各エリアを全てクリアするか、あるいはゲームに参加する他のプレイヤーを全て掃討すること
ただ、すぐにチュートリアルが続けて、「混沌達の通達では」と話を始めようとしたので、俺は慌てて止めた。
「ちょい待って。マイも呼んでやろう。そうすりゃ、二度手間にならなくて済むから」
「あ、それはそうですね」
「えーっ。でも多分マイは、昨日の今日だから、今頃は二日酔いで唸ってるんじゃない?」
一刻も早く聞きたいのか、エレインが決めつける。
しかし俺は「その時はすぐ戻ってくるさ! だからちょい待っててくれ」と重ねて頼み、駆け出した。
どうせ、マイの部屋まですぐだしな。
しかし……どうやらその必要はなかったらしい。
いつもの美しい歩き方で、ちょうどマイがこっちに出てきたからだ。
二日酔いどころか、たったいま、スタジオで撮影でもしていたような、完璧な出で立ちだった。つまり、戦闘用の忍者服ではなく、真っ青なドレス姿であり、それもコルセットまで着用した本格的な格好である。
それでいて、下のスカートは丈が短めという……今朝は純白のヘアバンドまでしていて、一段と美貌に磨きが掛かっている気がする。
片手で髪をかき上げた後で俺に気付き、マイはちょっと目を見開いた。
「……おはようございます、ハヤトさん。どうしました?」
「いや、それはこっちの質問のような。どうしてまた、ドレスアップを?」
「え? いえ、これは普段着のつもりです。再開は明日なので、まだ大丈夫かと。もちろん、訓練時にはまた着替えますが」
「そ、そう……」
それが私服とか、すげーな、おいっ。俺はまた、テレビで歌う時のアイドル衣装かと思ったぞっ。ていうか、股下何センチなんだ、このドレスっ。
体育座りとかしたら、もう絶対にパンストの奥まで見えるよなっ。
喉が鳴りそうなのを堪え、「い、いま、ちょうど呼びに行こうと思ってたんだ。混沌から通達だとさ」と教えてあげた。
「まあ、それで……わざわざ迎えに来てくださいましたか」
「そりゃ、仲間だしね」
さりげなく答えた途端、マイの顔がふいに急接近してきた。
それこそ、唇が頬に触れる寸前まで。
「な、なんですか」
思わず敬語になってしまったじゃないか。
「昨晩のこと……覚えていますか?」
そして、何故に囁き声? いや、これは大声で訊けないか。
でも、温かい呼気が頬に当たって、気になるんだが。
「死ぬまで忘れられそうにない」
「……よかった」
膝の力が抜けそうな笑みを広げ、あとは何も言わずに並んで歩き始めた。
なんだったんだ、今の? あと、関係ないけど、笑顔が眩しすぎるっ。
最近、世間じゃ「希少」だと言われるアイスドールの笑顔を、割と頻繁に見てる気がするな。
売店のところまで戻ると、なぜかチュートリアルとエレインが揃って不機嫌そうに迎えてくれた。
「二人とも……喉に魚の骨が刺さったような顔して、どしたん?」
「なんでお洒落してるんですか?」
「なんで、そんなお洒落してんの?」
おい、揃って俺の質問を無視して、マイに訊くな。
「さっきもハヤトさんにお答えしましたけど、これは私服ですよ。そもそも、チュートリアルさんの店で買ったものですし」
「えっ」
いま思い出したような声でチュートリアルが目を瞬く。
「あ、そうか……道理で見覚えあるはずです」
「あんな服あるなら、教えてよっ。あたしもお洒落したいわよっ。年頃の女の子ですからね!」
エレインがぶつぶつボヤいたが、いやそんなめかし込んでも、どうせ明日はまた殺し合いだっつーのに。
「チュートリアル、通達の内容は?」
妙な空気になりかけていたので、俺はわざとぶっきらぼうに尋ねた。
「そ、そうでした。先に連絡事項ですね」
態度を改め、チューリアルが説明を始めた。
「まず、明日の九時にあの偽の東京タワーに集合らしいです。時間厳守だとか」
「……今回は、開始時間が決まってるのか」
「第三ステージは、混沌が同時進行でやっていた、各異世界のゲーム勝者達が集まるようです。そのためでしょう。勝利条件は、第三ステージの各エリアを全てクリアするか、あるいはゲームに参加する他のプレイヤーを全て掃討すること。どちらかの条件を満たした時点で、終了とすると」
さすがに俺達は、互いに不景気な顔を見合わせた。
「総力戦になりそうだけど、他のプレイヤーはガン無視で、ひたすらステージクリアを目指すのもアリか」
俺が呟くと、マイがほっとしたように頷いた。
元々この子は、あまり人殺しが好きそうじゃないもんな。俺だって好きじゃないが。
「それで、才能限界のことは、なにか言ってきた!?」
エレインが勢い込んで尋ねると、チュートリアルは大きく頷いた。
「多分、そのまま通達を読んでも意味がわからないでしょうから、私の口から説明しますね」
「おねがいっ」
拝むようにエレインが手を合わせる。
「レベルが今以上に上がらなくなった場合……この場合はエレインさんですが。パーティーのエースがエレインさんよりレベルが上で、なおかつまだ才能限界に達していない場合、エースから自分が上昇するはずのレベル分の伸びしろを、割譲してもらうことができるそうです」
さっと皆が俺を見たが、チュートリアルの説明でも、イマイチわからんぞっ。
なんで三人とも、そんなささっと理解できるのかっ。
「もっと砕いて説明すると、こうです」
俺の顔を見て、チュートリアルが言い直した。
「仮にエースであるハヤトの今のレベルが50で、限界が100だとするなら、残った50の伸びしろ分を、エレインのために、自由に提供していいということです。もちろん、彼女がさらなるレベルアップに直面した場合の話ですけど」
「……は?」
いま俺、なんかすげーエグいこと聞いた気がするぞっ。