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第二ステージの景品?

 言下に、大気が渦を巻いたかと思うと、その中心より、マイの忍者装束に似た純白の着物姿の女性が現れた。


 長大な刀を手にし、長い髪を後ろで束ねてポニーテールのごとく括っていて、りんとした少女剣士のごとくである。


 しかもその静かな迫力は、召喚した俺ですらやや緊張したほどだ。






「長尾景虎、助太刀致します……今度こそ、戦働いくさばたらきですね?」


 きりっとした顔立ちの、しかし柔和な美人さんが俺に笑いかける。

 俺は昨日の「温泉醜態事件」を思い出し、頬が熱くなった。ああ、どうせ見られた後だよっ。それでもなんとか指示は出したけどな。




「頼みます! 俺達があそこを」


 振り返り、背後のケルベロスを指差す。


「突破するまでっ」

「――承知。そういうことであれば、私の独壇場になりそうですね」


 さすがにあいつの正体に気付いたのか、ケルベロスをちらっと見たのみで、景虎は微笑した――が。

 眼前に魔獣が迫ったその瞬間、ふっと俺の前から姿が消え、ただ一陣の風のみがその場に残る。

 気付けば彼女はもう、魔獣共の群れに突っ込んでいた。


「下郎ども、下がれえっ! 景虎、参るっ」


 そしてまあ……この少女剣士の強いこと強いことっ。

 加速した俺でもヤバいかもしれない、と一瞬思ったほどだ。

 なにせ、数で圧倒的に勝る各種魔獣共に突っ込み、縦横無尽に斬りまくっていく。戦神とはまさに、あの子のことだろう。


 脇をちゃっかり魔獣が駆け抜けようとしても、気合いの声が迸って遠くから斬撃を放ち、なんと敵に触れずに仕留めてしまうのだ。

 どんな魔法だよとっ。


 ギャァアアアアンッなんて、魔獣達の悲鳴みたいな鳴き声がザクザク聞こえたりして。


「生涯不犯説はよく聞きますが……そういえば、上杉謙信女性説も、たまに聞きますね」


 マイが心底驚いたように呟いた。


「彼女は、まだ名前が変わるだいぶ前の、少女時代の景虎さんだけどね」


 そう言いつつ、俺はもう前方に歩き出している。

 景虎が敵を討ち洩らす可能性は、まずないと見たしな。


「さあ、俺達も行こう」


 率先して大股で歩き、俺はどんどんケルベロスのそばに近付く。

 途端に威嚇するようにでっかい声で吠えやがったが、当然、無視である。

 ぽかんと景虎の獅子奮迅の戦いぶりを見ていたエレインが、ようやく叫んだ。


「ちょっと、そんなに無警戒に近付いたら」

「だから、こいつはただの幻像だって! 仮にマップ上にも見えていたとしても、まやかしなんだよ」


 そう断言した時には、俺はもうそいつの足元を透過して、そのまま東京タワーのパーキングエリアに出ていた。


 昨日、このステージを撤収する間際、俺が見たのは櫛の歯が欠けたように、ところどころが薄れて見える魔獣の群れだったのだ。


 相当数、幻影が交じっていたわけだ。

 ともあれ、最後の魔獣が消えたことで、背後の大軍もなぜか消え去り、奮闘していた景虎がこちらを見て、一礼した。


「……ご武運を」

「ありがとう!」


 まさか自分の生涯で召喚した誰かに礼を叫ぶことがあるとは思わなかったが。

 一礼した姿勢のまま、景虎も消え、周囲はふいに静まりかえった。





 元々が人間のいない摸造世界なので、別に不思議はないが。


「だいたいここ、元の東京タワーと微妙に違いますね」


 マイがマップを立ち上げつつ、俺を見た。


「そうなのか? 実は俺、来たの初めてなんだ」

「タワーの真下が何もない平坦な場所になっていますが、そんなはずありません。あれじゃ、タワーの展望台にも上がれませんし」

「あ、ほんとだ。上の展望台? そこと地上が繋がってないわ、これ」


「てことは、単なる第二ステージのゴールマーク的なものか?」


 いや、すっかりここがゴールだと俺は思ってるけど、どうなんだろうな?

「あっ」


 マイがそこで足を止めた。

 ちょうど、その何もないタワーの真下に足を踏み入れる寸前である。


「なにかあった?」

「これ見てくださいっ」


 マイが俺達に、立ち上げたマップを見るように手で合図した。

 当然、俺とエレインが左右から覗くと――うおっ。




 これはなんだ……大収穫なのか? ひょっとして、第二ステージクリアのご褒美なのかっ。

 マップ上に俺達が見たのは、このタワーの地下部分に空間が広がっていて……しかも、食料の所在を示す黄色い四角形が山のように積まれている光景だった。



『こ、この食料の山はっ。我々のパーティーの戦利品となるのでしょうかっ』



 チュートリアルまで喜びの声を上げたり。





「喜ぶのは早いかも~」


 脅すわけではないが、俺は言ってのけた。


「逆に考えてみろよ? 景品に食料なんか大量に置かれているてことは、この第二ステージはともかくとして、ゲームの残りはまだまだあるってことだよな?」


『ああっ』

「……あちゃー」

「まさしく!」


 女性三名が揃ってため息をついた。

 そこにいきなり、女性の声が聞こえた。


『そう悲観したものでもないぞ、勇者達』 


 これは……混沌かっ。

 



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