テレポートの出番2(終) 俺の見たのは間違いじゃなかった!
マイも、急いだ方がいいのはわかっているらしく、連続でテレポートスキルを使い、次から次へとビルの屋上を転移していく。
これは一見、順調に見えたが、やはりまずい点があった。
何十度目かの転移で、雑居ビルの屋上へ再転移した時、マイがバランスを崩し、ガクッと崩れかけたのだ。
お陰で背中の子泣きじじい――じゃなくてエレインが、「きゃっ」と悲鳴を上げ、転がり落ちていた。
「ご、ごめん……なさい。もう一度」
マイが慌てて謝罪したが、その前に俺は彼女のデータを自分のステータス画面から見て、焦って手を離した。
「ハヤト……さん?」
「マイ、テレポート移動はもう中止だ。自分でステータスを確認してみるとわかる。MPが赤くなって点滅してる。もうすぐ尽きてぶっ倒れるぞ」
「……はい」
「やっぱり、自分でも気付いてたのか」
俺はため息をついた。
呼吸が荒いし、なめらかに話せなくなっているし、一気に疲労が溜まっている感じだ。
だから、気付いているだろうと思ったけど、健気なマイは俺達のために一言も愚痴を洩らさず、限界までがんばってくれたのだ。
「ハヤトっ、上空見てっ」
「わかってる!」
俺は即答した。
少し前から気付いていた……テレポートを続ける俺達を、上から魔獣共が追ってきてたことは。空を飛ぶタイプが大半だが、今、俺達がこの雑居ビルで停止したためか、ビルの下の階からも、吠えと足音の大軍がこちらを目指している。
つまり、空と陸、両方から大軍様の接近というわけだ。
「二人とも、こっちへ!」
言うなり、俺は率先して走り出した。
つまり、今立っている位置より、もっと東京タワーとは逆方向の、ビルの端ギリギリに。
「ま、まさか……」
まだ息が上がったままのマイが俺を見つめていたが、俺は安堵させるつもりで破顔した。
「大丈夫っ。勝算は我にアリだ! 選手交代しよう。今度こそ、MPがたんまり余っている俺の番ってこと」
「い、嫌な予感がするんですけどっ」
エレインが叫んだ瞬間、その予想を裏付けるように、上空に集まった各種魔獣達が急降下してきた。先頭は、飛べるタイプの魔獣では、もっとも戦闘力が高いと思われる、ウイングドラゴンの群れだった。
そして、おそらくわざとタイミングを合わせたのだろう。
階段がある屋上の出口からも、洪水のように魔獣が溢れ出してくる。マップなんか確認するまでもなく、周囲を見りゃ自分達が怒濤の勢いで殺到してくる敵に囲まれていると、嫌でもわかる。
「死んだわぁあああ、今度こそ死んだぁあああっ」
不安で俺に寄り添ってきたエレインが叫び、マイですら俺のすぐ隣で息を呑んでいた。
「ハヤトさんっ、やはりわたしが――」
「俺を信じろって」
例によって特に自信はないが、俺は陽気に叫ぶ。
「ごまかされるもんか、俺には本当の貴様達が見えてるぞっ」
最初にこのステージに来た昨日のことを思い出し、俺はきっと上空を見上げて宣言する。
「その証拠は、すぐにわかるっ」
俺はその場で魔力を集中し、両手を広げた。
初めて使う魔法のはずだが、なぜかチュートリアルに説明を求めずとも、スムースに発動準備が済んだ。
たちまち俺の視界全体が疑似スクリーン化し、魔獣達の赤い光点で覆われた。
「ターゲット全確認っ。今回は、全てが攻撃対象だ!」
俺の意志と連動して、押し寄せる全ての魔獣に、一瞬で「Enemy」のマークがつく。同時に俺は発動した。もう眼前まで敵が迫っているので、破壊の余波を気にする余裕はないっ。
「殺し尽くせっ、スターダスト!」
その刹那、俺自身から放たれた無数の赤い光弾、つまり魔法弾が、光の尾を引いて周囲に散った。その有様を離れて見ていれば、極地的に生じた流星雨のように見えたかもしれない。
ただしこの流星雨は、俺の意志に従って、ロックされた全方位にまんべんなく飛ぶのだが。
無慈悲な光弾は、それぞれ的確に魔獣達を射貫き、面白いように続々と消滅させていったのだが――。
不思議なことに、ただの空間を薙いだだけで空しく屋上を抉ったのみで終わった光弾も、そして何もない空を通過して消えてしまった光弾も、それぞれ数多くあった。
「俺の見たのは間違いじゃなかった! ははっ」
俺は会心の笑みを浮かべた。
「やはりこいつら、ただの幻影もたくさんまじってる! 見た目でごまかされていたよっ」
「それより、今の唖然とする攻撃で、屋上ごと破壊されちゃうんですけどぉおおおお」
エレインが思いっきり悲鳴を上げる声がした。