Sweet Memories
歌の後を追うように、サックスの音色が会場を包む。
ステージの中央で歌う少女の歌声もいいが、その隣の男によって横で奏でられる伴奏がより一層彼女の歌声を引き立てる。
あの男、どこかで見たような気がする。職業柄、一度でも何かで目にしたら休暇中でも気になってしまう。
…思い出した。あの男は……昔時々出ていたミュージシャンだ。
いつの間にか表舞台では見かけなくなったが、彼が今奏でている音楽を聴いて思い出した。当時、全盛期の彼の演奏が大好きで、一時期は彼のようなミュージシャンを目指していたぐらいだ。
まさかこんな所で再び彼の演奏を聴けるとは。聖夜の奇跡とでも言うべきか。
…神様も、複雑なクリスマスプレゼントを用意してくれたものだ。
休暇中とは言え、このディナーショーが終わったら、仕事をしなきゃならないかな。黙認する訳にもいくまい。
いや、私が出るまでもないか。あれだけの本気の演奏を見せてくれた彼が、このまま消えてしまう訳が無い。今夜の舞台上の彼は、私が憧れた彼そのものの姿だった。この舞台が、荒んでいた彼の心を変えてくれたに違いない。
きっと彼は、クリスマスが終わったら自首してくるだろう。