明日の再開に伴う、各種通達が来てます
なんか、自分もいきなり発熱した気がして、俺はマイを寝かしつけた後、洗面所で十分に顔を洗ってから食事に戻った。
後はもう、特にチュートリアルの帰りも待たず、そのまま寝てしまった。
翌々日には、第三ステージとやらが開始だからな。
鋭気を養わないと。
そして……翌日にはいよいよデスバトル再開という朝、俺が洗顔を終えてすっきりした気分で部屋から外に出ると――ここの唯一の通路で、誰かが倒れていた。
「わっ」
金髪だからてっきりエレインがゲロでも吐いて倒れたかと思ったのだが……駆け寄ってみると、チュートリアルである。
なぜかいつものゴシックドレスではなく、純白の全身スーツみたいなのを纏って、大の字に倒れている。
ぜーはーぜーはー……と呼吸荒くして。
「い、生きてるよな?」
足で脇腹をチョンチョンとつつきそうになったが、さすがに失礼なので、しゃがみ込んで肩を揺すってみた。
「おい、どうした、チビ女神様」
「ふわぁ?」
碧眼を開けたチュートリアルは、寝ぼけた目で俺を見たが……やがてぱぱっと左右を見て、慌てて上半身を起こし――いきなり呻いた。
「いたたっ! 腰が痛いです、腰が痛いですうっ」
ばーさんかと。
「……俺の真似して、連呼せんでも。なんかあった?」
「別に。まあ、昨日はてんやわんやで、相当参ったのは事実ですが」
コホンとわざとらしく咳をすると、チュートリアルは老人が演じる太極拳みたいなそおっとした動きで売店へ歩み寄り、専用の椅子に腰掛けた。
「はあああ……昨晩は、寝る暇もありませんでしたね。一般用の避難所も一気に増やしましたし、食料もコピー創造で十分な量を用意したりとか、もう大変でしたっ」
一気に捲し立て、ぷりぷりして付け足す。
「しかも、ここの人達、文句多いです! 着いたばかりなのに、部屋が狭いだの、酒が足りないだの、こっちきてお酌をしろだの、ちょっと脱いでくれだのとっ。大馬鹿なこと言い出す人も多くて、困ったものですっ。そういうのは、問答無用で叩き出しました! 仮にも女神を、ナメて欲しくありませんっ」
「お、俺に怒るなよ……多分、チュートリアルがとんでもない美形だから、仲良くなりたかったんだろう」
頬を膨らませている彼女に言ってやると、なぜか目を見張って俺を見た。
「ほ、本当ですか?」
「なにが?」
「だから、今ハヤトは私のことを……いえ、まあいいです」
途中でやめちまいやんの。
「首から下が、レベルダウンしたプラ○スーツみたいになってるのは置いてだ。避難希望者、そんなに多かったのか」
「それはもうっ」
複雑な表情で何度も頷く。
「簡単に万の単位を突破しちゃいましたね……ただし、信徒希望者も千五百人くらいいたので、差し引き、そう悪いことでもないんですが。でも、当分は回収ターンですね、また。全員から、ライフエッセンスはしっかりもらいます!」
「へぇえええええ……まあ、日本人の宗教観は、いい加減だからなあ。むしろ、これからもっと増えるかもな」
「いい加減って?」
ちょっとどきっとした顔をしたので、俺は教えておいてやった。
つまり、元旦に神社にお詣りして、盆には墓参りで念仏を唱え、そしてクリスマスにケーキとチキン買って騒ぐ、我ら民族のフリーダムさを。
「最近はハロウィンも祝うようになったしな。あれも多分、元はケルトの祭りのはずだけど」
「女神を、唯一の信仰の拠り所にしようという気持ちはないんですかっ」
「そりゃ、そういう日本人もいるだろうから、がんばれ」
無責任に放言した後、あんまりだと思ったので、俺は付け加えた。
「でも、俺はあんただけだよ。あんたの専属信徒みたいなものだ」
「……えっ」
意外そうに見たので、今度は俺がむっとする番だった。
「信徒になると言った以上、いい加減な気持ちはないぞ?」
遊び心はあるけど。
あと、クリスマスにはやっぱり、ケーキも食う。
「あ、ありがとうございます。……ハヤトにそう言ってもらえると、心強いですよ」
少し頬を赤くして俯いてしまった。
「あーーっ、戻ってる!」
ふいに大声がして、エレインがこっちへ来た。
「ねえねえねえっ、混沌からの通達みたいなのない? 才能限界をナントカしてやるとか、そういう話のことだけどっ」
「会うなり、いきなりそれですか?」
「いきなりかよ」
チュートリアルと俺が同時に口に出し、二人して顔を見合わせ、笑った。
「笑わないでよ、結構、気にしてるんだからっ」
「そうですね、失礼しました」
低頭したチュートリアルは、そこで微笑した。
「そう、それも伝えようと思ってました。明日の再開に伴う、各種通達が来てます」
たちまち俺とエレインは、真顔になっちまった。
先日、ここで告知したお陰か、新作が日刊ランキングに入ってました。
皆さん、ありがとうございました。