才能限界値を迎える、あの人
既に先のことを考え始めていた俺だが、なんと、チュートリアルを始め、マイとエレインの三人も、俺に付き合ってくれるという。
一旦、キャンプに戻った俺は、三人の希望を聞いてちょっと驚いた。
そりゃまあ、密かにマイくらいは残ってくれるかも? などと甘い期待を抱いていたけど、そこまでは考えもしなかったな。
「……それがまさか、他の二人も付き合ってくれるとは」
「なんでマイは残る可能性があるとこそっと思ってて、あたし達はイチ抜けすると決めつけるわけっ」
例によって湯殿施設前のソファーで、缶コーラ飲みながら文句をつけるエレインである。
しかもあれ、本日三缶目だぞ。350㎖缶なのに。
「どうでもいいけど、この黒い飲み物、すっかり気に入ったわ! 毎日飲むことにするっ」
「いや、コーラはおいて」
俺はだいぶ驚いて、斜め向かいに座るエレインを見た。
「途中、だいぶ望み叶えてもらうことに拘ってたじゃないか? それはいいのか」
「よかぁ、ないわよっ」
なぜか不機嫌顔でぴしりと返す。
「でも、ハヤトには命救ってもらった恩義があるからね。途中で逃げ出せないじゃない」
「いやぁ、あれはパーティーの一人としては当然の」
「とにかくっ。あたしも続けるのっ」
この話はこれで終わりとばかりに、エレインがまたコーラを一気飲みする。
この十八歳ねーちゃんは、コーラで酔ってんじゃないだろうな。
「ちなみに、なにを望むつもりだったんですか?」
両膝を揃えた上で、斜めに足を伸ばして上品に座るマイが、静かに問う。どや顔で足を組んだエレインとは、エラい差である。
もうマイは、この座り方と紅茶飲んでるポーズだけで、雑誌の表紙を飾れそうだな。
「騎士団の復活だけど、それは別に今じゃなくてもいいしね。最後までゲーム続けるのも一興でしょう。ハヤトが引っ張ってくれるお陰で、こっちもレベル上がるし」
すると、珍しくエレインの隣に座ったチュートリアルが、しれっと言った。
「貴女はちょうど才能値の上限に達したので、今後はレベルアップも、破格な上がり方はありませんが」
「ぶはっ」
途端に、エレインは飲んでたコーラを盛大に噴いた。
二メートルは飛んだぞっ。
「――っ!」
「うおうっ」
ただ、マイは即座に座した状態からひらりと跳躍し、器用にもティーカップ持ったままで、安全圏で着地した。
さすが忍者職、紅茶が一滴もこぼれてない。まあ俺もなんとか跳躍して避けたけど。
「あ、あんたなあっ、いきなり噴くなよっ」
「以前だったら、まともに顔にかかってた気がします」
ぶつぶつ言いながら、タオルとってきてソファーを拭く俺とマイである。
俺達を無視して、口をぱくぱくさせてたエレインが叫んだ。
「あたし、もう才能限界なのぉおおおおっ」
「だって、第二ステージでハヤトが敵を百体以上片付けたお陰で、エレインも濡れ手に粟のレベルアップですよ? 普通はありませんよ、そんな幸運」
チュートリアルが遠慮なくグサグサ突っ込む。
「レベル30が、貴女の才能限界値とレベルが釣り合う値で、今回とうとうその、レベル30まで上がったんです。だから今後は、一定量しか上がらないですね……」
「それでも一定量は上がるならいいじゃないか?」
俺が首を傾げると、泣きそうな声でエレインが拳を固めた。
「才能限界超えて上がる例外って、パーティーメンバーで自分より強者がレベルアップした時のみなのよ。しかも、だいたいどんな大物倒しても、お情けで1~2レベルくらい上がるだけ」
「それでも上がらないよりいいって」
俺は柄にもなくエレインを慰めてやると、ふいに彼女はマイを見た。
「マイの才能値限界は?」
「今回で39までレベルアップしましたが、才能限界はクラスAですけど、レベルと釣り合う最高値は、レベル47です……そう遠い先じゃないですね」
マイが憂鬱そうに言う。
……結構凄いレベルだと思うんだがな。そりゃまあ、俺はレベル50になったけど。
「俺の才能上限値は?」
「前に言いませんでしたか?」
チュートリアルが機嫌良さそうに教えてくれた。
「才能限界が定まっていない以上、理論上はレベルの上限値だって確定しません。実際、自分でステータスを精査すれば、それがわかるはずです」
「あー、あとで見とく。ていうかさ、俺はなんとなく、混沌の連中は、エレインの才能限界値についても、なんらかの特例を設けそうな気がするんだけど?」
「本当なの!?」
頭抱えて地面を見つめていたエレインが、ぱっと顔を上げる。
「情報ソースはっ」
「いや、ソースも醤油もないよ、俺の勘だって。でも、俺の勘だって馬鹿にしたもんじゃないだろ?」
最初にトイレに逃げたのは置いてなっ。
「そ、そうかな……そうだといいけど」
「それはそうと、先程、混沌から通達がありました」
今や、マイと同じ中二くらいに見えるチュートリアルが、改まって切り出した。
「全国放送で今回の事件の顛末の説明と、今後の発表をするそうです」
意外な話を聞き、俺は思わず居住まいを正した。
放送だと!? マジかっ。
懲りずにまた新作始めてます。
「俺は、東京で復讐のダンジョンマスターになる」
……仮タイトルは上です。
どうぞよろしく。
侵略者に殺されそうになった主人公が、ダンジョン作成ギフトを持つ女の子と組んで、敵に復讐する話です。