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必殺、拠点作成スキル使用で、堂々とズルしてゴー1 まあ見ててくれたまえ

 ――さて、朝である。


 正直、昨晩、風呂に向かってからのことは、あまり思い出したくない。

 まさか、召喚術を試した結果、あれほど恐ろしいことが起きるとは。


 まあ、「風呂の中では全裸である」ということをすっかり忘れていた俺が、一番悪いんだが。

 しかも、呼び出そうとしたのは、俺が脳内で想像していた人物で、その子は紛れもない女子だったりする。


 せめて、向こうも悲鳴くらい上げてくれたらお互い様ってことで救われたんだが、あいにく彼女は筋金入りだった。

 穏やかな顔付きでじっくりと風呂に浸かる俺を見て、「召喚を行うには、珍しい場所ですね」と冷静に言われた。


 俺は死にたくなった!


 とにかく、「実は最初の試みでして」とあたふたと言い訳して、ようやくことなきを得て、戻ってもらった。

 ……というわけにもいかなかった。


 今度はドタバタ足音がして、バスタオル一枚だけ身体に巻いたエレインがすっ飛んで来て「いま、女の声がしなかった!」と叫んでくる始末。

 不運というのは、連れ立ってくるらしい。


 エレインにも事情を話してようやく立ち去ってもらった時には、俺は極度の精神的疲れから、風呂上がりのまま、速攻で眠ってしまった。


 エレインとマイは二人で専用ダンジョンで訓練していたらしいが、付き合う気力もなかったね!

 朝はさすがに少し早めに起きて、買い物やら新たなスキルやら魔法やらを買い求めたけど。


 ……ちなみに、誰を呼び出したか主にエレインに訊かれたが、俺は断固として秘匿した。そもそも、エレインが知ってるはずない人だしな。






「さて、いよいよ今日はあの難しそうなステージですけど、みんな、心構えはできてます?」


 俺を含めて三人が売店前に集まった時点で、チュートリアルが声をかけた。


「まあ、なんとかね……召喚術も使えるとわかったし……多大な犠牲を払って」


 俺がどんよりした声で言うと、エレインが背中を軽く叩いた。


「あたし、見てないってば。目を逸らしたもの」

「いや、見てなきゃいいってものでも」


 ていうか、もう忘れたいんだよ、蒸し返すな。


「だいたい、男風呂にバスタオル一枚で走って行くのって、どうなんですか」


 マイがむちゃくちゃ不機嫌そうに言う。

 俺も大いに賛成だが、なぜか俺も睨まれているので、非常に理不尽だ。


「とにかく行こう。ただし、転送地点はあの地下鉄出口で頼むよ、チュートリアル。そこから先はちょっと考えがある」


「ハヤトを先頭に突っ切るんじゃなかったの?」


「そう思ってたけど、もっといい手を思いついた……まあ、すぐにわかるから」

「いざとなれば、取得したばかりのわたしのテレポートスキルで、逃げられますよ!」


 ようやくマイがいつもの調子で口添えしてくれた。


「あー、みんないいな! いろいろもらえて。補填措置はどうなったのよ!?」


 目に見えて膨れっ面な顔でエレインが言う。


「それも、転送してもらったらわかるさ。じゃあ頼む、チュートリアル!」

「わかりましたっ。武運を願ってますよ!」


 チュートリアルが両手を広げた途端、例によって俺達は一瞬で転送された。





 希望通り、昨日の午後に辿り着いたのと同じ、地下鉄出口前だった。

 本物の都心じゃなく、混沌に創造された場所だけに、人の気配はなく、不気味に静まり返っている。


「一見、何も見えないけど?」


 エレインがきょとんとして目を瞬く。


「俺達だって、最初はそう思ったさ。けど、マップを立ち上げればわかる」

「そう? じゃあ早速――」


 言いかけた途端、エレインが「あっ」とまた声に出す。


「メッセージ出たわっ。昨日のミッションクリアの報酬だって! 蘇って復帰したパーティーメンバーへの報酬、来た来たあっ」


 元気に喚いている。

 眼前に出ている、彼女個人へのメッセージを読んでいるらしい。


「へぇ? ホントに遅れてもくれるのな。どうせスルーかと思ったのに」

「そういうところ、なぜか律儀ですねー」


 俺とマイは二人して感心した。


「確か、武器か防具かレアアイテムか、レアスキルのうち一つだったよな? なにを選ぶんだ?」


 俺が好奇心で訊くと、しばらく唇を半開きにして読んでいたエレインが「うぇええええ」と奇妙な声を出した。


「途中で死亡したことを考慮し、報酬は現在のレベルにプラスして、3レベルアップだって。なんてケチな刻み方っ」

「このゲームでレベル三つ上がるなら、御の字だろう。幾つになった?」

「昨日、専用ダンジョンで一つあげたから、それを足してレベル23みたい」

「マイは?」


「同じく専用ダンジョンで二つ上げたので、レベル29です」

「おおっ。……で、俺がレベル38か。かなりいい感じのパーティーになったな。まあ、ここを抜けないと、意味ないにせよ」


 俺は、相変わらず木枯らしが吹きそうな、寂しい通りを見渡す。


「では、昨日考えた作戦その1を試しますか」


 俺は満を持してステータス画面を開き、スキルの項目を見た。





「名付けて、『必殺、拠点作成スキル使用で、堂々とズルしてゴー』だ!」


 エレインが呆れた目で俺を見やがった。


「なにそれ? レアスキル持ってるのは凄いけど、ここで城でも建てる気なの?」

「ははは、まあ見ててくれたまえ……既に寝る前にちょびっと試したしな。世の中には、文字通りの抜け道があるのさっ」


 俺はわざと余裕の笑みを浮かべた。

 本当はそんなに自信ないけどな。


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