必殺、拠点作成スキル使用で、堂々とズルしてゴー2(終) いま、なにか聞こえましたね?
俺は興味津々の目つきで見つめる二人に、「では、準備に入るから、周囲を警戒していてくれよ。途中で邪魔が入るとめんどくさいから」と頼んだ。
まあ、実は見られるのが恥ずかしいから頼んだんだけど、実際に警戒はいるだろう。
二人が素直に周囲を警戒してくれているのを横目で確かめ、俺はステータス画面から拠点作成の項目を呼び出す。
どうなっているかというと、ただ眼前に黒いボードみたいなのが広げてあるだけなのだが、その画面横には、通路やら壁やら土台やら……自分が設置したいものがズラズラ並んでいる。
これを組み合わせることによって、自分の好きな建造物が割となんでもできるわけだ。
しかし、今の目的はとにかく東京タワーまで行くことなので……俺は、ダンジョンみたいな石畳の通路を選択し、足元から始めた。
要は、足元から地下通路を延ばしていくわけである。
せいぜい三名が通れるほどの規模の通路なら、そうそうMPも消費しないし、割と長い通路ができる。
俺はただひたすら、ボードの上に通路パーツを繋げていくだけでよかった。
通路が延びてボードの端まできたら、勝手にその方向へ自動でスクロールしてくれるので、全く楽ちんである。
注意せねばならないのは、あさっての方向へ通路がズレないよう、時折マップを呼び出して確認することのみ。
ホント、リアルシムシティかよと。
「おっと、巨大な水道管だかガス管だかが邪魔しているな。さすが東京、地下にもいろいろあるわー」
俺が呟くと、我慢できなくなったように、二人が振り返った。
「どういうこと?」
「もしかすると、地下に通路を広げています?」
エレインは訊いたのみだが、さすがはマイである。
推測だけで、既に正解に近い……というか、ほぼ正解である。
「その通り! 拠点作成の一部機能だけ使ってるわけ。問題になるのはMPの枯渇のみだけど、俺は割と豊富にあるし……ん~~~、よし!」
一声上げて、俺は少し立ち位置をずれてやった。
俺の足元に空いている、四角い穴と階段を見て、二人がため息をつく。
「えぇええええ、この石段下りたら、地下でダンジョンになっているわけ!?」
「便利ですねぇ」
女の子二人に感心されて嬉しいが、本当の難関はここからである。
「いよいよ、地下へゴーだな」
俺はボードを広げたまま、率先して足元の階段を下りていく。
初めてなので不安だが、こういうのは自信ありげに振る舞わないといけない。
顔を見合わせた二人は、少し遅れて後からついてきてくれた。
最下部に至ると、俺達の眼前には、等間隔で浮遊する魔法の明かりに照らされた、石造りの通路がある! まさにダンジョンっ。
そして俺は、三人とも下に降りた時点で、ボードの通路から地上へ上る部分を消した。
するとたちまち、今下りて来たばかりの階段が消え、背後は壁のみとなる。
「ほら、これ割と完璧じゃない? なんたって、入り口も消してしまったから、敵だってここには簡単に来られない……はず」
「うわぁ……めちゃくちゃズルい」
「有り得ない方法ですけど……別にルール破りでもないですよねぇ。凄すぎます!」
「はははっ。割と抜け道だったね! あとは安全な地下を大手を振って通過し、地上出口を最後に作って、東京タワーは目の前って寸法さ!」
俺は明るく言って、率先して歩きはじめた。
文字通りの完成したばかりのダンジョンなので、足元も綺麗だし、歩きやすい。
完璧ではなかろうか!
「これ、歩いてたらいきなり呼吸が苦しくなって、そのままポックリ! てなことにならないわよね?」
エレインが恐る恐る訊いたが、俺は首を振った。
小心な俺は、それこそその点を真っ先に心配して、ちゃんと「拠点作成」の注意事項を熟読したぜっ。
「ならない。空気はちゃんと自動的に取り込まれるらしい。地下通路作るだけとはいえ、そこはきちんと考慮されてるんだ」
それでも俺は、前を見ながら声を出した。
「あ、でも一応、誰かマップを立ち上げて調べてくれない? まさかとは思うけど、この地下通路になにかいるかどうか? 俺は前方を注意してるから」
「では、わたしが!」
気の利くマイが、即座にマップを立ち上げ、三次元化して見てくれた。
「……地上は相変わらずですが、少なくともこの地下通路にはわたし達しかいません」
「て、うわー……地上の建物って、ぎっちり赤い光点で埋まってるしっ」
横からマイのマップを盗み見たエレインが、呻く。
「そう。地上を進んだら、幾ら俺達でも、ガブガブ噛まれてお陀仏の可能性高い。やはりこういうクレバーな手を使わないと――」
そこまで言って、俺は押し黙った。
なにかこう……物音が聞こえたような。
念のため立ち止まって二人を見ると、二人揃って顔をしかめていた。
「いま、なにか聞こえましたね?」
「う、上の方から聞こえる……ような気がするわよ?」
それを聞き、一度は閉じたマップを、マイがまた開く。
一斉にそのマップを見て――俺達は絶句した。