今のはただのわたしの願望ですから。そうだったらいいなぁ、みたいな?
「あ、いえっ」
当のチュートリアルが、微かに肩をすくめる。
「前にも言った通り、神力でコピーできますから、人数が集まってそれだけ信徒数が増えれば、十分に対応できるでしょう。ただ……どれだけ私の信徒になってくれるか、そこが問題ですけど」
「しかし、信徒にならなくても、こそっと生命力のライフエッセンスは抜いちゃうわけで、考えてみりゃ、チュートリアルの損にはならないか]
俺は頷きながら呟いていた。
「聞こえてますよう!」
途端に、チュートリアルがむくれた。
「こそっと抜きませんっ。ちゃんと事前に説明しますしっ」
「あ、ごめんっ」
俺は慌てて話を変えた。
「そういや、元からいる先生とか下級生達の様子は? 誰か信徒になってくれた?」
今度はチュートリアルも少し頬を緩めた。
「気が変わったのか、先生以外はみんななってくれましたよ。ハヤトやマイと同じく、『助けてもらったんだし、これからもお世話になるから』と言ってくれて」
「良かったなあ」
俺は心から言ってやった。
「でも、本気のセリフかな? なんだかチュートリルも、最後のアレから成長してないけど?」
「嘘だったら神力の回復なんかないから、すぐにわかりますっ。私が今この姿なのは、自分の意志ですし!」
「どうしてまた、中学生くらいの姿で?」
やけに低い声でマイが尋ねると、なぜかチュートリアルがぐっと詰まった。
「それは――」
なぜかマイをじろじろ見返し、ふいに目を逸らす。
「まあ、私にもいろいろあるということです」
「ふう……参ったわね」
全然参ってなさそうにエレインが口を挟む。
「見た目の最年長お姉さんは、あたしかー」
「でも、ハヤトさんは年下がお好きみたいですよ?」
ふいにマイが特大の爆弾を落としてくれた……しかも笑顔で。
「えぇえええええっ、そうだったの!?」
「やっぱり! そう思ってましたっ」
「げほっ」
今度は俺が、飲んでた紅茶でむせる番だった。
「いやいやっ……げほげほっ」
なかなか止まらない咳き込みに苦しみつつ、俺は必死に手を振る。
なぜかエレインが本気にして、愕然としてこっち見てるんで。あと、やっぱりってなんだよ、チュートリアル!
「年下は嫌いじゃないけど、大学生のおねーさんとかも好きだし、割と幅広いよ、俺」
今のところ、幼女からばーさんまで、別にどの年代からも相手にされてないけどなっ。
「むしろ、なんで今、そんなこと言ったんだよ?」
我ながら不思議で、俺は隣のマイに尋ねてみた。
「いえ、今のはただのわたしの願望ですから。そうだったらいいなぁ、みたいな? みたいなっ」
あはは~、とマイが声を上げて笑う。
「み、みたいな?」
なんだその、キャラに合ってない笑い方! まあ、俺と目が合うと少し赤くなったんで、ちゃんと正気は残ってるみたいだから、安心したけど。
「あと、妙だなと思ったら、ウィスキーボンボン食べてたのかっ」
彼女が膝に載せた小さなお菓子の箱を見て、俺はため息をついた。
「はい。始めてですが、なんだか思いのほか、美味しくて。お一つ、どうですか」
「やー、悪いな」
くれるものは拒まない。それが俺の信条である。
それに俺は、こんな菓子くらいじゃさすがに酔わないぞ。
「あ、あたしもっ」
驚きから復活したのか、エレインも手を出す。
今更だが。考えてみたら、ここにいるの、俺以外は全員が女の子なんだよな。
チュートリアルみたいに本当の年齢がわからない子もいるが、見た目はだいたい中学~高校ばかりの年代だし。
あまり親しげにすると、意識してよくない――などと俺がこそっと考えていると、チュートリアルがふいに大声を出した。
「なんてことでしょう!」
「なんだなんだっ」
俺のみならず、マイとエレインも虚空を見つめたチュートリアルに注目した。
「外でなんかあった?」
エレインの質問に、チュートリアルが小刻みに何度も頷く。
「あったどころじゃありません! ハヤトが元いた学校に、続々と人が集まりつつあります」
俺達はこそっと視線を交わした。
「つまり、あの混沌が放送で『~避難所で安全に過ごしたい者がいれば、我らは特に止めぬ故、この場所まで来るがよい』とか勝手に告知した効果が、早速現れているのか」
「そうとしか考えられません」