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ゲーム継続か、それともリタイアか?

「この第二ステージがゴールってわけじゃないんだよな?」


 俺がぞんざいな口調で尋ねると、ぎょっとしたようにエレインが俺を見たが、少なくとも混沌は腹を立てなかった……ように思える。


『違うとも、中原隼人』 


 姿は一切見えないが、落ち着いた声で混沌が答えた。


『おまえの才能はこの世界の人間としては、瞠目すべきレベルにある。だから、是非ともこの先も健闘して、我ら混沌を感心させて欲しい。しかしだ、どうしても戦うのが嫌なら、おまえと仲間達の奮戦の褒美として、ここで終わらせてやってもよいぞ』





「え、本当にっ!? やった!」


 エレインが歓声を上げたが、直後にたちまち疑わしそうに顔をしかめた。


「あのぉ、途中でゲーム終了でも、望みは叶います? 後からこのパーティーに入ったあたしも、叶えてもらえる対象になったんですよね、確かそんな通達が」

『安堵せよ、娘』


 混沌が苦笑まじりの声で、答えた。.


『我らは正義には遠いが、しかし一度交わした約束は破らない。ただし、途中リタイアということになれば、全員の願いが百パーセント叶うとは限らないな……さすがに我らも、そこまで甘くないぞ』


「え、じゃああたしは、やっぱりハブられるわけっ」

「違いますよ」

「多分、違うね」


 マイと俺が、ほぼ同時に言った。

 顔を見合わせ、代表で俺が教えてやった……混沌の代わりに。


「おそらく、こういうことだ。三人それぞれ望みは言えても、内容によっては『途中リタイアだから、それは過分な望みだ』ということになるんだろ。おそらく、俺なんか無理なんだろう。過分な要求すぎて、叶えてもらえないわけだ」


 淡々と説明してから、俺は静まり返った虚空に向かって声を張り上げた。


「なあ! あんたは多分、俺の願いを察しているんじゃないか? 都内で亡くなった全員を生き返らせて欲しいという望みの内容をさっ」


『これまでおまえが選択してきた決断を見れば、それくらい察しても当然であろ? それに、混沌の一人である私が、学校内でずっとおまえのそばにいたのも、もう知っているはずだが?』

「結局、沢渡佳純って後輩は存在しなかったのか……」


 がっかりして俺が肩を落とすと、混沌が否定した。


『いや、存在するとも。ハヤトよ、おまえが在籍していた高校ではないが、地方の学校に、実際にその名の少女がいる。おまえとは何の関係もないが、私は後輩として紛れ込むために、自らの記憶を封じ、さらに少女の記憶も一部改ざんして、その少女にポゼッション(憑依)していたのだ。これなら、絶対に見破られまい? 事実、私自身ですら、他の混沌が私を目覚めさせるまで、自分はおまえの後輩だと信じていたのだから』


「じゃ、じゃあ、沢渡さんは無事に帰したんだろうなっ」

『帰したとも。殺してもよかったが、私とて情が移る時はある……特に、このような場合はな』





「では、黒崎先輩と二人の女子生徒を倒したのはなぜです?」


 マイの鋭い突っ込みにも、混沌は動じなかった。


『女子生徒達は、単なる黒崎の巻き添えだな。あの二人は、完全に黒崎の手先に落ちていた故、念のために倒した。ただし、黒崎という男を殺したのは、きちんと理由がある。あいつが我ら混沌に反逆する計画を持っていたので、こちらが先制したというのが、真実だ』


 俺はもちろん、マイも納得いかない表情だったと思うが、そのためか、わざわざ混沌は付け加えた。


『言っておくが、黒崎が我らに敵対する気だったのは、紛れもなく本当だぞ。見せしめのためにも殺すしかあるまい? それに後からわかったことだが――マイよ、あいつはおまえが間抜けな三年生共に陵辱され尽くされるのを、むしろ望んでいたのだぞ。本人の心を読んだので、これも真実だ』


 マイが青ざめ、息を呑んでいた。

 俺は慌てて彼女の前に立ち、大声を出した。


「もういいよ。どうせ俺は最後にはまた、連中を生き返らせるつもりだしな」

『……それは本当に正しいことか?』


 混沌がやけに真面目な声で尋ねた。


『私は、短い間とはいえ、沢渡佳純としておまえと一緒にいた。故に、おまえを見る目が多少は甘くなっている。だから、あえて忠告してやろう。世の中には、死んだ方がいい人間も確実にいるのだ』


 今回の混沌は、笑いもせずにそう言い切った。


『仮に、マイを狙っていた連中が生き返り、再びマイを襲おうとしたら、どうする?』

「その時は、俺が守るさ」


 俺が堂々と言い切ると、マイがまた息を呑む気配がして、さらにエレインが「うわっ、あんた達って、いつの間にかできちゃってたの!?」とトンマなことを言ってくれた。


「そういう意味じゃないだろっ」


 俺だけが反論し、マイはいつの間にか俺の手を握ったまま、真っ赤になっている。

 大したことは言ってないのに、なぜかひどくはにかんでいた。




『子供同士の恋愛ごっこは、もうよい』


 混沌は本当に呆れ果てたように言ってくれた。


『とにかく、私が語るべきことは全て語った。だから、いよいよ選択の時間だ。次のステージも続けるか、それともここでリタイアして望みを言うか? 選択肢は二つに一つだ』

「駄目元で訊くけど、俺の望みはやっぱり却下か?」

『うふふ……当然、却下だ。これまでにこの疑似ゲームで亡くなった者を全て生き返らせろというのは、さすがに戦果と比べて過大で、厚かましすぎる』


「じゃあ、きちんとゲームクリアしたら?」

『約束しよう、その時はおまえの望みを叶えてやるぞ』


 混沌が力強く述べた。


『もちろん、その時にまだ、そんな望みを持っていたら、の話だが』


 意味深な言い方だったが、俺は訊き返しもしなかった。


「そうか、なら俺の質問も終わりだな。……あとはみんな、自分の望みを叶えてもらって、ここで引いてくれ。俺は俺で、なんとかやるからさ」


 寂しいことだが、俺はこっそり聞いているであろうチュートリアルを含め、みんなにそう言ってやった。


 元々ボッチだった俺が、また一人に戻る……それだけのことだ。

 願わくば、ゴールが思ったより近いといいんだが。


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