレートはペットボトルやポリエステルに使われており、私達が毎日のようにお世話になっている物質です。



・水素と混合し、熱したニッケルと接触させるとエタンになります。

  CH2=CH2 + H2 → CH3-CH3

 エタンは主に燃料として使われています。


 上記以外にもエタノール(またはエチレン)は様々な用途に利用することが出来ます。

 現時点では工業用エタノールやエチレンは化石燃料である天然ガスに由来しています。

 しかし、もしE3ガソリンのように、数%でもバイオエタノール(またはバイオエチレン)に置き換えることが出来れば、二酸化炭素の削減に大きく貢献出来ることは間違いないでしょう。

 「XXII バイオエタノールから出来る二酸化炭素削減法」で書いたことを踏まえると、工業用エタノールをバイオエタノールに置き換えれば、1リットルあたり最大1.509kgの二酸化炭素削減につながります。

 ブラジルから輸入したバイオエタノールを使用したとして、製造ならびに輸送による二酸化炭素排出量を差し引いても、1リットルあたり1.241kgの二酸化炭素削減につながります。

 以上を考慮した場合、自動車用燃料だけでなく工業用にバイオエタノールを利用することでも、十分に二酸化炭素削減につながると考えることが出来ます。




 このように様々な可能性を秘めたバイオエタノールですが、稲わらなどを含む草や木材からバイオエタノールを作る方法は、技術的にはまだまだ難しいです。

 特に日本では研究開発のための費用が高い上に予算も限られていますし、製造コストも高くなることが予想されます。

 たとえ製品にしても、1リットルあたりの価格がガソリンなど、他の燃料より割高になってしまっては意味がありません。

 そのため、日本でバイオエタノールが本格的に工業に貢献し、二酸化炭素削減に一役買うのにはまだまだ時間がかかると思います。

 しかし、日本では原料となる植物がたくさんあります。

 実際のところ、わが国では毎年かなりの量の廃棄物が出ています。

・稲わら…1千万トン

・建築廃材…477万トン

・古紙…1400万トン

・食品廃棄物…1900万トン

 これらは有効活用されている例もありますが、活用されることなく焼却処分されている方が多いです。

 もし、これらをバイオエタノールとして有効活用出来れば、きっと二酸化炭素の排出量を大きく減らせるはずです。

(バイオエタノールなくても、燃やした熱で発電につなげることが出来れば、それも二酸化炭素削減に一役買うことが出来ます。)

 現時点での課題は、これらを輸送して一ヶ所に集めることは大変だということ、塩分などが混入してしまうと処理の妨げになることなどが挙げられます。

 しかし、原価は大変安いです。

 そのため、製造コストを下げることや、バイオエタノールを作った時の価格を安くすることなどでは期待が持てると思います。

 私としては、化石燃料や電気などのエネルギー消費をうまく減らしながら、草木に由来するバイオエタノールのさらなる実用化を期待して待ちたいと思います。


 この章での参考資料

・トコトンやさしいバイオエタノールの本

・河合塾シリーズ 理系化学精鋭

・チャート式シリーズ 新化学

・図解 バイオエタノール最前線

・村沢義久著 手にとるように地球温暖化がわかる本

・ウィキペディア


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