テレポートの出番1 おまえは、子泣きじじいかとっ
「後ろから来てるじゃないかああっ」
真っ赤な光点の列を見て俺が叫べば、エレインも「長い通路の途中に、知らない入り口ができてるわようっ」と同じく叫んだ。
「ぜんぜんっ、クレバーじゃないしっ」
「マジか!」
ぎょっとして確認すると、確かに俺が最初に作ったのとは、別の入り口が後方にある。しかも複数。
どうやらそこから、続々と通路に侵入しているようだ……魔獣共がっ。
「チュートリアルさんっ」
トドメにマイの呼びかけに、チュートリアルが答えた。
『ええと、いま拠点作成のスキルを調べましたが……これ、地上の建物部分より一定以上長くなった地下通路は、等間隔で入り口が自動で作られるとありますよ。今回の場合、地上には何一つ作ってませんから、最初から等間隔で入り口ができちゃいますね』
「できちゃいますねって――そんなの、詳細説明になかったぞ!」
既に俺は走り出していて、後の二人も割と必死に追いかけていた。
なぜなら、もう見るからに後ろの魔獣共が追いつきそうになっていたからだ。そろそろ吠え声も聞こえ始めているし、チンタラ歩いてる場合じゃないっ。
『1ページじゃなくて、2ページですよ、説明。横スクロールで次のページを見るの、忘れましたね?』
「と、得意そうに言うなぁあああっ。て、うわっ。もうすぐ後ろにいるっ」
ついでに振り向いた俺は、ぞっとした。
「ハヤト、前からも来るわっ。他の入り口からも侵入してきてるっ」
「や、ヤバいっ」
とうとう俺達はそこで立ち止まった。
前からも吠え声が足音が聞こえるので、突っ走ったところで、結果は見えているからだ。
「拠点作成スキル、使えねぇええええっ」
「そもそも、楽しようとするからよぉおおっ」
俺とエレインが二人して聞き苦しい口喧嘩を開始したところで、マイが緊迫した声で叫んだ。
「お二人とも、わたしに触れてくださいっ。テレポートで脱出しましょうっ」
「行ったところのある場所しか飛べないんじゃっ!?」
俺が問うと、マイは早口で教えてくれた。
「正確には、すぐそばに見える場所なら跳べますし、ランダムで何もない空中へも跳べるようです。わたしに考えがあるので、早くっ」
「りょ、了解っ」
「イエッサー!」
俺は慌ててマイの手を握り、エレインは厚かましく背後から抱きついたっ。おまえは、子泣きじじいかとっ。
マイが「きゃっ」と声に出して目を見開いたが、さすがに今は文句を控えたらしい。
事実、タイミング的にはまさにギリギリだった。
その場からテレポートする寸前、洪水のように押し寄せるサーベルタイガーやら巨大な狼やらの魔獣が、前後から殺到していたからだ。
「ウォオオオオーーーンッ」
「グギャアアアアッ」
両者の群れがぶつかるのを尻目に、俺達の姿はその場から消えた。
とはいえ、俺が「助かった!」と思ったのは早計だったらしい。
なぜなら、マイは本気でランダムテレポートを試みたらしく、本当に上空の、なにもない空中に出現したからだっ。
「高い、高過ぎ!」
数十メートル下のビルの屋上を見て、俺は叫んだ。
既に落下しつつあるしなっ。
「いやああああああっ。高いところ、苦手なのにいっ」
「いたいっ。そんなにしがみつかないでくださいっ」
エレインに文句つけた後、マイは「大丈夫ですっ」と叫び、再びテレポートした。
俺達三人は、今度は俺が最初に下に見た、ビルの屋上に出現していた。
「そうかっ」
俺は思わず声に出す。
「最初はランダムで空中にテレポートし、次に『すぐそばに見える』一番近いビルへと、テレポートしたわけかっ」
「はいっ」
マイは大きく頷き、きっとさらに隣のビルを見た……エレインに背後からしがみつかれたまま。こ、この子、いつの間にか両手両足で、マイの背中にしがみついてるぞっ。
こんな外人サイズだと重さも半端ないだろうに、見るからに細身のマイは、健気に潰れずにいる。
「もうちょっと離れてあげたら――」
俺が注意しかけた途端、またマイが叫んだ。
「このまま、行けるところまで、ビルからビルへとテレポートを繰り返しますっ」
同時に、再び俺達の姿がその場から消えた。
今の要領で、どんどん近くのビルからビルへと転移を繰り返す――よ、よしっ。
と言いたいが……さて、今度は成功するかな?
完全にマイ任せになっちまったけど。
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