くそ、俺まで顔が赤くなってきた気がする
我に返ったチュートリアルが、せかせかと立ち上がった。
「こうしてはいられません。今は神力もかなり戻りましたし、避難者達を収容できるように、コピー創造で避難所を拡充し、増やしてきますっ」
「この後で、買い物しようと思ってたんだけど?」
「あ、あたしも!」
「わたしも魔法とスキルを」
「それはまとめて朝にしましょうっ」
チュートリアルはまとめて先送りしてしまった。
「悪いですが、自動販売で食事などを買い求めつつ、待っていてください。朝までには戻りますからっ」
言うなり、チュートリアルはその場から消えた。
勤勉なチビ女神様である……まあ、中学生くらいに見える今は、そんなチビでもないが。
それはいいが、またぽーっとしてきたマイが、チュートリアルが消えた辺りを眺めつつ、全然関係ないことを呟いた。
「チュートリアルさんが中学生くらいで成長を止めているのは、おそらくハヤトさんを意識してるんですねぇ」
エレインがまた、ぱっとマイを見つめていたが、本人は赤い顔のまま、ウイスキーボンボンを食べまくりである。
どんだけ買ってたのか、もう三箱目じゃないか。
すっかり酔っ払ってからに……あと、あんまり食べると贅肉一つないせっかくのスタイルが崩れるぞ!
なんとなく落ち着かない気分で俺は思った。
もちろん、本気でスタイルを心配しているんじゃなく、アイスドールがここまで自制心を失うのは始めてなので、心配しているのである。
「なんかマイが言うと、だんだん本当に思えてきたわ」
エレインが眉根を寄せて俺を見る。
「な、なんだよ」
「いえ、チュートリアルって、本気でハヤトに惚れ始めたのかもって」
「あのなあ、相手は腐っても――」
あんまりな比喩なんで、俺は慌てて言い直した。
「じゃなくて、相手はああ見えて、女神様だぞっ。人間に惚れるわけないじゃん。しかも、俺みたいな高校生のガキに」
「甘いわね、ハヤト。チュートリアルやあたしが元いた世界じゃ、女神が人間に惚れるなんて例、珍しくもなかったわよ。そもそも女神って基本は信徒とくらいしか交流ないから、うぶな女性が多いし。しかも一度惚れると、もうべったべったに甘えたり依存したりするわよ」
「それでもないない、ないねっ」
俺はこれには確信持って手を振った。
「俺、チュートリアルに文句言われてばかりだったからな」
馬鹿らしくなったんで、立ち上がった。
「それより、メシだメシ。景品食料をごっそり蓄えたから、メニューが増えたって聞いてるしなっ」
「あのねえっ」
エレインが不服そうに立ち上がろうとするのを、マイが手を伸ばして掴んだ。
「追及はやめまひょう」
「……あんた、言葉が変!」
冷静そうに見えて、すっかり酔ってるマイに、エレインが顔をしかめる。
「あと、なんで追及しちゃ駄目なのよ」
「ハヤトさんがそう思ってるなら、その方が都合がいいれすから」
「うわぁ……酔っ払ってる上に、本音がダダ洩れになってるわようっ」
エレインの碧眼が妙に輝いた。
「よし、今ならなんでも答えそうっ。試しに、スリーサイズは?」
「80・56・80れす」
「えー、ウエストはぜったい、ぜーったい、嘘でしょっ」
なぜか悔しそうにエレインが拳を固める。
「なんでれすか? どうせ嘘つくなら、バストサイズを増やすですし」
ぽーっとした声でマイが答える。
俺は想像以上のスタイルの良さに衝撃を受けていたが、そんな場合じゃないな。
「ま、まあいいわよ、あー、腹立つっ。ならさ、マイはハヤトが好きなのっ?」
「よさんか、おいっ」
俺は慌ててエレインを手荒く引っ張って、マイから遠ざけた。
「なにすんのようっ」
俺と、彼女自身の声が大きかったので、エレインには、おそらく聞こえてなかったはずだ。
しかしすぐ隣にいた俺は、しっかり聞こえてしまった。
マイがいつになく微笑して、「もちろん、大好きですよ」と答えるのを。
……マジっすか! 俺、本気にしてもいいのか、今の返事っ。
くそ、俺まで顔が赤くなってきた気がする。